犯罪奴隷
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奴隷名簿.10674
名前:ユート
年齢:20
犯罪奴隷
罪状:兵士殺害
趣味:機械弄りと身体を動かす事
得意な事:身体を動かす事なら全て
苦手な事:頭を使う事。特に暗記
産まれ:不明。言葉遣いから東方だと思われる
計算と科学に強く、歴史などに疎い
珍しい職業を所持しており、レベルとステータスは低いものの、スキル三個と多く持ち、スキルレベルが一つ特出している
ステータス
種族:人種
職業:機械技師
レベル:28
HP:453/453
MP:316/316
STR:284
DEF:284
INT:502
DEX:426
AGI:227
[スキル]
【短剣術LV8】【体術LV3】【器用貧乏】
[魔法]
無し
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「ほほ〜う、これはこれは」
少しポッチャリとした膨よかな男性は細く吊り上がった瞳を手元の羊皮紙から目の前の牢に閉じ込められた少年へと向けられ、足先から頭の天辺までジックリと観察するかのように目を向ける。
少年の姿は、ハッキリ言って子供にしか見えない。まだ子供にしか見えない幼げな顔をしている。左眼は珍しい黒なのに対して、右眼は透き通る翡翠の色をしている。
黒だっただろう短めの髪は殆どが白くなり、黒い部分が少ししか残っていなく、それを丸い物が二つ着いたカチューシャのような物で留めてある。
首元には奴隷の首輪の上に何やらスカーフのようにも見える布を着け、首輪が見え辛くなっている。服装は、上下の界がない奇抜な黄色をしている。
「珍しい服装で、珍しい職業。それから、変わった喋り方。細身で高身長で、この顔で20歳か……君はこれまで何を生業にしていたのかな?」
視線を呑気に大きな欠伸をしている少年の黒い瞳に向けて優しい声音で問い掛ける。
「ふぁーあ…ん?俺?」
「そうだよ。これまで、君は何をしていたのかな?」
「せやなぁ〜。一応、冒険者してたけど、今は訳あって無職やな」
「その訳とは?」
「ん〜…」
男性の質問に少年は少しの間、思案顔をしてヘラヘラと笑い冗談めかして答えた。
「迷宮攻略してた」
「ほぅ」
少年の一言に男性は興味を示したが、少年のステータスだと迷宮攻略など出来やしない。どれだけスキルレベルが高かろうが、不可能だ。
男性は、子供の戯れ事を聞くかのように頷いてから質問を続ける。
「それで、その迷宮は攻略できたのかね?」
「一応な」
少年の言った『一応』に疑問を抱きながらも、最後の質問をする。
「迷宮の名は?」
「”封じられし迷宮”って所」
これまで何十年と奴隷商をしてきた男性には聞き覚えのない名前だ。やはり、少年の言っている事は戯言だと思い、話を終わらせて歩き去る。
新たな牢に移された彼ーーユートは背後へと倒れ込むかのように寝転び、天井を見上げる。
「はぁ〜あ、俺、何してるんやろ…」
周囲は全て鉄格子で囲われ、周りに居る人達と個々で別けられている。
一つ一つの牢にはご丁寧に鉄格子付きの窓があり、そこから冷たい風が吹き抜け、生暖かく息苦しい空気を一変させてくれる。
ベットは藁などでなく、骨組みが木で出来た普通のベットだ。背に当たる感覚が少し硬く、俺の好みである。
使う事がないトイレは壺などではなく、穴が掘られてあり、その上に蓋がされてある。所謂、ボットン便所だ。
前までの牢と比べれば、とても住み心地が良く、文句の一つも思い浮かばない。
首に付いている輪がなければの話だが。
「これ邪魔で寝にくいな〜」
首輪がベットに当たって寝にくいのだ。
ぶかぶかで、そのままスッポリと抜けそうに思ったけれど、上手い具合に抜けない。この絶妙感に少しばかり苛立ちを感じる。
苛立ちを胸の奥に押し込め、呆然と何もない天井を見つめる。
灯りは外から差し込む太陽の光だけだ。
もしかすると、その為に鉄格子付きの窓を備えているのかもしれない。けれど、そんな事を知った所で俺にとってはどうでもいい。
こんな場所、逃げようと思えば今すぐに逃げる事ができる。
鉄格子とか首輪も、抜けようと思えばできるし、外そうと思えばできる。
なにせ、鉄格子は建て付けが悪くて何本か簡単に抜けそうに見える。火で炙れば熱膨張により、簡単に抜けるだろう。
首輪は、着けられた時に中身を把握した。簡単な術式が内蔵されているだけだった。そんな物、俺には無意味だ。
逃走においても、ここまでに至る道は憶えた。大通りの脇にある路地も人が通っていた事を見るに、通れると判断した。どこに通じているのかは分からないが、可能だ。
後は街と外を遮る壁と門だが、そんな物、俺にとって無いと同等だ。壁はよじ登れる。門は強行突破すればいい。
逃走は不可能ではないのだ。だけど、俺はそれを決行しない。
理由は簡単。ただ、面倒だから。
もし逃げたりなどすれば、必ず追っ手が来るだろう。それに、逃げ切れたとしても、後々に面倒が降って来る。
それは途轍もなくめんど…。
「ぶぇっくしょん!!あぁ寒びぃ…」
俺がここを脱出した場合のメリット・デメリットを考える時間がクシャミによって遮られた。
他人に余り興味は抱かないが、ここは一つ一つが鉄格子によって遮られた場所で、この場に捕らわれている人の姿は嫌でも目に入る。
少し視線を隣に向け、クシャミをした人へと向けてみれば、毛布に包まってガタガタと震えているボロ雑巾のような薄い布を適当に切って作ったような服を着たガタイの良いオッサンが居た。
「ああ?俺に何か用か?」
少しチラッと見ただけなのに気が付かれた。
いつもこうだ。高校に通っていた時だって、すれ違った先輩をチラッと横目で見た時、偶然目が合い『何見とんねん!』と威嚇されながら言われた覚えがある。
要するに、物凄くタイミングが悪い。
まぁ、今回は前とは違い、普通に尋ねられただけだから良かったとしよう。
「良かったら、これ使う?」
オッサンを見た事に意味はないが、無視するのも悪く思い、俺が下敷きにしている毛布を取って鉄格子の向こう側にいるオッサンに渡してやると、喜んで受け取ってくれた。
「おおっ!良いのか!?」
受け取ってからそれを言うか。と思ったが、口にはしない。いつもみたいに笑うだけだ。
オッサンは行動と言葉が反対になっている事に気付いているのかは定かではない。
「ありがとな坊主!」
オッサンの首にも俺と同じような首輪が付けられている事から、オッサンも俺と同じ奴隷なのだろう。
それにしても、なぜそんな寒そうな格好をしているかが不思議でたまらない。
俺はツナギの中に服を何重にも着ているから寒くはないが、オッサンは見るからに寒そうだ。
なにせ、今の気温を感じるに、もう少しで冬に突入してそうな温度だからだ。
月で言うと十一月ぐらいが妥当だと思う。
何となく周囲を見渡してみると、全員がボロ雑巾のような薄い布を被せたかのような服を着せられ、身を縮こまらせて震えていた。ちなみに全員男性だ。
その中の数人は羨ましそうな視線を新たに手に入れた毛布に包まるオッサンに向けている。
彼等の気持ちは分からない事はない。俺も少し肌寒く思って、オッサンに毛布を渡した後に両手をポケットの中に入れている。
少しの間、暇を持て余して鉄格子付きの窓から空を見上げていた。そんな時、不意に不安が頭を横切った。
もしかして、俺も周りと同じような服着せられるんちゃうの?
それは、寒がりな俺にとって地獄だ。少しの間ならば我慢できるが、何時間も冷たい場所で居るなんて無理だ。耐えられない。
そう思えた刹那、俺は動き出した。
ポケットに存在する〈収納空間〉からメモ帳とシャーペンを取り出し、これから為す事をメモする。
取り敢えず、一番必要なのは、〈収納空間〉の複製だ。
【ガレージ】に置いた宝箱的な物と俺の服にしか着けていないコレは俺にとって必需品だ。
それを何処に設置するかが少し問題になるが、後で考えても問題はない。
次に、俺の皮膚だ。
一見俺は普通の人に見えるが、服に隠れて見えない部分の一部は皮膚がなく、中身が丸見えだ。
その為、また人工皮膚を作らなければならない。手と足だけで大変だったのに、追加で体の半分程を作らなければならなくなった。
最後にこの部屋全体を暖かくする事だ。
これは一番大切な事で、一番やらねばならない事だ。
それについては、魔法陣を幾つか描いておけば何とかなりそうだが、それが見つかると面倒だ。
何処か隠れる場所に描かなければならない。
「はぁ…」
メモ帳に記入した事を読み返し、これからそれらを為すと考えれば溜息が出てしまう。
だけど、やらなければならない。一つを除いていつかはやろうと思っていた事ばかりだ。
後回しにしていた面倒事が纏めてやってきた。
最悪だ。
「さてっと…やろか」
動きたくないと訴える怠け癖の付いた身体を動かしてベットから起き上がり行動を開始する。善は急げ、だ。
期日は、服が失くなるまで。
ユート「奴隷って、確か、人の所有物になって道具のように扱われる奴やんな?」
リョーガ「俺に聞くなや。俺が知ってるわけないやんけ」
ユース「そんな時は僕にお任せを」
リョーガ&ユート「「おぉー」」
ユース「奴隷とは、大体ユートさんの考えで合っています。普通の奴隷であれば、一応、衣・食・住は守られています。それに、頑張れば奴隷から元の生活に戻る事も可能です」
リョーガ「じゃあさ、ユートの犯罪奴隷ってのは?」
ユース「それは…人権など一切なく、物どころかゴミのように扱われます。衣・食・住が有れば幸せな方でしょう。そして、普通の奴隷とは違い、一生奴隷生活になってしまいます」
リョーガ「ブッハー!なんやそれ!オモロすぎやろ!」
ユート「笑い事じゃないんやけど?……泣きたい…」




