村の壁
昨日、書くのも忘れ、投稿するのも忘れ、寝てしまってました。
ユートの話はあと一話で区切ります。
森を進み続ける事、数分で村に到着したユートとエミル。
簡素な木の板の壁で囲われた小さな村だ。
一部の壁が破壊されているのは、エミルが話した盗賊の仕業だろう。
村の人達が頑張って補修作業をしている。だが、そこには大人の男性の姿はなく、女子供がせっせと働いている。
「………」
エミルはそれを見て、またもや悲しそうな顔をした。
ユートは、そんなエミルの頭をグジグジと手荒に撫でる。
「そんな顔せんでも、俺がなんとかしたるがな」
なぜ撫でられたのか分からないエミルは、頭に両手を置きながらユートへと視線を向ける。
改めて、ユートを見るエミル。
真っ白な髪を見た事もない変なカチューシャで留め、首にスカーフのような黒い布を掛け、ズボンと服が一緒になった不思議な服を着ている。
身長はエミルよりも頭一つと少し高く、思ったよりも高身長だ。
「何してるん?早よ行くで」
呆然としているエミルを置いてユートはさっさと歩いて行ってしまう。
早く村の中を見たくて仕方がないのだ。
〜〜〜
家々は木造で、ほのぼのとした雰囲気の村。だが、今は嵐が去った後みたいに、家の扉や壁などは破壊され、燃えてしまったものまである。
ユートの歩く地面には、所々に乾いた血がこべりついており、不快な臭いを漂わせる。
「なんて言うか…悲惨やな」
彼の口から出るのは村の中に入った感想だ。
一つとして無事な家はない。必ず、どこか壊れているのだ。
人通りも少なく、路上に壁に使っているのだろう木の板が山積みにされ、手押し車などが幾つか置かれている。
「こっちよ」
盗賊の来た時を思い出して悲しそうな顔をするエミルは道の知らないユートの前に出て、先導する。
そして、辿り着いたのは、損傷は大きいが、大きな家だ。
ここに着くまで、ユートには何処に案内されているのかサッパリ分からなかったが、この家の近くに来た時に理解できた。
「ここ、村長の家なの」
そう言いながら、扉がない開放的な家に入って行く。続いて、ユートも中に入る。
家に入ってすぐに肌にピッタリと張り付くマスクを着けるユート。理由は、周囲から漂う臭が酷いからだ。ちなみに、このマスクは防塵やガスマスクにもなる。
血の臭いもそこに含まれている。が、彼は血の匂いは気にしない。彼がマスクを着けた理由は、糞や尿の臭いが猛烈だったからだ。
家に入る前から彼は気が付いていた。彼の耳はシッカリと捉えていたのだ。人が発する苦しそうな呻き声を。
村に入ってすぐに連れて来られるとは思っていなかったユートだが、助けると言ったからには、助けてやらなければならない。と使命感を胸に抱えて足を進める。
〜〜〜
窓から見える外の景色が赤みを帯びて来た頃。ユートは最後の患者を治療し終えた。
「背中切られた割に、案外浅くて楽やったわ。もう少し深かったら全身動かへんようになってたで」
「おう…ありがとうな、ボウズ」
ベットにうつ伏せで寝転ぶ三十歳ぐらいの男性がユートの方へと顔を向けながら礼を言った。
彼の怪我した場所にはユート特製の治療用三号君ーー包帯が巻かれている。
ユートは、笑いながらゴーグルを外して言う。ちなみに、未だにマスクは外されていない。
「ははは、ボウズって歳ちゃうよ。これでも二十やねんで」
「そうなのか。てっきり、一五かそこらかと思ったぞ」
「おっちゃん、冗談キツイわ。俺はそんなに若くないで」
あははっ、と笑いながら返答するユート。男性もガハハッと豪快に笑っている。
初めて会ったとは思えない程に仲が良く見える。
「一応、明日には動けると思うけど、あんまし無茶な動きしたらアカンで。そん時になったら治ってると思うけど、もしかしたら傷口がパックリと開くかもせぇへんからな」
「ああ、分かった」
男性の返事を聴いて、満足そうに頷いてからユートはこの家を後にする。
「す、凄いね…。まさか、あんな短時間で治すなんて…」
治療中もずっと側に居たエミルがユートの手際に感嘆した声を漏らした。
「いやいや。凄いんは魔法っちゅう代物やで。ちょちょいと応急処置したら、後はなんでも魔法で解決するからな」
「でも、凄いよ。何十人も居たのに、全員治しちゃうもん」
尊敬を宿した眼差しでユートを見上げる。と、そんな時、ユートの言葉に違和感を覚えた。
「…あれ?ユートって魔法使えるの?」
治療中、ユートが魔法を使っている姿を見ていないのだ。傷口を焼いたり、切り取ったりなどしていたのは見ていたが、魔法を使っている姿を一度も見ていない。
「一応使えるで。けど、今回は魔法陣しか使ってないな」
そう言いながら、ポケットから取り出したのは、治療後に必ず出していた包帯だ。
「これ、エミルも使ったやろ?」
「うん」
「これの裏に魔法陣描いてんねん」
包帯の裏側をエミルに見せる。そこには、隙間なくビッシリと描かれた魔法陣があった。異なる色で魔法陣の上に何重にも描いている。
ジッと眺めていたら、目が回りそうな程だ。思わずエミルの口から「す、すごい…」と、言葉が漏れ出す。
「そりゃ、最後まで描ききるのに二時間は掛かったからな」
あはははは、と笑いながら包帯をエミルに渡す。
エミルはユートの言葉に唖然としながら包帯を受け取り、次の言葉で驚愕した。
「それ、あげるわ」
「えっ!?で、でも!」
二時間も掛けて描き記した魔法陣だ。苦労しなかったわけない。なのに、ユートはアッサリと、まるで、要らなくなった物をあげるかのように言った。
「別にええねん。特に理由ないけど、記念にとっとき。エミルが使ったやつでもあるんやし」
実は、洗ってから除菌するのが面倒だったからなのだが、エミルの反応を見てからではとても言い辛かった。
ユートは言い終えると同時にエミルに背を向けてさっさと歩き去ってしまう。
そんな彼の背中からは、返そうとしても受け取らへんからな。と言う意図がエミルには読み取れた。
「……ありがとう」
包帯を胸に抱き、何処かへと歩いていくユートの背中へ感謝の言葉を投げ掛ける。
その後、ユートは村の中だと言うのに道に迷い、エミルを探して歩き回っていた。
〜〜〜
次の日の朝。
窓から射し込む陽射しに起こされたエミルは周囲を見渡した。彼女の部屋で間違いない。
両手へと視線を落とし、見つめる。
まるで、昨日起きた事が夢だったかのように思えたのだ。
だが、手にはバッファボアに追われた時に負った切り傷が残っている。女の子の手には似合わないマメもできている。
ゆっくりと身体を起こしてリビングへと足を運ぶ。そして、リビングから漏れる和気藹々とした声に自然と笑みが溢れた。
歩く足を早め、リビングへと繋がる扉を開き、両手を広げて飛び出す。
「パパッ!」
彼女の父の胸へと。
「おおっと!」
父親は笑顔でエミルを受け止めてから、少し持ち上げて地面に下ろし、頭を優しく撫でる。
「昨日はありがとうなエミル」
「うんっ!」
返事一つ、ギュッと父親の腹回りを抱き締めるエミル。失った筈の腕も元通りになり、完全復活を遂げた父親。それが嬉しすぎて涙まで溢れ出す。
「あらあら」
エミルの母親は、仲睦まじい親子の光景を柔和な笑みを浮かべながら見つめる。
「そう言えば、あの医者はどこにいるんだ?会って直接お礼を言いたいんだが」
父親が周囲を見渡しながら医者だと思われているユートの存在を尋ねる。言われて初めてエミルはユートを家まで案内していない事に気が付いた。
村長の家の前で別れて、それっきりだ。
「…さ、探してくる!」
自分のミスで助けてくれた恩人を野宿させてしまった。その考えに至るまでそこまで時間を要しなかった。
すぐさま何も持たずに家を飛び出すエミル。ユートが何処にいるかなど、全く分からない。だけど、会って謝らなければならない。とエミルは思った。
そして、家を飛び出してから一歩踏み出した時、目の前の光景に驚きを隠せず足を止めて口をあんぐりと広げた。
続いてエミルの父親が自分も探そうと思って外に足を踏み出し、その光景に目を疑った。
「か、壁が…」
「壁だ…」
二人はその光景を前に、そんな言葉しか出てこなかった。
目の前に広がる家々。それらよりも高くにある壁。それは、木の板を貼り付けて作られた簡素なものだった。
何処の街や村に行っても、せいぜい石のブロックを積み上げたような壁や、この村みたいに木の板で壁を作っている。なのに、目の前にある物は全く違った。
水汲みに出た女性。寝起きに大欠伸している老人。身体が直ったばかりなのに桑を持って畑仕事に行こうとする男性。それを止めようとする女性。誰もが口を開けて唖然とした。
なにせ、昨日まで木の板の壁だったのに、翌日になってみれば全く違う、鋼鉄の壁になっていたのだから。
唯一、無邪気な心を持った子供達だけが、わーわーと楽しそうに壁の方向へと走って行った。
道に積み重ねて置かれていた木材は綺麗さっぱり失くなり、代わりに鉄板やハンマーなどの道具が置かれ、木で出来ていた手押し車は、まるで馬の居ない馬車のような箱に変身していた。
ヒューッと最近冷たくなりつつある冷風が彼等の服を小さく揺らす。
エミルは未だに夢の中にいるのではないか。と、頬を抓る。
「痛い…」
痛みはある。今、まさに、この光景が現実のものだと痛みによって教えられた。
「す、すげぇ…」
エミルの父は呆然としながら言葉を口にした。余りにも驚きすぎて簡単な言葉しか出てこなかった。
リョーガ「なぁ、あの壁さ、どうやって作ったん?」
ユート「ん?そんなん決まってるやんか。科学と魔法を駆使して組み立てたんやんか」
リョーガ「組み立てた?」
ユート「そそ。元から材料はあってんよ。それを組み立てただけ」
リョーガ「なんでそんなん持ってたんよ?」
ユート「いや、なんかの役に立つかな〜って思ってさ」
リョーガ「いや、どう考えても使わんやろ」
ユート「いやいや、案外使うで。だって、棒はハシゴの代わりになるし、鉄板はお好み焼き焼けるからな」
リョーガ「……ちょっと待て。使い所おかしないか?俺、てっきり、戦いに使うもんや思ったんやけど」
ユート「そんな物騒なもんに使うより、食いモンとかに使った方がええやんか」
リョーガ「そか…」




