その箱は…
昨日、王都から勇者達が旅立った。
ここから北西に行った所にある国境近くの学院に向かった。
そして、私の用事も昨日終えた。
リョーガがあんな事言うから、急いで終わらせた。なのに、なのに…。
「どうして出掛けてるのよ!」
「そ、そう事を言われましても…」
私は冒険者ギルドでリョーガの所在を尋ねた。そして、帰ってきた言葉は、『隣街まで依頼で出掛けております』だった。
冒険者なら、何もせずに待ってると言う事はないと思ったけれど、わざわざ隣街に行く必要なんてないじゃないのよ!
確かに、王都は依頼の数が少ないわよ。けれど、無いわけじゃない。
低ランクじゃ受けれない兵士の訓練や、迷宮探索、素材集めなんかもある。なのに、なんでよ!
これじゃあ用事を急いで終わらせた意味がなくなるじゃないの!
「ここから一番近い隣街って言えばラスラの街ね。リョーガ達はそこに居るの?」
「その…申し訳有りませんが、そう言った情報は規則で話せない事に…」
「そう。まぁいいわ。リョーガ達が帰ってきたら教えといて頂戴。私は”ドラゴンの尾”の宿に泊まってるリリィルよ」
「リリィル様ですね。かしこまりました。伝えておきます」
これで、リョーガ達が帰ってきたら私の元に来ると思う。
後は待つだけね。
それにしても、いつ帰ってくるのかしら?
ーーー
僕は、この世界に召喚された勇者”二階堂 聖輝。
王様に『魔王を倒してくれ』と言われ、帰りたいけど帰れないから仕方なく僕達は魔王退治をする為、召喚されてから三ヶ月もの間、訓練に励んだ。
そして、僕達は強くなったと思っていた。
辺りにいる魔物を簡単に倒せるし、王都にある迷宮の二つだって攻略した。
けれど、実際は違ったんだ。
僕よりも圧倒的に強い人が居た。
仮面の人もそうだけど、一番はあの真っ黒の鎧を着た黒騎士。
あの人の発言には色々と気になる所があった。けれど、それ以前に、彼の力は計り知れなかった。
一度しか放っていないあの一撃。それは、僕達を簡単に吹き飛ばす程の力だった。でも、それでさえ彼は全力を出していなかった。手加減した攻撃だったのだ。
仲間達と全力で挑んでも、僕の持つ聖剣の力を解き放ったとしても、彼には勝てない。
それだけの力と経験の差が彼と僕達にはあった。
だからこそ、僕は、いや、僕達は、旅立つ決心が着いた。
あの黒騎士に負けない力を得る為にも、もっと強い力が、そして、魔王を倒す為に、より強い力が必要となる。
姫様の助言もあり、僕達は魔法学院”アークノート”へ短期間だが、通えるようにしてもらえた。
曰く、そこでは戦闘や魔法を学べるらしく、教師はそれぞれのエキスパートばかりだと言う。
名も知らぬ赤髪の姫様には感謝してもしきれないだろう。
どこか厄介払いのような扱いにも感じたけど…。
ーーー
我の名はナラク。
生前は誇り高き騎士であった。
だが、支える国に裏切られて我の忠誠は復讐へと変わった。
あれから数百年近く経っているが、あの時の事は未だに忘れた事がない。
子を必死に守ろうとして焼き殺された我が妻。泣き叫びながら手足を引き千切られて殺された幼き我が子。
両手両足を拘束され、妻と子の最後を看取る事しかできなかった無様な我。
胸に抱いた復讐心は死してなお忘れる事はできない。
『いつか、あの国を滅ぼす』
何年経とうと、世代が変わろうと我の知った事ではない。我は、この無念を晴らす為だけにデュラハンとなったのだ。
そんな事があったからこそ、我には絶対に許せない事が幾つか出来た。
その中の一つが”裏切り”である。
我の家族を奪った裏切りは決して許せるものではない。
現在、我が支える魔王様を裏切った黒騎士達もそうだ。
『裏切り者には死の償いを』
ーーー
俺達は、王都の隣にある”ラスラ”って街で二泊三日した。
下僕共には適当に依頼を選ばせて稼がせたから、俺の懐は超温ったけぇ。
ちなみに、俺も依頼を受けたんよ。
メッシュって言う村の畑を夜な夜な魔物が荒らすから退治してくれ。って言う依頼やった。
少しラスラの街から距離があったんやけど、ユートが勝手に改造した俺のバイクで行けば数分で辿り着けたし、依頼なんて一晩で終わらせれた。
んで、今の俺達は王都に帰る所だ。
既に門も出ている。
帰るついでに依頼を受けようと思ってたんやけど、なかったから諦めて何も受けず帰る事になった。
「おーい。帰るでー」
「はーい!」
「おうよ!」
薬草採取をさせている下僕共に声を掛けたら、生きのいい返事が返ってきた。
そんな訳で、俺達は王都に帰る訳なんやけど、正直、歩くのが面倒臭い。
バイク出しても良いいんやけど、誰が好き好んで野郎なんか乗せるもんか。
後ろの座席は可愛い女の子専用や。付け足すなら、胸が膨らんでるのが良い。あの背中に当たるプニッとした感触が堪らへんねん。
ってな訳で、バイクは出さへん。
歩こう。ええ運動になるやろしな。
取り敢えず、手持ち無沙汰にしてる下僕共に指令出さなな。
「エリオスは…」
何にしよっかな?
特に思いつかへん。
「せやな、適当に魔物見つけたら倒しとけ」
「雑っ!?」
なんか文句言ってるエリオスは置いといて、次にユース。
「ユースは、売れる草でも集めとけ」
「草じゃなくて、薬草ですよ」
意味一緒やねんから、どっちでもええやんけ。
ちなみに、ユースは少し前に草について描かれてる本買ってた。
だから、草集めは得意やろ。
さて、俺は…。
アイテムボックスの中の物でも整理しとこかな。
ゴミとかも関係なしに放り込んでたから、凄い事になってそうや。
もし、中身をユートに見られたら、またグチグチ言われるな。
もしもこの場にユートが居たら。そんな事を想像しながら、俺はアイテムボックスの中身を整理する。
ゴミは、その辺にポイ。ゴミって言っても、ポリ袋とかそんなんじゃないで。
木箱やら、ボロ布やら、空ビンとかや。
それから、使えそうな物は仕舞い直す。
タバコは勿論の事、バッテリー切れの携帯に、ユートの小型スピーカーなどなど。
そして、チッコイ箱……?
……そういや、”ソラの瞬き”から離れる時にソラからチッコイ箱を貰ったんやったわ。
ビー玉ぐらいのサイズのサイコロみたいな形してる箱やねんけど、何か分からんかったから、ずっとアイテムボックスに入れっぱなしにしてた。
未だに何なのか分からんけど、とりま、何かあるんやろうからアイテムボックスに保管しとこ。
……ちょっと待て。
「もしかして…」
使い方が分かったかもせぇーへん。
取り敢えず、視線を巡らせてユースを捜すと、背後の方でチマチマと草毟りしてる。
エリオスは魔物がいつ出てきても良いように、新たに買い換えた短槍を片手に周囲を警戒してる。
よし。あいつらは別の事に集中してるから、邪魔はしてけぇへんな。
俺は、あの時の事を思い出しながら、チッコイ箱を握り締める。
思い浮かべるのは、ユートがネモを伝って俺に渡した手紙に、ユースが魔力を流した時の事。
あの時、魔力を流された手紙はパンッと言う音と共に小さな白煙が巻き上げられ、そこからクラッカーのようなカラフルな紐と色んな物が飛び出してきていた。
俺の求めていたバイクも、タバコも、その時に入手した。
ユースがやっていたように、このチッコイ箱に魔力を…………どうやって流すんや?
一番初めで躓いてもうたぞ。
魔法は使えるようになったけど、魔力の使い方なんて知らへんから、なんも出来へんやん。
やっぱり、ユースにやらせよかな?
…い、いや、俺一人でやったる!
〜〜〜
無理。幾ら頑張っても、出来へんかった。
けれど、一つ発見があった。
このチッコイ箱、どんな魔法を撃ち込んでも壊れへんかった。俺が本気で握っても、ビクともせぇへん硬さやった。
まぁ、どうでもええ発見やな。
さて、俺じゃどうやっても開けられへんし、ユースにやらせるか。
「なぁ、ユース」
「はい」
「これに魔力流してや」
「分かりました」
草毟りしながらやのに、ちゃんと付いてきていたユースにチッコイ箱を投げて渡す。
ユースは危なげなく受け取り、そして、魔力っぽいのを流した。途端、ボンッとチッコイ箱が爆発した。
それには、俺もビックリした。
エリオスなんて、「攻撃か!?」と大声で叫びながら振り返る程だ。
「ブッ、ブハハハハハッ!」
その後、エリオスはユースの顔を見てバカ笑いしてるけど。
確かに、ユースの顔はオモロイ。
実験に失敗した博士みたいに、髪の毛を爆発させ、顔をススだらけにしてるもん。
けど、俺の視線はそこじゃない。
いや、初めこそはユースを見て笑った。けれど、すぐに視線はユースの背後の物体に移された。
「ふぅいー、笑った笑った。で、ソレなんだ?」
エリオスはユースの背後にあるソレを指差して尋ね、ユースは初めて背後にある物体に気が付き、首を傾げた。
「…何でしょう?」
唐突の事で大袈裟に驚かなくなったのは、ユースが成長した証拠なんやろな。




