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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
エリア2編
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11.再会

 樹達が夕飯を食べ終え部屋でだべっている頃。

 左都の繁華街を桜と山下が歩いていた。


「美味しかったね!ちょっと食べ過ぎたかも」


 桜と山下は美味しい郷土料理と地酒で腹を満たし、腹ごなしに辺りを散策し、今は宿泊している松の湯屋へ戻ろうとしている最中だった。


 桜はほろ酔いのいい気分で山下と腕を組んだ。

 山下はチラリと桜を見たがまた前を見て歩き出した。


 何も言われないということは続けてもいいと言うこと。

 いつも知り合いがいると嫌がるので桜はふふふと笑みをもらした。


 桜は茶色の巻き髪をキャスケットにしまい込み、丸メガネをかけて出歩いている。


 変装は完璧。

 と思っているのは桜だけで、大抵の人は気づきながらも気を使って話しかけずに遠巻きに眺めている。


 一体誰が腕を組みながら歩く男女の邪魔をしてまで話しかけに行くだろうか。

 あるいは芸能人が異性と堂々と歩いているわけがないと思ってスルーしていた。


 山下は桜の変装が完璧でない事は気づいているが、わざわざ本人の機嫌を損ねるような事は言わない。

 それに今日は一目でマネージャーと分かるような恰好はしていないので、必殺『時間が押していますので』が使えない状態だ。

 話しかけられないならそれに越したことは無い。


「帰ったらお風呂入りに行こうかな……」

 桜が独り言のように呟くと山下はあっと思い出したように呟いた。


「そう言えばさっき風呂の途中で新田慎吾が入ってきたんだ」

「えっ?新田君?」

 桜は思わず聞き返した。

 てっきりもう少し撮影現場に近い宿に泊まっているのだと思っていた。


「そうだ。同じ宿になってしまった……」

 山下が残念そうに呟くので桜は笑ってしまった。


「そんな残念そうに言わない!お風呂でなんかあったの?」


 桜はなんだかんだ新田との苦労話を聞くのを楽しみにしている。

 なんせ山下は去年まで妹の存在を隠していたぐらいで、人との関わりを話そうとはしない。

 新田との苦労話は桜が山下の口から聞ける数少ない人との関わりだ。


 山下はそう思ってはいないだろうが、新田は積極的に山下と関わりを持ちに行く稀有な存在なのだ。

 きっとお友達になりたいんだと桜は思うが、それを口にするたび山下は顔を顰める。


 山下は何かあったというかなぁ……と切れの悪い返事をした。


「アイツ入ってくるなりジロジロ見てきて、出ようかなと思ったタイミングで話しかけてきた」

「それで、それで?」

「のぼせるから出るって言ったら、ついてきた」

 桜は笑って続きを促す。


「サウナで我慢対決でもしようって言い出しそうだったから、10分までの約束で一緒に入った」

「仲良しじゃん!」


「でも、入って3分と経たないうちにチラチラこっち見てたからもう出ようって言ったら『まだ平気』とかいうんで無理やり連れだしたんだ。何がしたいんだろうな?」

 山下が苛立たしそうに言うので桜はまぁまぁと宥めた。


 彼がこんなにも同世代に対して腹を立てることは珍しい。

 中高生の時も同級生に対してはずっと大人な対応をしていたので、そんな姿を見るのはちょっと嬉しい。


 二人は提灯に照らされた道を並んで歩く。

「ここ修学旅行でも来たよね」

「そうだったな」


 もう5年も経っていることに驚き、それっきりなのに意外と何の店があったか覚えていることにさらに驚いた。


「明るい時に来るのとだいぶ印象違うね。私この通りで和菓子の量り売りやったんだけど、どこらへんだったかな?もう通り過ぎちゃったかな?」

 桜が少し後ろを振り返ったので山下もつられて振り返った。


 桜は山下の腕を揺らした。

「ねぇ、山ちゃんは何してた?」


 山下は特に悩んでいる風でもなく、んーと唸った。

 それは何かを探しているようでもあった。

 そして山下が脚を止めたので、桜も立ち止まった。


「どうしたの?」

 桜が山下を見上げると彼が真っ直ぐに一点を見ていることに気づいて、桜もつられて同じ方向を見た。

 桜は思わず感嘆の声を上げる。


 奥まった細い通りをいくつもの小さな提灯が照らしている。

 まるで異世界に通じているような幻想的な場所だった。


 5年前にはこんな場所は全く気が付かなかった。

 明るい時に来たので提灯は光っておらず、気が付かなかったのだろう。


 桜がその通りに見とれていると正面で誰かがハッと息を呑む音が聞こえた。


「あんた、圭じゃないの?!」

 桜は突如現れた着物の女性をポカンと眺めてしまった。


 真っ赤な着物に綺麗に結った長い黒髪。

 派手な着物にも負けない美しい顔立ち。

 男勝りなしゃべり方とハスキーな声がかえってあだっぽさを感じさせる。


 女性が一歩近づいて着たところで、腕を組んだままでいたことを思い出し、桜はさっと腕を離した。

 咄嗟にしてしまったことに対して山下が気を悪くしていないか気になって様子を伺ってみたが、山下の意識は着物の女性に注がれていて、桜の方が逆に膨れた。


「ヨウコさんお久しぶりです」

 山下は平坦な口調で驚いているように見えないが、彼にしてはこれ以上ないというくらい驚いている。


 ヨウコさん。

 どういう漢字で書くかは分からなかったがそれが下の名前であることは明白だった。

 そういえばヨウコさんも彼の事を下の名前で呼んでいた。

 山下と一番付き合いの長い所長ですら苗字を崩したあだ名で呼んでいるというのに。

 どういう関係か勘ぐらずにはいられない。


 ヨウコさんは上品な仕草で口元を抑えて笑った。


「久しぶりじゃないか。こっち来るなら言ってくれればよかったのに!社会人だって?大きくなって!」

「おかげさまで……」

「よく見ると顔はそんなに変わっちゃないね」

「止めてください。気にしてるんですから」


 視力が上限計測不能なほど良いのに、彼が普段メガネをかけているのは童顔を隠すためだ。

 いまだにお酒を買う時に年齢確認されるのも、良く思っていない。


 ヨウコさんはプッと噴出した。


「いいじゃないか可愛くって。私は好きだよ」


 桜の中で好奇心より警戒心が大きくなっていく。


 可愛いって気安く……


 事務所の藤木が言う可愛いとは違う響きだ。

 藤木が言うのならこんなに胸騒ぎを覚える事はなかった筈だ。


 何より驚いたのは山下の反応だ。

 照れ笑い。

 いつもだったら『成人男性に向かって失礼だ』と憤るのに。


 そんな顔、私にはしない!


 ヨウコさんは山下の横で二人の様子をじっとりと眺めている桜に気が付いた。


「その子は……安藤姫乃?!」

 芸名で呼ばれた瞬間にムッスリした顔は出来なくなった。

 桜ではなく安藤姫乃が礼儀正しく挨拶する。


「こんばんは」

「こんばんは。……まさか圭の?」

 ヨウコさんは山下に向かってニヤリと微笑んでいる。


 桜が否定する前に山下が先に答えた。


「彼女の担当なんです」


 断言しなくっていいでしょ?!

 しかも『彼女』なんて呼び方普段しないでしょ?!


 まさか山下は桜との間に距離があるようにヨウコさんに思わせたいのだろうか。


「あら、そうかい」


 ヨウコさんは予想とは違う答えが返ってきて少し残念そうに唇を尖らせた。


「私はこれから仕事だから、じゃあね」

「はい」


 もう夕飯も食べ終わっている時間帯だ。

 夜勤の仕事なのだろうか。


「またいらっしゃい。姫乃さんも」

 桜は急に名前を呼ばれてありがとうございます。と頭を下げた。


「葵ちゃんも連れてね」


 葵ちゃんの事も知ってる?!

 私ですらその存在を最近知ったばっかりだったのに!

 その一言で再びドロッとした感情が沸き上がる。


 ヨウコさんは手を振って、桜が幻想的と思ったその通りを歩いて行った。

 通りの向こうでヨウコさんが桜とそれほど年の変わらない男女に出迎えられているのが見えた。


 ヨウコさんの姿が見えなくなると同時に、桜は山下に問いかけた。


「今のは……?」

「知り合い。久しぶりに会った」


 山下はまだ通りの向こうを見ていた。


 嬉しそうだね。

 出かかった言葉を飲み込む。

 あまりに嫌みっぽく聞こえそうだから。


「えっと……ヨウコさんって言ってたよね?」

「そうだ、5年前にちょっと世話になったんだ。」


 5年前というと修学旅行だ。

 彼の事なら何でもとまではいかないが、よく知っている自信があった。

 てっきり桜が山下と会う以前からの知り合いだと思っていた。


 いつの間にというのが正直な感想だった。


「ふーん。」


 気になったがそれ以上は聞けなかった。

 あまり多く質問すると山下が面倒臭そうにするのは目に見えているし、何よりヨウコさんとの関係を勘ぐっていると思われるのが嫌だった。


 もっと上手に質問すればよかった。


「帰るぞ」

「うん……」


 桜がもたついていると山下は気を利かせて腕を差し出した。

 なので、桜は再び腕を組んで歩き出した。


 またこうやって歩いてくれるなら別にいい、問い詰めて悪い雰囲気になるよりは断然いい。


 僅かな酔いは醒めてしまったが、寒さを口実に腕を組むことは辞めなかった。

 山下は自分から今の人はどこそこの誰で、自分とはどんな関係かということを語ることは無い。


 それが言い訳っぽく聞こえることを知っているからそうしているのか、桜が微塵も気に留めていないと思っているかは定かではない。


 どちらにしろ、こうして片腕を預けてくれるのは信頼の証に他ならない。

 ならばそれ以上に望むのは良くない。


 友人や周りの人には理解されがたいがそれが桜と山下の関係だ。




 旅館に戻ると受付にいる中年の女将に呼び止められた。


 これから風呂に行くのなら、もしよければ旅館の温泉ではなく隣の旅館の温泉を使ったらどうかとのことだった。

 今夜は修学旅行生が宿泊しているので、風呂でゆっくり出来ないかもしれないという配慮だ。

 女将は隣の旅館の女将と仲が良く、温泉を無料で貸してくれるようだ。


 修学旅行生は明後日には帰ってしまうらしいし、彼らと違って桜はもう少し長く旅館に泊まることになっている。

 この旅館の温泉に入る機会はまだ何度もあるだろう。

 無料で違う種類の温泉に入れることになったのだから、桜は喜んで女将の提案を受け入れた。


「やったぁ!ラッキー!」


 隣の旅館も広い温泉施設があり露天風呂が自慢らしい。


「よかったな」

「山ちゃんも一緒に行く?」

「今日はもう一回入ったしいい」

「そっか、じゃあお休み」

「隣だし大丈夫だとは思うが、気を付けて行けよ」

「はーい。行ってきます」


 桜と山下は部屋の前で別れて、それぞれの部屋に戻った。

 桜が部屋に戻ると既に布団が敷いてあった。


 畳の間に綺麗に敷かれているのを見て嬉しく思いながら、温泉に出かける準備を始める。

 支度を終えて部屋を出る前に、同じ旅館に泊まっているであろう樹に連絡を入れる。


『いつき!楽しんでる?私は今温泉旅館『松の湯屋』にいるよ!皆と写真撮ったら見せてね』


 返事を期待していた訳ではないが意外と早く返信が来た。


『アネキ、わざわざ同じ旅館にした訳じゃないよね?きっと偶然だよね?お風呂の時間まで部屋に籠ることにします。』


 桜は静かにむくれた。

 折角同じ宿にしてもらったのに会えないなら意味がないじゃない!


 樹の旅行のしおりで宿の場所は確認したが、流石にお風呂の時間まではチェックしていなかった。

 桜はバッタリ樹に出会うことを諦めて溜息をついた。

 

 それからすぐに樹から写真が送られてきた。


 有名な鳥居の前で友達と映った写真だった。

 一番前にいる和馬君がインカメで撮ったらしく、その後ろに永久君、樹、優太君が映っている。

 和馬君や優太君は慣れている感じがするが、樹と永久君は控えめな感じで映っていた。


 それでも樹が楽しそうに笑っているので桜は大いに満足して、ご機嫌斜めだったことも忘れて写真を樹専用のフォルダーに保存した。


 桜はカードキーを持ったのを確認して温泉、温泉とスキップ交じりで部屋を後にした。


 いつも読んでくださりありがとうございます。

 まだストックが少しあるのでもうしばらく毎日更新出来そうです。

 以前のあとがき(第55部分)にも書いたように、完成まで出来ていないので、ストックが底をついたら週1または月1での更新になります。

 底をついた際にはまたあとがきか活動報告にてお知らせさせていただきます。

 更新直後にアクセス数が少し増えるのが大きなモチベーションになっておりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます!

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