報復返し
王国にあった謁見の間を思い浮かべる部屋。なのに、中は薄暗く、視界が悪い。
そんな中、野太い声がその部屋に響いた。
「黒騎士よ。先日勇者が召喚されたようだ」
声を発した主は、玉座に座る小さな影だ。その影が、階段下で跪く少し大きめの影に声を発し、黒騎士と呼ばれた者は、くぐもった声で返答する。
「存じております」
「命令だ。勇者達を殺せ。我らの邪魔になる」
「御意」
頭をより深く下げ、闇に溶け込むかのように黒騎士は姿を消す。
「勇者なぞに殺されてたまるか…」
薄暗い謁見の間で、硬い意志の篭った声が呟かれ、誰にも聞こえる事なく消えた。
ーーー
今日も今日とてリョーガ達は荒野にいる。
荒野はそれなりに広く、その中に広々とした庭付きの一軒家が三つ建てれそうだ。
だが、そこには一切の魔物の姿はない。居るのは、四人の冒険者が休憩している姿だけだ。
「なぁ、ゴブリンの巣、潰してこいよ」
「……へ?」
唐突に発せられたリョーガの発言に耳を疑ったユース。
彼はまだFランク冒険者だ。その為、ゴブリン討伐や薬草採取。その他に街の中での依頼が多い。そんな彼に唐突にリョーガは無理難題を押し付けたのだ。
「ど、どうしてですか…?」
「ゴブリン倒せるようになったんなら、いけるやろ」
できて当たり前。そんな風な口振りで言うリョーガ。彼は普通の人と自分の差をシッカリと理解できていない。
「む、無理ですよっ!」
「無理やあらへんやろ。ゴブリン三体と無傷で戦えるようになったんやし」
このリョーガの発言だけで、彼の判断基準が大きくズレている事が明らかだ。
「そ、そんなっ…」
「ええから行けや」
ユースが何かを言いかけたが、リョーガはそれを遮り、睨みつけながら脅すように言った。
リョーガの言う事にこれ以上の反抗はできず、渋々と立ち上がるユース。彼は今まさに戦地へと赴かんとする一般市民の気持ちを抱いている。
ゆっくりと足を進め、チラチラと横目でリョーガへと視線を送るユースからは『止めて欲しいな』と言う思いが含まれているが、そんな僅かばかりの思いも虚しくゴブリンの巣へと向かう羽目になった。
最後までユースを見送ったリョーガはタバコを一本取り出して吸い始める。
紫煙が立ち登る空は今日も良い天気だ。
雲は優雅に流れ、太陽は暖かい日差しを与えてくれ、そよ風に流れてくる空気は新鮮そのもの。なのだが、リョーガはそれを少しの間しか堪能しなかった。
空から視線を下ろし、休憩中だと思われていた冒険者達へと視線を向ける。
始めにいた人数の半分が居なくなり、残り半分がリョーガの元へと向かってきている。
「面倒くさいわぁ」
見るからに嫌そうな顔を隠そうともせずに本音を漏らすリョーガ。
ユースは気付いていなかっただろうが、マイスペースを侵害されるのが嫌いなリョーガは、彼等が現れると同時に気が付いていた。
「おい、そこのガキ」
男二人の内、一人が挑発的な声でリョーガに呼び掛けた。それは、リョーガに怒りを誘発させるものだが、なんとか堪え、返事とは言えぬ言葉を返した。
「玉無しは元気してるみたいやな」
「このっ!」
「よせって」
リョーガの言葉に一人の男が怒りを露わに拳を振り上げたが、もう一人が止めた。
「まぁ、いい」
止められた男は怒りを抑え込み、これからの事を想像してニヤリとほくそ笑む。
「少し付いて来てもらうぞ。勿論、嫌とは言わせないからな」
もう一人の男が腰に携えた斧を手に取り、刃をリョーガに脅すように向けた。
だが、そんなものはリョーガに通用しない。それがリョーガクリオリティー。
我が道を行き、誰にも止めさせず、一直線に突っ走る。それが、リョーガだ。
そんなリョーガが人の話を聞くかと問われれば、答えは否である。
「お前、誰に言うてん?」
嫌そうな表情をより一層濃くして男達に鋭い目を向ける。
男達はリョーガと目を合わせ、身を震わせて一歩後ずさった。仮にも一端の冒険者である彼等がまだ子供の容姿が抜けきれていないリョーガに怯えた。それが気に食わなかった男達は怒りの形相で片方は斧を振り上げて構え、もう片方は抜剣した。
「俺様に物言うんなら、敬語使えや玉無し野郎が」
「このっ、クソガキがあぁ!!」
リョーガの挑発に乗ったのは、一番初めに怒りを露わにした男だった。
剣を振り上げ、リョーガの頭を的確に狙った攻撃をする。だが、それはいとも容易く親指と人差し指によって止められた。
「なっ!?」
男は剣を手元に戻そうと引っ張るが、ビクともしない。まるで、接着剤で固定されたかのようにリョーガの指から離れず、リョーガは根を張り巡らせた大木のように微動だにしない。
「俺様を誰や思ってんねん」
あっという間の出来事だった。
リョーガは、指圧だけで剣をへし折り、男を殴り飛ばした。当然、男は一発ノックアウト。もう一人の斧の男は、目の前で起きた光景を呆然と見つめる事しかできなかった。
「俺様にひれ伏せ。そして、崇め奉れ」
言うが早いか、斧の男の顔面も殴った。一応手加減はしているが、容赦はない。
数メートル先でノビた男二人を尻目にリョーガはユースの向かった方へと駆け出す。
ーーー
リョーガにそんな事があったなど知らないユースはブツブツと文句を垂れながら歩き辛い森の中を歩いている。
そんな時、近くの茂みがガソゴソと揺れた。
すわっ魔物か!?と短剣を構えるユースだったが、「ほえがっ!」と何だか良く分からない人のような声が響いただけで何も出てこなかった。
気になったユースは警戒を怠らず、ゆっくりと茂みに近寄った。ゴクンッと唾を飲み込み、いざっと茂みを掻き分けると、そこには、何もなかった。
ただの草木しかなく、魔物の姿も見受けられず、首を傾げながらリョーガに言われた事を行いに重たい足を運び始めた。
ーーー
「はぁ、なんで俺がお前らなんかに時間取らなあかんねん」
グサッと地面に突き立てられる何処かで見覚えのある斧。刃のすぐ側には怯えきった男性の顔がある。
いつか冒険者ギルドで玉無しと化した男である。
リョーガは、ユースに迫っていた危機を彼の知らぬ間に解決したのだ。そして、気付かれぬ内に殴り倒した男と玉無し男を引き摺って撤退した。
「玉の次はなんや?乳首がええんか?それとも、ケツがええんか?」
リョーガの厳つい視線を向けられ、オマケに斧を脅しのように顔面ギリギリに突き立てられた男は、恐怖に染まった瞳をリョーガに向けながら小さく首を振った。
ここは、初めにリョーガ達が居た荒野である。誰に隠すでもなく、堂々とした脅迫現場である。だが、生憎とこの場にそれを見ているものはいない。
いるのは、気を失ってノビている玉無し男の仲間だけだ。
「なら、何がええん?あっ、そっか。玉がなかったらアレ必要ないから取ってほしいんやな」
「ひっ!」
アレとは、男性にしか付いていないゾウさんである。男は言われなくても察する事ができた。
一瞬で股を抑え、ガタガタと身を震わせる。
「そんなに嫌なんか。なら、俺が決めたるわ」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべて男から離れるリョーガ。
男は、解放されたかもしれない。と言う安堵感を一瞬だけ感じられたが、すぐにリョーガの笑みの理由に気が付き絶望した。
その日、街の壁付近に奇妙なモノが張り付けにされていた。それは、四人の男性の姿。
全員、素っ裸で、太めの木の棒を尻に突き刺され、アレは落ち葉で隠され、頭には悪臭を放つウ◯コを載せられ、死体のように青ざめな表情で虚空を眺めていた。まるで、子供の悪戯にあった人である。
発見した兵士達は当然、困惑した。困った挙句に保護と言う名目で牢屋へと放り込んだ。
彼等はリョーガによって一生忘れられない傷とトラウマを植え付けられたのであった。




