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クレイジー・アクセル 【略:クレアク】  作者: 九九 零@異世界モノ大好物
第1章〜どうやら、異世界に迷い込んだらしい〜
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黒鎧


いつもの如く、リョーガが作り出した荒野に彼等は居る。

ただ、何をするでもなく、リョーガは何かを思い出してニヤニヤとして空を見上げている。

ユースは遂に堪えきれなくなって訪ねた。


「どうしたんですかリョーガさん?」


「ん?何が?」


「いや、リョーガさんいつにもなく嬉しそうなので」


「そうか?」


そう言う割に、本当にリョーガは嬉しそうにしている。

朝、ユースと冒険者ギルドで出会った時から彼は笑みを浮かべていた。

正直、ユースからすれば、それがとても君悪く感じられる。まるで、何か良からぬ事の前触れのように思えた。


「そう見えるんなら、そうなんちゃう?」


ひどく適当な返答しか帰ってこなかった事にユースの不安は高まる一方だ。

なにせ、リョーガが何かをすれば、必ず問題が生じる。

それは、昨日、ラ・ドルミィに帰って来た時に見た光景を思い出させる。


兵士達や冒険者達はリョーガを恐れるかのように距離を置き、受付嬢に話しかければ小さな悲鳴を挙げられていた。

ユースが居なかった間に何があったのか。と、問いたい程だが、未だに怖くて聞けていない。


「リョーガさん。今日、僕は何をすればいいんですか?」


まだ朝だ。だが、リョーガはいつもこの場に来てすぐに指示を出す。

なのに、ここに来てから何をするでもなく、一時間も空を見上げている。


「今日は休みや。依頼も何も取ってない。けど、お前が強くなりたいんなら魔物と戦ってこい。休日を謳歌するんなら、街に戻るで」


まるで、悪魔と天使の囁きである。

ユースの本音を言えば、休みたい。だけど、強くもなりたい。それに、休暇を取ってしまえば、もしかすると、リョーガに見放されてしまうかもしれない。と言う不安が押し寄せてくる。


一時間も何もせずに居たのに、リョーガの一言のせいでユースの心には争いの火種が撒かれた。今は絶賛、天使と悪魔が武器を片手に激戦を繰り広げている所だ。


「それとな、明日、ちょっと寄るとこあるから」


「は、はい」


天使と悪魔は休戦し、まだ続きがありそうなリョーガの話に耳を傾ける。だが、待てども待てどもリョーガはそれ以降喋らず、空を見上げているだけだ。


「えーっと、それだけですか?」


「え?あぁ、昼、ここに集合な」


「分かりました」


またもやこの場に沈黙が訪れる。だが、ユースの頭の中では天使と悪魔が戦いを再開していた。


数十分間、迷いに迷って遂に決着が着いた。


「それじゃあ、僕はゴブリンを倒して来ます」


争いを勝ち抜いたのは天使だった。天使がリョーガが浮かべる般若のような形相を浮かべて悪魔を刺し殺した所で決意が決まった。

ユースは、どちらが悪魔かを考えるべきである。



〜〜〜



後日。荒地にて。

リョーガが不在で一人寂しく食事を取るユースが居た。


「リョーガさん、遅いですね…」


干し肉をガジガジと噛み、唾液を含ませて柔らかくしてから口の中で咀嚼し、呑み込む。


彼は来る前に依頼を一つ受けた。ゴブリン討伐だ。だが、それは既に終えている。

近くに置いてある袋の中には討伐証明と魔石が入れられている。


「このまま帰ったら絶対に怒られますよね…」


終えたのは丁度お昼になった時。だが、リョーガを待たなければならないので、昼ご飯を食べながら待っている。

太陽が少しづつ傾いているのをチラチラと確認しながらリョーガを待つユース。


それから一時間も待たされ、本当に帰ろうかなと迷い始めた時、それは来た。


ガチャガチャと重たそうな金属音を響かせて歩いてくる黒い鎧を着た人物。


当然、ユースは警戒を露わにし、腰に携える短剣に手を掛けた。が、それは杞憂に終わった。

黒い鎧の人物は、軽く手を挙げながらユースの良く知る声で軽い挨拶をしてきた。


「よっ、待たせたな」


「…リョーガ、さん?」


名前を呼ばれて、えっへんと胸を張る黒い鎧ーーリョーガ。


「さてっと、ちょっと付き合えや」


そう言うや否や、拳を構えたリョーガ。


「えっ?ど、どうしたんですか?」


ユースはリョーガの言葉の意味を飲み込めず、困惑した表情で訪ねた。だが、リョーガはそれに構う事なく、ユースに殴り掛かった。


「っ!?」


声にならない叫び声を上げながらも、間一髪避け、リョーガから距離を取る。


「ちょっ!危ないじゃないですかっ!」


「ああ、やっぱ、動きにくいなぁ」


ユースが声を荒げるが、リョーガは全く聞く耳を持たず、手を開いたり閉じたりして確認して、またもや殴り掛かる。


「ちょっ!あぶっ!し、死ぬぅ!」


必死にリョーガの攻撃を避け続けるユース。

リョーガの攻撃は、本当に当たれば死にかねない程に強い。例え素手であっても、その威力は計り知れない。

だが、今のリョーガの速度は鎧を着ているからなのか、とてもギコちなく、遅い。

それでも、ユースからすれば避けるので手一杯だ。


勢い良く眼前に迫る黒い拳。それに恐怖を抱きながら必死に避けるしかできない。


「逃げてばっかやなくて、攻撃して来いや」


面当ての中のリョーガはほくそ笑んでいるだろう。だが、ユースからすれば笑えない。

当たれば死ぬ。もしくは、行動不能になってしまう。それを感じさせる程の凶器がゴウゥっと音を立てて体を掠めるのだ。


それを恐怖しない筈がない。


「む、無理っ!無理ですっ!死にますって!」


リョーガに言い返すが、彼は容赦なく殴り掛かってくる。

彼の行動はいつも唐突だが、こればかりはユースですら予想できず、混乱したまま必死に迫り来る凶器から逃げ続けるのであった。



〜〜〜



兜を脱ぎ、とてもいい笑顔で犬のように顔を振って汗を飛ばすリョーガ。

地面にダラシなく寝転がり、ゼーハーと息を荒くしているユース。


「なんやねん。逃げてばっかやんけ」


「む、無理ですよ…ほ、本当に、死ぬかと、思いました……」


「ちゃんと手加減はしとるっちゅうに」


ケラケラと笑いながら地面にドカッと座り込むリョーガ。何かを探る素振りを見せてから、ある事に気が付いて諦めた。


何を探していたのかを聴こうと思ったユースだが、息をするのも精一杯な為、今回ばかりは息を整えるのに専念する事にした。


「にしても、これ直すのにメッチャ金掛かったわ。って事で、明後日から旅に出るで」


「ゲホッ、ゲホッ、急ですねっ!」


リョーガのこのような言動はいつもの事だが、余りにも予想外な発言の所為でむせてしまった。


「なんかな、行かなアカンような気がすんねん」


何かを思い返すかのような遠い目をしながら語るリョーガ。


「せやから、ユース。お前も一緒に来い。拒否権はないからな。って事で、帰るわ」


言うだけ言って、リョーガは本当に帰って行った。


「ま、待って下さいよぉ!」


まだ夜ではないが、置いて行かれると帰る途中で魔物にやられかねない事を想像したユースは、情けない声を腹の底からひり出しながら追い掛ける。



ーーー



どこかの深い森の中。辺りは月明かりが有ろうと暗く、普通の人ならば何も見えない。

そんな場所に、グニャグニャと形を変形させ続ける”何か”がある。


それは、何もない宙に浮いており、まるで、そこに穴があるかのような、空間に空いた穴だ。


そこから、一人の男性が放り出され、雨上がりではないのにも関わらず、ベチャッと地面に落ちた。


「あぁ、クソ。あ、ほんまにクソやん…」


悪態を吐きながら彼は顔に着いた泥を払い落とし、その泥が何かに気が付いて眉を寄せた。


「けど…」


黒と緑の瞳を空へと向けると、二つの月が丁度雲に隠れた所だった。


「やっとや」


真っ暗な森の中なのにも関わらず、彼がニヤリと三日月を思わせる笑みを作り上げたのが見えた。


「やっと、ぺっ!最悪や!口に入った!ぺっ!ぺっ!」


雰囲気が台無しである。

何かを言いかけたが、口に入った糞に気が取られ、頑張って口から排除しようとしている。


「ほんま、誰のクソやねん…」


ガックシと肩を落とし、地面の肥溜めに蹴りを入れーーようとして滑って転んだ。


「なんでやねん…」


雲に隠れていた月が彼を嘲笑うかのように顔を覗かせた。


その灯りに照らされて映るのは、全身が糞まみれなのは除いて、短くカットされた髪は白く、片目は日本人特有の黒い瞳に、もう片方は機械仕掛けの妖光な緑の瞳。額に半分髪留めと化した作業着用のゴーグルを着け、首にマスクを引っ掛け、黄色い作業着(ツナギ)を身に着けた人物だ。


「まぁ、ええわ。やっと出れたんや。こんな不幸ぐらいええや」


器が大きいのか、それとも諦めたのか、肥溜めの上で大の字になって空を見上げて嬉しそうに言った。


「やっぱ、無理。臭いわ。どっかに水ないかな…」


ノロノロと立ち上がり、まるで初めて歩行を始めた赤ん坊のように一歩一歩踏みしめるように水を探しに歩き始める。


彼ーーユートは今ここに帰還した。

背中に糞を着け、どことも知れない場所をヨチヨチと彷徨う彼には不安しかないが、彼は生き残る事ができたのだった。

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