冒険者達
とある森の中。溢れ陽が葉と葉の間から差し込み、乾いた地面を照らす。そこから少し逸れた鬱蒼と生い茂る草木の中、少女が一人、花を引っこ抜いては捨てている。傍から見れば、落ち込んで花を引っこ抜いているようにしか見えない。
表情は浮かなく、何かを思い詰めているかのように一生懸命。それが拍車をかける。
だが、少女は意味があって花を抜いている。
一つの花を抜いて球根を確認する。
「あった!」
暗い表情を少し明るくして、肩掛けポーチに花を丸ごと入れる。少女が探しているのは俗に薬草と呼ばれる物だ。
ただ、初心者だと薬草の見分け方る方法は、球根を見ないとできない。
始めて見つける事ができた事に口を綻ばせ、またもや薬草探しを再開させる。
危険だから入ってはいけない。と注意を受けていた森の深くへと薬草を探す為に入っていく。
ーーー
草原を歩くリョーガ達。左手に小さな川が流れている。それを辿るように彼等は歩いている。
「おっ、ユース。誰かおるで」
リョーガは、川を越えた方向を指差す。ユースは深いクマを作った瞳を言われた方向へと向ける。
そこには、一台の馬車と、その周囲を囲むように護衛する冒険者の姿がある。
「あれって馬やんな?めっちゃデカイやん」
「そんなものですよ…」
襲い来る眠気を我慢しながらリョーガの問いに答えるユース。
「そういやさ、俺らってあいつらみたいに防具着けてないな。俺には黒騎士の鎧があるけど、ユースは無くない?」
リョーガの言う通り、ユースの服装は村人風だ。腰に短剣を携えているだけだ。
それでゴブリンの群れを倒すのだから、彼がどれだけ強くなったかがハッキリと分かる。
「そうですね…」
ユースはリョーガの話が半分も耳に入っていないみたいだ。それも当然だろう。つい先日三時間ほど寝ただけで、それ以外はずっと寝ていないのだから。リョーガの所為で、ずっと見張り役をやらされていたのだ。
「おっ、魔物や」
馬車の近くで、魔物が地面から飛び出した。植物系の魔物だ。大きさは、人よりも少し小さい。
冒険者達は息の合った動きで武器を抜き、たった一匹の魔物に全力で応戦している。
「おぉー、魔法や!魔法使っとるで!ちょい!ユースも見ろよ!あいつら魔法使っとんで!」
「そうですか…」
冒険者の一人が魔法を放った事で、リョーガのテンションは上がり、虚ろな瞳のユースの肩をバシバシと叩く。
ユースは、叩かれて痛そうにしているが、それよりも眠気と戦うのに必死のようだ。
剣を持った冒険者が魔物を袈裟切りして、戦闘は終えた。
各々武器を仕舞って、馬車の動きに合わせて歩き出す。
冒険者達の中、弓を持った人がリョーガ達に気が付き、小さく手を挙げた。
リョーガは、それに対して大きく手を振って返した。
弓の人はリョーガの反応に苦笑いだ。
「ちょいユース。俺さ、行って来るわ」
「そうですか…えっ?」
パッと目を見開き、リョーガが居た場所を確認する。が、そこにはリョーガの姿はない。
まさかっ、そう思って視線を川向こうへと向けると、物凄い速さで駆けていくリョーガの姿が。
「嘘でしょ…」
冒険者の中には暗黙の了解がある。
それは、争いを避ける為に戦闘中に横槍を入れたりしない。だったりするが、その他に、旅をする中、いらぬ警戒などを与えない為になるべく接触を避ける。などもある。
そして、今、リョーガは冒険者達の方へと駆けている。それも、人だとは思えない脚力で。
当然、冒険者達の反応は決まっている。
ギョッとした表情の後、武器を取り出してリョーガに対して警戒し始めた。
武装も何もしていないリョーガだが、それに対して、そして、旅に荷物一つ持っていないのは、明らかにおかしい。
彼等が警戒するのも当たり前だ。
溜息を一つ吐いたユースは、急いでリョーガの後を追う。大きなナップザックを背負い、眠気に襲われ、足取りはとても不安定でリョーガに追いつくのは不可能だ。
だけど、これ以上の厄介ごとを受け入れる自信のないユースは冒険者達への謝罪の言葉を考えながら走る。
警戒して各々の武器を構え、いつでも戦闘ができるように構える冒険者達の前に辿り着いたリョーガは、足を棒のようにして、地面を抉りながら急停止する。そして、杖を携えたローブを着た冒険者を指差して言った。
「俺に魔法を教えろください!」
敬語を使おうとしたのか、はたまた言い終えてから気が付いたのか、無茶苦茶な言葉が彼の口から出た。
冒険者達はポカーンと口を半開きにさせた後、苦笑いを浮かべた。
「…だそうだぞ、ルミネ」
魔物にトドメを刺した冒険者は剣を下ろしながら答えた。
ルミネと呼ばれた女性冒険者は杖をゆっくりと下ろしながら、余りにも予想外の展開に困ったような表情を浮かべて頷く。
「うん。聴こえてた…」
彼等にいらぬ警戒を与えた来訪者のリョーガは仁王立ちで返答を待っている。
それを視界に納め、質問を投げかける。
「…あなたは?」
「リョーガや!」
「旅人?それとも冒険者?」
「冒険者!」
「魔法は使えるの?」
「使えん!けど、ステータスにある!」
「……分かった。いいよ。教えてあげる」
幾つかの質問に迷いなく即答したリョーガ。その気迫に少しばかり押されるルミネだったが、一番聞きたい事が聴けた為、魔法を教える事を了承した。
「リョーガさ〜ん、は、速すぎですぅ…」
遅れて来たユースに一瞬だけ警戒を見せた冒険者達。が、それはリョーガの名を聴いて安心し、武器を収めた。
「で、お前さん達は冒険者って話だが、本当にそうなのか?」
ユースがリョーガの側まで辿り着いてから、剣の冒険者が訝しみながら尋ねた。視線は、ユースの短剣に向けられてから、リョーガとユースの服装を見て、他の武器を探すように彷徨わせている。
「せやで。俺はCランクで、こいつ…ユースはDランクや」
リョーガの言葉に、目を見開き、えっ!?嘘!?と言う驚きの表情を浮かべる冒険者達。御者の人も驚きながら顔を覗かせている。
「……武器は?」
訝しむ視線をリョーガの瞳に向けて尋ねる。それが本当かを確かめる為だ。
彼等の予想では、武器を落としたや、盗られたなどの不幸な事故を想像した。が、それは全く違う。
「これや」
リョーガは握り拳を作って突き出した。言外に、拳こそが武器や。と言っているのだ。
魔物に拳で挑む。そんな話は聞いた事がない冒険者達は自分の耳を疑った。
「それが武器だって…ぷふっ」
弓を背に携えた男性冒険者は吹き出した。それにリョーガの鋭い視線が突き刺さり、ビクッとしてから、周囲を見渡し始めた。
「嘘…では無さそうだな…」
リョーガの鋭い視線を味わった訳ではないのに、ゾワワッと背筋に鳥肌が立った冒険者達。
「とりまさ、はよ魔法教えてや。どうやっても使えんねん」
珍しくリョーガの睨みつけるような瞳が緩まった。これ以上の警戒心を与えない為だろう。
「いいよ。けど、歩きながらでいい?」
「おうよ!」
ルミネの言葉に元気よく返事を返すリョーガ。
だが、その前に何かに気が付いた剣の冒険者が呼び止めた。
「ちょっ、こいつはどうするんだ?今にも倒れそうだぞ」
彼の視線の先には、フラフラとリョーガの後を追うユースの姿がある。
半分意識が失くなり、無意識的にリョーガの後を追っているみたいだ。
「大丈夫やろ。放っといたら、勝手に付いてくるって」
何と無責任な言葉だろう。
大荷物を一人で抱え、目の下に深いクマを作り、それでもなお、リョーガの後を追うユース。なんと健気で、可哀想なのだろう。
さすがの剣の冒険者もユースを哀れに思った。
「これは…うん。少し待ってろよ」
ユースの耳には届いていないだろうが、安心させるかのように肩をトンと叩いて御者席まで走って向かい、何やら一言二言話してから戻ってきた。
「よしっ、こいつを荷台まで運ぶのを手伝ってくれ」
リョーガに視線を向けて言う。それに対し、リョーガは面倒くさそうな顔をしてから「よっ」と軽い言葉でユースを肩に担いで軽々と運んだ。
「凄い力だな…」
ユース一人であれば、剣の冒険者だけでも運べたかもしれない。だけど、ユースの抱える荷物は大荷物だ。その為、運ぶのを頼んだのだが、まさかリョーガ一人で簡単に運べるとは思えなかった。
荷台まで運ばれたユースは、一瞬もしない内に夢の世界へと旅立った。
それだけ眠たかったのだろう。そして、それだけリョーガが鬼畜だったのだろう。
「よ、よしっ、それじゃあ、出発だ」
剣の冒険者が声を上げ、御者は鞭を振るう。馬が歩き出し、それに引っ張られる馬車も動き出す。
それに合わせて冒険者達も馬車を囲うように歩き始める。
リョーガは勿論、ルミネの側を歩いている。視線をルミネの胸に落としてから、残念そうに空へと向けているのは、彼女の胸がまな板だったからではないだろう。
リリィ「私の出番、ないね…」
リョーガ「つか、お前どこ行ってん?」
リリィ「えっ…えーっと、遠く?」
リョーガ「遠くじゃ分からんやん」
リリィ「と、兎に角、遠くよ!」
リョーガ「ふーん」
リリィ「何よ。何か不満でもあるわけ?」
リョーガ「あるに決まってるやんけ」
ユート「はい。喧嘩はしないでね。俺が全部教えたるから」
リョーガ「は?なんでお前が出てくんの?」
リリィ「ちょっ!なんで知ってる風な口振りなのよ!」
ユート「まぁ、まぁ、あのな、リリィはなーー」
リリィ「あああぁっ!!言っちゃダメ!!」
リョーガ「なんやねん。最後まで聞かせろや」
リリィ「むぐっ!んー!んー!」
リョーガ「ほら、言えや」
ユート「おん。リリィはな、今、王都におんねん」
リョーガ「俺の目的地やん」
ユート「だから、教えたったんやんか」
リリィ「ぷはっ!なんで言うのよ!」
ユート「面白そうやったから」




