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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
エリア2編
74/95

20.遺跡コンビの失敗

 ユーセンと美幸が松の湯屋に帰る少し前。


「イラッシャーイ」

「もう直ぐ始まりますよぅ!」


 小さな提灯がたくさん付いている通りの前で若い男女が呼子をしていた。


 二人とも眉毛が極端に短い奇抜な化粧をしていたので双子のように見えた。

 女だけでなく男の方も派手な爪をしていたので、飲食店の類ではないだろう。


 三内丸山は贅沢ができない身だ。

 金をぶんだくられてはたまらないので、得体の知れない店には暗黙の了解で避け、呼子には目も合わせないようにした。


 せっかくの観光地だというのに贅沢をしないとなると行くところなんて限られている。


 昼間は出店も多くワンコインで腹を満たせるものも多かったが、そう言った類の店はすでに閉店していた。


 三内丸山は安い居酒屋を求め歩いていた。

 観光地だけあってレートがいつもより高めだ。


 三内は表に出てる品書きで店全体の相場を予想し始めた。

 良さげな店を見つけたので、丸山の方を見たがそこに姿はなかった。


「何をモタモタしてる?!」

 丸山は10メートルほど離れた位置にいた。


「アニキ……!」

 丸山呼んだらすっ飛んできて、激しく三内の背中を叩いた。


「なんだよ?!」

「アニキ!見てくださいっ!穴です!!!」


 丸山はジャケットのポケットに手を入れ、おかしなところから手を出した。

 明らかに穴が空き貫通している。


 しばらく呆然と丸山の手を見ていたが、三内は顔を上げた。

 丸山は雷の落ちたような顔している。


「つまんねぇ事で騒ぐな!」

「つまんなくないっす!!!よーくっよーく思い出してください!ここに何が入ってたか!」

 この丸山、いつも三内の後に金魚の糞如くついてくるだけで、三内に意見することはない。

 そこまで言われると耳を傾けざるを得ない。


「ユーセンのUSBだろ……?」

 それはさっき覗きをしようとして罰が当たったか、湯船の中に落としてしまった。


 丸山は力強く首を振る。


「違うっ!それは胸ポケットっ!もっと重要な物っすよ!忘れたんっすか?!」

「何だ……?」


 ユーセンよりさらに重要だったもの。

 歯抜けに頼まれたチップは自分が持っているし……

 いや待てよ?


 三内の頭の中で数日前の事がフラッシュバックする。



 

『おい、丸山。ガムの包みでもいい。なんか包むものねぇか?』

 BONに盗みに入り、ゴミの山からやっと目当てのものを見つけ出した時の出来事だった。


『何に使うんすか?』

『これ包むんだよ。鍵も入れてるから傷がつきそうだ』

『アニキ意外と細かいっすよね!俺が持っときますよ!』



 

「まさか……!お前……!」

「そうっすよ!やっと思い出しましたか?!」

 丸山はやれやれと首を振った。


「馬鹿野郎!何偉そうにしてんだ?!」

 三内は人目もはばからず丸山をひっぱたいた。


 通行人がギョッと目を見開いたが、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに足早に逃げていった。


「すんませんアニキ!」

「ごめんで済んだら警察はいらねーんだよ!!!」

 丸山に任せた自分も悪かった。

 てっきり車に乗った時車の中に置いていたと思い込んでいた。


 家のない二人にはあの狭い車内と時たま泊まれるバイト先が寝床なのである。


 あと数発丸山を殴り飛ばさないと気が収まらないが、丸山の背後で呼子をしていた店員が気の毒なぐらい震えていたので、手を下ろした。


「いつから穴空いてたんだ?いや、いつまで無事だった?!」


「あ、アニキ!えっと昼飯食った時!そこまでは確実に無事でした……!」

 丸山は許して貰えたと勘違いしたようで、すがるように三内を見上げた。


「となるとそのあと行った酒屋からだ!閉まる前に行くぞ!」

「ハイアニキ!俺アニキがアニキでよかったっす!」

 丸山は調子のいいことを行って三内の後に続いた。


 ドリンクスペースが一緒になったその酒屋は遅い時間となった今でもまだ空いていた。


「いらっしゃいませ」

 マスター兼レジスタッフがカウンター越しに声を張り上げた。

 先客の老人がチラリと三内丸山を見たが、やがて興味をなくしたように酒を煽り始めた。

 

 店員は昼間来たときとは別の店員になっていた。

 三内丸山は視線を床に向けながら店の奥まで進んだ。


「開いているお席に……」

「おい、この店に小さい赤と黒の落とし物届いてないか?!」

 カウンターに行きついたところで三内は店員に喰い気味に問いかけた。


「すみません。届いてません」

 店員は苦笑いで頭を下げた。


「アレの事じゃないか?」

 カウンターで飲んでいた老人が声をあげた。

 酔っぱらっているのか、音量調節もままならないようで大きな声だった。


「知ってんのか爺さん?!」

 老人は不敵に笑ったのち酒を煽った。


「夕方からずっといますからねぇ……」

 答えない老人の代わりに店員が答えた。

 老人はここの常連客なのだろう、店員は呆れた顔を隠そうともしない。

 店員はもうそっちで適当にやってくれと言わんばかりに、黙々とグラスを磨き始めた。


 老人は何か自分から語りだすのかと思えば、何事もなかったかのように飲み続けている。

 酔っ払いのいうことなど信用ならぬ。

 三内が背を向けようとしたそのとき、老人が口を開いた。


「赤と黒の。アルファベットでビーオーエヌと」

 確かに探し物はアルファベットで『BON』と書いてあった。


「やっぱ知ってんっすか?!」

「まぁな」


 三内はその時、老人の座る椅子の背もたれに目に優しくない紫色の羽織物がかけてあることに気が付いた。

 実に胡散臭い。

 よく見ると老人自体も化けダヌキのような胡散臭さがある。


「どこっすか?!どこっすか?!」

 丸山はその事に気付かず老人に前のめりになっていく。


「さぁ、どこだったかなぁ?」

「ジジィ教える気ねーだろ?行くぞ丸山!」


「いやぁ、待て待て!君達『池の水伝説』を知ってるか?」

 老人が三内丸山のジャケットの裾をそれぞれ掴んだ。


「知らないっす」

「それ本当にチップと関係あるんだろうな?」


「ある!大いにある!」

「本当に大丈夫だろうな?」

 この老人は信用ならない。

 三内は代わりに店員の方をチラリと見た。

 またも店員は苦笑いだった。


 三内は断って帰ろうとしたが、なぜか丸山は老人の隣の椅子に腰を下ろしていた。

 仕方がなく三内もその横に腰を下ろす。


「何か飲みますか?」

 席に着くと店員が飲み物を進めてきた。


「じゃあ、焼酎」

「俺も!」


 老人は喉の調子を整えながら、コトリと珍しい形をしたペットボトルを二人の目の前に置いた。


「これが『池の水伝説』の池の水だ」

「へぇ、面白いボトルっすね!」

 丸山はボトルを手に取って眺めている。

 確かに、ボトルを頭上まで持ち上げると丸い部分に照明の光が入り、自ら輝いているように見えた。

 まるで小さな満月をぶら下げているようだ。


「一本二千円だ。」


 グラスを磨く店員が素早く声を挟んだ。


「廉造さん。この店でぼったくるのは止めてください。お客さんこの店にも置いてます。1本500円です」


 500円ならと三内は思ったが頭を振った。

 騙されるところだった。

 ペットボトルの水一本に500円は相当高いぞ。


 廉造と呼ばれた老人は店員に悪徳商売を邪魔されたのにも関わらず涼しい顔をしていた。


「まぁ、500円でも2000円でもいい。話を聞いた後、君達がどう思うかだ。2000円でも安いと思うがね」

 廉造は人の興味の引き方を心得ているようで、三内丸山はすっかり聞く気になっていた。


 やがて注文した酒がカウンターに置かれ、廉造は淡々と『池の水伝説』について語った。

 丸山は引き込まれていき、三内は疑問を募らせていく。


「と、言うのがこの地方に伝わる『池の水伝説』」

 丸山の意識は遥か昔の、実在したのか分からぬ男女に向けられていた。

 ほーと夢から覚めたばかりのような顔をしている。


 廉造が話を終えたと同時に三内は疑問1を早速ぶつけた。


「で、それがこのバカ高い水ってわけか?」

 『池の水を飲めば二人は結ばれる』そんな話を信じて良いのは高校生ぐらいまでだろう。


「そうとも言うし、そうでないとも言う」

 廉造は胡散臭くのらりくらりとかわし、三内は完全に時間の無駄だったと肩を落とした。 


「池の水はもうなくなった。いや、飲めなくなったんだ。こういう形でしかな……」

 廉造は哀愁を漂わせながら、ボトルをついた。


 そんな臭い芝居じゃ騙されねーよと鼻で笑う三内。


 その横で丸山が悲鳴を上げた。

「なんでなんすっか?!」


 コイツいい鴨だな。と三内は溜息をつく。


「その秘密はこの水を買って……!」

「だろうと思ったぜジジィ!時間無駄にしたから焼酎代ぐらい出せよ?!それと俺たちの失せ物と何の関係があったんだ?!」


「老人に向かって声を荒げるんじゃないっ!」

 三内がここまで切れやすいとは思っていなかったのだろう、廉造はタジタジで店員に視線で助けを求めた。


「廉造さんがいけません」

 店員があっさりと廉造を見放すと、廉造はそっぽ向いた。

 三内の睨みに耐えきれず早口に語った。


「こ、この話をしている間に、香月の女将がお客の物かもしれないって言って持ってった……」

「何だと?!それを早く言え!てかやっぱり池の水関係ないじゃねーか!!!」


 女将が持っていったということは持ち主にそれなりの確信があったのだろう。

 とてもヤな予感がする。


 誰かの来店を知らせるベルの音。

 予感は的中していた。


「あれ?久しぶりだね!リゴレルーン辞めたって聞いたけど、元気だった?」

 二人を見つけるなり男はリズミカルな美声で話しかけてきた。

 この声は聞き違える筈はない。

 哲原牧男こと、牧原哲男。

 三内丸山の元上司、仁科を欺き、挙句失脚させた張本人である。


「やっぱり、お前らか……!」

「やっぱりって?一緒に飲みたいところなんだけど今ちょっとね。」

「こっちは飲みたきゃねーよ」

「だろうね」

 牧原はヘラヘラと笑っていた。

 今日は顔にガーゼの代わりに、肌色のテープを張っていて遠目で見ると痛々しい傷を隠し持っているようには見えない。


 しかしこの男、人畜無害そうに見えて猟奇的な事をしでかすため、油断ならない。

 牧原は三内丸山が嫌悪感を示したのを見ても、ゴメンっとヘラヘラしながら近づいて来た。


「君達、ここらへんで安藤夜そっくりの男子高生見なかった?一度会ったことあると思うんだけど……」

「知らねーよっ!」

 牧原がスマホ画面を見せてこようとするので三内は喰い気味に否定した。


「あぁ、なら仕方がないね。」

 牧原が返ろうとしたところ、気配を消していた廉造がわざとらしく腕を組んだ。


「あー!その少年なら!どこで見たかなぁ?!どこだったかな?」

「……ジジイ!いい加減にしろよ!」

 廉造は恨めしそうに三内を睨み、牧原は首を傾げた。


「牧原さん!その子がどうしたんすか?」

 丸山は情報収集したいのか、純粋な興味か悟らせぬ口調で牧原に尋ねた。


「実は抜け出して迷子になっちゃったみたいで……じゃあ、お騒がせしました」

 牧原は店員にも会釈するとまた寒空の下に出ていった。


 三内はまだグラスに残っていた焼酎を煽った。


「どうしましょうアニキ……」

「チップは諦めろ。客の落とし物として十中八九あいつらの手に渡った。俺たちが盗みに入ったってことがバレるのも時間の問題じゃねぇか?」

「そんなっ!」


 ならやることは一つ。


「聞いたか?今樹は一人だ!先に見つけるぞ」

「イェッサー、アニキ!!!」


「そんでもって……」

「そんでもって?」


「俺たち。これに失敗したら首が飛ぶかもしれん」

「またっすね!」


「誰のせいだと思ってんだ?!」


 三内が丸山を殴り、二人はターゲットをチップから樹に代え、捜索を開始した。


 

以前活動報告にて76話まで毎日更新と言っていましたが、78話まで毎日更新します。急に話数が増えたのは筆が進んだからではありません。純粋な数え間違えです。

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