ユースは
今度の試験の日程が決まりました。
二ヶ月後です。
そして、二ヶ月間、猛勉強しなければならなくなりました…。
私、勉強は大嫌いなのですが…。
僕はユースです。
リョーガさんと出会う二ヶ月前に冒険者になり、初心者や初級や弱小などと呼ばれる低ランク冒険者の一員でした。
そして、僕は呼び名通りの弱者でした。
まぁ、今はリョーガさんに理不尽とも言える鍛え方をされたお陰でCランクまで上がりましたけど。
それは兎も角、リョーガさんがユートさんとリリィさんと再会を果たしてから数日が経ちました。
リョーガさんはいつも機嫌の悪そうな顔をしてますが、最近はとても上機嫌です。
目付きは正直未だに怖いですが、どこか優しそうな表情を時折見せてくれます。
それだけ、ユートさんとリリィさんに会えた事が嬉しかったんでしょう。
そして、僕達は現在、街と外を隔てる壁の前に来ています。
いつも通りギルドで集合してから、ここに来ました。いつもの如く、何をするのか一切説明を受けていません。
「ほな、行くべ」
防具など一切装備しようとしないリョーガさんが気の抜けた掛け声を発して街の外へと向かいます。
僕とエリオスさんは、リョーガさんに従い、後をついて行きます。
ちなみに、僕も防具は装備してません。前に買った物は、リョーガさんに捨てられました。
頑張ってお金を貯めて買った防具だったので捨てられた時は凄く悲しかったです。
街を出てから、僕はこれからする事を尋ねる。
街の中に居ても「秘密」と言って教えてくれないんです。
「リョーガさん。今日は何をするんですか?」
「後で分かるって」
「……?」
後で分かる?
どういう事なんでしょうか?
こういう返答はこれまで一度も受けた事が無かったから、予想がつきません。
「とりま、エリオスは腕立て伏せ百回な」
「はあぁぁ!?俺が何をしたってんだよ!!」
「尻穴みたいな顔してるからや。拒否は認めん」
「ったく、なんで俺が…」
相変わらずリョーガさんの無茶苦茶な言葉にエリオスさんは毎日のように振り回されています。僕からエリオスさんに目的が移った事が内心、嬉しかったのは秘密です。
エリオスさんは、ブツブツと文句を垂れ流しながらリョーガさんに命令された事をし始めました。
門を出てすぐの所だから、周りの目があるけれど、二人とも余り気にしてなさそうです。
それから、僕は人の邪魔にならない所で座り込んで、腕立て伏せをするエリオスさんを眺めます。
リョーガさんは周りの邪魔など全く考慮せずにその場に寝転んでいます。
「56、57、58、59……」
エリオスさんが数字を数えながら腕立てをしているのを眺めていると、唐突にリョーガさんが立ち上がりました。
一応、僕も立ち上がり、どこかへ歩いて向かうリョーガさんを視線で追います。
エリオスさんに視線を向けてみると、リョーガさんを視線で追いながら腕立てのペースを上げています。
もう一度、リョーガさんに視線を戻すと、馬車を操縦する御者の人と何か会話をしていました。
そして、一言二言で話が終了し、僕達の方へと戻ってきました。
「……99、100!」
丁度、エリオスさんの腕立て伏せが終わったみたいです。
「とりま、エリオスは追加でうさぎ跳びしながら付いて来い。んで、ユースは見張りな。魔物来たらブッ飛ばせ」
「んなっ!?」
驚愕。からの絶望感を醸し出しているエリオスさんは放っといて、リョーガさんが僕達に指示を出して来ました。
「する事は分かったのですが、これから何をするんですか?」
僕が気になる事は、おおよそ予想がつきます。けれど、間違っていたら嫌だし、答えを知っておきたいんです。
「護衛や。えーっと、ラスカルの街までや」
ラスカル?
そんな名前の街ありましたっけ?
そう僕は疑問に思っていると、馬車が僕達の方まで来て、教えてくれました。
「ラスラの街ですね」
ニッコリと貼り付けたような笑みを浮かべる男性がリョーガさんの言葉を訂正してくれました。
確か、ラスラの街は王都の隣にある隣街です。僕達が来た方角の逆方向にあり、山に囲まれた街です。
……あれ?
この前、リョーガさんはリリィさんを旅に連れて行くって言ってませんでしたっけ?
「リリィさんは置いていくんですか?」
「あ?また戻ってくるっちゅうねん」
成る程。それなら納得できます。
でも、隣街と言う事は、数日は野宿……。
「ラスラの街だったら片道二日だな。それまでうさぎ跳びか…」
エリオスさんが良い情報をくれました。ただ、表情は辛そうです。
これからの事を想像でもしてるのでしょう。そんな事をすれば苦しみが続くって言うのに…。
それは兎も角、二日間。往復で四日です。
と、なると、野宿の荷物が必要になる訳で…。
「リョーガさん、荷物は…?」
「あ?そんなもん、要らんやろ」
「えっ……」
僕の鞄の中に料理道具や着替えなどが入ってるんですけど…。
今からでも遅くありません。取りに行きましょう。
「まっ、料理とか全部ユースがやるから持って来てるけどな」
持って来てるんなら早く言って欲しかったです!
取りに行こうとした僕がバカみたいじゃないですかっ!!
とは、リョーガさんに面と向かって言えず、心の中で怒る事しかできません…。
なんでしょう。僕、かなり情けないような気がします。
「ほな、行くで」
『ゴー』と、意味の分からない言葉を口にしながら馬車と共に僕達は歩き始めます。
あっ、エリオスさんはうさぎ跳びで来てます。
完全に遊ばれてますね。
ーーー
不味い、不味い…。
「黒騎士達と連絡が取れなくなるなんて…」
それが一人ならばまだしも、黒騎士隊の全員と連絡が途絶えてしまった。
私は父上の代わりに魔王代理となっておるが、こんな事一度もなかったから、焦りを強く感じているのだ。
何度も伝書を飛ばしたが、全く返答がない。
連絡を取ろうにも、あの隠密に優れた連中へ使いを寄越す事もできない。
机に肘を付いて頭を捻らせていると、扉をノックする音が聞こえて来た。
こんな時に誰だ。
と、言いたくなるのをグッと堪えて、急いで正装に着替えてから部屋に招き入れる。
「ナラクか」
「………」
入って来たのは、全身鎧だけのデュラハン。いつものように無口なヘルムを脇に抱えている。黒騎士の頭が外れたような存在だ。
まぁ、一応は喋るのだが、
「どうした?」
「…勇者……移動…」
言葉を一々区切るので、ハッキリ言ってしまえば会話し辛い。
それでも、有用な情報を持って来てくれたので、今回ばかりは最後まで話をしようと思う。
「どこにだ」
「……北西…」
北西か…。
王都から北西と言えば、もしかして、魔法学園か?
ならば、あいつに向かわせるか。
「魔法学園に向かった勇者を殺せとバースに伝えろ」
「……分かった………」
返事をしてデュラハン…ナラクは部屋から出て行った。
勇者が移動したとなれば、私も色々と準備をしなければならない。
これから少しだけこの魔王城を空けなければならない。
あいつらに任せておいて大丈夫か心配だが、致し方ない。なんとかなるだろう。
一応、出掛ける事を書いた手紙だけは置いておこう。
ユース「最近、機嫌が良さそうですね」
リョーガ「そりゃそうやろ。やっとユートを見つけたんや。それに、後少しで…」
ユース「あと少し?」
リョーガ「ぶん殴れる!!」
ユース「……ユートさん。今すぐに逃げて下さい…」
リョーガ「変な電波飛ばすなや!」
ユース「ユートさんが可哀想です…」




