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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
エリア2編
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21.ヌイグルミ、夜を駆ける


 松の湯屋504号室。

 ユーセンは緊張の面持ちで部屋の前に立った。


 世界で一番美味しい食べ物をお土産として持っている。

 準備は万端だ。


 みんなと一緒に食べれば、喉がチクチクしないで食べれるし美味しいだろう。

 誰かがチクチクし始めた時のためのお水もある。


 急に外に行ったので皆寂しがってることだろう。

 ユーセンはトントンと戸を叩いた。


「開いてるから入って!」

 中から和馬の声がした。

 テツも皆中で待ってるかも知れない。


「ただいまだぜ!」

 ユーセンは戸を開け放って中に駆け込んだ。


 そこには和馬、葵、優太、永久の姿があった。

 みんなの呆然とした顔が目に入る。


「そんなに見んなよ!照れるぜ!」

「ユーセン?!」

 優太が声をあげた。


「お土産持ってきたぜ!」

 金平糖を見せても一同の表情は一向に変わらない。


「そんな場合じゃないだろ!」

「なな?!」

 永久が布団から起き上がりながら睨みを効かせてきた。

 永久はユーセンがこの姿になってからと言うもの意地悪だ。


「お前にゃヤンないもーん!」

「それでいいよ」

「な、なんだと?!」


「ユーセン!その着物どうした?その金平糖も!……盗ってないよな?」

「あ、あったりめーだ!ヨーコに貰ったもーん!着物は返すもーんだ!!!」


 誰一人として歓迎していないじゃないか。

 ユーセンは最後の望みと和馬に目を向けた。


「和馬!なんとか言ってやってくれよ!」

「ユーセン君。人の体で勝手に出歩いて。今テツ達君を探しに行ってるんだよ……なんか言うことあるよね?」

「なな?!か、かずまも?!」


「イツキもなんか言ってやんなよ!」

 こちらに顔だけ向けていた葵があぐらをかいたままこちらに体を向けた。

 あぐらの上には小さなウィルスバスターが乗っていた。


「ユーセン君!そろそろ体返して!」

 自分の格好をしたイツキがユーセンに手を伸ばしてきた。


「う、動いた?!なんだそれ?!」

「テツ達が作ったんだよ」

 和馬が代わりに答えた。


 ユーセンがどんなに望んでも画面の外に出してもらえなかったのに樹はあっさりと出してもらえた。


 それにユーセンは気がついた。


 5人が円を描くように布団の上にだべっている。

 その真ん中にはトランプとお菓子。


 画面の外に出たらやりたかったことのセットがそこにあった。


「なんだよお前ら!!!」

「「「こっちのセリフだよ」」」

 ユーセンの怒りは三重奏になって返された。


 誰も帰りを待ってなんていなかった。


 ユーセンは金平糖を握りしめた。

 それなら喉が乾くだけの金平糖なんていらない。


 ユーセンは左手で持っていた水を布団の上に放った。

 首を傾げる5人を無視して、金平糖の口を締めてあったモールを取り払う。

 傾けて手に山盛り乗せる。


「ユーセン君?」

 覗き込んできた和馬の顔めがけて力一杯金平糖を投げつける。


「痛っ!」

 数個は顔に命中し、布団の上に落ちたり、壁に当たって跳ね返った。


 一同が騒然としている間にもう一度手に取り今度は優太、永久に向けて投げつける。


「やめろ!いで!」

「投げるな!」

 二人は手や腕でガードした。


「アオイ!」

「ナンダ?!」


 葵には顔より上に一粒投げつけた。

 葵は素早く跳ねてパクリとそれを食べて、回避した。


 これを待っていた。

 ユーセンは葵の視線が上を向いたのを見て、足元の樹を掴み上げた。


「ヒィ!」


 おいらの姿で情けない声出すな。


 皆が金平糖にあたふたしている間に窓を開け放った。


「えっ?!ちょっと?!やめてぇえええ!!!」

 ユーセンは構わず樹を宙に放った。


「あぁ?!?!イツキ!!!」

「お前!何したか分かってんのか?!」


 面々は窓の外に注目したがそこには夜があるだけだ。


「知るか!お前らがっ!お前らが悪いんだよぅ!」

 ユーセンは急いで部屋から逃げ出した。



 部屋には学生4人取り残された。


「イツキぃ!大丈夫か?!おーい!!!」

 優太は下に向かって叫んだ。

 返事はない。


 代わりに横から別の返事が聞こえた。


「コォラァ!!!木林森!今なんか投げたか?!大声出すな!!!」

 見ると隣の部屋から、小声で怒鳴るという高等技術を駆使ししながら学年主任の後藤が顔を出していた。


「今から見回り行くからな?そこで待ってろよ?」

「へい……」

 優太は大人しく部屋に顔を引っ込めた。


 そこで目に入る風景は、散乱した金平糖。

 一人いない男子。

 代わりにいる女子。

 

 今からでもどうにかなりそうなものは?


「集めろ!!!葵は隠れろ!!!後藤が来る!!!」


 その合図で一斉に部屋にばら撒かれた金平糖を集め出した。






「ナイスキャッチ愛希!さすがの反射神経!」

 樹は放心状態で宙づりにされていた。

 気を失えるものなら気を失っていただろうが、ユーセンの体はそんな機能備わっていないようだった。


 助かったのだと気がついたのは、体がクルリと反転して愛希と目があってからだった。


 目があったように感じられたのはほんの一瞬のことで、愛希は直ぐに視線を上にあげた。


「今優太の声が聞こえた気がしたんだけど……」

「気のせいじゃない?」


 愛希の肩越しに唯の姿も見えた。

 二人は浴衣の上に上着を羽織った姿でいた。


「あ!ユーセンじゃん!かわいい!しかも結構新しそう!」

 唯が愛希に向かって空いた手を振ったので、樹はぽんと唯に手渡された。


 唯が裏を向けたり、ひっくり返したりするので、樹は石になることを心がけた。


『動かなければ抱かれ放題だよ!』


 やましい気持ちがあったわけではない。

 ただ喋るヌイグルミと言って気持ち悪がられ手を離されたら真っ逆さまだ。

 真っ逆さまだけならまだいい。

 このまま野ざらしで放置されるのが一番困る。


「誰が落としたかね?」

 唯と愛希は落とし主が窓から顔出さないかとしばらく上を見上げていた。


 樹も一緒になって見ていたが永遠達が顔をを出すことはなかった。


「落としたのに気づいてない……?」

「かもしれないわね」

 唯は樹を小脇に抱えた。


 後頭部柔らかいカブト越しに何かが当たっている。

 この感触を知ってしまったことは、絶対に隠し通さねばならない。


「どーする?これ?」

「外に置いとくのも可哀想……旅館から飛んできたのは間違いないから、フロントに届けましょうか」


 宮野さん常識的!

 ありがとう!

 樹は声に出さず感謝の気持ちを述べた。


「そうしよっか!寒いし中入ろ」

「そうね。それにしても葵、どこに行ったのかしら?」

「やっぱ王野君のとこじゃない?」


 まさしくその通りだ。


 ついさっきまで葵とは一緒にいた。

 そういえばいつも一緒にいるから忘れてたが、葵は今日樹とは違う部屋割りだ。

 よくよく考えればこの時間帯男子、女子間の部屋の移動は禁止になっていた。


「王野君も優太もメッセージ見てないみたいだし、直接行くしかないかしら?」

「お!これで合法で王野君の浴衣見に行けるね!」


 樹本人を小脇に抱えているとはいざ知らず、唯は肩を震わせた。


 変態発言は樹の反応を見るためのキャラだと思っていたが、それは本人がいなくてもそうらしい。

 出来れば知りたくなかった。


「王野君に会いに行くついでに、王野君のお姉さんに池の水のことも聞いて置いてもらおうかしら」


 そのことに関しては温泉に入りに行く前、姉にメッセージで聞いておいた。

 ただ返信を見る前にこんな姿になってしまったので、確認はしていない。

 桜のことだから直ぐに返信はしてくれただろう。


「おー頑張るね愛希!さてはそんなに一緒に飲みたい人がいるのかな?」

「優太よ」


 愛希の一言に樹は熱くならない筈の頰が赤くなるのを感じた。

 動揺したのは唯も同じのようで、小脇に抱えられた樹ともども一緒に跳ね上がった。


 優太はことあるごとに愛希に好きだの、ティ・アモだの伝えているが、愛希の反応はいつも冷たい。

 というよりも呆れている。


 だがそれは照れ隠しで、もしかするともしかするのかもしれない。


「え?!マジで?!」

 唯が樹の聴きたかった事と大体同じ事を言った。


「マジでって……?あぁ、そういう意味ではないわ。優太が一緒に探そうって言ってたって意味よ。」

「なーんだ」


 樹は安堵の息をつく。

 意図せず人の、しかも女子の秘密を知ってしまったかと思った。


「キバはさぁ、愛希と一緒に飲みたいんじゃないの?」

「さぁ?ただ単に願いが叶うってところに惹かれてるんじゃないかしら?」


 優太があまりにも不憫で、樹はユーセンの姿のまま、シュンとうつむきそうだった。


「イヤイヤ愛希!池の水だよ?!願いが叶うって解釈もありだけど、普通は恋愛的なヤツの伝説だからね?!それ一緒に探そうって言ってるんでしょ?」


 さすが前橋さんグイグイ踏み込んでいく……!


 樹は抱えられている事を忘れて、唯のバイタリティに感動していた。

 二人は拾ったヌイグルミのことなどスッカリ意識の外だった。


 樹は横にされた体勢のままで視線だけチラリと愛希の方に移した。

 低いし揺れているし、あまり表情を見ることは叶わなかった。


「探そうって言ったのは、井上さんのことがあるんじゃないかと思うの」

「真華?」


 井上真華。

 名前が聞いただけで、胸が締め付けられるようだった。


「あの二人って結局なんだったの?当日王野君と登校してきたし?」

「私にもよく分からない。聞いても心の友だとか、ふざけた答えしか返ってこなかったもの。無理に聞かないわ。」


 愛希は唯に真華がロボットであることは知っていても言わなかった。


「王野君にとられた割には今メチャクチャ仲良しだしね」


 王野君がとった。


 唯にとってはそういう認識なんだという事に樹は初めて知った。


 なかなか酷いヤツだ。

 それでも今まで通り接してくれていた事にも初めて気がついた。


「人が良いのよ優太。多分取られたとも思ってないんじゃないかしら?神頼みなんて、と思うけど。協力してあげたくなるじゃない」

「そういうもんかね?」

「幼馴染だし。それに……優太は私の恩人だもの」

「なに?その話詳しく」


 恩人って言うのは大げさかもしれないけど、と愛希は前置きした。


「昔二人で川で遊んでた時、誰かが放置したゴムボートがあってね。ふざけてそれに乗ったら私だけ流されちゃったの」


 愛希はこうして目の前にいるし、笑って話しているので大事にはいたらなかったようだった。


「それで優太、ボートに括り付けてあったロープを大人が助けに来るまでずっと掴んでたの。血が滲むまで。今日、お昼頃皆手相占いしてたでしょ?その時の痕まだ残ってると思う。見なかった?」

「見た見た!スゴイじゃんキバ!」


 手綱を掴んだような独特の優太の手相。

 それにはこんな理由があったらしい。


 だから優太はいつものように愛希に見せつけに行ったりしなかったのだ。

 傷がまだくっきり残ってたら愛希が気にするから。


「救助された後、私は全く無傷なのに『愛希が死ぬと思ったぁ』って泣いてて。手、怪我したのは優太なのにね。」

 愛希は呆れたように言ったが声はどこか誇らしそうだった。


 樹は二人とともに正面玄関から宿に入った。


「フロント誰もいないわね」

「でもこれ押すほどでもない気がするしね」


 唯はご用の方はお鳴らし下さいとかかれた呼び鈴を指した。


 よし!

 このままフロントに置かず部屋まで連れてってくれ!


 そう願ったが樹はあっさり、フロントのテーブルに置かれた。


 急に二人と向き合う形になり、樹は慌てて固まった。


「ここ置いとけば落とした人も分かるっしょ!行こ愛希。王野君の浴衣見に行くよ」

「それは一人でやってちょうだい……」


 二人は直ぐに背を向けた。

 どうやら気付かれずに済んだらしい。


 樹はホッと肩を撫で降ろした。


「あ!」


 急に声がして樹は再び体を硬直させた。


「ユーセン君じゃないっすか!」


 声とともにニット帽の男がフレームインする。

 あまりの近さに思わず仰け反りそうになった。


「可愛いっす!」

 ニット帽の男は樹をタカイタカーイ!と持ち上げた。


「置いてけそんなもん。子供のだったら可哀想だろうが……!」


 ドレッドヘアのいかつい男が割と常識的なことを言いってたしなめた。


「えーでもー!ユーセン君ってあんま商品化されないんっすよ?」


 ニット帽はキュっと樹を斜めがけのバッグに詰め込んだ。

 入りきらず頭だけ突き出ている。


 え?!

 ちょっと?!


 ニット帽の男が舌打ちした。


「あーあ。テメェが責任持てよ」

「わかってますって兄貴!」


 このまま連れて行かれる!

 それだけは何としても阻止しなければならない。


 気持ち悪がられてもいい。

 むしろ、気持ち悪がられた方がいい。

 それでその辺に放ってくれるのならば。


「や、やめてくださいっ!離してください!!!」


 驚いたニット帽の男が飛び上がる。

 そして樹はバッグから引っこ抜かれた。


「喋った?!超激レアじゃないっすか?!兄貴聞きました?!」


 思っていたのと反応が違う。

 

 樹はドレッドヘアの男が置いてけと言う事に期待したが、男はジッと樹を見据えていた。


「な、何でしょう……?」

 ついつい敬語になってしまう。


 ドレッドヘアの男はニット帽の男から樹を掴みあげた。


「ヒィ!!!」

「この無駄なハイテク。お前BONのヤツだな?」


 この男、牧原と知り合いだろうか?

 樹が答えずとも表情に出ていたらしく、ドレッドヘアの男は口角を釣り上げた。


「やっぱりな!でかした丸山!こいつと引き換えに牧原達からチップを奪い返すぞ!」

「イエッサ!アニキ!」


「え?!ちょっと?!やめてぇ!!!」


 樹は『丸山』と言う名に聞き覚えがあった。

 学園祭前日、真華を誘拐した遺跡みたいな名前の二人組みのうち一人。

 なぜその人達がここに?


 抵抗を試みたが、今回は頭からバッグに突っ込まれ無理やりふたをされてそれはかなわなかった。

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