寄り道
57話が抜けていました。
よければ読んでくれれば幸いです。
ある晴れた日の朝。
林の中を一直線に、それも人間の体よりも太い木々を軽々と薙ぎ倒しながら疾走する連続した破裂音を周囲に撒き散らす異様な物体が見受けられた。
全体を生き物の皮や鱗で覆い、禍々しい雰囲気を醸し出すそれの名はTYPE-1。
操縦者はお決まりの彼。
「ある晴れた昼さがり。いちばへ続く道。
荷馬車がゴトゴト。子牛を乗せてゆく。
かわいい子牛。売られて行くよ。
悲しそうなひとみで、見ているよ。
ドナ、ドナ、ドナ、ドナ、子牛を乗せて。
ドナ、ドナ、ドナ、ドナ、荷馬車が揺れる。
青い空。そよぐ風。つばめが飛びかう。
荷馬車が一場へ子牛を乗せて行く。
もしも翼があったならば、楽しい牧場に帰れるものを。
ドナ、ドナ、ドナ、ドナ、子牛を乗せて。
ドナ、ドナ、ドナ、ドナ、荷馬車が揺れる。」
暇なのか、ずっと口ずさまれる同じ歌。
それは同乗者の心にズッシリとのしかかる重みがあり、哀しみがある。
「あの、その歌は…」
できればやめて欲しい。そうメリナは思っているが、とても言い辛い。
なぜなら、
「ええ歌やろ?」
とても清々しいをしたユートが笑顔で尋ね返してくるからだ。
正直、同乗者であるメリナ、レイルム、ミナからすればいい迷惑である。
まぁ、ミナは気にした様子などなく、窓の外が目紛しい勢いで移り変わるのを楽しんでいるが。
「のぅ、ユートよ。歌は良いのじゃが、いつまで歌うのじゃ?他の歌はないのかのぅ?」
「あるけど、俺の気持ちを理解して貰うた為に、目的地に着くまでずっと歌い続けるつもりやってんやけど?」
ニシシッと笑いながら言うユート。
「うむぅ…そんな気持ちじゃったのか…」
ユートはいつも笑っているので、彼の気持ちが読めず、レイルムは申し訳ない気持ちに苛まれる。
だが、初めから孫にあげるつもりで買って来た奴隷だ。
孫にも既に伝えており、今更やめるなど言えない。
「ユートの気持ちは受け取った。じゃから、その歌をやめてもらえんか…」
「えー」
嫌そうな声を上げるユート。
だが、余り気にした様な表情ではない。
彼の笑みが気持ちを隠しているだけかもしれないが、それでもレイルムは『ユートならばこれぐらい気に障る事はないだろう』と小さな自身がある。
「まぁ、ええや。ほな、音楽でも流すけ」
タイミング良く林を抜け、そしてゆっくりと車を停車させていく。
「…?どうして止まるのじゃ?」
車が止まった事に疑問を投げ掛けるレイルムだが、ユートは返答せずに運転席と助手席の間に設置されたある物を触る。
それは、進む度に周辺の地図を自動的に表示する周辺察知付きのナビだ。
ナビをチョコチョコと触り、またもや走行を再開する。
そして流れ始める音楽。
流れる曲は”世界樹の楽団”が演奏していた曲もあるが、中にはV系の物やダブステップの洋楽と言ったモノまで入っている。
それらは”世界樹の楽団”が提供してくれた音楽もあるが、殆どはリョーガの持つ携帯に入っている曲ばかり。
リョーガがネモの一人であるソラと出会った時、コッソリと携帯の中身をコピーしたのは、ここだけの秘密だ。
「何を言っておるのかサッパリ分からんが、良い曲じゃの」
「私は他の曲を聴きたいです」
レイルムはV系の曲が気に入ったようだが、メリナはお気に召さなかったようだ。
「まぁ、色んな曲流れるから自由に楽しみんしゃい」
お気楽な感じで言うユート。だが、こんな会話をしている間にも時速80km/h近くでTYPE-1は走行しており、そんな速度が出てくるTYPE-1の前に誤って出てきてしまった魔物は轢かれて見るも無残な姿になっていたりしている。
そんな魔物からすれば殺戮道具と成り下がったTYPE-1だが、乗り心地は最高である。
荒れに荒れた道を走ってるのにも関わらず、TYPE-1に組み込まれた独立懸架式サスペンションは左右の車輪(車軸)を独立させて上下する為、路面の凹凸で大きく揺れたりはしない。
それに、ユートのイカれた運転技術と改造技術によって凹凸の酷い荒れ地でさえも快適な走行を可能にしている。
それ故に時速100km/h近くまでのバカな速度で走行が可能になっている。
後部座席にある横置きのソファに座っているレイルムとメリナは本当に快適そうだ。
なにせ、レイルムは片手にワインの入ったグラスを持ち、メリナはガラス張りの机に置かれたお菓子をパクパクと食べているのだから。
後部座席の内装も考慮すればリッチである。
ちなみに、ミナは助手席に座っており、顔を窓に押し付けて外の景色を眺めている。
「このペースじゃと、そろそろニラトの街に着く頃じゃないか?」
「ですね。目印は先程越えたので、この速さだと…もう見えてくるのではないでしょうか?」
レイルムとメリナの雑談が聴こえてくる。
おそらく、窓から見える景色でも見ているのだろう。
「で、どないするん?ニラの街に寄る?」
どこか含みのある言い方で尋ねるユート。
既にその街はユートの視界に入っており、話題にならなければスルーするつもりであった。
ユートにはもっと前からその街が見えていたのだが、その街の周りの風景や、雰囲気まで全て見えている為、寄り道はしたくないと思っていた。が、面白そうなので彼等に判断を任せたのだ。
「確かニラトの街は帝国の研究所があり、観光地には向きませんが、魔科学が発展しており、余りお目に掛からない物を観れるそうですよ」
時間はある。まだ早朝の6時ぐらいだ。
朝日が出てきてから間もない。
到着予定の時刻は10時だが、この調子だとそれまでには余裕で辿り着く。
そこまで考えたレイルムは興味を優先させた。
「儂は一度も行った事がない街じゃ。良い機会じゃ。このペースじゃったら確実に間に合うじゃろうし、寄り道しても構わんじゃろ」
その言葉にユートはニヤリと悪巧みを思わせる笑みを浮かべた。
だが、その笑みを見れたのは今しがた轢き殺された魔物だけだ。
〜〜〜
ブロロロロッと騒音を奏でる八気筒魔導型エンジン。
現在の時速は80km/h程。そして、立ち寄る筈のニラトの街の門は目前。
「……ユートよ。なぜ止まらんのじゃ?」
普通ならば、少しづつ減速して止まる筈だ。
一度、音楽を流す為に止めた時だってそうだった。なのに、ユートは車の勢いを殺さず門へと一直線に向かっているのだ。
その門は、そこらの街のように鉄製の枠で囲まれた木で造られた物ではない。
もっと強力で強固な鉄製の物だ。
なのに、止まらない。
より勢いを増やしながらユートは悪い笑みを浮かべて言う。
「そりゃ、止まっても門は開けへんからな」
「は?」
レイルムが意味が分からないと言った表情をした刹那。
「「「ーーッ!?」」」
車体が何かに衝突した。
これまで薙ぎ倒してきた木々よりも強い衝撃がレイルム達を襲う。
シートベルトなぞしていない彼等は当然ながらに車内を転がった。
TYPE-1にはエアバックを装備していない為、ミナはフロントガラスにディープキスをさせられた。
ちなみに、ユートはシッカリとシートベルトをして身を守っていた。
止まらぬTYPE-1。その車体の硬さを持ってして鉄製の強化された門を吹き飛ばして突破した。
そんな事をすれば、幾ら融通の利く貴族と言えど犯罪者になってしまう。
そんな事ぐらいユートですら理解している。
だが、彼は全く悪びれも無く、人通りが全くない異様な雰囲気の大通りを進み続ける。
「一体、この状態は…」
街の中はユートのよう造るような物に溢れている。
道は綺麗に舗装されており、道の端には魔石を利用した街灯がチラホラし、閑散としている。
「誰も居ませんね…」
「どうなっておるのじゃ?」
メリナとレイルムが疑問の声を上げるが、人が現れる気配はない。
「まっ、その内分かるって」
ユートがそう言うのは、とある理由からだ。
人っ子一人居なくなった街だが、彼は人らしき気配を既に感じ取っている。
だが、なぜこんな事になっているのか。何が居るのかなどは正体を見ない限り知る由はない。
「ユートよ。知ってるのなら教えて欲しいのじゃ」
「俺がなんでも知ってると思ったら大間違いやで。俺だって知らへん事あんねんから」
「と言う事は、ユートさんでも知らないと言う事ですね」
「そゆこと」




