面白さを求めし者
「少し予定よりも遅くなりましたが無事、到着できましたね」
「無事?早速止められたけど?」
「当然です。こんな訳の分からない乗り物を使っていれば、誰でも怪しみます」
「でもさ、これは酷くね?扱いがアンタらと違うくね?」
ここはレイルムの息子と孫が居る街ーーサスリカ。
そして、街の正門前で兵士数十人によってTYPE-1ことクルマは止められ、レイルム達は兵士に事情を話している。
ユートを除いて。
「そうですか?当然の事だと思いますよ」
「ププッ、ザマァみろです」
誰にも支援してもらえない、あまつさえミナに笑われているユートは、絶賛、兵士達に拘束されていた。
両手両足を拘束されるだけでは足りないのか、兵士数人に地面に押さえつけられ、オマケに槍を向けて警戒態勢までとられているのだ。
メリナとミナは何もされていないのに。
「レイルムゥー!はよ助けてやぁ!」
少し離れた所で兵士と会話をしているレイルムに助けを求めるが、苦笑いしか帰って来ない。
さすがのユートでも、この状態でずっと居るのは辛い。
なにせ、数多の人が行き来する門の前だ。何事かと思って目を向ける人が多数居たり、気になってチラチラと視線を向けて来る人も居るのだ。
人に見られる事が好きではないユートには辛い場である。
だが、非常な事に、
「そいつを牢に入れておけ!」
「「「はっ!」」」
「えっ!なんでぇ!?」
嘆くユートは引き摺られながら牢へと連れて行かれた。
「あの、レイルム様。さすがに牢は酷くないですか?せめて、あのまま連れて行けば良かったのではないでしょうか?」
ズルズルと引き摺られて連れて行かれる脱力しきったユートを横目に、兵士との会話を終えたレイルムに『やりすぎ』だと言外に伝える。
だが、レイルムにはユートを連れて行かせる気など一切なかった。
「それがのぅ、このクルマを造ったのがユートじゃとバレてしまってのぅ、儂の話も聞かずに連れて行きよったんじゃ…」
困ったのぅ。と本当に困ったような表情で頬を掻くレイルム。
視線を連れて行かれているユートに向けると、兵士が数人がかりで引き摺っているのが目に入った。
「プププッ」
「これ、笑ってやるなミナ」
「はーい。ププッ」
一応ユートを哀れに思って笑う事を咎めたが、ミナはそれでも笑うのをやめないようだ。
それだけユートが連れて行かれる姿が彼女にとって面白いのだろう。
「クスクス」
背後でメリナも笑っているような気がしたが、レイルムはこれ以上気にしない事にした。
〜〜〜
街に入ってすぐの地下に造られた牢屋。
その一室にユートは放り込まれた。
「ぜーっ、ぜーっ、お、大人しくしていろよ!」
ふんっと鼻息を荒くした兵士がユートの入った牢の鍵を閉めた。
その他の兵士は、その場で座り込んで疲労困憊となっている。
その理由は、
「なんつー重さだよったく」
「本当だぜ。おいナッカル、武器とか隠し持ってる物は本当に無かったんだろうな?」
「ったりめぇだろ!コイツは何も持ってなかったのは確かめたよ。クソッ。一体、どんな身体してやがる…」
ユートが余りにも重たかったからだ。
身体に似合わないーーもし女性だったらゾッとする程の体重。なのに、身体つきは細い。
理想なのか、そうでないのか、甲乙つけ難い。
「ひっどいなぁ。重い重いって、俺っちのガラスのハートにヒビが入っちゃうよ」
「ちっ、黙ってろ!」
兵士の一人が鉄格子を殴り、ガンッと音を出して中に居るユートを威圧する。が、そんな事でユートは怖気付いたりはしない。
いつものようにヘラヘラと笑いながらーーいや、いつもよりも笑顔を濃くして笑っている。
まるで何かの感情を笑顔に転換してるかのように。
牢に入れられたと言うのに笑っているユートに苛立ったのか、兵士の一人が立ち上がり仲間に声を掛けてから出て行く。
その後に、ゆっくりと仲間の兵士も牢屋を後にする。
それを横目にユートは、
「あんな目で見られたら、優しい優しいユートさんでも少しは苛立つんやで…」
内心を暴露していた。
笑みを消し去り、眠たそうに細めた眼で兵士達が出て行った牢屋の出入り口を見つめる。
「まぁ、嫌がらせは出来たし、それでチャラやけど」
ニタリと口元を歪め、そして、取り繕ったようにヘラヘラとした笑みを浮かべる。
彼の言う嫌がらせとは、兵士達が苦労して重たいユートを運ぶ事である。
本来、ユートの身体の半身以上が機械によって占められており、兵士達が苦労して運んだユートの何倍もの重さがある。
だが、それを体内に刻んだ魔法陣によって軽くしている為、並みの筋力で身体を動かす事もできるし、兵士達が苦労していたように重くする事だって出来る。
「さてっとーー」
そう言いながら立ち上がり、鉄格子に手を掛けて呟く。
「逃げよか」
ピアノを弾くが如く、鉄格子の棒の一本一本に指を当てて音を鳴らして行く。
そして、一番音が軽かった棒に手を掛けて、グリグリと回し、スポンッと抜ける。
さも当然の事のように、馴れた手つきで空いた隙間から抜け出して背伸びをするユート。
「これも邪魔やし外そっと」
言い終えると同時に手枷から両腕を抜き、足枷から両足を引き抜く。
「やっぱ、作りが甘過ぎるなぁ。まぁ、そのお陰で簡単に抜けれるんやけど」
警察官が持っている手錠からでも抜け出せれるユートからすれば、この程度のモノなど簡単に抜け出せる。
なにせ、手枷も足枷もユートの細さには敵わず、ブカブカの状態だったからだ。
ちなみに、手錠から抜け出す時は力尽くか、親指の関節を外して抜け出す。それでも無理なら、鍵穴をホジくる。
逃げ出す事は、拘束が嫌いなユートの得意分野だ。
「オマケ一つ置いてから、レイルムでも捜すか」
ネモが居れば楽やのにな〜と思いながら、牢屋の出入り口付近の天井に、どんな虫でも喜んで飛び付く蜜の入った袋を仕掛ける。
誰かが入ってきたら自動的に落ちる仕組みだ。
仕掛け終えると満足そうな笑みで一つ頷き、気配を極限まで消して牢屋から出て行った。
〜〜〜
サリスカと言う街は、表は活気に満ち溢れた良い街だ。だが、一度裏の世界へと行くと、そこはドンヨリとした重たい空気しかない最悪の街である。
殆どの街はこのサリスカと同じで、余り他の街と変わらない普通の街である。
名物は紅茶。
中央広場には誰かを象った男の像があり、その足元には噴水がある。
普通の街だ。
そんな街の端っこで、ユートは絶賛迷子になっていた。
「あの、つかぬ事をお伺いしたいのですが…」
「…………」
「どこをどう行ったら、大きな道に出れますかね?」
「…………」
路地のような細い道の端にもたれかかるようにしたボロボロの男性に喋り掛けても返事がこない。まるで、屍のようだ。
そんな輩が見渡せば山程いる。
勿論、子供もだ。
物乞いをする人も居れば、タチの悪そうな者達もいる。
耳を澄ませば、恐喝のような怒号が聞こえて来る。女の悲鳴や男の泣き叫ぶ声。喧嘩でもしているのか、殴り合う音や金属を強く打ち合わせる音が聴こえてくる。
「物騒なとこやなぁ。俺にはピッタリかもせぇーへんけど、リョーガには合わなさそう」
猪突猛進でイケイケGOGOでバカの代表者であるリョーガに、こんな街の裏側を見せたくはない。と切実に思うユートだが、当の本人は近くにいない為どうする事も出来ない。
「”スキャン”使ってもええけど、魔物の大群が押し寄せる可能性もあるし、弱めたとしても、耳のええ奴やったら聴こえてまうし…どないしたもんか…」
倒れている人を踏まないように避け、物乞いをする人を華麗に躱しながら、適当に頼りないカンに任せてテクテクと進む。
幾度か突き当たりで引き返し、幾度か怖いお兄さんから逃げ、幾度か半狂乱のオッサンの相手をして、ようやく辿り着いた場所は、
「声が聞こえた方に向かうのって間違えやったかな?」
怖いお兄さんが沢山いる所だった。
だけども、その誰もがユートを視界に入れていない。
彼等の視線は一点だけを見つめている。
『さぁ、さぁ!見てってくれ!最高の品物だ!!』
怖いお兄さん達が見つめる先から大きな声が聴こえてきた。
それに対し、怖いお兄さん達は野次を飛ばしたり、何やら興奮したりしている。
「前も同じ事言ってたじゃねぇかよ!」
「おおっ!今日は女もいるじゃねぇか!」
「俺はアイツを買うぞ!」
「いや、俺は隣の大男だ!あの肉体美…最高だ…はぁ、はぁ」
ユートの背丈を持ってしても、ユートよりも背の高い人が沢山いる為、彼等の視線の先を、声の聴こえた方向を見る事は叶わない。
だけど、気になる。
だからユートは近くの壁に張り付いて上から見下ろすように声の主へと視線を向けた。
そこには、
「…奴隷?」
ボロ切れの布を服として着せられ、鎖付きの首輪を着けた薄汚れた人達と、片手に首輪に繋がった鎖の束を持ち、もう片方に小石を口元で持った小太りな男性だ。
そして、ユートの目が行き、尚且つ疑問に思った事は、首輪がユートの物とは全くの別物の物である事だ。
鎖付きの首輪を着けられた人達の首輪は、装飾も何もされていない無骨な物だ。だけど、色は薄茶色で、ユートの物よりも細い。
そして、ユートだけに分かる事だが、首輪の性能がユートの首輪と違うのだ。
ユートの首輪は、主人の命がない限り動けない拘束されまくりな制限がある。
だけど、彼等が着けているのは制限が余りにも薄い。指示さえあれば首を絞められるが、自由意志は認められ、行動の制限もない。
強いて言うならば、主人へ攻撃を加えると即死すると言う事だけだ。
「あれも奴隷なんかな?」
疑問を口にしながら、今から始まろうとしている事に耳を傾ける。
『いつも通りオークション形式で始める!欲しい奴は手を挙げて金額を言え!
初めは、この男!冒険者として生きていたが、借金を返しきれずに奴隷に堕ちたバカ野郎だ!
だが!コイツはCランク並みの力を持っている!お買い得だぜ!
じゃあ、1000セリスからだ!』
「1100だ!」
「1200!」
「1300だ!」
「1400!」
彼等の様子を見て『成る程』と、カエルのように壁に張り付いたまま頷くユート。
どうやら、闇市のような物が開かれているようだ。
首輪の男を狙っているのは、怖いお兄さんと、優しそうなお兄さんの二人だけのようだ。
どちらも譲らずと言った風で、グングンと金額が吊り上って行く。
それに伴い、小太りの商人らしき男性の口角も吊り上がっていっている。
そして、最終的に落札したのは、優しそうなお兄さん。56000セリスまで金額が吊り上った。
だが、ユートからしてみれば、『セリスって何や?』と言う状態である。
これまで、お金は金銀銅の硬貨だと思っており、それしか使った事のないユートには分からない事である。
だが、ネモに尋ねればすぐに判明する。
ネモの中の一人、ソラの説明だと、セリスとはこの世界の通貨であり10セリスでジュース一杯分ぐらいだと言う。
『次はこの女だ!』
男が予想以上の高額で売れた為、ホクホク顔の商人は次の商品を客である怖いお兄さん達の前に立たせる。
『この女の過去は知らん。だが、魔法に関してならば一級品だ!適性は、なんと!火、土、雷、風…そして、闇魔法を使う!』
商品が”闇魔法”と投げやりに言った途端、客達の表情に陰りが映り、ざわついた。
しかし、ユートには彼等の反応の意図が分からない。そんな時に便利、『ネモに尋る』を使い、情報収集をする。
そして、分かった。
闇魔法は一般的に魔族が使う魔法で、魔族は人間からすれば敵であるから、魔族の使う魔法も忌み嫌われていると言う事らしい。
『例え、闇魔法を持っていようが五属性だ!例え闇魔法があろうと五属性だ!今しか手に入らない代物だぞ!そして、それだけじゃない!オマケに黒首輪も着ける!500セリスからだ!』
「闇魔法か…」
「お前、アレが良いんだろいけよ」
「いや、闇魔法はちょっと…クソォ、闇魔法さえ無ければ…」
「惜しい、惜しいが仕方ない」
「お、俺行こうかな」
「やめとけって。闇魔法なんて持ってるやつを近くに置いてみろ。教国に狙われるぞ」
どうやら、闇魔法と言うのは大変嫌われているようだ。
誰も入札する人が居ない。
視線を闇魔法を持ってると言われた女に向けると、悲しそうに目を伏せている。
商人は薄々予想はしていたのか、溜息を一つ吐いて女を退がらせようとする。
が、唐突に声が上がった。
商人の頭上から。
「要らんねんやったら頂戴や」
慌てて頭上を見上げる商人。そして、頭上に居る人物を前に驚き過ぎて尻餅を着いた。
怖いお兄さん達も、突然現れた彼に驚いて目を見開いた。
宙に逆さまで立っている人物ーーユート。
まるで、そこが足場のように、彼だけが反対の世界に生きているかのように思える光景。
だが、実際は極細のワイヤーを使用した単純なマジックショーだったりする。
近くの家と家を極細のワイヤーで繋ぎ、そこを移動しただけ。
ただ単に楽しみが欲しかったから行なった行為などとはユート以外の誰も知らない。
靴の裏側から出ているワイヤーを手動で外し、スタッと華麗に地面に着地するユート。
そしてもう一度。
「要らんかったら頂戴。大切にするからさ」
ニコニコと人懐っこい笑みで手を差し出すユート。
尻餅を着いたまま固まっていた商人はゆっくりと立ち上がって何かを言おうとするが、上手く声が出なくて何度か口をパクパクと動かし、ようやく喋り出す。
「お、お前!…ほ、欲しいのなら10000セリスだ!」
何かを言おうとしたが、ユートを客と見たのか金の支払いを求める商人。
だが、ユートは無一文だ。金など一銭も持っていない。
「吊り上ってね?さっき500や言うてたやんけ。それに、雰囲気的に要らなさそうやったから言うただけで、金払う程欲しいとは思ってないで」
「な、なら500で売ってやる!」
「上から目線やなぁ〜。おかしない?俺っち客やったりするんやで?」
「ならば、300でどう…ですか…」
「いやいや、話し方変えた所で俺の気持ちが変わると思ってんの?」
「に、200…」
掴み所のない笑みをするユートに、徐々に商人の声が小さくなってくる。
「それでも高いなぁ〜。さっき言ってたやん、闇魔法ってさ」
「100…」
「そんなに価値あんの?黒魔法保持者は嫌われ者やろ。確かに洗ったら綺麗になると思う…いや、この場合は可愛いか」
チラッと薄汚れた女と言うよりは少女に近い年齢の方へと視線を向ける。
今にも泣きそうな表情の薄汚れた少女の頬がほんのりと赤みを帯びた気がしたが、華麗にスルー。
「でさ、ホンマの価値は幾らやったんよ?」
ずいっと顔を近付けて真実を確認する。
ニコニコと笑みを浮かべる顔を近付けられた商人は一歩後退り、声を絞り出す。
「50…これ以上は下げれない…」
「そか、50か」
うんうん。と満足そうに頷いて怖いお兄さん達の方へと向き、この場に居る全員に聴こえる大きな声で言う。
「聴いた?50やって。それに、黒首輪まで付けてくれるんやって」
怖いお兄さん達から「聴いた!」と言う声の合唱が聞こえてくる。
それを耳に入れ、ニヤリとほくそ笑むユート。最低な値切り野郎である。
「そ、そこまではーー」
「え?俺の聞き間違いやった?初めに言ったやんな?オマケで黒首輪も付けるって。もしかして、嘘?」
うそーん。と両手で口元を隠して大袈裟に驚きを見せて商人へと振り返るユート。
怖いお兄さん達もユートを支援している。
だが、ユートの隠された口はニヤリと悪い笑みを浮かべており、商人だけに聴こえる小さな声で「売り買いは信用第一」と、優しい声で脅しをかましていたりする。
そして、怖いお兄さん達の方へ向いて大きな声で、
「うわぁー!騙されたわ!こんなエセ商人からーー」
「わ、分かった!分かったから止めてくれ!」
慌てて商人は止めに掛かる。
なにせ、これからも続く筈の商売をたった一つの事で壊される所だったのだから。
「それじゃあ、50セリスで、黒首輪付き?」
「そうだ…」
ユートの仲間を作っての値切りに勝てず、ガックシと項垂れる商人。
だが、ユートは無一文だ。
金は一銭も持っていない。が、それはユートだけであればの話だ。
彼には頼もしい仲間ーーネモ達が居る。
そして、ユートの作業着のポケットの中は、彼等の作業着のポケットと繋がっており、『少し借りる』と一言告げれば、普通に手に入れれたりする。
ユートは借りたお金をポケット取り出し、銀色に輝く硬貨5枚を「まいどっ!」と、機嫌良さげに言いながら商人に渡す。
本来は売った側が言うセリフだが、今回はユートが得をしている為、その言葉を発した。
声援のような、怒号のような歓声を背に、ユートの着けている物と同じ黒い首輪と契約書の羊皮紙を商人から受け取ったユートは、”面白そうだから買った”少女を連れてこの場を立ち去った。




