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クレイジー・アクセル 【略:クレアク】  作者: 九九 零@異世界モノ大好物
第1章〜どうやら、異世界に迷い込んだらしい〜
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仲間とは名ばかりの手下


ユートと言う支えがなくなったリョーガ。彼は現在、冒険者ギルドに居る。


朝と言う時間帯なのに、珍しく不気味な程に静かな冒険者ギルド。

リョーガは、出入り口付近で獰猛な目で周囲を見渡しながら立っている。そして、彼の目の前には顔に大アザを付け、折れた鼻から血を垂れ流し、泡を吹いて気を失っている男性が居る。


最後に男性を見下すような視線を向け、興味を失ったかのように掲示板へと歩いて行くリョーガ。


こうなったのは数分前の事だ。


リョーガが冒険者ギルドに入ると同時に一本の短剣が飛んできたのが始まりであった。


短剣はリョーガが素手で刀身を鷲掴みにした事で命中は避けれた。が、彼は余り考えずに掴んだせいで、手は血だらけだ。


「……は?」


理解のできない目の前の状況。そして、手の痛み。目の前には、少年の頭を汚らしい笑みを浮かべて踏む天辺がハゲた男性が居た。


「……は?」


もう一度、状況が理解できずに声を発した。なんとか状況を知る為に周囲へと視線を巡らすリョーガ。

冒険者達は「可哀想にな」や「不憫なやつだ」などと言いながら少年へと哀れみの視線を向けている。

受付嬢達は困った顔をしたまま、無言でこの状況を見つめている。


目の前の男性はジャリジャリと音の鳴る皮袋を片手にニヤニヤと嘲笑うような笑みを浮かべ、足元の少年はシクシクと小さな声で泣いている。


それだけで、普通の人ならば何が起こっているかは分かる筈だ。だが、リョーガはバカである。人の気持ちなど考えない性根の腐った人間である。だから、彼には分からなかった。


分かった事と言えば、手を傷付けた短剣がどこから飛んできたのかだった。


「なぁ」


「おいおい、泣いてるぞコイツ」


リョーガが声を掛けようとした。だが、ゲタゲタと下品な笑い声を上げる男の声によって遮られた。

男は周りの人に知らせるかのように大きな声で言った。


「男の癖に情けねぇ。ほんとにそんなんで冒険者かよ」


グリグリと少年の頭を踏む男性。彼の視界の中にリョーガの姿は映っていないのだろう。


「なぁ」


「ほんとに、弱っちい。こんなゴミクズが冒険者なんて考えれねぇよ、なぁ?」


再度、声を掛けたリョーガだが、男はリョーガの言葉に耳を貸さず、周囲の冒険者へと話し掛けた。

リョーガの額に一本の青筋が浮かんだ。


「なぁ」


「どうした?なんで誰も答えないんだ?ほら、笑えよ」


ゲタゲタと下品な笑い声が静かな冒険者ギルドに木霊する。

リョーガの額の青筋が数本増えた。


「なぁ」


「なんだよ。つまんねぇ奴らだな。冒険者ギルドってのは臆病者の集まりかよ」


冒険者の数人が男性へと厳しい視線を向けるが、誰一人として動かない。ただ、見ているだけだ。

リョーガの額の青筋がブチッと音を立てた。


「お前ら全員、弱ぇんだよ!俺様に掛かって来ようと思う奴はいねぇのかよ!雑魚共が」


ゲタゲタと笑いながら両手を広げて冒険者達を挑発する男性。彼は気が付いていない。すぐに近くにブチ切れだリョーガがいる事に。


「なぁって言ってんねんけど?」


「あぁ?なんだぁ?」


まるで挑発するかのようにリョーガへと視線を向けた男性。

だが、リョーガの姿を見れたのは一瞬だけだった。


「死ぬか?」


入り口に立っていた筈のリョーガの姿は一瞬の内に男性の前へ。そして、気が付けば男の目の前に拳が迫っていた。


リョーガは怒りやすい。普通に怒っている時は顔を赤く染める。怒りに我を忘れて大暴れする程だ。だが、ブチ切れだ時、彼の表情は無表情と化す。そして、頭の中は冷静になる。


男は、何も事情を知らないリョーガに襟首を掴まれ、逃げられないようにされてから顔を殴られた。続いて腹。腹、腹、腹、腹、最後に男の大事な場所である股。


瞬きをする程の一瞬の出来事であった。殴り終えると同時に出入り口付近でカランッと短剣が落ちる音がギルド内に響いた。


「人の話ぐらい最後まで聞けや。クソ野郎」


襟首から手を離すと、男は崩れ落ちた。初めの一発で気を失ってしまっていたのだ。

だが、リョーガに容赦の二文字はない。床で寝ている男の股を最後とばかりに蹴り上げた。


「はうっ!?」


当たった箇所は言うまでもない。男性の大事な大事な黄金の玉だ。彼は、それを容赦なく破壊した。

周囲の冒険者達も内股になった。


男はビクビクッと痙攣してから泡を吹いて完全に気を失った。


突然の乱入者に視線を向けた冒険者達だが、リョーガがそちらへと視線を向けると一斉に視線を逸らす。それは、リョーガの視線が『次の挑戦者は誰や』と物語っていたからだ。


彼はこの状況を全く理解していない。だが、彼は全てを破壊した。話し合いなど生易しいものではない。圧倒的力で一人の男性を犠牲に鎮静化したのだ。


歓声などない。密かに彼について囁かられるだけだ。


「あいつ、何者だよ…」


「知るわけねぇだろ」


「俺、知ってるぞ。あいつ、新米の冒険者だ」


「し、新米だと!?」


「あぁ、だが、初めは三人だった筈だ」


「パーティーメンバーか?」


「知らねぇ。だけど、一人は男で一人は女だった。初めて見た時は、あいつが俺達を睨みつけていてさ、それを男が止めてたんだよ」


「その男って奴も、あいつ並みに強いのか?」


「分かねぇ。だけど、今のを見ると…」


もしかすると。そう囁かれる。彼等はリョーガの事を詳しく知らない。それは、リョーガの出勤時間が遅かったからだ。

掲示板のDランク依頼の欄を見ているリョーガへと視線を向ける冒険者達。そして、そこへトコトコと駆けていく一人の少年。


「さ、先程はありがとうございましたっ!」


少年は依頼を選んでいる途中のリョーガに頭を下げる。だが、彼は少年に全く興味を示さずに依頼を一つ引っぺがして受付へと歩いて行った。


「あ、あのっ!」


無視された少年は諦めずにリョーガへと話し掛けに行く。


「あのっ!」


リョーガの背後を付いて行き「あのっ!」「あのっ!」と同じ言葉を言って興味を引こうとする少年。


「なんやねん!鬱陶しいわ!」


受付へと辿り着いたリョーガは、遂に我慢の限界が来て般若のような形相を浮かべて振り返った。


「あ…ごめんなさい…」


ショボンと落ち込んだ少年。彼は滅多に見れないリョーガの顔に怯えない人間みたいだ。身体はリョーガよりも頭一つ分小さく、先程まで踏まれていたからかボサボサで、水色の髪をしている。


「で、なんなんよ?」


いかにも機嫌が悪いですよ。と雰囲気を醸し出しながら尋ねるリョーガ。


「あのっ、先程は助けていただきありがとうございました!」


頭を九〇度下げて礼を言う少年。だが、リョーガは礼を言われたとしても何も思わない薄情な人間だ。ちなみに、女の子からは別だったりする。


「あっそ」


無情な声で返事をしてから苦笑い気味の受付嬢へと依頼用紙を渡す。

彼は昨晩の件があって機嫌が余り良くないのだ。今は受付の女の子で心を癒している途中だったりする。ちなみに、視線は胸に固定である。


「あのっ、どんな依頼を受けているんですか?」


「お前に関係ないやろ」


「あのっ、ご一緒して宜しいですか?」


「知るか」


「あのっ、普段は何をしてるんですか?」


「お前に言う必要あんの?」


依頼の受領に掛かる時間の間に少年から色々な質問を受けるリョーガ。だが、それらを全て冷たい返事で答えた。

今の彼は受付嬢の胸と尻を見るのに必死なのだ。


依頼を受領してもらい、リョーガは残念そうに視線を出口へと向けて歩き出す。


「あのっ、僕を貴方(あなた)のパーティーに入れてください!」


「はぁ…なんやねんお前…」


先程までの冷たい声とは違い、呆れの含まれた声で答えた。それは、彼の癒しの時間が終わってしまったからだ。今ならば、彼は普通に物事を受け答えする。


「僕はユースって言います!お願いします!」


またもや頭を九〇度に下げる少年ーーーユース。


「俺はパーティーなんか知らへん。つか、一人で十分やし」


彼の言う通り、この辺りの魔物は彼一人で全滅させる事ができる。それ程までに彼の力は強力だ。


「お願いします!」


だが、少年は諦めない。どうして彼にそこまで頼み込むのかは少年にしか分からない。

何度も、何度もリョーガに頼み込む。それは、結果としては良いのだろう。なにせ、リョーガは押しに弱い。


「はぁ…まぁ、ええわ。けど、俺の言う事は絶対やで」


「はい!」


屈託のない笑みを浮かべて嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべるユース。顔はかなり童顔で、子供にしか見えない。


そこで、リョーガはユースの使い道を考えた。見た目は明らかに子供で、なんら役に立ちそうもない非力な少年だ。

だが、それでも使い道はある。ズバリ、雑用だ。これからの事を考えれば、楽をして依頼を終える事も、稼ぐ事も出来る筈だ。

そう考えた。


「ほな、行くで」


「はい!」


リョーガの出発の言葉で足を進める二人。



〜〜〜



ギルドを出発してから十分とそこらで辿り着いたのが、荒野と化した森であった。


「…あれ?」


ユースはこの辺りを知っているのか、首を傾げていつもと全く違う光景を前に不思議そうにしている。


「取り敢えず、お前はゴブリンと戦っとけ」


「で、でも、僕…」


「いいから、やれ」


「な、はいっ」


リョーガの有無を言わさぬ言葉により、ユースは戦った事はあるが、負けて逃げ帰った覚えしかないゴブリンと戦う事となった。

そして、リョーガはと言うと、必死に逃げる狼を追い掛けていた。


「待てやゴラァ!」


「キャウン!」


リョーガが吠えれば、狼はビクッとして足を早める。立場が完全に逆転している模様である。

例えるならば、猟犬に追い掛けられる鹿のようである。


今回、リョーガが受けた依頼は〔フォレストウルフの討伐×5〕だ。その為、緑色の毛を生やした狼を追い回している。

初めは三匹居たのだが、リョーガの気配を感じ取ると同時に狼達は逃げ出した。

それも当然だろう。リョーガは、この辺り一帯を荒らし回り、魔物を片っ端から殺し回った魔物からすれば悪魔のような人間なのだから。


彼は、昨晩の件でグロテスクな光景に慣れた。だが、未だに内臓とかは苦手である。殺す事は可能だが、中身を見る事が出来ないのだ。


「待てって言ってるやろが!!」


「キャウゥンッ!」


逃げ回る狼に黒の剣(ブラックソード)を投げ付けるリョーガ。だが、それは外れ、狼の毛を数本切り落とすだけしか出来なかった。狼は冷や汗ものだろう。


そんなこんなで、森中を駆け巡ったリョーガは昼前にはフォレストウルフを五匹倒す事が出来た。

討伐証明部位をユースに切り取ってもらう為に、彼が更地にした荒野へと戻ってきた。そして、目にしたのはボロボロの姿になったユースだった。

必死に逃げてきました。激戦でした。とでも言わんばかりの表情で地面に尻を着いてゼーハーと息を切らせていた。


「ゴブリンは?」


「ごめんなさい…」


謝るしかできないユース。彼はゴブリン一匹にすら勝てないのだ。出来る事と言えば、薬草採取ぐらいである。

その為、彼の持つポーチには薬草がギッシリと敷き詰められている。


「はぁ…」


一瞬、ユートの顔が頭に浮かび上がり、胸が締め付けられるような感覚に陥るが、すぐに頭を振って思考を切り替える。


「取り敢えず、これから討伐証明と魔石を取り出しとけ」


「はい…」


フォレストウルフをユースの前に投げて置く。ユースは言われた通りの事が出来なかった為、破門されるかも。と不安に思ってしまい元気がない。


「その後、飯食うから」


だが、リョーガには彼の気持ちなど関係ない。全く考えたりもしない。

ドカッとその場に座り【アイテムボックス】からタバコを一本取り出して吸い始める。


紫煙が立ち昇る中、ユースは必死にフォレストウルフを解体する。リョーガは視線を空へと移して見ないようにしている。


「あ、せや」


空高く登っていく紫煙を視線で追いながらリョーガは声を発した。


「飯食ったら、お前を鍛えるから、そこんとこよろしく」


「…へ?」


何ともないかのように言うリョーガ。だが、ユースからすれば驚きの発言であった。


「僕、強くなれるんですか?」


「知らん。けど、俺のツレが言うからには出来るみたいやで」


視線は絶対に下ろさないリョーガは、ユートが言っていた事を思い出す。


『リリィが強くなったのって、たぶん、リョーガが関係してると思うねん』


『なんでよ?』


『分からん。ただの俺の仮定や』


何とも適当でユートらしい言葉だった。その数日後に居なくなった事まで思い出してしまい、少し眉を寄せて不機嫌になる。


「ツレ?ツレとは何ですか?」


「…友達の事や」


「そのお友達は一緒ではないんですか?」


「………」


ユースの言葉に更に不機嫌になるリョーガ。


「そんな事聞く暇あんなら、さっさと終わらせろや」


そう言って立ち上がる。


「どこか行くんですか?」


「お前が遅いから散歩すんねん」


ユースの疑問に空を見上げながら答えるリョーガ。もうタバコは吸い終えている。

彼が空を見上げているのは別の理由があるからだ。


「俺が帰って来る前に終わらせとけよ」


そう言い残して森へと歩いて行くリョーガ。

目尻に溜まる涙を空を見上げて落ちないようにしながら歩いて行った。

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