買われました
この一話で、ユート編 終わらせようと思ったのに、出来ませんでしたー
あと、何話続くでしょうか?
私の希望では、一話です。
ここはどこだろう?
などと分かりきった疑問を浮かべる気はない。ただ、俺はどこへ向かうのだろうか。と少しの不安を胸に抱えて空を見つめている。
今の気持ちを例えるならば、ドナドナされている気分だ。
俺の頭の中にその音楽が絶えず流れている。
視線を少し下に降ろせば、街中の風景が目に入る。人々が和気藹々と歩き回っている姿がある。何もかもが面倒くさく、嫌そうな顔をしている俺とは全くの正反対だ。
ガタンッと車体が揺れた。石にでも躓いたのだろう。
俺は、馬車に乗せられている。どうやら、この馬車には振動軽減装置が付けられているようで、揺れは控えめだ。それに加え、椅子はソファのようにふかふかで振動があっても尻は痛くならない。
「お主、聴いておるのか?」
「…んあ?」
呼び掛けられたから、正面に視線を向ける。
白い髭とハゲた頭が特徴的な七〇歳程の老人が対面に座っている。
この老人が俺を買った。あの、牢から連れ出した張本人だ。
「その様子だと聴いていないようじゃの…やはり店主の言う通りだったか…」
老人は俺に何かを期待していたみたいだけど、それは間違えている。俺に期待などするものじゃない。
「もう一度説明するぞ。次こそは最後まで聴くのじゃ」
「あ〜、うん。頑張る…です、わ?」
一応、敬語を頑張ってみる。だけど、俺は敬語を使う事が苦手だ。だから、変な言葉になってしまう。
老人だって困ったように目頭を押さえ始めている。
「…儂はお主の買主で”レイルム・シャンガル”と言う。今は、儂の家に向かっているが、最終的にお主は他の所に行く事になっている」
「うん。そこまで聴いてた…です、よ?」
同じ事を四回程聴かされている。
老人…いや、レイルムは溜息を吐いて話を続ける。
「儂の家であればその態度は許そう。だが、一月後に向かう家では、決して許されん。そこの所をシッカリと肝に命じて欲しい」
「ん、分かった。まぁ、頑張るって…デス」
ヘラヘラと笑って返事する。一応、頭の横隅には留めておくが、憶えているとは限らないから断言はできない。
「不安じゃ…」
そんなに不安になるのなら、なんで俺を買ったのだろう。と、疑問が湧き上がる。
まぁ、聞かなくても分かるけど。
店主とレイルムが話している内容を聴いていたからだ。
レイルムは頭が良くて戦闘もできる奴隷を求めていた。そして、俺があの奴隷商の中で一番だった。それだけが理由だ。
試しに紙に書かれた問題を解かされたが、その計算は全て暗算でできた。なにせ、足し算と引き算しかなかったから。考える事もなかった。
戦闘は他の奴隷と模擬戦を行う事だった。
勿論、俺は攻撃を一発も当たる事なく勝利を得た。
そして、俺は選ばれた。
レイルムが俺を買う際に「性格に問題が…」と店主が失礼な事を言ってきたのを今でも憶えている。
まぁ、そこまで気にしてないけど。
馬車が止まり、箱馬車の扉が御者の手によって開かれる。
始めにレイルムが降りて、次に俺が降りる。
そして、目に入ったのは、
「でっけぇ〜」
三階建ての大きな屋敷だ。学校が二つスッポリと収まるぐらいに大きい。それに、庭もある。野球とサッカーが同時で出来そうなほどの広さがある。
「そうじゃろ、そうじゃろ」
俺が呆気に取られる姿を見て嬉しそうにしているレイルムに少し腹が立つけど、決して顔には出さない。
「お主、一体何を考えておる…」
おろ?顔に出てたんかな?
「いやぁ、ちょっとこの辺り全部罠まみれにしたいなぁ〜って思っただけ…デス?」
ニコニコと笑いながら本音を暴露したら、レイルムは目頭を強く押さえて「ホントにやめてくれ…」と呟いた。
そんなに嫌がる事ないのに。ってか、俺的に楽しいと思うんだけどな。
それから、一言二言話し、レイルムが歩き出したので俺も歩き出す。
なんか隣で色々と話してるけど、そんな事よりも、芝生みたいな雑草だらけの庭に罠を仕掛けたくて仕方がない。
まぁ、人の目があるから今はしないけど。
広い庭を超え、屋敷に入る。そして、三階にある小さな部屋に連れてこられた。
小さな部屋と言っても、俺の感覚だと大きい方だ。だって12畳程の広さがあるもん。
「今日から一ヶ月間、ここがお主の部屋じゃ」
「えっ!?マジで!!」
レイルムは普通に言ったけど、俺は正直に驚いた。まさか、自分の部屋になるとは思ってなかった。
備え付けの机と椅子は綺麗だし、高価そうなタンスもある。ベットなんてこの世界に来て初めて見る大きさと清潔さだ。
驚きと喜びを混同させたような表現をしてたら、レイルムがとても重要そうな事を口にした。
「お主は奴隷じゃ。本当は馬小屋とか物置とかの方が良いのじゃが、今のお主は儂の客人になる。だから、この部屋は好きに使ってくれて構わない」
「水浴び場とか飯は?」
「水浴びは、儂の家に風呂があるからそこに入ると良い。トイレは各階にある。それから、食事は二階じゃ」
「そか。分かった…デスワ」
「はぁ…明日、お主にちゃんとした言葉を教えさせるのじゃ。儂に恥をかかせるんじゃないぞ」
最後に「食事の時間になったら呼びに来る」と言って何処かへと歩いて行った。
にしても、一ヶ月後に何処に行くんやろか?
俺の客人扱いと言い、一ヶ月後に何かあるのは間違いない。
たぶん、レイルムはその事も話していたのだろうが、俺は話を聞いていなかったから知らない。ちゃんとレイルムの話を聞いていれば良かった。と、今頃ながらに後悔した。
〜〜〜
レイルムが出て行ってから数時間後。
俺が何をしているのか。それは、身体のメンテナンス及び改築だ。
前々から考えはあったが、人目があって出来なかった。だが、今は違う。
レイルムから与えられた部屋をくまなくチェックして、覗き穴とか無い事を確認してから行なっている。勿論、常に周囲の気配を感じ取って、警戒をしている。
「これを、こうやって…」
膝にある関節の役割をこなす球体状の部品をボルトで固定し、その周りに赤、青、緑、黄、黒のホースを通す。
そして、最後に薄黒い特殊合金の鉄板でカバーをしてネジで止める。
「うしっ、中身は完璧や。後は…」
外部。人間の体で表現するならば、皮膚の部分。皮下組織と真皮と表皮だ。
表皮は身体の表面にある物で、水分の蒸発を防いだり、異物の混入を防いだりする。
真皮は表面の下にある物で、血管が通る場所。肌に弾力を与えるのに必要な所だ。
皮下組織は真皮と表皮を支える物だ。動脈やら静脈がある場所。
これらを貼り付けなければならない。
それも、リアルさを求める為に血管を通さなければならない。一番大変で、一番大事な事だ。
皮下組織に大動脈と静脈となる少し太めの管を埋め込み、真皮に細かい血管を通す。
これらがないと、肌の色がすぐに青白くなる。それに、温もりがなくて、触れると冷たい。
言ってしまえば、半身がゾンビになる。生きている人間には見えないのだ。
それらを一時間かけて終え、ようやく脚が完成した。
「終わったー」
身体を床に投げ出すように寝転ぶ。ずっと同じ体勢だったから、寝転ぶと溜まっていた疲れがスーッと抜けていく。
上半身は既に【ガレージ】に残っているネモに助けられながら終えており、身体のメンテナンスを全て終える事ができた。
次にする事は無い。わけがなく、まだまだ沢山ある。
ネモ達に〈無限収納〉が欲しいと言われているので、新たに考えた物を作らなければならないし、ストックしているツナギを破れないように改造しなければならない。
その他にも、常に頭に付けている高機能型ゴーグルと、首に掛けている高機能型マスクのメンテナンス及び、改造もしたい。
ちなみに、ゴーグルは大まかに耐水・耐塵・暗視・ロックオンシステム・倍率スコープなどと言った超多機能が含まれている。
同じくマスクも防毒・防塵・酸素ボンベなど、多種多様な場所で使用できる超多機能だ。
だが、なにぶん耐久性がない。
落としたり、ぶつけたりは大丈夫だけど、切られたり、ハンマーなどで殴られれば壊れる。
マスクは柔軟性を重視したけど、やはり、切られれば壊れる。
双方共に繊維を変える必要があるのだ。繊維を変えれば色々と問題が出てくる。だけど、俺は既にこの問題をクリアしている。
後は作るだけだ。
取り敢えず、マスクとゴーグルから始める事にする。
その二つを床に置き、〈無限収納〉から必要な物を出していく。
まずはマスクから。チマチマと新たな機能を付け加え、繊維を変質させる為に特殊な液体に浸す。
この後に、少し魔力を流してからカースドラゴンの血液を塗れば完成だ。
「っと、誰か来たみたいやな」
階段を上がってくる足音が聴こえた。
軽い足音だ。重心が片足に寄っており、足音が左右で異なっている。
「レイルム…じゃ、なさそうやな」
レイルムはもう少し重たい足音だ。
マスクを沈めた毒液に満たされている桶のような容器から扉へと視線を向けて音に集中する。
どこへ向かうのかを予測する為だ。
「あっ、やばい。こっちくるわ」
足音は迷わず俺の部屋に向かっている。
俺は慌てて窓を開けて毒に汚染された空気を新鮮な空気に入れ替えようとする。
が、絶対に間に合わない。
このままでは、入って来た人が死んでしまう。
急いで〈無限収納〉から無駄に作った空気清浄機と扇風機を取り出し、《送風》の魔法陣が描かれた紙を取り出し、全てを起動させて空気の入れ替えを進める。けど、それでも間に合わない。
だから、俺は最後の手段に出た。
バンッと部屋から飛び出して即座に扉を閉める。
軽く息を吸い、待機中に含まれている毒素を体内で確認し、害が及ばない程度しかない事にホッと息を吐く。
そして、視線を前方に、俺の部屋に向かっていた人へと向ける。
「………」
「………」
まず、目に入ったのは狐耳?いや、猫耳か。
茶色い髪質の頭に耳がピョコンと生えている。そして、ピコピコと動いている。
それから、視線を動かそうとした。が、出来ない。俺の目は猫耳に釘付けだ。
動く物に誘われるかのように、俺の手は緩やかに猫耳へと誘われ、触れる。
「んっ…」
プニッとした柔らかく温かい感触が両手から伝わる。これは、一生フニフニできる自信がある。なにせ、俺は大の動物好きだからだ。特に、ネコ科が好きだ。トラでも、ヒョウでも、ライオンでもアリだ。
「んあっ…」
この触り心地は最高の一言に尽きる。言葉に例える事ができない程に気持ちが高揚し、いっそのこと、耳を根元から引き千切ってお持ち帰りしたくなる。
けど、それは人道的に悪い行為だ。そう心では理解している。だから、なんとか理性を保ち、数秒間だけ耳の感触を堪能するだけにとどめた。
名残惜しく感じながら猫耳から手を離し、先程から悲鳴を噛み殺したような艶かしい声を発する者へと視線を向ける。
と、そこには、質素で可愛げのないメイド服を着た、俺のよりも細い首輪を付けたタレ目の少女が居た。身長は俺の肩ぐらい。年齢はたぶん、俺と同じぐらいか、それ以下だと思う。
猫耳少女がここに居る理由を少しの時間を要して考えた末、思い付いた事を尋ねる。
「……もしかしてやけど、呼びに来た?」
視線が勝手に猫耳少女の頭上でピクピクと動く耳に行ってしまうが、それは勘弁して欲しい。
「はい…」
返事をすると同時に俺の視線の先にある猫耳を両手で隠された。ついでに、猫耳少女の若干の怒りが篭った冷たい視線が突き刺さる。
「……なんか、ごめん」
小さく頭を下げて謝罪を口にしておく。
先程のあれは素直に俺が悪いと思ったし、猫耳を引き千切ろうかと邪な考えも抱いてしまったから、謝るべきだと判断した。
だけど、猫耳少女の反応は素っ気ないものだ。
「レイルム様がお待ちです。案内します」
謝る俺を最後まで見届けず、踵を返してさっさと歩いて行ってしまう。
耳って安易に触っちゃいけないものだったのかもしれない。
っと、言っても、動物大好きな俺が触るのをやめる筈がない。
これまで、猫に引っ搔かれようが、犬に噛まれようが、鹿に突進されようが、俺は一度たりとも諦めた事がない。
モフモフこそが正義!そう大声で胸を張って言える程に動物が好きだ。
だから、俺は触った。
前を歩く猫耳少女の耳に恐る恐る触ったのだ。
この後に何が来ようが俺は受けるつもりだ。例え、槍の雨が降ろうと、剣の針山に放り投げられようと、甘んじて受けよう。
けど、一切攻撃は仕掛けてこなかった。ついでに言うと、振り返ることすら無かった。少しビクッと肩を跳ね上げていただけだ。
これは、あれだ。無視だ。完全に俺の事を無視している。
耳をプニプニと揉んだり、撫で回したり、とマッサージをするかのように耳を弄る。
返ってくるのは、感情を押し殺した小さな声のみ。
まぁ、俺からすれば、この方が怪我せずに耳の感触を楽しめるから良いけど、やはり関西人として放置は面白くない。
だから、と言うわけではないが、なんとなく耳をパクっと咥えてみた。
to be continued...




