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初めての魔法


太陽が眩しいぐらいの明かりを降り注がせる。周囲の草は陽の光を浴びて気持ち良さそうに揺れ、心地よい温もりが肌寒さを無くしてくれる。


なのに、それを鬱陶しそうにしている人がここにはいる。


「じゃあ、昨日の夜に教えた通りやってみて」


「おうよ!」


元気よく返事をするリョーガだ。忌々しそうに太陽を睨み付けている。まるで太陽を潰してしまおうか。と考えていそうな極悪な表情をしている。


ただ、魔法を学ぶ事に関しては真剣なのか、表情はあれだが、真面目に取り組んでいるように見える。


まず、彼は全身に力を込め始める。


「ちっがーーう!!」


そして、ルミネの怒りの篭った言葉によって中断された。

リョーガは、止められた事に『俺、不愉快です』と言う表情を浮かべた。


「何が違うんよ?」


「だーかーらー!力は込めなくていいの!!何度言わせるのよ!!自然体でいいの!し、ぜ、ん、た、い!分かる!?自然体よ!!」


バッと両手を大きく広げるルミネ。着ているローブがバサッとはためき、薄い服を着た細っそりとした身体が見える。

おヘソが出ていて、リョーガの目が釘付けになったのは言うまでもない。


だが、視線を少し上げれば、平らな胸が視界に入る。


「はぁ…」


それを見たリョーガは、あからさまに残念そうにして視線を空に向けた。


「ちょっと!何よその反応!!」


ルミネは怒り心頭だ。杖を強く握りしめ、今にもリョーガに殴りかかるか、魔法を撃ち込みそうだ。


「まな板…」


ボソッとリョーガの口から溢れた言葉。刹那、プチンッと何かが切れる音が聞こえた。


「《我求める!恵たる水!激流なる水!千の群れを成す矢!全てを貫く矢!豪雨のように降り落ちれ!この屈辱を味あわせた我が敵を徹底的に撃ち滅ぼせ!》」


若干、詠唱に彼女の心が見え隠れしている。

近くで小休憩を取っていたユース達は彼女が詠唱を開始した瞬間にその場から退避した。だが、リョーガは突っ立ったま空を憂い表情で見上げている。

視線の先には、出来上がりつつある青い魔法陣。


「リョーガ!!」


「リョーガさん!」


「逃げろ!!」


先に逃げた彼等がリョーガが退避していない事に気が付き、声を上げる。が、時すでに遅し。


怒り心頭の胸平らの女性は呪文の最後のピースを嵌め込んだ。


「《サウザンドアロー!!》」


太陽の半分を覆い隠す程に大きな魔法陣が輝く。そして、雨のように降ってきた。矢が。


全てが水で構成された矢は、激流の如く激しく矢を形作りながら流れ、全てを切り裂く凶器と化して落ちてくる。

それを呆然と見つめるリョーガ。


「あ…」


矢がリョーガの目前まで達した時、リョーガの口から小さな呟きが漏れた。

刹那、ズドドドドッと千の矢が降り注いだ。


地面は抉れ、意気揚々と生えていた草は根こそぎ千切られ、極小のクレーターと化した地面に水が溜まっていく。


十数秒続いた殺意の塊である雨のように降り注ぐ矢は終わりを見せた。

土煙が舞い上がり、リョーガの姿は見えない。ただ、ユースを除き、彼等は思った。確実に死んだ、と。


ニアカントは顔に手を当てて「遂にやってしまった」と呟き、ハーマスは呆れて空を見上げた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


ルミネは、荒い息を吐きながら杖を地面に突き刺して体を預ける。魔力を大きく消費した代償だ。

そして、今更ながらに『やりすぎたかも…』と目の前の光景を見て思った。


怒りに身を任せたとは言え、彼女は死なない程度に威力を抑えたつもりだった。だが、まさに目の前に広がる光景は、抑えきれていない力の表れだ。


もしかして死んじゃったかも…。と不安に思いながら、いつでも治療の準備が出来るように回復薬やら薬草を取り出し始める。

が、その心配は無用だった。


一陣の風が吹き、砂埃を吹き飛ばす。そして、そこに現れたのは、どこから取り出したのか真っ黒の盾を持った無傷のリョーガの姿だった。


リョーガの周囲にだけ一切、魔法の傷跡は残っていない。残っているとすれば、彼が大雨に打たれたかのようにずぶ濡れな所だけだ。


「マジかよ…」


思わずニアカントは呟いた。

先程、ルミネが怒りに任せて放った魔法は中級魔法だ。彼女が持ち得る最強最大の攻撃である。それを盾一つで防ぎきったのだ。


そんな驚きと同時に、ニアカントは『胸の事を言われる度に毎度毎度、それを撃つなよ…』と彼女に言いたくてたまらなかったりする。


「はぁ…」


リョーガが無事な姿を見てルミネは安堵の溜息が漏らした。

彼女の攻撃を真っ向から防いだのはリョーガが初めてで驚いたが、それよりも安堵の方が大きかった。


なにせ、力が大幅に上がっていたのだから。


だが、今はそれどころではない。

濡れた髪が顔に掛かり、リョーガの表情は伺えない。だが、震えている。

プルプルと震えている。まるで、怒りを抑え込んでいるように小刻みに震えている。


リョーガが盾から手を離すと、盾は地面に一度跳ねてから黒い粒子と化して霧散した。


ヒューッと冷たい風が吹き抜ける。


「うえっくしょんっ!!」


恥じらいも何もない盛大なクシャミがリョーガの口から漏れた。

そして、両手を肩に回してガタガタと震え始めた。


リョーガからは怒りのオーラは感じられない。


「べっくしょんっ!ぬぁっくしょんっ!るらぁーっくしょん!…ズズズッ」


クシャミを三回連発し、鼻水を啜る。そして、空中に手をかざした。


やっぱり、怒っていたのではないか。何かされるのではないか。と不安に思う一同。だが、そんな事はなく、突然、手をかざした場所に真っ黒の鎧が現れた。


それを乱雑に掴み、装備するリョーガ。


要するに、彼は水に濡れて寒かったのだ。風が吹く度に体を震わせている。


何もされなかった事に安堵する一同は放っとき、リョーガは鎧姿で座り込み「さ、さむい…」とカタカタと鎧を鳴らしながら言った。



〜〜〜



時刻は、空が雲に覆われて真っ黒に染まった時間帯。


「リョーガ。もう知ってると思うが、ルミネはな、胸の事を言われるとマジギレするんだ」


「そうなんや。ズズッ」


今頃ながらニアカントは忠告をした。寒そうに震えているリョーガは鼻水を啜りながら返答し、クシャミをしそうに大口を開けてから、出なかったみたいで口を閉じた。

リョーガは、薄い毛布だが、それで全身を覆って少しでも体を温めようとしている。


「言うのを忘れていた俺達が悪い。すまなかった。これから気を付けてやってくれ」


「ぶぇっくしょんっ!!…ズズッ…あいよ」


鼻声で返事を返すリョーガ。風邪でも引いたのだろう。


ユースやルミネと言った方々は既に就寝しており、今日の見張りはニアカントとリョーガだ。


ニアカントは二日連続になるのだが、彼は平気そうだ。慣れているのだろう。


リョーガは、焚き火にモゾモゾと座ったまま近付く。そして、温もりをくれる火に手をかざしながら呟く。


「我求める、恵たる水、激流なる水、千の群れを成す矢、全てを貫く矢、豪雨のように降り落ちれ、この屈辱を味あわせた我が敵を徹底的に撃ち滅ぼせ、サウザンドアロー…か」


「ルミネの詠唱か?よくあの一回で憶えたな」


リョーガの記憶力に、ニアカントは思わず感嘆の声を漏らした。


「ズズッ、憶えとかな魔法使われへんやんけ」


リョーガは『当たり前やろ』とでも言いたげな視線をニアカントに向けた。


だが、その詠唱で使えるかどうかは話が別だ。なにせ、魔法の詠唱は個人によって異なるからだ。

ニアカントも少しは魔法を齧っている。だから、詠唱を覚えた所で魔法が使えるかと聞かれれば、否と答えるだろう。


そんな時、ニアカントはふと思った。普通の冒険者に尋ねようものなら、即座に喧嘩に発展するような事だ。だが、リョーガは普通の冒険者ではない。

僅かなあいだ思考し、思い切って聞いてみることにした。


「……ところでリョーガ。リョーガの使える魔法ってなんだ?」


「あ?」


「いや、言いたくなかったら言わなくてもいいんだぞ」


なにせ、人にステータスの内容を尋ねる事はご法度だからだ。

喧嘩の発端であり、問題の始まりでもある。

だから、聞くか聞かないか迷っていた。


だが、リョーガは気にしたような素振りもなく言った。


「ズズズッ、黒魔法や」


「黒魔法?そんな魔法あったか?」


「俺に聞くなや。魔法なんてド素人で全く分からんねんから」


「そうだったな…。明日、ルミネに聞いてみるとするか」


ニアカントは一度周囲を見渡してから、ルミネの寝るテントへと視線を向けた。

つられてリョーガも向けてニヤリと悪そうな顔を作った。いや、訂正しよう。凶悪な顔をより一層、凶悪に変化させて言った。


「夜這い?」


「んなっ!?そ、そんな訳ないだろ!!」


動揺を露わに否定するニアカントを見て、ワザとらしくヤレヤレと首を振るリョーガ。


「だから違うって言ってるだろ!そ、そんな事より、ちゃんと見張りしろ!」


「カントもな」


ニッヒッヒと悪そうな顔で笑うリョーガ。凶悪な面が際立つ。

ちなみに、カントとはニアカントの事だ。名前を呼ぶのを面倒臭がったリョーガが勝手に短くしたのだ。


「はぁ…」


小さな溜息を吐くニアカント。そこからは、安堵の他に疲れのような思いが感じ取れた。


「俺、いつになったら魔法使えるんやろなぁ〜」


焚き火に照らされていない場所は真っ暗闇だ。そんな何も見えない草原をボケェ〜と眺めながら、誰に話しかけるでもなく呟いた。


彼等と出会ってから一週間。毎日魔法の練習をしていたのにも関わらずコツすら掴めていない。もしかすると使えないかもしれない。と、不安が膨れ上がり続け、未だ使えぬ魔法に憧れ、渇望する。


新たな力に想いを馳せながら、彼は遠い目で月を覆い隠す大きな曇を見上げるのだった。


リョーガ「まず、魔法ってなんなん?」

ルミネ「難しい質問ね…魔法はね、体内にあるオドと私達の周りにあるマナを使って生み出される力よ」

リョーガ「ほなさ、魔法ってどうやって使うん?」

ルミネ「それは、詠唱が必要なの。オドを声に乗せて詠唱するの」

リョーガ「おん。それで?」

ルミネ「オドがマナと結び付いて、成功すれば魔法陣が発現する。そして、最後に魔法名を唱えれば…」

リョーガ「詠唱は終了で、魔法が出るってわけか」

ルミネ「そういうことになるね」

リョーガ「成る程。とりま、これだけは分かったで」

ルミネ「?」

リョーガ「話聞いてたら、眠なってくるわ」

ルミネ「はぁ…」




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