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クレイジー・アクセル 【略:クレアク】  作者: 九九 零@異世界モノ大好物
第1章〜どうやら、異世界に迷い込んだらしい〜
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出発

友人から風邪を移されました。


始めに引いていたのは喉からの風邪。

今は頭からと鼻からです。


三つの風邪が合わさった時、私は仕事でハッスルして倒れました。

今は家で療養中です。

数日間、休みを貰えました。

そう言う事なので、大人しく家で寝ときます。


ちなみに、インフルエンザにも掛かってました。


最悪ですね。


辺り一面に広がる青い青い草。地平線まで続く草原。

青空で優雅に浮かぶ御天道様が彼等を優しく温めて見守る。


「とりあえず、今の状況整理するで」


二人は先程まで寝ていた。そして、起きたばっかりである。その証拠に向野の髪は跳ね上がっている。上田の髪型は何も変わっていないが、目が半開きだ。


「……ん」


「まず、泡が出た」


「…ん」


「んでから、ここに来た」


「せやな〜」


上田が空を眺めて現実逃避をしている。それを見て『ダメだこりゃ…』と思い、溜息を吐きく向野。


二人がこの場所に来た時は、それはもう物凄く焦っていた。

焦りすぎて、向野は発狂しながらバイクで走り回り、上田は夢か何かだと言い始めて変な踊りをしていた。

それが昨夜の話だ。


兎に角、上の空な状態の上田を正気に戻す為、考え始める。

そして、思い付いた。


「乳首ちくび抓つねるぞ」


「っ!?」


向野の発言で正気に戻った上田。目にも留まらぬ速度で向野から距離を取った。その速さは危険を察知したゴキブリ並だ。

取り敢えず、これで話が通じる状態になった。だけども、上田は警戒している為、向野から距離を取ったままだ。


「もう一回、状況確認すんで」


「それ、さっき聞いた」


『聴いてたんかよ!?』と心の中で上田にツッコミを入れる向野。

そんな向野の思いを他所に、上田はポーチから絶対に炭酸が抜けてるのが分かるぐらいに膨れた薄緑のジュースを取り出した。

開けるとプシュッーーと炭酸が抜けていく音が鳴るが、上田は気にせずに残りを全て飲み干す。


そして、空になったペットボトルを近くに置き、ポーチから小型のスピーカーを取り出してアニソンを聴き始めた。Bluetoothでスマホに繋ぐ物だ。

一曲終え、次の曲が流れ始めた時、上田が何かを思い出したかのように言う。


「あ、せやせや」


「あ?」


「とりま、持ちもん出してこや」


「なんでよ?」


「いざという時に使えるもんがあるかの確認や」


先程、残っていたジュースを一人で飲み干していた事を思い出す向野。一体、どの口が言うのか。


「………わかった」


けれど、上田は変な所で真面目だ。抜けている所もあり、先程の件は普通に彼は忘れていたりする。例え、貴重な飲み物を飲み干した事だとしても。


半端呆れながらも返答した向野。


そして、二人は持ち物を出していく。向野がポケットから取り出した持ち物は、携帯(スマホ)、タバコ二箱、ライター、財布、ドロドロに溶けたチョコレートだ。


上田が出したのは、携帯(スマホ)、タバコ1カートン、ライター二本、割り箸三本と半分、財布、ビニールテープ、+ドライバーやナイフや爪切りなどが付いたマルチツール、ソーラー付き蓄電器、携帯とスピーカーの充電コード合わせて二本、そして、地面に置かれて音楽を流しているスピーカー。


小さなポーチによくこれだけの物を入れたな。とツッコミを入れたくなる程にギュウギュウ詰めにされていた。


「食いもんねーな」


上田の荷物の中には一切食べれる物がない。それどころか、二人共飲み物すら持っていない。一応、向野はチョコレートを持っている。小さな小包に包装されたビー玉サイズのドロドロに溶けたチョコレートだ。それが一つだけ。


そもそも、こんな事になるなんて彼等は想像もしなかった。だから、邪魔になる物は極力持ち歩かない主義の二人ーーいや、上田は兎も角、向野は持ち合わせてなどいない。


ちなみに、上田は便利そうな物などを適当にポーチに詰め込んでいるだけだ。


「せやな。どないする?俺、帰り方知らんで」


上田は両手を広げて背中から地面にダイブしながら言った。

陽当たりは良く、気持ちよく二度寝ができそうな天気である。


「俺もや」


向野も仰向けになりながら答える。


「「………」」


言ってみれば、彼等は何処かも知れない場所に迷い込んだのだ。右も左も分からない場所な為、安易に動く訳にもいかず、この場で黙り込んだまま各自の行動を取り始めた。


上田は携帯(スマホ)を弄り、向野は溶けたチョコレートを口に入れてからタバコを吸い始めた。


上田の携帯に表示されているのは、圏外の文字と、今の時刻。

午後一時。太陽の動きと同じ時刻だ。


「昼飯食ってないから、腹減ったわ」


画面の上部に記載されている時間を確認した上田は独り言を呟いた。画面には、これまで撮った写真などが表示されている。おおよそ、写真を整理しながら過去を思い浮かべているのだろう。


向野はタバコを咥えながら小型スピーカーを使ってV系の音楽を聞いている。

そんな向野の方へゴロンと寝返りを打ち、顔を向けて上田は一つの提案を出した。


「コンビニ探そや」


「あるわけないやん」


だが、速攻で否定された。

少しガッカリして「やんな……」と言葉をこぼす上田。向野はそれを無言で聞き流す。


「なら、走りに行かへん?ついでにここの位置とか、電波とか探すためにさ」


また新たな提案を出す上田。ここにずっと止まっているのが嫌になったのだ。それと、喉が渇いたのだ。

上田の提案に少し迷った向野は「電波は無いと思うけど、ええで」と言って立ち上がる。


「ほら、お前が言うたんやから、早よ立てや」


向野はすぐに立ち上がったのに、言い出しっぺの上田は未だにゴロゴロしている。動く気がないのが態度に現れている。


「えー、もう少し「行くで」…はいよ」


もう少し休憩してから行こう。と言おうとしたが、向野に睨み付けられて行動に移り始める。


バイクに跨りエンジンを掛ける。遅れて向野もエンジンを掛ける。

向野はエンジンを掛けると同時にアクセルを開け、後輪(リヤタイヤ)を空滑りさせてから、物凄い速度で上田を置いて草原を一直線に走り去っていった。

遅れて上田は焦らず、ゆっくりと発進し始めた。


彼等の乗るバイクは明らかに種類が違う。向野はオンロードタイプで、上田はオフロードタイプだ。速さで言えば向野の方が圧倒的に速い。

そして、現在、上田は向野に置いてけぼりを食らっている。だが、焦ったりはしない。

なぜなら、二人共『とりあえず直進』と示し合わせたかの様な考えしか持っていないからだ。


ちなみに、向野の直進している理由は曲がるときに絶対滑って転けるからである。なにせ、地面は湿った草しかない。


それとは違い、上田の場合、遊び場として最適な場所である。小さな盛り上がりなどでジャンプして数々のトリックを決めている。かなり器用である。


草原を2時間程走り続けた上田。

先に見えたのは、森である。

草原が途中でプッツリ切られたかのように終わり、大きな木ばかりが生えている鬱蒼(うっそう)とした森が広がっている。


その手前に向野のバイクが止まっているのが遠目ながらに見えた。辺りが緑で、そこだけ太陽の光で黒光りしていたから分かりやすかったのだ。


その近くに向野らしき影と、もう一人向野よりも顔一つ分小さな身長の誰かがいる。上田の場所からだと、それだけしか分からない。


そこへ向けて進む上田だが、現在地から見える距離からだと、向野がその誰かを襲っているように見える。

だが、実際には。


「ちょっ!待っ!やめっ!マジっ!死ぬっ!!」


「五月蝿いわよ!避けるな!殺されたくなかったら大人しく死ね!!」


赤髪の少女に襲われていた。

矛盾した言葉を発しながら、必死に避ける向野に短剣を振り回して攻撃し続けている。


幾ら怖いモノ知らずな向野でも、これはダメだったのか、避ける際に髪を数本犠牲にしながら大きく足を踏み出し、少女の懐に入り込む。


またもや大袈裟に振られる短剣。それを避けず、密着した状態で腕を掴み、止めた。

少女の攻撃も止み、ホッと一息吐いた向野は弁解しようと口を開く。


と、そこに上田が到着したーーしてしまった。

彼等の目の前で前輪(フロント)をロックさせ、後輪が高々と上がる。そして、落ちる。


「そこまでや!向野!発情すんのはええけど、時と場所を選べ!」


ビシッと向野に指を差して言う上田。


「お前こそ状況見やがれや!!」


向野と少女の姿は、まるで、ダンスの途中で固まっているみたいに見える。少女は向野を身体から押し離そうとしており、向野は逆に密着しようとしている。

そして、両者共が空に掲げる腕には、一本の短剣がある。


「どーどー向野君。そんな危ないもんは仕舞って、大人しくお縄に付こう。な?」


「どうみても俺やないやんけ!お前の目は節穴やろ!?」


「アダ名はガイコツですから」


「漫才してんちゃうねん!早よ助けろや!」


えっへんと胸を張ってジョークを飛ばしまくる上田に怒りながら助けを求める向野。

彼がここまで焦っているのには理由がある。それは、見た目以上に少女の力が強かったからだ。気を抜けば押し返されてしまいそうな程だ。


「うぃす」


了承の意を示し、上田は二人の元へと歩いていく。

少女は歩いてくる上田を警戒し、掴まれている腕に力を込め始めて抵抗を見せている。だが、向野も負けていない。男の底力を見せつけるかのように耐える。


「……どやって止める?」


彼等の近くまで来た上田。なのに、素っ頓狂な言葉を吐いた。それを聞いた向野は顔を怒りに染めてより赤くして『一発殴ったろか!』と思い、空いている手で拳を作った。殴る気満々である。


だが、その瞬間、向野の股の大事な所に強烈な痛みが走った。

余りの痛みに、向野は怒りで赤くしていた顔を一瞬で真っ青に染め上げて、股の逸物を守るかのように両手で抱え、(うずくま)った。


向野が一撃でノックアウトされた原因は少女が放った蹴りだ。

上田の所為で隙を見せてしまった向野の股の逸物に少女の渾身の蹴りを放たれたのだ。


それを何もせずに眺めていた上田。

蹴りを放ち終えた少女はエッヘンと胸を張ってから標的を上田へと変えた。そして、短剣を振りかざして襲いかかった。


上田の目には捉える事が出来ない速度で動く少女。突然に目の前に現れた少女が短剣を放つ瞬間しか見えなかった。

明らかに首を切り裂くルートだ。


その一瞬。彼の頭には”死”と言う文字が頭に浮かんだ。そして、脳が指令を出すよりも早く、反射的に屈み込んだ。


運良くその行動が吉と出たようで即死は間逃れた。だが、安心は出来ない。なぜなら、少女は既に次の攻撃に移っているからだ。


次の一手は縦に短剣を振り下ろす攻撃だ。既に短剣は振り下ろされている。なのに、何を思ったのか上田はスクッと立ち上がった。

避ける事も一切考えずに振り下ろされる短剣の刃目掛けて自ら突っ込んで行ったのだ。


「いっ!」


ゴンッとフルフェイスから鈍い音が鳴り、上田は小さな悲鳴を上げた。いつの間にか瞑ってしまっていた瞳を開けると、少女が片腕を抑えて尻餅を付いている。

良く分からない状況が目の前にあり、彼の頭の中は絶賛混乱状態である。取り敢えず、近くに落ちていた短剣を拾い上げ、そそくさと少女から距離を取った。


「上田…大丈夫か?」


向野の近くまで逃げた上田は心配の気持ちを含めて小さな声で尋ねる。

だが、向野からの返答はない。聴こえるのは呻き声だ。彼は痛みを我慢するのに必死なのだ。痛すぎて涙まで浮かべている状態なのだ。


向野がそんな状態な為、自分一人では全く勝ち目がなく、逆に殺されてしまう未来が見えた上田。短剣を捨て、両手を挙げて彼は言う。


「降参や、降参。無理、勝たれへん。ホンマに死んでまう」


どう足掻いたって、勝てない。そう理解しての言葉だ。

両膝を付き、敵対の意思が無い事を示す為に手の平が相手に見えるように両手を挙げる。


だが、上田の中には一つの策が出来上がっていた。

そのヒントは短剣を捨てた場所である。

上田の真後ろ。股間を抑えて悶絶中の向野の手の届く位置に短剣は捨てられている。

それは、自分が注意を引くから隙をついて向野に攻撃してもらおうとの算段だからだ。


「やから、少し話しよ?死ぬ前に話したい事いっぱいあるねん」


冗談気味に笑いながら少女に語りかける。


「ふ、ふんっ、いいわ。少しだけなら聞いたげる」


少女は腕を組んで、口をへの字にしながら答えた。

それを内心で「してやった!」と思い、時間稼ぎと注意を引く事に成功した事に口元が喜びに僅かに歪む。

ここから向野が短剣を使って何とかするだろう、と彼は考えているが、肝心の向野は当分動けそうにない。


「えーっと……」


だが、彼は喋る言葉を考えていなかった。

彼女の興味が失せてしまう前に急ぎ考え、そして、今一番尋ねたい事を口にする。


「ここって何処なん?」


「……へ?」


噓偽りの無い真剣味を浴びた真顔で問われた言葉。それは、全く予想だにできなかった事で、彼女に変な声を漏らさせるには十分過ぎる発言だった。


上田の背後に居る向野は股間を押さえたままピクピクと悶絶している。

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