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レイルムの家族

今月は災難が続きそうです…。


月初めに、バイクで転倒してしまい膝をズル剥けにさせてしまい、数日後に隣人とのイザコザで怒りに任せて壁を殴って破壊。


そして、今日。


脚の痛みはすっかり引いたのですが、隣人が挑戦状を突き付けてきました。


挑戦状の内容は、私の家のポストに『出て行け』と手紙を入れられていた事です。嫌がらせですね。

だから、手紙で『嫌です。それと、手紙じゃなくて口で言って下さい。笑顔で対応しますよ』と返しました。


さて、どうやって料理してやろうか…。



レイルムの案内の元、迷う事なくとある屋敷に辿り着いた。

敷地はレイルムの屋敷と変わらないが、こちらの方が何処か見劣りする屋敷だ。


そこに入り、エントランスで待っていたのは、暗い雰囲気を醸し出す少年だった。

だけど、レイルムを見れば目の色を変えて「おかえりなさいです!お爺ちゃん!」と元気な子へと早変わりして出迎えてくれた。


「ただいまじゃ。マリン」


レイルムは孫のマリンの頭を優しく撫でてニッコリと微笑む。シッカリと爺をやっているみたいだ。


「この子が儂の可愛い孫じゃ。どうじゃ?可愛いじゃろ?」


「いや、男に可愛いっておかしくない?…まぁ、可愛いと思うけど」


「じゃろ?」


ドヤ顔で孫の可愛さをアピールしてくるレイルムに少しイラッとなるユートだが、顔に笑みを貼り付けて誤魔化す。


「で、コヤツがマリンの誕生日プレゼントのユートじゃ」


「どもー、ユートでーす」


「よ、よろしくです…?」


レイルムに紹介されたユートは一歩前に出て、軽い口調で挨拶し、マリンはオドオドとしながらも頭を下げて挨拶を返す。そして、その行動を奴隷にするものなのかと後になって疑問に思い、首をかしげた。


レイルムは軽い挨拶をしたユートの頭をペチコンッと叩いて叱る。


「もっとシッカリ挨拶せんか!」


「苦手な敬語使ってんねんから勘弁してーな」


レイルムの睨む鋭い視線が突き刺さるが、ユートは知らんぷり。

家の中を見渡して「レイルムの家よりショボいなぁ〜」などと失礼な事を呟いている。


これ以上ユートに言っても仕方ないと思ったのか、それとも孫の前な事に気が付いたのか、ユートの言動に諦めの溜息を吐く。


「……はぁ…まぁ、よい。これからは会う息子と、その嫁さんの前ではシッカリとしてくれよ」


「はいはーい」


最後まで適当な返し方をするユートに『本当に大丈夫かのぅ…』と心配をするレイルム。


「で、じゃ。この娘はユートが何処かから拾ってきた者じゃ」


「…ア、アイ…です…」


緊張しているのか、服の裾をギュッと握って頭を下げるアイ。


「よ、よろしくです」


ユートの時は疑問に思ったが、もうどうでも良くなったのか、頭を下げて挨拶を返すマリン。

この場に居る全員の挨拶が済んだのを目で確認したレイルムは、肩から掛けている小さな鞄から二枚の紙を取り出す。


「さて、では、これをマリンにあげよう」


そう言って紙をマリンに渡し、渡した用紙について説明する。


「1枚目の用紙はユートのステータスじゃ。余り信用性はないが、あった方が良いじゃろ。で、二枚目が奴隷契約の用紙じゃ。ここに名前を書いたら、ユートはマリンの奴隷になる」


「分かりました!ありがとうございます!」


ギュッと貰った用紙を胸元に抱き締めるマリン。その行動で用紙がグチャッとなって、レイルムは苦笑いだ。


「今書くんならペンあるけど、使う?」


「良いんですか?」


ユートが気を利かせてくれた発言に、マリンは楽しみを待ちきれない子供のような目をレイルムに向ける。


そんな目を向けられたレイルムは孫の嬉しそうな反応を喜ばしく思いニッコリと微笑む。


「うむ。良いじゃろう」


「ほな、バインダーも出すわ」


そう言って、ポケットからボールペンと紐付きの板を取り出してマリンに渡す。


「あの、コレはなんですか?」


渡された二つの物に対して疑問を発するマリン。それもそうだ。バインダーは兎も角、ボールペンなど、この世界に存在しないのだから。


ユートは『あぁ、そっか』と思いながら渡した物を説明する。


「その棒はペン。上のボタンを押したらカチッて鳴って、書けるようになるねん。んでから、その板は、ただの板や。紐を首に掛けて、その上で書いたら書きやすいで」


「儂も貰ったが、とても使い易い物じゃ。インクが中に入っておってな、わざわざインクに付けなくても良いのじゃ」


自慢気にユートの説明を補足するレイルム。そして、板に視線をやり、「その板は貰ってないがの」と物欲しそうにユートを横目で見る。


「欲しかったら幾らでもあげるよ。木を削って紐通しただけやし」


面倒くさげにポケットからホイホイと幾つかのバインダーを取り出してレイルムに渡す。


そんな事をしてる間に、マリンはユートの説明通り、バインダーの紐を首に掛け、その上に奴隷契約の用紙を置いてボールペンを慣れない手つきで走らせて用紙にサインする。


「できました!」


嬉しそうに笑いながら書き終えた契約用紙をレイルムに見せるマリン。

その瞬間、ユートの手の甲に熱い感覚がした。


「これで契約は終了じゃ。その用紙は捨てても構わぬからの」


「はい!」


捨てても構わないと言われても、大切そうに用紙を胸に抱えるマリン。男だと知らなければ、本当に女の子に見えてきそうだ。


ユートはユートで、手の甲の熱の原因である文様を見つめながらブツブツと呟いている。


「これが奴隷契約の術式か。メッチャ簡単やな。主人を指定して、主人の言う事に抗えなくなるのと、魔力が体内に流れたら首輪が締まるようになってるみたいやな。けど、抜け道だらけやん」


「間違ってもその抜け道を使ってはならんぞ?」


ユートの呟きに耳を傾けていたレイルムは注意を促した。が、


「え?……あっ」


何やら『やってしまった』と言った表情をしたユート。


「まさか…」


「うん。やっちゃった」


テヘッと可愛らしく笑うユート。

またもやレイルムの平手打ちがユートの頭に決まる。


「一応聴いておくが、何をしたんじゃ?」


「えーっと、縛られんの嫌やから、命令の術式と、首が締まる術式を空気清浄の術式に書き直した」


「なんて事を…」


レイルムは呆れ、マリンは視線を地面に落として見るからに落ち込んだ。


「まぁ、奴隷ってのには変わりないし、そんなに落ち込む事ないって」


ポンポンと落ち込むマリンの頭を軽く叩くユート。


「そ、そうじゃぞ。ユートは縛られるのが嫌いなだけで、可能な範囲ならば言う事を聴くぞ」


ユートの言葉を慰めと取ったのか、それに便乗してマリンを慰めるレイルム。

だが、それでもマリンはショボンとしたままだ。


「ほ、ほれ。父上と母上が待っているのじゃろ」


落ち込むマリンの背を押して待ち人の元へと向かわせるレイルム。子供の扱いに慣れてなさそうである。


ショボンとしながら歩き始めたマリンの背後で、レイルムはヒソヒソとユートに話し掛ける。


「ユートよ。術式を元に戻せんか?」


「嫌や」


「やっぱりか…。折角のプレゼントじゃったのに…」


薄々とユートが返す言葉の想像はついていた。だけと、孫が悲しむ姿はレイルムの胸を抉る程の威力があり、かなりショックを受けたのである。

ガックシと肩を落とすレイルム。


それを横目で見ながら、ユートは語る。


「あのさ、俺思うんやけどな」


「なんじゃ?」


「誕生日プレゼントに奴隷をプレゼントするのってオカシイで。普通はこれからの生活に役に立つ物とか、相手が貰って喜ぶ物をあげんねんで」


「さっきマリンは喜んでたじゃろ」


「けど、すぐに落ち込んだやん」


「それはお主が…」


「まぁ、せやな。けど、もし病気持ちの奴隷を渡して、その場で死んだら?そうなったら、悲しむんちゃう?」


「そうかのぉ…」


「そうや。せやから…男やったら男らしい物あげるべきやねん」


「それは…剣…とかかの?」


「まぁ、そうなるんちゃう?この歳の子は喜ぶんちゃう?」


「じゃが、可愛い孫に怪我などしてほしくーー」


「アホか。怪我なくして子供は成長せぇへんわ」


「うぅむ…」


何倍も歳が若いユートに言い負かされたレイルム。

頭を捻るが、なぜかユートの言う事が正しく感じて反論できずに顰めっ面を晒す。


その隣に、無理矢理な正当化が成功してほくそ笑むユートが居るが、気が付いているのはアイだけであった。



〜〜〜



マリンがノックして入った部屋は、レイルムの家よりは見劣りのする食堂。

ユートが作った料理よりもずっと貧相な料理が机一杯に並べられている。


そして、上座にこの屋敷の主人ラザラスク家当主、マリンの父。付近にマリンの母と、マリンの兄弟と思われる父に似て活発そうな少年と、両目を包帯で隠した少女が座っている。


レイルムが部屋に入ると同時に、マリンの家族が全員席を立ち、頭を下げて挨拶をする。


「さっきぶりだな親父」


「こんなお持て成ししかできませんが、どうぞごゆっくりして下さい」


実は、レイルムは一度この屋敷に来て家族と顔合わせをしているが、囚われたユートを回収しに行く為にミナとメリナを連れて屋敷を出ていた。

ちなみに、ミナとメリナはまだ帰って来ていない。


「ん?そっちの娘が出て行く前に言ってた兵士に囚われた奴隷か?男じゃなかったか?」


レイルムが連れて来た二人の人物に対して疑問をあげるマリンの父。


「いやいや。コッチじゃ。この娘はコヤツがどこからか拾って来た者じゃ」


そう言ってユートを指差すレイルム。

マリンの父も納得したようで頷き、


「そっちか。……で、首輪はどこだ?」


ユートを足先から頭の天辺まで見つめるが、首輪は見当たらない。いや、首輪のある場所にマスクを着けているから、分からないのだ。


「ユート」


「はいよ〜」


咎めるような口調でレイルムに言われ、ユートは軽い口調で返事してマスクを外す。


「確かに奴隷だ。にしても、奇妙な格好だな」


「良く言われるわ」


マリンの父の発言にヘラヘラと笑いながら返事を返すユート。

隣のレイルムに肘で殴られているが、全く気にした様子はない。


ユートの喋り方に眉を顰めるマリンの父。


「ほぅ。お前、名前は言ってみろ」


「ユートや」


「ユートか。奴隷の癖に口の利き方がなってないようだな。親父、ちゃんと躾けたのかよ?」


呆れ顔のレイルムは話を振られ、小さな溜息を吐き「じゃから言ったのに…」と呟く。


「やろうと思った…が、出来んかった」


「親父ともあろう者が情けないな」


嘲笑いながら「剣豪と謳われた者が、老いぼれたな」と付け足す。

それが気に障ったのか、額に青筋を浮かべるレイルム。そして、何かを思い付いたのか、ユートが良く悪巧みをする時に浮かべるニヤリとした笑みを浮かべた。


「ならばやってみるがいい。現代の剣豪よ」


「ほぅ。俺に出来ないとでも?」


何やら彼等二人の目から火花が飛び散り、中央で弾け合うような印象を受ける緊迫感の篭った睨み合いが始まった。


そして、事の発端であり、原因を作り出した本人であるユートは、レイルムとマリンの父の激しい睨み合いにオドオドとするマリンを見て楽しんでいる。


マリンの母は『またか』と言った呆れ顔をしており、マリンの兄弟はワクワクとして、アイは状況を理解できてなさげだ。


マリンの家族に見送られる中、マリンの父とマリンの爺であるレイルムは睨み合いながら食堂から出て行く。


「お前も来るんだ!」

「お主も来るのじゃ!」


出て行った筈の二人は扉を同時に開け、同時にケラケラと笑うユートに言い放ち、ダラ〜ンとするユートを強制連行するのであった。

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