実は狙われてたんです
やっと空き時間が出来た…。
休んだ分の仕事がたんまりと残されてました…。
私を指名してくれるのは嬉しいのですが、さすがに多過ぎます…。
給料アップ…だけど、疲れるよ…。
ユートのステータスをジックリと端から端まで凝視するレイルムとメリナは、
「なんじゃコレは…」
「ステータスが壊れてる…?」
などと、とても失礼な事を口から漏らしている。
その間に彼等の拘束の手から逃れるユート。
「あっ」
「むっ」
ユートが動いた所為でステータスが移動し、二人の視界から外れてしまった。
突然動いたユートを咎めるような視線を向ける二人。手をワキワキと動かしているのは、逃げれば捕まえるぞと伝えているようである。
「ちゃうちゃう。逃げるわけちゃうで。外寒いやろ?それに、そろそろ雪降ってきそうやから、中に入ろうと思ったんやんか」
「むっ、そうじゃったか」
「確かに、この格好は寒いですね」
レイルムは厚着だが、メリナは長袖の服にスカートと寒そうな服装だ。
「ほら、入ろや。ミナなんか暇すぎて車ん中で寝てるで」
「そうじゃの」
ユートの施しにより、車内へと戻っていく二人。それを横目にユートは一時的とは言えど責められるような状況から逃れられてホッと息を吐く。
そして、チラホラと降り始める雪。
ユート天気予報は当たったみたいだ。
空を少し見つめてから、これから全てを話し、嫌われるかもしれない覚悟を背負い、車に乗り込む。
そして、小一時間もの間、本来の目的も忘れた彼等に問い詰められた。
ちなみに、そこに何がなんだか分かっていないミナも加わっていた。
「ーーーっと、まぁ、こんな面白くもなんともないエピソードがあったわけよ」
ステータスの事はユート自身でも良く分かっておらず、気が付けば元々あったスキルが消え去り、新たなスキルが出現していた。
そして、ユートの過去だが、
「そんな事が……でも、それだと、こんな事してる場合じゃなく、すぐに友人を捜しに行くべきじゃと儂は思うのじゃが…」
「そうですよ。世界は広いんです。今から捜したって遅くありませんよ。奴隷なんて身分も貴方ならすぐに捨てれるでしょう?」
「グスッ。クソ野郎にこんな過去があったなんて……」
迷宮から落ちてリョーガと別れ、そして、迷宮から脱出した。
だが、時間や現在地などサッパリ分からず、気の向くままに歩いていたら村に辿り着いた。
と、そんな簡素な話だ。
だが、レイルムはそれを聴いてとても申し訳なく感じ、メリナは今すぐに友人を探すべきだと施し、ミナはユートの語った雑なエピソードに涙した。
「クソ野郎はどうかと思うけど、リョーガならもう見つけてるし大丈夫。なんか、こっち向かってるらしいし」
「それは、ユートが造ったと言ったネモの情報かの?」
「そそ」
仲間と逸れてしまい、一人寂しく迷宮で生き抜いてきた人とは思えない程に軽い口調。いや、もしかすると、そんな事があったからこその口調なのかもしれない。
「ところで、迷宮に落ちたとは聴きましたが、落ちた先はどんな所だったのですか?」
「ああ…」
メリナの問いに、ユートは遠い目をして迷宮で暮らした三ヶ月を想い出しながら語る。
弱い魔物にすら歯が立たないユートは逃げ隠れしながら暮らし続けた。そして、少しづつ力を付け、狩を覚え、寂しく孤独に”生きる”為だけに生き抜いてきた。
例え、体の一部を失おうと、死に掛けようと、それでもなお足掻き続けた。
「そんで、俺は最後の層で封印されてたらしい魔神と出会って、死んだ」
だが、その時には既にネモ達が居て、生き返る事が出来た。
どうやって生き返らせたのかはネモを作り出したユートですら知らない。
気が付けば魔神は居なくなり、自分は生き返っていた。
「まぁ、三ヶ月しか経ってなかったってのがビックリやけどな。なんせ、百層ぐらいあってんから」
長かった。とても長かった。
何度地面を破壊して短縮ルートを作ったか。そして、何度壁を破壊しながら強行突破したか。思い返せば、なんだかリョーガ並みに無茶苦茶してる気がする。
「百層…凄いですね…」
とは言ったものの、余り実感が湧かないものだ。
自分が体験してみないと、それがどれだけ凄い事なのかなど分かるはずがない。
「なんにせよ、ユートは無事に生きて帰る事が出来、友人も見つけれた。良い事じゃ」
ハッピーエンドで話を締めくくろうとするレイルム。だが、そうもいかない。
「そんなけ上手い事行ったら良かったんやけどなぁ〜」
「なんじゃ?まだ何かあるのか?」
「いやさ、なんでか知らんねんけど、俺っち神さんに嫌われちゃったみたいでさ、一回だけやけど天使ちゃんに殺されかけたんよなぁ〜」
「女将さん?」
「ちゃう。神様や」
「「「………はあぁああああああ!?」」」
またもや爆弾を落としたユート。
彼の言動一つ一つに問題があるようだ。
いや、もしかすると、もしかしなくても、頭に異常があるのだろう。
「ど、どういう事じゃ!?っと言うよりも、どの神様に狙われておるのじゃ!?
事と次第によっては、ユートよ。かなり危険な立場じゃぞ!?」
もし、神様を崇拝する宗教国の教国に知られでもすれば、教国に住む全国民が目の色を変えて殺しに掛かってくるはずだ。
それはもう、その一人からすれば、この世の地獄。
行く先々で教国が送り込んだ暗殺者に狙われ、夜も眠れぬ日々が続く。
なのに、ユートは気にした素振りもなく笑いながら答えた。
「せやなぁ〜。初めは武神?とか、そんな名前のやつやったはず。
わざわざ名乗り上げて俺を殺しにきたからな」
「……ほへ?」
訳が分からない。と言った表情を晒す二人。レイルムとメリナ。
『初めは』その言葉は、まるでその次があるみたいな言葉だ。それはレイルム達が尋ねる前にユートが答えてくれた。
「そいつから本気で逃げたら、次は全神々からの命令って言う名目で天使ちゃんが来た」
「「………」」
遂に二人は唖然と声も出せない状態になってしまった。だが、耳だけはシッカリと機能しており、ユートの話に耳を傾けている。
「んで、近くにおったゴキブリを袋一杯に詰めて投げたら、悲鳴上げてどっか行った」
「最低じゃ…」
「ヒィ…」
それを想像したのか、メリナは全身に鳥肌を立てて身を震わせた。
「ちなみに、これは迷宮から出て二日目の事な。一日目に神さん。二日目に天使ちゃん。三日目に雷に直撃。…あれは忘れられへん不幸の連続やったわ」
やれやれ。と言った風に肩をすぼめているが、その状況に普通の人間が陥入れば生きて明日を見る事は叶わないはずだ。
ユートだからこそ生きていられたのだろう。
なんと言うしぶとさだ。
「よくそれで生きておったな…」
これまで生きてきた事に素直に称賛を口にしたいが、さすがに出来ない。
苦笑いを浮かべるので精一杯だ。
「それで、その天使様はどうなったのですか?」
「さぁ?あれっきり見かけてないから諦めたんちゃうかな?」
「そ、そうですか…」
ユートは何者を敵に回したのかを自覚しているのかと深く考えさせられる。
だが、辿り着く答えは一つだ。
(バカだから気にすらしてないのではないでしょうか?)
どれだけ考えても思い付かず、最終的に諦めきった答案だ。
そして、それが一番シックリと来る答えである。
「まっ、過去なんてどうでもええけどな。俺は何があっても俺やし、変わる事はあらへん。この性格も、本性も…」
どこか含みのある言葉を残し、ユートは運転席へと戻って行く。
後部座席に残された二人はユートが発した最後の言葉の違和感に気が付きながらも、それを突き止めようとはせず、車が動き出すのを待つ。
ちなみに、ミナは最後の最後まで話の意味が理解できずに暇そうに外の雪景色を眺めていた。




