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レイルム達の帰宅


サスリカの街、ラザラスク家前。

そこには、レイルム達とラザラスク家の面々が勢揃いしている。ついでにユートが拾ってきたアイも居る。だが、一人足りない。


「ユートは来んのか?」


「みたいですね…」


今の時刻は昼過ぎ。レイルム達は帰る時間となった。

レイルム一行はラザラスク家から借りた馬車に乗り込み、御者席にメリナが座り、後は出発するだけだ。


その見送りの為、ラザラスク家の面々が揃って見送りしようとしている。にも関わらず、ユートが来ない。


アルグも含め、朝食後から誰もユートの姿を見ていない。

勿論、捜しても見つからなかった。


「仕方あるまい。メリナ、頼む」


「分かりました」


レイルムの声が掛かり、メリナは馬車を進めようとするーー刹那。

突如現れた灰色の魔法陣がレイルム達の乗る馬車とラザラスク一家を包んだ。


「な、なんだ!?敵か!?」


などとアルグは敵襲を警戒し、アルグ以外のラザラスク一家は動揺を露わにする。反面、レイルム達は呆れたように溜息を吐く。だが、内心では嬉しいのか自然と笑みが溢れている。


「やっと来たか」


腰に携える剣の柄に手を当てて警戒しているアルグや、呆然としているラザラスク一家はさて置き、レイルム達はこのような事には既に慣れてしまっている為、呆れを通り越して笑みしか出て来なくなっている。


こんな事が出来るのは、彼しか居ないと分かりきっているのだ。


魔法陣は徐々に縮まり、そして人一人分の大きさまで収縮すると、眩い光を放ち、一人の人間を置いて消え去っていく。


それを見届けたレイルムは、光の中から現れた彼に一言投げ掛ける。


「来ないかと思ったぞユート」


「ごめんごめん。まさか、昨日の今日で帰るとは思わんくてさ」


光の中から突如現れた人物ーーユートは、ポケットから十円玉サイズの正方形の箱を取り出しながら軽く謝罪を口にした。


「これでも結構急いで作ってんで」


取り出した箱を一度握りしめてから、ポイッと投げる。

すると、箱は幾何学的模様を表面に浮かべ上がらせ、風船のように膨らみ始めた。と、思えば、パンッと弾けてカラフルな紙吹雪と木箱を幾つか地面に放り出した。

ちなみに、紙吹雪は地面に落ちると共に雪が溶けるかのように消えた。


「今度はなんじゃ?」


「まぁ、見てのお楽しみや」


木箱の数は三つ。一メートル程の長細い箱、手の平サイズの長方形の箱、人一人が丸まれば入れそうな正方形の箱の三種類だ。


「長細いのはレイルム。チッコイのはメリーさん。最後のがミナ。開けてみ」


どれが誰のかを指差しで教えてから、開ける事を勧める。

だが、ユートのこれまでの行動を垣間見るに、何かイタズラを仕掛けていそうで開けるに開けれない。


「メ、メリナよ。先に開けたらどうじゃ?」


「えっ…レ、レイルム様は私の主人なので、主人から先に開けるべきだと思います…」


「い、いや、儂は後でも構わんのじゃ。先を譲るのじゃ」


「いえいえ、主人であるレイルム様が先に開けるべきだと思いますよ」


ニコニコと笑みを浮かべながら先を促し合う二人。だが、目は本気だ。全く笑っていない。

これまでユートがろくな事をして来なかった表れなのだろう。

何度か譲り合いを続けた後、これでは永遠と譲り合うだけだと気が付いた二人は視線を一点へと向ける。そう、ミナへと。


「「…………」」


「ニャッ!?い、イヤ!絶対、イヤですっ!!」


こう言う時は必ずミナが犠牲になる。と、言うのがレイルムとメリナの暗黙の了解と化してしまっていたりする。


全力で嫌がるミナ。だが、彼女の抵抗も虚しく、メリナとレイルムによって箱の前まで押しやられた。


「ミナよ。なぜ嫌がるのじゃ?儂等の為にわざわざ用意してくれた物じゃぞ?」


「そうですよミナ。例えユートさんと言えども、人様の親切を無下にするものではありませんよ」


「違う!絶対に違う、です!親切なんてお優しい物じゃない!絶対に何か仕掛けてる!」


「コラコラ、ミナよ。そんな事を言うもんじゃないぞ」


「そうですよ。ユートさんに失礼ですよ」


ニコニコと笑みを浮かべ、瞳では『早く開けろ』と語る二人にグイグイと押されて箱に押し付けられるミナ。


見ているラザラスク一家は全員が唖然と状況を飲み込めずにいる。

唯一、ユートだけがケラケラと今の現状を面白く思って笑っている。


逃げ場のないミナ。渋々と言うよりも、嫌々ながら箱に手を掛ける。

そして、恐る恐る蓋を開ければーー何も起きなかった。


何か起きるかと身構えていたレイルム達だが、いつまで経っても何も起きない事を不思議に思い、箱の中を警戒しながら覗き込むと、そこには、


「なんじゃこれは?」


「…手袋…ですか?」


猫の手と思われる肉球が主張された白のモフモフ手袋と、それと同じような靴が入っていた。


present(プレゼント) for(フォー) you(ユー)。俺からささやかな贈り物。ちなみに、ミナのが一番の力作やから」


力作。と言うのは、一重にユートが猫好きだから丹精込めて作り上げたと言う事だ。

材質には勿論の事、造り方にもこだわりを持ち、滅多な事では損傷しない物となった超絶にレアな装備だ。


ちなみに、装備品などにはランクが有り、下から、

屑鉄級(ガーベッジ)

普通級(ノーマル)

特別級(レア)

特殊級(ユニーク)

秘宝級(トレジャー)

伝説級(レジェンド)

神話級(ゴッズ)

となっており、その中でも高い方、伝説級(レジェンド)の部類の超高級品である。


ミナは入っていた手袋と靴を取り出し、どんな反応をすれば良いのか困って引き攣った笑みを浮かべる。


「わ、儂も開けてみるのじゃ」


「私も開けます!」


そう言ってレイルムとメリナも箱の蓋を開け、中に入っていた物を取り出す。


レイルムのは、龍の形を模した杖。木を彫って造ったのか、手触りは木そのもの。だけど、造りは精巧で、少しでも手荒に扱ってしまうと壊れてしまいそうに思える。


メリナのは、革で閉じられた手帳。紙は羊皮紙などではなく、植物繊維から造られた綺麗な白用紙だ。

それと、もう一つ。手帳サイズの端末機ーースマホである。


「レイルムのは、ただの杖…に見せかけた仕込み刀。龍の頭を回したら鞘から抜ける仕組みや。んで、メリーさんのは、手帳と辞書。辞書の使い方は手帳の最後のページに書いとるから読んどいてな」


手短にプレゼントの説明を済まし、次の話へ移る。


「最後に、簡易型の”転移門”造ったから、それで帰りや」


またもやポケットから正方形の箱を取り出し、一度握ってから空へと投げる。

今度は、ポンッと煙を吐き出して中から5㍍は有りそうなスクロールが出てきた。


落ちてきたスクロールを上手い事キャッチして、ついでにクルクルと回してから地面に広げてみせる。


スクロールに描かれているものは、中央に大きな魔法陣。その周りを大きさがバラバラな多数の魔法陣で囲んでいる。

繊細にして微細で、読んでいると何が何だか分からなくなるような代物だ。まるで、無理矢理詰め込んだような、そんな感じだ。

それを読み取るには、どれだけ修練を積んだとしても至難を極めるだろう。


「な、なんなんだこれは…」


「陣を描けるのは知っていたが…ここまでとは…」


アルグ達は目を丸くして驚き、レイルム達は予想外の以上の事に口を半開きにして驚愕した。


「メ、メリナ。読めるかの…?」


「む、無理です。っと言うよりも、不可能です…」


魔法に関しての知識があるとしても、常人では理解できない域に達している。例え、魔法陣を専門としている人であっても、一部の解読で精一杯だろう。


だが、この中に一人だけ僅かだが理解できる人がいた。


「き、記述があべこべ…。み、見た事ない術式…。でも…不可能ではない…けど…膨大な魔力、必要…」


「分かるんやな、アイ。まぁ、その通り、魔力が幾らあっても足らへん。せやから、これを使うねん」


新たにポケットから取り出したのは、拳大の宝石のような物。

その代物が何なのか気が付いたアルグは「なっ!」と声を挙げたが、そこはスルー。


「これには魔法陣を()わせててな、魔力の増幅と削減をすんねん。んで、これをーー」


そう言いながらポケットから同じような宝石を四個取り出す。


「五ヶ所の場所に置いて使う。そしたら、風で飛ばへんようになって超便利〜」


「「「そっち!?」」」


一同、まさかの理由で華麗に綺麗にツッコミを入れた。ユートは内心で『ナイスツッコミ!』と褒め称えたりしてたりする。


「まぁ、冗談やけど。ホントの理由はコイツ一つの魔力やったら足りへんからで、五つの方が増幅率が倍になるからなんよ」


「そ、そうなのか…」


レイルムが一同に代わって返答するが、正直、理解できていない。

この中で理解できているのは、アイぐらいだろう。


「ほな、始めるから載ってや」


「あ、ああ」


ユートに言われ、レイルムとミナとメリナはスクロールの上に一人づつ、尚且つスクロールを傷付けないように慎重に載る。


「ほな、始めんで」


拳大の宝石ーー魔石を対になるように五ヶ所に置き、左手をスクロールに付ける。

その姿にレイルムは疑問を抱いた。


「両手の方が魔力を伝わりやすいと聴いたぞ?」


「確かに、魔力を通すのならば両手の方が効率が良いですね。片手だと、やはり魔力を少しですが損失してしまいます」


レイルムの疑問にメリナが解説を入れる。だが、ユートは片手のままだ。


「ええから始めんで。転移酔いするかもせぇへんから、気ぃシッカリ持ちや」


「う、うむ。分かったのじゃ」


「はい」


「……」


ユートが左手しか付けないのには理由があるが、話すつもりはないみたいだ。


レイルム達の返事を聞き届け、魔法陣を起動させる。


「式の固定…安定を確認。起動準備」


言い終えると同時に青白い光が魔法陣から発せられる。


「概念と法則の維持。魔導式の起動を二段階目へ移行」


次の言葉で一枚の魔法陣は光を放ちながら浮き上がり、レイルム達を包む。


「時間と空間を認識。魔導式の起動を最終段階へ移行」


レイルム達を包む魔法陣が上下に別れ、多重となる。その魔法陣は、どれもが違う形を成し、違う記述がされている。


「通路を確保。対となる扉の位置を確認ーー転送」


最後の一言と共に、レイルム達は眩い光に包まれ、光が消えた時、既にその場には居なくなっていた。

ちなみに、魔石は輝きを失ってただの石ころのように成り果て、魔法陣は何も描かれていないスクロールを残して綺麗さっぱり消えた。


暫く呆然としていたラザラスク一家。

なんとか絞り出して出た言葉は「………すげぇ」と感嘆の一言であった。


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