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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
エリア2編
69/95

15.樹inユーセン

「イツキ?!大丈夫?!」

「はい……?」

 

 名前を呼ばれ返事すると、視界いっぱいに見慣れた葵の部屋着が見えた。

 ちょっと毛玉が出来た膝小僧と凹凸のないプリントシャツが真正面に見える。

 

 アレ?

 今一体どんな体勢になっているんだ?  


 今まで意識がなかったのだから寝ている体勢になっている筈なのに、葵の胡坐をかいた足が見える。

 うつ伏せで首を変な方向に曲げているのだろうか?


 おかしな感覚だった。

 17年生きてきた中で今日ほど体の感覚がつかめない日は無かった。

 もしかして長い間意識がない状態だったのだろうか。

 

 起き上がろうと腕を動かす。

 腕は床に触れず、空を切った。


「?」

 妙な違和感を感じる。


 それと同時におぉ!とどよめきが上の方から聞こえてきた。

 

「動きました!」

「正常に動作してるみたいだね。」

「どうだろう?まだわからない」  


 声が自分に向けられて発されたのが分かった。

 まるで自分が実験体にされているような言い回しが非常に気になる。 

 

「イツキ!アオだよ!聞こえる?!」

 葵が『伏せ』のポーズで視界にフレームインした。


「アオイ」

 なんだか変な声だ。


 意識がなかった間喉まで傷めたのだろうか。


「そうだよ!アオだよ!」

 葵は目を潤ませている。

 もしかしたら本当に長い間昏睡状態だったのかもしれないと樹はボンヤリ思った。


「よかったぁ!」

 葵はこちらに手を伸ばしてきた。


「ヒィ?!」

 葵の細腕になぜか恐怖を感じた。

 

 力が人並み以上に強いのは知ってる。

 でも、それに恐怖を感じたのは初めて会った時ぐらいだった。

 

 恐怖の理由が明確に分かる前に樹の体はふわりと宙に浮いた。


「ヒィィィ!!!」

 唐突な浮遊感に手足をバタつかせる。

 

「これは……樹君ってことでいいのかな?」

「間違いない。こいつは樹」


 歌うような美声は牧原のもの。

 もう一つは聞きなれた永久の声だった。


 目の前には葵がいて、葵に持ち上げられている事が分かった。

 下を見ると、雲海のような布団が遥か遠くの方に見えた。

 そこで違和感の正体に気付く。  


 体が無い。


「大丈夫、樹君?」

「大丈夫……。じゃない!どうなってるの?」


 体は無い。

 下を見たらあるはずの足や胴が見当たらない。

 でも確かに胴を掴まれている感触も手足を振り回した感覚もある。


 樹は恐る恐る腕を体の前に出して視線を移した。


「な?!?!」

 

 そこにはいつも以上に白い腕があった。

 日に当たらないモヤシといえどこれは白すぎる。

 形状も腕と呼んでいいのかすら怪しいものだった。

 手もなければ、指もない。


 なのに腕と認識できたのは、記憶の片隅にこのような形状の腕を持つモノを知っていたからだろう。


 目を潤ませる葵の後ろに和馬が中腰の状態で近づいて来た。

「状況が見えてないみたいだね。見せてあげた方が分かりやすいんじゃない?ハイハイ鏡の前へ!」

 和馬は一人でどんどん勝手に話を進めていく。


 葵と違い、今日の和馬は温泉施設の浴衣に身を包んでいた。

 赤と黒を身に付けていない事にも違和感を感じるが、それよりもなにか得体のしれない違和感を彼から感じる。


 その違和感の正体は彼に誘われた鏡の前で思い知ることになった。

 葵に抱えられたまま鏡の前に立つ。


 葵はいともたやすくクルリと樹の体の向きを変えた。

 その瞬間衝撃的な光景を目にする。


 それはウィルスバスターのぬいぐるみを抱えた葵の姿。

 それだけならば微笑ましいが、問題は葵に抱えられているのは紛れもなく自分だということ。


 樹は脚を平泳ぎするように動かしてみた。

 すると鏡の中のウィルスバスターも同じ動きをする。


「あぁぁぁ?!?!?!」

「イツキ!落ち着いて!」

 葵に宥められたが落ち着いていられる筈がない。

 

 樹の悲鳴を聞いてぞろぞろと部屋にいた人々が鏡の前に集合した。

 和馬に優太に永久。

 それに文化祭でお世話になった和馬専属社員BONの構成員牧原、和泉、山城が続く。

   

「どうして?!風呂にいたよね?!そしたら急に……!もしかして死んだの?!」

 葵は洗面台の上に樹を下ろした。

 蛇口が異様に大きく見える。

 

 違和感の正体は自分が小さくなったことにより、他の人が大きくなったように感じたのが原因だったようだ。


 樹は鏡に駆け寄る。

 そこに移る姿は紛れもなくユーセン。

 丸い顔に赤い兜、黄色い角、それに唐草模様のマントまで付けている。


 樹は頬を突いてみた。

 低反発素材がモッチリとへこんでゆっくりと元に戻る。


「ふぎゃぁぁああああ!!!」

「樹くん落ち着いて。深呼吸して。はい吸ってー、吐いてー」

 牧原に窘められ樹は言われたようにしたが、牧原の指示がやむとまたオロオロし始めた。


「大丈夫だよ。落ち着いて。」

 牧原は冷静そのもので手のひらを見せてドウドウと樹を宥めた。

「無理です無理です……!」

「じゃあ、RPAを想像してごらん。

 VIPプレイヤーは、今の君と同じように、ゲームの中で、思念体で動いているでしょ?今回は思念体をカバーしているのが自分の皮じゃなくってユーセン君だったってだけだから。

 身を持って体験している君からすると不安だし、不思議なことに感じるだろうけど、不可能な話ではないと思うんだ。

 外身と中身を分裂させて別の中身を入れる事。

 今回綺麗にそれぞれの中身が外身と分裂したのが幸いしたね。だからユーセンくんの外身に入れることが出来たみたい。

 まぁ分裂したところがオカルトチックではあるけどね」


 牧原が淀みなくハキハキとしゃべるので不思議と落ち着いた。

「そんなもんなんですか……?」


「そんなもん!そんなもん!むしろラッキーじゃない?ウィルスバスターになれることなんてそうそうないよ!もし意図的に出来るようになればRPCに継ぐヒット商品の予感!」

「RPCよりも製作費もランニングコストも低いしね。」

 和馬と牧原は新たな商品開発計画を思いつきニヨニヨしている。


「イツキ!どんな感じ?!どんな感じ?!」

 優太は目を輝かせている。


「なんか皆大きく見える……」

「オモシロ!」

「そ、そうかな……?」


 呑気なものでなんだか楽しくなってきた。


 今樹が入っているのはユーセン用に造ったU-1000ボディ。

 ユーセンのマイクロチップを入れることで動き出す。

 

「まあ、中身がソフトウェア、外身がハードウェアって感じだよね。Mac-Aに会った時から構想を練ってたんだ。」


 いつも画面の外に出たがっていたユーセンを、どうしたものかと思っていた時に彼女に出会い、牧原はU-1000ボディの構想を思いついたらしい。


 彼女もまた、樹の父が作った体の中にRPAの人格が入っていた。

 ならば、ユーセンも体を画面の外に造ってしまえばいい。


 ロボットに自我を持たせることは法律で禁じられている。

 なので今まで作ることは無かったが、ユーセンがいつも画面の壁に阻まれているのを見て少しだけならいいだろうという気になったのだ。


 今回の旅行でユーセンに見せるつもりだったが、非常事態なので先に樹が使う事にしたようだ。


「そうなんですか。先に使っちゃってゴメンナサイ……」

 樹のパソコンの中にいるユーセンも時たま画面の外への憧れを口にすることがある。

 樹の部屋を自由に飛び回る蝶形ロボット『テフ』を羨ましそうに眺めている事もあった。


「ユーセン氏が謝っている?!」

「なんか変な感じだよ……!」

 和泉と山城はブルリと震えた。


「君の体を先に持ってっちゃったのはユーセン君だしね。そこはおあいこってことで」

 牧原は気にしないでと微笑んだ。


「むしろ謝らなきゃいけないのはこっちの方。樹君の体、大丈夫かなぁ?ユーセン君が好き勝手やってないといいけど……」

 BON一行はうーんと唸りはじめた。


 ユーセンは謝罪を口にしただけで気味悪がられる程の破天荒だ。

 確かに心配である。


「誰かに迷惑かけてないといいけど……」

「迷惑ぐらいで済んでればまだ良いよ。」

 樹は牧原の言葉に凍り付いた。

 

「心配してるのは君の体の方。ユーセン君はウィルスバスター。痛みや寒さとか感じたことないだろうから、人体の限度ってものを知らないかも……

 平常時は一応ダメージ信号は送られるようにしてたから状態異常は認識できるだろうし、そこまでの無茶はしないと思うけど、どうだろうなぁ」


 痛みや寒さを無視したら人体はどうなるか。

 今の季節、窓の外は見るからに寒そうである。

 もし体がダメになったら……


「どうしよう?!もしかして一生このままに?!」

 樹が再びパニックに陥りあたふたと動き出すと、永久がガシリと樹を掴んだ。


「ヒィ!」

「牧原さんだっけ?あんまり怖がらせないでやってよ」

「……永久の方が怖いよ……」

「だって。ちょこまか動くから」


「ねぇ、永久!次アオが触る!」

 葵が手を伸ばすと永久は樹を手渡した。


「葵、痛覚は備わってるから優しくしてあげてね」

 牧原の忠告に葵は元気よく返事した。

「ハーイ!」

 まるで小動物扱いだ。


「アオイ?!ホントに大丈夫?!落とさないでね?!絞めないでね?!」

「分かってるよう!」

 葵は不服そうに口を尖らせた。


「しっかし、そうやってじっとしてるとホントぬいぐるみ!」

「王野君、じっとしてれば女の子に抱かれ放題だよ!」

「和馬天才かよ!」

 優太は和馬に尊敬のまなざしを送っている。


「なんだかんだ楽しそうだね。」

 牧原はカラカラと笑い、腕を組んだ。

「こっちは良かったとして。ユーセン君はどこいったかな?」


 それが分からなければ、一生このままの可能性もある。

 樹は必死に思考を巡らせた。


「ユーセン君と言えば……金平糖!」

 いつもパソコンの画面の片隅で金平糖を齧っている光景が思い出された。 


「駄菓子屋」

 永久がぼそりと呟いた。


「駄菓子屋?」

 牧原が聞き返す。


「今日行った駄菓子屋、金平糖置いてあった」

「それだ!」

 樹は思わず声をあげた。


「アイツ、しゃべり方とか樹のマネしてたし。クラスメイトも知ってたし。樹の記憶持ってるみたいだった。あそこに金平糖があることも知ってるかもしれない」

 永久の意見に優太と葵が確かに!と声をあげた。 


「これは行ってみる価値ありそうだね」

 牧原が言うと和泉、山城が頷いた。


「じゃあ見つけたら連絡ちょうだいね」

 和馬がヒラヒラと手を振ると和泉、山城がギョッと目を見開く。


「『連絡ちょうだいね』って……?」

「え?君たちが探してくれるんでしょ?」

 和馬はとぼけたように首を傾げた。


「せっかくの慰安旅行が……っ!」

「なんとなく分かっていたであります……」

 和泉と山城の肩を牧原がなだめるようにポンポンと叩いた。



「「いってらっしゃーい!」」

 葵と和馬は手を振り。


「牧さん、頼みました!」

 優太は期待を込めて拳を握り。


「よろしくお願いします!!!」

 樹は必死で声を張り。


「金平糖は金色堂にもあったよ。もうしまってるけど」

 行くのが自分でないのをいいことに、永久は更に候補地をあげた。


 かくして、BON男子メンバーは寒空の下に放り出された。




「さぁ、さぁ僕たちはなにしようか?」

「おれトランプ持ってきた!」

「この人数は大富豪」


 本当はそんな事している場合ではなかったが、焦ってもしょうがないし朗報を待つより他ない。


 それに何より修学旅行の夜だった。

 樹の今までの人生でこれほど賑やかな修学旅行の夜は初めてだった。


「アオ、ルール知らないよ?」

「一緒にやる?」

 樹は葵に抱えられたまま口を開いた。


「うん!樹も小さくなったし丁度いいね!」


 何がちょうどいいのかと思ったら、カードが配られた時に分かった。

 葵がカードを手に持ち、樹が膝に座ると二人でカードが見やすかった。


「革命あり?」

「縛りはマークと数字両方で!」

「スぺ3、8切りは?」


 信じられないことに、小さくなった生活は思いのほか楽しかった。

明日19時に投稿する予定が凡ミスで変な時間に投稿してしまいました……と言うわけで、明日は投稿お休みです。

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