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クレイジー・アクセル 【略:クレアク】  作者: 九九 零@異世界モノ大好物
第1章〜どうやら、異世界に迷い込んだらしい〜
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ネモ

全身に包帯が巻かれてベットに寝かされている男の子を立ったままジッと見つめ続けるネモ。


診療所で治療を済ませた後、ネモは出した宝石を全て置いて男の子を宿屋まで運んだのだ。

ただ、彼は寝る必要がない為、ずっと起きて男の子を見つめていた。


「うぅ…」


何度目の寝返りだろうか。男の子はゴロンと転がってから、ゆっくりと瞼を開けた。

まず、目に映ったのは隣にある空っぽのベッド。シーツなども綺麗に整えられたままで、使用された形跡のないベットだ。


少しの間、虚ろな瞳でそのベットを見つめ、意識がハッキリとしてきてから自分がどこにいるのかが気になり、全身から発せられる倦怠感に耐えながら体を起こし、周囲に視線を巡らせた。


そして、ジッと見つめ続けていたネモと瞳があった。


「ひっ!」


彼の着けるのっぺらぼうのような仮面や無機質な瞳を見て、思わず悲鳴のような声が出てしまった。


ネモは怖がられた事に少しの悲しみを覚えながら、怯えて後退する男の子の手を掴んだ。


男の子は何かされると思い、顔を伏せて次に来る衝撃に耐えようとする。が、何もしてこない。不思議に思い、顔を恐る恐る上げる。


ネモは何かを確かめるかのように男の子の手を軽く握ったり、手のひらを押したりしているだけだった。


何をしているのか理解ができず首を傾げる男の子を放置して、ネモは一通り男の子の体調を調べ、手を離して扉の方へと向かう。


ドアノブに手を掛け、振り向く。視線の先には明らかに混乱している男の子の姿がある。

警戒や恐怖の他に安堵や安心を露わにしている。


ネモの視線に気が付いた男の子はピシッと凍り付いたかのように固まった。だが、ネモは気にせずに『来い』と体現するように視線を廊下に向けて、部屋から出て行った。


男の子は恐る恐るベットから這い出て、安定感のない足を必死に立とうと踏ん張りながらネモの後を追う。


ネモは背後を振り返ったりしていないのに、一定の距離を保ちながら男の子の歩幅に合わせて歩いている。その後を歩きたての子鹿のような足取りで追う男の子。


そして、辿り着いたのは、宿屋の食堂。空席を一つネモが占拠し、反対側に座れ。と指差しで指示する。


男の子が椅子に座ると同時に店員が注文を尋ねに来たが、ネモは答えない。

男の子を指差して、注文を取る相手を男の子へと変更させる。


え?どう言う事?と言う未だに状況が判断できてなさそうな表情を男の子はしている。


「朝食セットなどどうでしょうか?」


中々注文をしてこない客に困り果てた店員はオススメを出して尋ねてみる。が、男の子は未だに混乱したままだ。ネモの方へと視線を送ると、人差し指を一つ立てていた。


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


どこかホッとした店員は駆け足でその場を後にする。


店員の後ろ姿を途中まで追い、視線を男の子に向ける。男の子は、ネモに向けられた無機質な瞳にビクッとした。


ジッと見つめ続けられる男の子。居心地が悪いのか、視線を彷徨わせてから、机の上へと固定された。


店員が注文した食事を持って来る。彼等は何も答えない為、机の中央に置き、一礼してから立ち去っていく。

その間も、ずっとネモは男の子に視線を向け続けていた。


机の上に置かれた料理を目に、男の子のお腹から『ぐぅぅうう』と音が鳴った。

そして、チラッチラッとネモに視線を向ける。が、ネモは微動だにせず、男の子を見つめ続けている。


湯気の立つスープが少しづつ冷めていく中、男の子のお腹からは何度も音が鳴る。

半分、料理とネモに諦めを見せかけていた男の子。だが、遂にネモが動いた。


中央に置かれた料理の中にあるパンを取り、一つまみ千切り取る。

細かく、細かく千切り取ったパンを全てスープの中に入れた。


そして、スープを男の子前に置く。

ゴクリッと男の子が唾を飲み込み、ネモに視線を向けて食べていいかを訪ねる。が、ネモは残りの料理に視線が向いている。


それは、肉だ。所々、黒焦げのある、見るからに硬そうな肉。それをどうしようかと迷っているように見える。


少しの間考え、ナイフを手にしたネモ。人間離れした細かな動きで肉を細切れに刻み始める。その手際はとても鮮やかだ。


細かく切り刻まれた肉を視界に納めてから、男の子の前に置いたスープへと瞳を向ける。

未だにスープに手は付けられていない。


それに小さく首を傾げてから、スープの中に肉を入れた。そして、顎で『食え』と指示する。


それが理解できたのか、男の子は慣れない手付きでスプーンを手にしてスープを掬い取り、ゆっくりと口に運ぶ。


ネモは何を考えているか分からない瞳を男の子に向け続けている。食べる姿を見られるのには良い気がしないが、男の子はスプーンを口に入れた。


喜びからか、それとも、久し振りに食べたマトモな食事だったからか、目を見開き、器を手にしてスープを口の中にかきこむ。


「ケホッ、ケホッ、ケホッ」


余りに急いで食べたものだから、食べ物が気管に入ってしまい咳き込む。

それでも、男の子はその食べ方を止めなかった。


食事を終え、視線を向け合う二人。

男の子はネモの無機質な視線に若干の怯えを見せながらも、気持ちを強く持ってネモに問いかけるような視線を向ける。当然ながら、ネモは終始男の子に視線を向け続けていた。


「……あの」


ずっとこのままだと埒が明かないと判断した男の子は小さな声を発した。


「どうして僕を助けてくれたんですか…」


勇気を振り絞って尋ねたが、返ってくるのは無機質な視線だけだ。


ネモは不意に視線を窓の外へと向ける。追って男の子も視線を向けた。

視界に映ったのは、倒れて衰弱死しかけていたのに助けてくれなかった人々と、青く大きな空だ。


ネモは指差す。大空へと。一匹の小鳥がネモの指に止まり、チュンチュンと鳴いてから飛んでいく。


「そら?」


コクリと頷くネモ。だが、男の子には彼が何を思って空を指差したのか分からない。


ネモ自身も小さく首を傾げてから、男の子の首に視線を向けた。

首には真っ黒で無骨な首輪が着けられている。


無機質な瞳。なのに、男の子にはネモが僅かに悲しんだ事に気が付いた。



ーーー



山を越え、湖を迂回し、草原に差し掛かった場所。そこには、まだ陽が落ちていないと言うのにグースカと寝るユースの姿と、片手を前に突き出して力んでいるリョーガの姿がある。


普段は安らかな寝顔を浮かべているだろうユース。だが、今の彼の顔は酷いものだ。

何日も寝てないのか、目の下に深いクマを作り出し、表情は辛そうに歪んでしまっている。

寝言で「リョーガさん…これ以上は無理です…」と呟いているのが何よりの証拠だ。


リョーガは「出ろぉ!」と気合の入った声を発しながら、空に掲げたり、前へと向けたり、遂には変なポーズまで取り始めている。

彼が行おうとしているのは”魔法”である。


ステータスの魔法欄に《黒》と書かれているのに、彼は魔法が全く使えない。

ちなみに、同じような事を以前にもしていた。ただ、人前で行うのが恥ずかしく思い、見通しが良く、人が居ればすぐに気が付くこの場で、なによりも、ユースが余りの眠気に倒れて寝てしまった為に魔法の練習を開始したのだ。


だが、彼の行動は全く違うものを誘発した。


僅かに彼の体から滲み出る赤黒い邪悪なオーラ。それは、魔法とは全くの別物である”闘気”。


並大抵の努力では習得できないスキルである。熟練の剣士などが何十年もの時間を掛けてようやく習得できるものだ。

なのに、それをリョーガはアッサリと習得してしまった。だが、彼はその事に気が付いていない。


今も必死に魔法を出そうと気合一発、力み続けている。まるで、トイレでウンコを気張るかのようだ。


もし、ユースが起きている時にしたのなら、リョーガは魔法を使えたかも知れない。

だけど、彼の頭にはその案が思い付かなかった。と言うよりも、初めから『人に見られる』と言う点で考えすらしなかった。


その為、彼は人知れずこうして魔法を使おうと頑張っている。


それが、どんな魔法で、どんな力を持っているかも知らずに。


リョーガ「なぁ、ユート」

ユート「ん?どないしたん?」

リョーガ「ネモって誰?つか、何者なん?」

ユート「ああ、ネモはな、俺が作った人造人間やねん」

リョーガ「人造人間?」

ユート「そそ。俺のクローンを作ろうとしたんやけど、何回も失敗したから諦めて中身入れ替えて作ったんよ」

リョーガ「………もっと分かり易く」

ユート「これでも、十分噛み砕いたんやけどな…」

リョーガ「もっと分かり易く言えや!」

ユート「どーどー、怒らない怒らない。えーっとな、もう一人の俺を作ろうとしてんよ。そこまでは分かる?」

リョーガ「当たり前やんけ」

ユート「けど、それが出来へんかったから、中身をくり抜いて、機械を詰め込んでん。言うたらイカ飯みたいなもんや」

リョーガ「ああ、成る程な。…イカ飯食いたいな」

ユート「やな…」

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