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頼まれ事

色々と解決!


隣人さんは、ちょっと怒ったら謝ってくました!


これにて、一件落着!


サスリカの街に辿り着いた翌日の早朝。

未だに顔を覗かせない陽。チュンチュンと小鳥のさえずりが何処からか聞こえ、冷たい風が音と共に湿気た匂いを運んで来る。


朝だ。そう口にするのも億劫な怠惰な時間。


そんな時間にユートは庭でカチャカチャと何かを造っていた。

窓越しから庭に居るユートを見つけたレイルムは目を擦りながらふと思う。


「あやつ、ちゃんと寝てるのかの?」


だけど、その疑問に答える人は何処にも居ない。

歳を取るに連れて起きる時間も早くなるレイルム。今の時間に起きている人と言えば、忙しい生活をする人と、冒険者ぐらいだ。


「そう言えば、ユートは自らの事を冒険者だと言っておったの」


遠い目をして少し前の過去を思い出しながら呟く。それと、もう一つ思い出した事がある。


「今日にでもサスリカを発つ予定じゃし、最後にユートの手料理が食べたいのぅ」


そう言うと同時にお腹が『グウゥゥゥ』と空腹を訴えかけてきた。


「頼めば作ってくれるかのぅ?」


ユートは気分屋で、頼んでも行動してくれない事が多々ある。

ユートが作る料理の味が忘れられず、名残惜しい気持ちが心に深く残るのをグッと堪え、レイルムは作業中のユートの元へと足を向けた。



ーーー



ラザラスク家の台所では、とある問題が勃発していた。


「な、なんですかコレ…」


使い慣れていた筈の台所。だが、その面影は過去の物。


使い古した戸棚や食器棚、食器を洗う桶や切り傷が幾つも付いた木製の机は全て消え去り、鏡のように銀色に輝く鉄の物で埋まっていた。

いや、埋まっていたなどとは言葉が悪い。


中央には鉄製の机が置かれ、部屋の端に見た事もない金属の台と中に置かれている食器が透き通って見える食器棚。それらが綺麗に配置されていた。


ラザラスク家のメイド達は朝食を作ろうと台所に来たのだが、台所が一変しており、驚愕に目を見開いたのだ。


メイド達の中の一人が好奇心から、一部ヘコミのある台へと近付く。そこには本来、魔石をセットすると水を出す装置があった場所だ。

だが、今はニョキッと棒が生えている。


メイドは恐る恐るそれに触れる。


「つ、冷たい…ですね…」


撫でるように、かつ、感触を確かめるように手を這わせる。

少し力を入れてみると、唐突に棒がグネッと折れ曲がった。


「あっ!ど、どうしましょう!?」


慌てて棒を元の形に戻そうと手に力を込めると、グネグネと面白いように湾曲する。


それを何度か繰り返し、メイドは気が付いた。

それは、壊れてはいないと。ただ曲がるのだと。自分の好きな方向へ曲げる事が出来るのだと。


奇妙な異物をグネグネして遊び始めるメイドを皮切りに、突っ立って呆然としていたメイド達は次々に置いてある物に触れ始める。


開けたら冷気が漏れ出す箱であったり、ボタンを押すと火が点いたり、ダイヤルを回すと灯りが付く箱があったりと、色々な物を触る。


だけど、誰もそれらの使用用途を理解していない。


ただ触って、動かして、開け閉めしているだけで、どう使えばいいのかなど説明書を読むか、誰かが教えてくれるまでサッパリ分からない。


そんな時カチャッと音が鳴り、台所へと誰かが入って来た。

メイド達は即座に触るのを止めて、整列して入って来た人を出迎える体制になる。


そして、メイド達の前に現れた人物に頭を深々と下げる。


「もしかして、邪魔した?」


「い、いえ。滅相もございませんユート様」


極々自然に客人扱いされている奴隷のユート。


「レイルムから朝食作ってって言われたんやけど、ええかな?」


「ですが、それは私達の仕事で、お客人様のお手を煩わせる訳には…」


「ほな、手伝ってや」


そう言ってポケットから食材と包丁を取り出す。

滅多に見れない物を目の当たりにしたメイド達は目を見開いて驚くが、そんな事など御構い無しにユートは朝食を作り始めた。



ーーー



気持ちの良い朝日が気怠げに登って来ている。

それを屋根上からボォ〜っと眺めるユート。


「まさか、一回で憶えるとか…優秀過ぎやろ…」


数分前はメイド達が見守る中で料理していた彼だが、今は台所に居ても意味がない存在となってしまった。


なぜなら、メイド達はユートが作っていた料理を覚え、完全再現させてしまったからだ。


「頼まれてたけど……まぁ、ええか。俺は俺の事でもするけ…」


そう言ってポケットから小さな部品を取り出し、ゴーグルを目に当ててから小さなドライバーを使って組み立て始める。


作っているものは、小さく丸い玉だ。五百円玉程の大きさの球体。その中身をカチャカチャと弄っている。


庭には、作りかけの車輪のないバイクの一部が転がり、その周辺には工具やら部品が山となって置かれている。


風が吹けば冷たい空気が巡り体を芯から冷やしてくる。小鳥が一羽、ユートの肩に止まり、頬をツンツンしてくる。

それらを煩わしく思いながらもユートは一人寂しく物作りに没頭する。



ーーー



「あのバカが来ない」


朝食は既に出来上がっており、机の上にズラリと並べられている。

なのに、なのに、だ。

それらを作ったと思われる人物ーーユートが来る気配は全くない。

そもそも、ユートの気配を探ると言う事が難点なのだが、今はそれどころではない。


ユートが来なければ食事が始まらないのだ。

なにせ、レイルムは今日の昼にサスリカを発つ予定だ。

奴隷であったが、これまで一緒に居たユートも交えて朝食を摂ろうと言う事になっているのだが、ユートが来ない。


「飯時になると飛んで来る筈なのじゃが…」


レイルムの言いたい事はメリナとミナならば納得のいく言葉だ。

おそらく、ユートはこの場に居る中で一番食欲旺盛で食いしん坊だ。

なのに、そんな彼が来ない。と、言う事は、


「何か問題でも起きたのかの?」


それぐらいしか思い付かない。

なにせ、ユートは飯を食べた数分後に再度飯を食べる程の食いしん坊だ。


「レイルム様。もう、あんなやつ放っといて食べましょうよ」


「ミナ。もうユートさんとは今日でお別れなんですから、”あんなやつ”なんて言ってはいけませんよ。せめて、”頭のおかしい人”にしてあげなさい」


「メリナよ。それも十分酷い言葉じゃぞ」


二人の会話には呆れる事しかできない。


皆もお腹を空かせている事だし、このままユートを待つのに時間を浪費させる訳にも行ない。

かと言って、ユートを放っといて朝食を始める訳にも行かない。


「仕方あるまい。儂が捜してこよう…」


渋々と言った風にレイルムは席を立ち、ユート捜しに赴こうとする。

が、次に掛かった言葉でレイルムは足を止めた。


「親父は座って待ってろ。俺が行く」


世にも珍しい物を見たかのような目をしてアルグに視線を向けるレイルム。

アルグの妻のニッサも口元に手を当てて驚いている。


「なんだよ。俺が行ったらおかしいのかよ」


「いや、お主が自分からそんな事言うなんて…もしや、熱でもあるのかの?」


「あら大変。すぐにお医者様をーー」


「呼ばなくていい!ってか、なんだよ!俺が行くのがそんなにもおかしい事かよ!」


「そうですね」

「うむ」


ニッサとレイルムが息を合わせたかのように頷いて答えた。

アルグは怒りを覚えたのか、額に青筋を浮かべたが、なんとか堪え、怒りを溜息として吐き出す。


「はぁ……先に飯食ってろ。ユートには俺個人で話があるんだ」


「成る程。じゃから自分から捜すと言ったのか」


「納得できました」


「ったく、なんなんだよ…」


親切心とまでは言えないが、レイルムの代わりにユートを捜しに行くと言ったのに、レイルムとニッサからは酷い言われを受けて朝から疲れを覚えたアルグ。


朝食として置かれている肉と野菜が挟まれたパンを一つ取って、食堂を後にした。



ーーー



「やっぱりここに居たか」


よっこらせ。と言いながら屋根を登りきるアルグ。

気配は相変わらず薄過ぎて感じ取れないが、予想通りと言うべきか、彼の視線の先には捜していたユートの姿がある。


陽が照らす方向へ向いて、アルグに背を向ける感じで座り込んで俯いている。

それはまるで、アルグの視線から見るに、落ち込んでいるように見える。


「どうした?もうみんな朝飯食ってるぞ?」


「…ん?あぁ、俺はええねん」


視線をアルグに寄越す事もなく、俯いたまま気の抜けた返答が返ってくた。


それを聴いて、アルグは『親父達が帰るって知ったから落ち込んでるんだな』と思い、慰めの言葉を掛ける。


「もう会えねぇって訳じゃねぇだろ?」


「まだまだ会えそうにないけどなぁ」


「ん?ま、まぁ、元気出せよ。今世の別れじゃねぇんだしよ」


「せやなぁ。俺は兎も角、あいつは死ぬ事なんて無いやろしなぁ」


話が食い違っているのに気が付いたアルグ。

暫く考え、


「………誰の話をしてんだ?」


「リョーガの事やろ?」


「ん?」


「え?」


アルグの勘違いから始まり、ユートが言葉を履き違えた事によって全く違う話になっていた。


暫しの沈黙。


アルグは無言でユートの隣に座り、ここから見える街中を眺めながらここに来た本来の目的を話す。


「昨夜の事だけどよ、考えてくれたか?」


「あー、うん。ええよ」


なんだか今考えたような軽い返答だ。

だが、アルグは気にしていないみたいで、嬉しそうに笑みを溢している。


「そう言ってくれると思ってたぜ」


ガッハッハッと豪快に笑いながらユートの背中をバンバンッと叩く。

音からして痛そうだが、ユートはそれどころではなさそうだ。

何かを落としたみたいで「あぶねっ!」と焦った声を漏らしている。


「一応話しておくが、マリンは来年の四月で二年生だ。なんとか進級まではこぎ着けた。だが、来年からは校則が厳しくなるとかで、半年は通ってもらわないと退学させられるんだ。だから、早い内に頼むぞ!」


「分かった。分かったから叩かんといて。今、めっちゃ細かい作業してんねん」


苛立ち混じりに返答され、ようやくユートへと視線を向けたアルグ。


ユートは珍しく真剣な表情でゴーグルを着け、小さな球に棒を突き刺して何やら繊細な作業をしていた。

時折、手元にある球から火花が飛び散っている。


「お、お前、何してんだ?…って言うか、話聴いてたか?」


「聴いてた、聴いてた。マリンを学校に通わせたらええんやろ」


「学校ではなく、学園だ」


「そか。まぁ、分かったから、邪魔せんといてな」


作業の手を止めずに素っ気なく返事を返すユート。

本当に分かっているのか疑問に思う所だが、ユートが言っていた事は正しかったので、一応は信用しておく事にする。

そして、一度見てしまうと気になって仕方がない球へと注意が向く。


「…これは…なんだ?」


球を指差して尋ねるアルグ。が、指の上に火花が落ちて「熱っ!?」と言って素早く指を退いた。


「火花直接みたら失明するから気ぃ付けや」


忠告を一つして、黙々と作業するユート。

余りにも真剣すぎるユートを見て『これは邪魔しちゃまずいな』と、ようやく理解できたアルグは、持ってきたパンに齧り付く。


「んっ!モグモグッ、んくっ、う、うめぇ!!」


そして、余りの美味しさに叫んだ。

隣に真剣に作業をする食いしん坊のユートが居るのも忘れてーー。


もう一口食べようとアルグが手元へと視線を向ける。刹那。一瞬だけ影で手元が覆われ、気が付けばパンが消えていた。


「………っ!?な、なんだ!?どうなってんだ!?」


さっきまであったパンが消え去っていた事に驚き、周囲を見渡すアルグ。

そして、見つけた。


ユートの口元にパン屑が着いているのが。


「た、食べたな!」


「さぁ?何の事やらサッパリ」


しれーっと口元のパン屑を舐め取るユート。

彼は真剣に作業をしている為、食べたからと言って邪魔する訳にも行かず、かと言って、一つしか持って来ていない物を食べられ、人道と食べ物の恨みの葛藤で「ぐぬぬっ」と唸るしかできなかった。


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