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クレイジー・アクセル 【略:クレアク】  作者: 九九 零@異世界モノ大好物
第1章〜どうやら、異世界に迷い込んだらしい〜
11/108


迷宮に入ってから一週間と一日。そんな短時間で、彼等は十一層まで辿り着く事が出来た。


リョーガが怪我した時は大変だったが、苦労する事なくここまで来れたのは、リョーガの力とユートの頭があったからだ。


リョーガの力は圧倒的で、ゴブリンから奪い取った棍棒一つで敵を殴り倒していた。雑な倒し方だが、彼は戦い方を学び、我流の型を編み出した。


ユートは、迷路のような迷宮のパターンを覚え、次の道までのルートを考え出した。少し考えれば、この迷宮は簡単な作りだったのだ。

なぜなら、魔物が多く出る場所へと向かえば次の層に行けるのだから。


そんな彼等は現在、ユートのスキル【ガレージ】で休憩中だ。


ユートはガレージの片付け。

リョーガは型の練習。

リリィは、そんな彼等を横目にユートの携帯でゲームをしている。携帯から流れる愉快な音楽が静かなガレージ内に流れ、彼等の耳を楽しませている。主にユート。


電波がなくても出来るユートお気に入りのブロックを横に並べて消すゲームーーテトリスの音楽、コロブチカだ。


難しい顔をしながらブロックを落とし、連続して二段消せた事に喜ぶリリィ。そんな時、彼が不思議そうな声を上げた。


「あれ?あっれぇ??」


ユートだ。彼は、迷宮で集めた素材などを入れていた袋を覗き込み、顔を上げたと思えば、首を傾げている。

中身を全て出し、またもや首を傾げる。


「どうしたの?」


ゲームを一時停止してからユートの方へと視線を向けて尋ねる。一応、彼の周りに視線を向けて原因を探ったが、分からなかった。


「えっとな……いや、やっぱ何でも無い」


ユートは何かを言おうとして、首を横に振った。そして、他の袋を裏返して中身を出してからPCの方へと歩いて行った。


「あいつ、いつもあんなんやから放っといてええで。気にしてたらキリ無いからな」


汗を服の裾で拭きながらリリィの元へと歩み寄るリョーガ。


「そうよね…」


これまでのユートを見ていると、そうとしか答えようがない。リリィが持っている携帯を貸してくれた時だって「暇そうやな。これしときや」と、なんの前触れもなく、ゲーム画面を開いた状態で渡されたのだ。

彼はリリィを想って渡したのだろうが、使い方や書いている事などサッパリ分からなかった。その為、リョーガにやり方を聞いてようやく出来るようになった。


彼はいつも何を考えて行動してるのかなど、彼等には理解不能だ。指示は素直に従い、色々な提案も出す。だが、たまに良く分からない行動を起こす。


唐突に料理を作り始めたり、集めた素材で器用に何かを作ったり、狭いガレージ内で走り回ったり、体操をし始めたり、ストレッチを開始したり。と、本当に自由だ。

一度だけ、彼はバイクに乗って迷宮を走って行った事もあった。帰ってくる時は大量の魔物に追われていた。


回想を思い浮かべ、苦笑いを浮かべるリリィ。

隣のリョーガはタバコを吸って紫煙を立ち昇らせている。


「おっ!なんか知らんけどラッキー!!」


そんな時、PCに向き合っているユートが喜んだ。マウスを激しく動かしてカチカチとクリックする音がガレージ内に良く響く。


「どないしたん?」


ユートの突然の喜びが気になったリョーガが歩み寄る。

リリィも一緒に向かおうと思ったが、ゲームが途中だったのを思い出し、何度か視線を交互に向けて迷い、ゲームを選んだ。


「GP貯まってたんよ。これで試せるで」


「おぉ、やっとか。で、何したら貯まったん?」


「俺の予測やけど、魔石やと思う。だって、さっき片付けしてたら魔石だけ消えてたから」


「え?それって、集めた魔石全部なん?」


「いや、始めに集めてた魔石だけやな。袋一つ分消えてた」


「それなら、まぁええか。で、何できるん?」


「それを今からやってみるとこやなっと」


カチッと左クリックをする。そして天井を見上げて「あぁ〜」と納得したような声を上げてから、言う。


「次回のお楽しみってやつやな」


「なんやねん。結構楽しみにしてたのに」


「ハハハ。別にかまへんがな。楽しみは後の方が一番オモロイやん」


「焦らしプレイ?」


「んー、そんな感じかな?」


「ハッハー、ほな楽しみにしとるわ」


話は終わったのか、無言でPCを覗き込むユートとリョーガ。

ガレージ内には携帯ゲームの音楽と、ユートが操作するマウスのカチカチ音が鳴っている。

携帯ゲームの音楽に合わせてカチカチと鳴らすのは、ユートが上機嫌な証拠だ。



それから数時間後。


「いっちょ上がり!」


迷宮内を徘徊していたゴブリンナイトとの戦闘を終えたリョーガが決め台詞を言った。彼は決め台詞にハマっている。


ちなみに、このゴブリンナイトはボスではない。この層にはウヨウヨと居るのだ。


ユートがドロップ品を回収し終えてから、次の層への入り口を探し始める。と、言っても魔物がいる方向へと歩くだけだ。


そんな時、ユートの耳が僅かな音を捉えた。聴こえるか聴こえないか程度のとても小さな音。なのに、耳に障る音だ。


「なんか聴こえんねんけど」


二人にも聴こえているかの確認を取る。だが、二人の耳には聴こえてないようで、首を傾げてから先へと進み始めた。


ユートも二人とは別の意味で首を傾げる。

二人の後を付いて行きながら、まるで耳鳴りのように聴こえてくる音について考える。


まるで、洞窟内全体から発せられているような感じに聴こえてくるその音は、ギギギギギッやカチッカチッなどの機械の動く音を壁の奥から鳴らせている。


彼はこう見えて整備士見習いである。変な臭いや、機械音などを決して聞き漏らさない。そんな彼だからこそ、この小さな音が聞き取れたのかもしれない。


「まぁ、ええか」


だが、彼はその音に危機感を持たず、それが命取りになるとも知らずに気にしない事にした。


リョーガ達は歩く。途中で出会うゴブリンナイトやゴブリンアーチャーなどの魔物を倒しながら進む。

彼等の強さを持ってすれば、この層の魔物は弱く感じられる。たった三人。厳密には二人のパーティーだ。なのに、余裕を持ってリリィが到達出来なかった階層まで辿り着けている。


だから、彼等は油断した。


なんの苦もなく、いとも簡単に進めている。だから、彼等はこれからの事を予期しなかった。


「おっ、あったあった」


先頭を歩くリョーガが次の層へと降りる階段を見つけた。それは、角を曲がった先の突き当たりの壁にポッカリと穴が空いた場所だ。

ここから、数十メートル直進した位置にある。


「なぁ、リョーガ…」


「はよ次行って休憩しよや」


ユートが何かを言いかけたが、最後まで聞く事なくリョーガは早歩きで進む。


「私も、お腹すいたわ」


リリィはユートが作る料理が好きだ。次の料理は何だろう。と想像を膨らませながらリョーガの後を付いていく。


そんな彼等を一番背後から付いて行くユートは、やっぱり、大丈夫やんな…。と不安げに自分に言い聞かせる。

耳に障る音は消えない。まるで、未来を刻むかのように鳴り続けている。それが、ユートに不安を与える。


階段まであと半分の距離まで移動した。後少しだ。次を楽しみにするリョーガの心はワクワクが止まらない。早く次を見たいと、はやる気持ちを表に出してより急ぎ足になる。


そして、何かを踏んだ。


カチッとスイッチでも押したかのような音が鳴った。


「なぁ、今の音って…」


「俺やな…」


ユートの問いに答えたのはリョーガだ。


「ちょっ!何言ってるのよ!?罠よ!?逃げなきゃ!」


リリィが焦った言葉を投げ掛けた。途端、ガコンッと音が鳴り響いた。

何かが起こるかも。と身構える三人。


「………あれ?」


「何も起こらんな」


だが、数秒待っても彼等の身には何も起こらなかった。ユートを除いて。


「あ…」


運悪く、彼が立つ場所の地面が崩れ落ちた。

咄嗟に反応できたリョーガは、手を出してユートを捕まえた。だが、空いた穴は広がり始めている。まるで、周りの者を巻き込むかのように、滝のように砂が流れ落ちる。


「ヤバッ!?」


リョーガも落ちそうになり、数歩後ずさる。だが、ユートの手は離さない。

脇腹の痛みが増して顔を顰めながら、ユートを重たそうに引き上げる。


「逃げるで!」


リョーガの一言で、一斉に階段まで駆け出す。

広がり始めた穴は勢いを徐々に増し、彼等を深く底の見えない穴に吸い込もうとしている。


一番初めにリョーガが階段の元へと辿り着いた。だが、脇腹が痛いのか、顔を顰めながら押さえている。そこからは血が滲み、傷が開いた事が明らかだ。


次に辿り着いたのはリリィ。即座に後ろを振り返り、穴に追いつかれそうになっているユートへと手を伸ばす。

ユートも、地を蹴り上げて飛び上がる。そして、リリィに手を伸ばす。

が、届かない。あと数センチの距離が足りなかった。もう、彼の足元には地面がない。底なしの穴だ。


「っんなろ!」


そんな声と共にリリィの隣から新たな手が伸びた。そして、ガシッとユートの手首を捕まえた。

諦めかけていたユートに光が見えた。穴の広がりも止まり、後は引き上げるだけだ。

なのに、ユートは不安を覚えた。


明らかにリョーガは無理しているのだ。もう片方の手は傷口を抑えているが、脇腹辺りの服が血で染まり、地に滴っている。

だから、始めみたいにユートを持ち上げれないでいた。脇腹を押さえながらユートを掴んでいるのが精一杯なのだ。


「キィキャ?」


まだ彼等の不運は続く。

穴を挟んだ向こう側にゴブリンが一匹やってきた。全身に鎧を着ている事からゴブリンナイトだと分かる。


ゴブリンナイトは遠距離攻撃が出来ない為、向こう側からリョーガ達に敵意剥き出しの視線を向けているだけしか出来ない。


だが、ゴブリンナイトが取った行動が不味かった。


「ギャッギャッギャーー!!」


突如、剣を掲げて叫び始めた。その行動の意図を彼等は良く知っている。


リリィもユートを引き上げるのに加わり、力を合わせる。人の身体は案外重たい物で、簡単には持ち上がらない。勿論、ユートも片腕で身体を持ち上げようとしたが、肘が少し曲がっただけだった。


「動くなやっ!」


ユートが起こした行動で、一瞬だけ重さが倍増した。だから、リョーガは叱った。だが、彼には同じ行動をするほどの体力が残っていない。


ジワジワと削られる体力。そんな中、一本の矢がリョーガの右肩に突き刺さった。ユートを掴んでいる方の肩だ。

苦痛に顔を歪め、一瞬、ユートの手首を掴む力が緩んでしまった。すぐに掴み直したが、掴む場所が手首から手に変わってしまった。


ユートは余り汗をかかない体質をしているのに、死を目前にして汗だくだ。その為、とても掴み辛い。


「『黒の盾(ブラック・シールド)』」


即座にリョーガがスキルを発動して次々に飛んでくる矢を防ぐ。だが、防げる場所には限りがある。

汗ばむ手を必死に話さないようにするユートにも矢は飛んでくるのだ。


「クソッ、後で覚えとけやクソゴブ野郎共が」


盾の陰に隠れながら毒を吐くリョーガ。だが、両手が塞がっているので、今すぐには行動できずにイライラを溜めている。


「いぐっ!?」


ユートの尻に矢が刺さった。

標的が動けない事を良い事に、ゴブリンアーチャー達は、的当てのように矢を放つ。そして、命中すれば喜ぶ。


何本も矢が放たれ、ユートの脚に、背に、左腕に矢が何本か突き刺さっている。折れているのもある。

リョーガの脇腹の怪我は完全に開き、抑える手も無くなってしまった事で、壊れた蛇口のように血が漏れ出している。


「頑張って!すぐに上げるから!」


リリィもユートを励ましながら引き上げる為にリョーガの腕を掴んで力を込めているが、持ち上がる気配はない。


完全に詰んだ。


全身から訴えられる痛みに泣きそうになりながらユートは思った。

なんとかして生き残る方法を脳をフル回転させて考えるが、打開策は思い付かない。

だが、手がないと言えば嘘になる。出来れば決行したくない方法が一つある。


リョーガの顔を見れば、苦痛に顔を歪ませながらもユートの手を離さんと必死だ。

リリィもリョーガの傷を心配しながらも、必死にユートを持ち上げようとしている。

彼等は盾に隠れる事が出来ているが、ユートの場所まで盾の有効範囲は届かない。だから、背から矢を受ける。


「うぅぅ…」


痛みが薄れていく。それは、決して血を失いすぎたからではない。余りの痛みに痛覚が麻痺してきているのだ。

既に腕に力を入れる事が出来なくなっている。それは、力を力を込めれば体から血が噴き出すから。ではなく、力が入らなくなっているのだ。リョーガに掴まれているだけの状態である。


穴に落ちても、このままでも結果は同じだ。


ユートを必死にこの世に繋ぎとめようとしてくれている二人を見ながら思う。

力がないユート自身が取れる行動は一つしかない。だが、それを行う勇気が出ない。


リョーガは、ユートを引き上げようとしながら思考する。『どうすれば、持ち上げれるか』と。だが、良い案は思い付かない。

リリィが手伝ってくれていても、彼女の力は弱く、スズメの涙ほどにしかならない。


持ち上げる力とは、人と喧嘩したりする筋肉とは別の筋肉が必要となる。そして、この中で一番それを持っているのは、ユートだ。

怪我しているリョーガとリリィには彼を持ち上げる事が出来ない。


「なぁ、リョーガ」


「なんやねん!」


俯き、穴の底を見つめるユートが震える声でリョーガに呼び掛けた。


「痛いねん…」


「文句言うなやっ!」


リョーガの握力は見た目によらず強い。だが、そんな事を言っている訳ではない事は彼を見れば分かる。

身体のあちこちに受けた傷の事を言っているのだろう。


「あのな、俺、向野の事、好きやねん」


「キショイわ!手放すぞ!」


「ハハハ…友達としてやって」


「それなら、そう言えや!つか、喋んな!!」


こんな時に限って、ユートは冗談を言う。いや、こんな時だからこそ、彼は冗談を言うのだろう。


「…なぁ」


「なんやねん!」


「手、離してや」


「何言っとんねん!死にたいんか!?」


汗でよく滑る手を強く握りしめながらユートに怒声を浴びせる。


「ちゃうやん。このままでも、俺、死ぬやん。せやからさ、もうええで」


顔を上げて笑みを作るユート。だが、彼の表情は完璧な笑顔には程遠い。恐怖を隠そうと無理している笑みだ。


「は!?ふざけんなや!なんで諦めんねん!まだいけるわ!」


「その身体で?よく言うやん。あんた、かなり重症やで」


「お前も人の事言われへんやろが!」


盾を投げ捨てでもユートを持ち上げたい気持ちに陥るリョーガ。だが、そんな事をすれば、隣のリリィまで矢の餌食になってしまう。

だから、彼は盾を離せない。勿論、ユートの事も離せない。


「楽になれって」


ユートの表情から徐々に恐怖が消えていき、慈しみが見え始める。


「っざけんな!!」


甘い悪魔の声のように囁くユートに怒りと苛立ちを含んだ声で言った。だが、ユートの言う通り、今すぐにでも楽になりたい。


「はぁ、リョーガ。一つ教えたるわ」


溜息を吐くユートの背中に新たな矢が突き刺さった。だが、その痛みは感じられない。以前に受けた傷が痛すぎて刺さった事自体分からないのだ。


「二兎追うものは一兎も得ず」


言い終えると同時にパッと手を離した。いつ離れてもおかしくない程に汗で滑り易くなっていた為、簡単に離す事ができた。


「リリィを大切にしーや」


「あっ!?」


重力と言う逃れる事が出来ない鎖に縛られ、穴に吸い込まれるユート。最後の最後まで友達想いで、優しい笑みを浮かべて言った。


「ま、待てや!」


リョーガは落ちていくユートの手を掴もうと、穴に身体を乗り出す。それを必死で落ちないように抑え込むリリィ。

彼女は哀しそうに顔を染めているが、目の前で人が死ぬ事には慣れている。だから、こんな時にまで冷静に行動できた。


「この、バカ野郎がぁ!!」


笑顔のまま暗闇へと消えたユートへと激しい怒りのこもった声を投げ掛ける。

その声は、穴の壁に反射して山彦(やまびこ)となって帰ってきた。


足場のある場所へとリリィによって戻されたリョーガは脱力し、呆然と穴を見つめる。

リリィも穴へと視線を向けたが、矢が止んだわけではない。即座に取り落とされた盾を拾い上げて、矢を防ぎながらリョーガを階段下へと引き摺るように運んだ。

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