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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
エリア2編
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25.ウィルスバスターの憂鬱

 外の世界は思い通りにいかないことが多い。

 ユーセンは寒空の下、牧原と肩を並べて歩きながら痛感した。


 外に出たからといって皆と遊べる訳じゃなかったし、むしろ内側にいた時の方が皆とうまくやれている気がした。


 ユーセンは守るために造られたのであって、愛されるためには出来ていなかったようだ。


 外では体も思うように動かない。

 体が動かないことは守ると言うユーセンの使命を果たすことが出来ないし、使命を果たせないことはアイデンティティの崩壊だった。


 唯一の使命もままならない今。

 何を一体どうしたらいいのか分からなかった。

 

 キャシーのお気に入りの歌で『憧れは憧れのままで』と言う歌詞があるが本当にその通りにだと思う。

 憧れにしておかなかった結果樹は三内丸山という雑魚に連れていかれた。


 ドロリとした落ち着かない気分だ。


「テツ、コレは何だ?」

「コレって?」

「何だかモヤモヤするぜ」


 テツはうーんと唸った。


「何だろう?ユーセン君の知らない感情みたいなものかな?心配、疲労、憤怒……挫折?」

 何だか妙に最後の単語だけ耳に残った。

 言葉の意味は分かる。

 けど、認めたくないし。

 複雑なこの思いを一言で表されるのも嫌だった。


 だって言い表わされるということは、この感情はユーセン一人だけのものではない、普遍的なものだということだからだ。

 言葉を教えてくれたテツ、キャシーにリーコ、和泉に山城皆が体験したことがある。

 こんなに嫌で苦しいのに、皆平気そうに外で生きている。


 自分一人だけが燻っている。

 

「ユーセン君、今樹君は丸山君と一緒にいるんだよね?」

「おう」


 テツは口の形だけで笑った。

 この顔はリーコが大切なデータを飛ばしてしまったり、和泉が限定フィギュアを手に入れられなかった時に見せる顔だ。

 つまりは人が安心や慰めを必要としている時に見せる顔。


 この顔をされるということはよほど酷い顔をしているらしい。


「大丈夫。三内君と丸山君はいずれ接触をはかってくるはず。これと引き換えに」

 テツが出したのは三内丸山が大量のゴミと一緒に運び出した筈のレディバグだった。

 赤と黒のカラーリングは間違える筈ない。


「何でテツがコレ持ってんだ?」

「盗んだはいいけど、落としちゃったみたい」

「お間抜けな奴らだぜ。」

 そんな奴らにも外では敵わない自分が情けない。


「ユーセン君はコレが盗まれたの見てたんだよね?」

「見てたぜ。おいらもその時持ち出されたんだぜ!」

 そのせいでとんだ目にあった。

 チェーンソーでメタメタにしたいところだが今の姿では手も足も出ない。

 ユーセンはギチギチと歯ぎしりした。


「何に使うか言ってた?」

「いいや」


 テツはうーむと考えた。


「一体何を企んでるんだろう?樹くんを誘拐しようとしてたのも気になるし。樹君に用があったのか?」

「中身が入れ替わったのはバレてなかったぜ」

「考えてもみないだろうね」

「ジュニアのヤツとろいからな。うっかり口を滑らせなきゃイイケド。テツ、悪用されるかもしれないのに渡してもいいのか?」


「もちろんダメ。でもなぜか中身が空になってたんだ。そのことまだ知らないみたいだし」

 テツは飄々と言い放った。

 要するに騙して樹と空のレディバグを交換するつもりでいるらしい。


「あ、ほら和泉から電話だ。丸山君に会えたんじゃない?」


 テツははーいと間伸びした返事で応答した。

 あっけない幕引きだ。


 もう外の世界に未練などない。

 かと言って内側に戻りたいとも思えなかった。

 もし戻ることになったのなら、今全国で活躍しているユーセンにも外の様子や厳しさがしれてしまう。

 ユーセンは全個体5分毎に辛いことも何もかも全て共有される。


 外を夢見ていた方が何倍も今より良い。

 だから元の姿に戻ったら記憶を消してしまおうかと考えている。


「うん。うん……うん……?」

 テツは電話を手にだんだんと声のトーンを落としていった。

 それは良くない知らせなことが明白で不安な気分にさせる。


「なぁなぁ!」

 それが嫌で、意味もなくテツにちょっかいをかける。

 それをテツは苛立たしそうに追い払うわけでなく、手の平で壁を作るように制した。

 電話に集中したいという強い意志が感じられた。


「わかった。一旦切るね」

 そういうとテツはやっとスマホを下ろした。


「ユーセン君。たしかに丸山君と合流したみたいだけど、樹君いなかったみたい」

「何でだ?」


「誰か、女の子が連れていったらしい」

「誰かって誰だ?!」

「それは分からないけど……」


 側から見ればただの縫いぐるみだが、あれには一つ中身が王野樹という特異点がある。

 それを手に入れたいと思うのは一人しかいない。


「ちょっと待ってユーセン君!その身体換えが効かないんだよ?」

 牧原が伸ばした手をするりと交わしてユーセンは走り出した。


 換えが効かないから大事。

 だったらいつでも換えが効くおいらは一体何なんだろう?


「でも今はおいらのだ!」

 振り返りながら叫んだ。

 

 目指すはエリア2を分断する山の中腹。

 そこに行けば樹を連れていった犯人がおびき寄せられる筈だ。


 


 山の中腹には寺があり、深夜の今の時間は中に入れないようにバリケードで閉鎖されていた。

 建物には興味のないユーセンはその横を素通りし、左都を一望できる展望場へ向かった。

 ここはお寺とは関係のない場所なので出入りは自由だ。


 落下防止用の手すりに手を掛け下を覗き込む。

 はるか下の方に山肌が見えており、試しに足で落とした小石があっという間に奈落の底に吸い込まれた。


 これだけの高さがあれば大丈夫だろう。

 

 寺の屋根の上に雀が集まってきた。

 夜の文化財に悪さしないように見にきたようだった。


 ユーセンが手をかけている柵は、膝の高さと腰と胸の間の高さに二本太い横棒がある。

 両腕で体を支え下の棒に右足を掛け、左足を上の棒にかける。

 そうしてから右足も上の棒にかけた。

 体を支えていた手を離し、ゆっくりと立ち上がる。


 柵に下駄の溝が上手くはまってるが、まだぐらつく。

 身体が傾くと手をぶんぶん振り回すと戻ってこれる。


 ピーピーと雀が鳴く。

 踏み越えては行けない場所に入ったからだ。


 くるりと向きを変え、柵の上を歩いた。

 身体が傾くたび樹の心臓がフワリと主張する。

 コレが生存本能というものだろうか。


 足を滑らせて、大きく身体が傾いたので腕を振り回す。

 だが限度があるようで戻れなかった。


 体が完全に傾く前に足を踏み外し、柵に太ももを強打する形で腰を下ろした。

 洋子から借りた草履は遠くに見えるビルと同じ大きさだ。

 足をプラプラさせるとその反動で体がふわりと奈落へ吸い込まれそうになる。


 ピーピーピーピー。

 数を増しているのか耳障りな音はドンドン大きくなる。


「そこから離れて」

 雀の音に混じり女の声が響く。


「やっと来たな」


「まずそこから離れて。先輩の身体に傷一つ付けてみなさい」

「おいおい。そんなこと言える立場か?」


 目の前の少女、佐藤美沙の言うことを聞くのはシャクだが、警戒音がピーピーとうるさいし柵から飛び降りた。

 もちろん柵の内側に。

 それを境に雀達が鳴きやんだ。


 樹の身体を餌に美沙をおびき寄せる作戦はまんまと成功した。

 わざと身体を危険に晒せば美沙は止めに来るだろうと踏んだのだ。


「おいらの身体はどう使おうか自由だぜ」

「あなたの身体ではありません。先輩の御身体です」

 当の御身体の持ち主は美沙の腕の中で震えていた。

 

「カラダじゃなくってオカラダって言うあたり気持ちわりーな」

「……なのであなたが中に入っていることに我慢できません」

「無視かよ」


 そういえば美沙は人の都合を考えず自分の都合を押し付けてくるタイプのユーザーだと思い出した。

 ただし、その押し付けがPC画面上を漂うだけのウィルスバスターに向けられることはなかった。

 なので今まで樹へ一方的な愛を押し付けているのをPCの片隅で傍観していたが、実害が出ている以上は見過ごせない。


「監視ロボへの不正アクセスは一応犯罪だぜ?」

「不正アクセス……?!」

 美沙の腕の中で樹が悲鳴をあげた。


 樹が驚くのも無理はない。

 監視ロボを統括している監視省のセキュリティシステムは強固なものだし、情報の漏洩は重要な国民にたいする規約違反で国家問題である。


 美沙が樹の身体が危険に晒されているとわかったのも、このセキュリティシステムを通じて樹の動向を逐一チェックしているからだ。


「不正アクセスをストーキングだけのためにやっちまうなんてとんだヤローだぜ!是非ともBONにスカウトしたい人材だぜ」

「考えておきますね」


「まぁ、話はこの位にして、ジュニアを返してもらおうか?」

 やっと活躍する時が来たなとユーセンはほくそ笑んだ。

 いくら樹の体でも非力な少女一人に負けることはないだろう。


「ハイ。」

「え?」

 

 呆気にとられるユーセンを他所に美沙は樹の身体を大事そうに抱えてこちらに近づいてきた。

 赤ん坊を抱える母親だってここまで丁寧ではない。


「勘違いしないでください。あなたに従いたいからそうしている訳ではありません。先輩の美しい御身体にはそれ相応の、つまりは先輩そのものに入っていて頂きたいからです。あなたに託せば元に戻ると考えてのことです。嗚呼先輩、寂しいですが……」

美沙はそういいながら樹を差し出し、樹は全く名残惜しくなさそうにこちらに飛びついてきた。


「おい、ちょっと待て!戦わないのか?!」


 守ること。

 戦うこと。

 それがユーセンのアイデンティティ。


 小さくなった樹にしか向いていなかった美沙の視線がやっとユーセンの方に向いた。


「先輩を傷つけるような野蛮な真似はしないのです」

 それだけ言うと美沙の瞳には再び樹しか映らなくなった。


「先輩、気をつけて下さい。あの二人組は監視ロボが抑制として働いていません。何かしらの方法で監視ロボに映らないようになっているようなんです。おかげで先輩を見つけるのが遅くなってしまいました。」

 佐藤美沙は恥ずかしそうに笑った。

 本人が震えていようがお構い無しだ。


「引き続き、葵さんや山下さんとの関係を続けて下さい。それが何よりの防衛策です。それでは、引き続きご褒美旅行をお楽しみください」

 美沙は何事もなかったかのように背を向けた。

 明かりの乏しい道を少女一人でルンルン歩く姿は、ユーセンと樹の目には気味の悪いもののように映った。


 活躍の場を奪われたユーセンはしばし呆然とするが、腕に樹を持っていることを思い出した。


「おいジュニア大丈夫か?」

「ユーセン君……!あ、ありがとう!死ぬかと思った……!」


 樹は情けなくユーセンの着物にすがりついた。


「おいらが窓から投げたのに……まぁ早く帰ろうぜ」

「え?ユーセン君もう外の世界はいいの?」


 真華の一件以来、樹のラップトップは数少ない自由にお喋りできる場所だった。

 樹はたまにならお喋りに付き合ってくれるので、その時に『外に行きたい』とボヤいたのだった。


「……もういい。思ったのと違った」

「そうなんだ」


 早く帰って、外の世界を知らないあの頃に戻るんだとユーセンは心に決めていた。


 遠くの方から牧原と和泉の呼ぶ声がした。

 二人の後ろから冬だと言うのに汗をかきながら坂道を登ってくる山城の姿も確認できる。


「おせーぞ、お前ら!」


「流石ユーセン君。取り返せたみたいだね」

 牧原が樹の姿を見てホッとしたような表情を見せたので誇らしい気分になる。

「当たり前だぜ」


「あ、あの……どうやって元に戻れば……?」


 牧原は多分と自信なさそうに前置きして口を開いた。


「取り敢えずゲームセンターに行こう。そこでならもしかして戻せるかも」


 ユーセンはやはりそうかと思い大した反応はしなかった。

 樹はまるで理解していないようで首を傾げ、黄色いツノを揺らした。




 それから30分後。

 樹とユーセンは初めてRPAの世界の大地を踏んでいた。


 気がつくとユーセンは本来の自分の姿に戻っていた。


 精神だけを仮想世界に送るRPCを、中身と外身に分解する機械として使い、RPAでの外見情報を操作することにより元に戻ることができたようだ。

 今頃RPCの外では牧原達がリアルの世界でも元の姿に戻れるように機械に細工している頃だろう。


 樹が元の身体に戻ったら今回の事件は一件落着だ。

 さて、情報の共有が済む前に外の世界に関する情報を消してしまおう。

 でもいきなり消えると不具合を疑われるので樹だけには一言言っておこう。


 ユーセンは草原に佇む樹の姿を見つけた。

 樹は何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回している。

 その様子はなんとも頼りなくって、ユーセンは溜め息をついた。


「おーい。ジュニアこっちだ」

「あ、ユーセン君」

「『あ』ってなんだよ」

 樹よりも何回りも小さくなったので自分を探しているかと思ったがどうやら違うようだ。


「ごめん。なんでも無いよ」

 樹は草むらにいるユーセンを拾い上げた。


「誰か探してんのか?」

「うん……」

「ハハーン。さては『リリ』だな?」

「バレた?」

 へへへと樹は笑ってごまかした。


「もしかしたらとか思ったんだけどね。粘着質だから」

 樹はユーセンを美沙がそうしていたように抱えた。


「そんなに会いたいのか?想像と違うかもしんねーぞ。そもそもお前のこと覚えてなければどうすんだ?」

「その時は……友達ぐらいにはなれるといいな」

 

 そう言って笑う樹の笑顔は悲しそうに見えた。

 そんなに辛いのに進んで関わろうとするその感情をユーセンは理解し難かった。


 人は記憶を消去することはできないのだから、傷つかないために距離ぐらいとってもいいのでは無いかとユーセンは思うのだった。


『二人とも、大丈夫?上手くいってるみたいだね。今から戻す作業はじめるよ。』

 天から牧原の歌うような美声が降ってきた。


「上手く戻れるかな?」

 樹が気を紛らわせるようにユーセンの手をフニフニ触り始めたので、今から消えるとは言いづらくなった。

 記憶に消去は樹と別れてからでもいいだろう。


 視界が黒く濁り始めると樹の腕にはいよいよ力が込められた。




「ユーセン君?」

 次に目を開けた時には牧原の顔が見えた。

「おう!」

「良かった。うまくいったみたい」


 周りを見回すと静かなゲームセンターがあった。

 松田カンパニーの力を駆使して店内を営業時間外に無理に開けてもらっているため、他のゲーム機には電源が入っていない。

 

「どう?その身体?ユーセン君が新しいウェポンが欲しいって言ったから作ってみたんだけどどうかな?」

「悪くねーぜ」


 ジュニアのお古になったじゃねーかということは、約束を忘れていなかったことに免じて言わないでおいてやった。


「こっちも大丈夫!」

 樹の安否確認をしていた山城が声を張った。

 ユーセンのとなりの機体に座っていた樹は、自分の顔を触ったり、手を前に伸ばして眺めてたりしていた。

 やがて樹はヨロヨロと立ち上がり、臀部と太ももにかけてさすりながら首を傾げた。


「あの……ユーセン君。お尻どっかぶつけた?じんじんしてるんだけど?」

「しらね」


 ユーセンはあえて無視して牧原に向かって手を伸ばした。

 流石に飛べるようにはできていないようなので、移動は人の上に乗るのがマストだ。

 牧原はハイハイと言いながら肩の上にユーセンを乗せた。


「早く帰ろうぜ」

 早くPC内に戻って昨日から今日にかけての思い出を綺麗さっぱりと消してしまいたかった。


 それなのに樹は引き止めるように話しかけて来た。

「待ってユーセン君。もし良かったら……」 

 ジュニアの口から出た言葉に呆れ、どこまでもお人好しなのだと再認識した。





「で、連れてきた訳か」

「うん。フードに入ってれば手もかからないし」


 親友がユーセンに対して甘いのが気にくわないらしく、永久は顔をしかめていた。

 樹のフードの中から永久を見下ろして、ベーとして引っ込んだ。

 樹のフードは冬用の柔らかい生地で出来ていて中々心地がいい。


「それにしてもジャストフィットだな!」

「そうだね。ユーセン君の巣って感じ」


 木林森の顔はすぐ目の前にあって、和馬の顔は少し見上げるところにあった。


 これから学生達に混じってエリア2観光に同行することになっている。

 PCの中に入って記憶の消去を行うのはもうちょっと後でもいいかと思うのだった。


 

読んでくださり、ありがとうございます!

予告通り毎日更新は今回で終了になります。


今後の更新は不定期にしようと思います。長期連載停止認定されないようにしていく所存です。しかし無計画に更新していると気付いていただけない可能性があるので、もし更新する時は金曜日ということにしておきます。よろしければ、更新した時にわかるようにブックマークをお願いします。


今後のストーリー展開は、桜と山下そして洋子さんの話。池の水伝説の真相についてです。ストーリー展開だけでなく、誤字脱字が酷いので修正もしたいと思います。


引き続き、よろしくお願いします。


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