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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
エリア2編
59/95

05.BON慰安旅行

 元旦。

 初詣に訪れる人々の中で一際目を引く5人編成の集団がいた。


 一人はごく普通の男だが目の下に大きな傷。

 一人は独特のイントネーションで話す金髪美女。

 一人は人垣から頭二つか三つ分飛び出た巨漢。

 一人は厚着をしても寒そうに見える痩せた男。

 一人は由緒正しき振袖を着たロリータ。


 5人そろってお賽銭を投げ入れ、手を合わせているだけだというのに浮いて見えた。

 5人は松田カンパニーご子息対策課BONの面々である。


「いやぁ、去年は色々あったねぇ」

 牧原は感慨深そうに呟くと、リーコはホントだねと同意した。


 去年と言えば、牧原の長年の復讐を果たした年でもあった。


 それ以降BONではご子息、ボンに振り回されながらも平凡な日々を送っている。

 復讐は完璧に遂行された、とは言えなかった。


 仇の仁科を討ち、リゴレ・ルーンを吸収合併させることには成功したが恩師の作ったRPAは手元に戻ってこなかった。

 どうやら管理しているのがリゴレ・ルーンでなく仁科個人であったため一緒に吸収することが出来なかったようである。


 それでもBONは大本命である仁科に仕返し出来たことと恩師の作った義眼を取り返したことでだいぶ満足している。

 仁科を討ったことでRPA内にウィルスが押し寄せる心配もなくなったので、RPAのもとの持ち主である山下兄妹には申し訳ないが時間をかけて取り戻していくしかないだろうと考えていた。

 そのための協力は惜しまないが、自分達の平穏な暮らしも大切である。


「さて、初詣も済んだことだし」

 牧原は独り言のように呟いて周りは目を輝かせる。


「「初売り?」」

「「おせち?」」

 牧原はどちらも正解と頷いた。


「坊が新年のあいさつに来るから『初売り』で『おせち』の中身を買いに行こう。」

 皆の予想はちょっとずつ裏切られることになった。


「新年ド初発から坊?!」

「元旦にすることは一年中することになるっていうけどホントかなぁ?」

「諦めるであります……これは宿命です。」

「坊のお抱えシェフはどうなったん?」


 坊こと和馬はまだたったの17歳だというのに、生意気にもお抱えシェフが和洋中それぞれ5人ずついるのだ。


「まぁ、普通に考えて正月休みだよね。」

「わたしらのどこいったん?!」

「このブラック企業!」


 口ぐちに文句を言いながらも、会社支給の大型ワゴン車に乗り込むと面々は元旦から営業しているショッピングモールに向かった。


 重箱に詰めるものを決めているうちに文句は消え失せ、いかに正月らしい中身を作り上げるか夢中になった。


「いやぁ、結構買ったねぇ」

「おかげで福引券5回分も貰っちゃったよ」

「リーコ殿まとめて引いて来てはいかがか?」

「待てや。一人1回で運試しと行こうやないの」

「もうさっき神社でしたじゃん。」

「正月のは大体良いのばっかりでつまらんやん!」

「良いのが一番だよ。」


 キャシーは早くも五百円お買い上げで一枚貰えるチケットを10枚ずつメンバーに渡し始めていた。


「よし、言いだしっぺの私から!お願いしますぅ」

 金髪の妙齢女性がコテコテのイントネーションで話しかけてきたものだから店員は面食らっていたが一回どうぞと言って手のひらを見せた。


 よくあるガラガラと回して球を出すタイプの物だ。

 キャシーが二回半回したところで球が出た。


 白だ。


「飴ちゃんどうぞー」

「ありがとー。……ま、こんなもんやな」

 キャシーが下がると今度は和泉が回しに行った。


 黄だ。


 たぶん下から二、三番目に良いものの筈だと思い、景品表を見上げると案の定そうだった。

「おめでとうございます。六等お菓子でーす!」

「かたじけない。……キャシーよりは運が良いようであります」


 和泉が少し得意げに帰ってきたら次はリーコが静々と前にでた。

 リーコがよいしょ、よいしょとからくり人形のように回す。


 白。


「やっぱりなー」

 店員も飴の入った箱を差し出すだけだった。

 リーコがレモン味の飴と戻ってきたら今度は山城が回しに行った。

「飴とお菓子ならけっこういいねっ」


 緑。


「おめでとうございまーす。五等香るティッシュでーす。」

 フローラルな香りのティッシュを手にしょんぼりと戻ってきた山城に仲間達から今までゲットしたお菓子が贈呈された。


 こうして見てみると正月だから当たりが多いように思われた。

 しかし、当たりが多いと言ってもほとんどが白だろうと牧原は思った。


「お願いします。」

 店員は牧原の顔に似合わぬ美声にちょっと驚いていたが渡されたチケットを一応ぺらりと確認するとどうぞと手のひらを見せた。


 意外と重い取手を一度回す。

 まだ引っかかっていないので続けてもう一度回転させる。


 牧原の目の前を金色の物が左から右へ横切って行った。


 まさか。

 かなぐの色だろうと思ったら、受け皿の上にコトリと音を立てて落ちた。


 金だ。

 メダルとかだと一番良い色とされているけどどうなのだろう?

 牧原が金は何を示すか確認する前にけたたましいベルが鳴り響いた。


「特賞でました!!!」

 退屈そうにしていた店員が血相を変えて大音声を上げる。


 正月からなんて縁起のいい。

 人の良い見物客が拍手を送った。

 牧原は慌てて頭上の表を確認する。


 当たらないと思って確認してなかった一番上、金のシール横の文字は『ペアで行く三泊四日エリア2の旅』


「すごいよ!テツ!!!」

 腰のあたりにドンとリーコが飛びつく。


 呆気にとられる牧原の横で、キャシーがおおきにぃと言いながら卒業証書の如くしっかりと景品を受け取り、和泉と山城がまるで自らの手柄のようにどうもどうもと拍手に応えていた。




「で、このペアチケット!!!テツが一枚使うとしてもう一枚は……?!」

「「「ハイハイハイハイ!!!」」」

 まるで餌を欲する雛のように皆激しく主張する。


「どうやって決めよう?……あぁ、争いの火種に……」

 牧原は自ら手にしたチケットを見つめた。


 そこにはあまりにも有名なエリア2の観光名所の写真が付いていて、はんなりと美しい。


「テツに決めてもらお!誰と行きたい?!」

「ごめん、仲間に順位はつけられないよ」


「「「テツっ……!」」」

 皆は感動したような顔をするのは一瞬の事で、次の瞬間には拳が突き上げられた。


「やっぱりここはジャンケンで!」

「待って!三回戦にしよう?!」

「トーナメント勝ち上がり戦の方がようない?」

 突き上げられた拳が振り下ろされようとした時、声が割って入った。


「おいおい、ちょっと待てお前ら!」

 話を中断させたのはおそらくこの世で一番口の悪いウィルスバスター。


 牧原は面々が争いを繰り広げている場所から一番見やすいディスプレイの電源を入れた。


「よう!新年早々さわがしーな、おめーら!」


 画面上には鏡餅があり、本来ミカンがある位置にふんぞり返っているウィルスバスターが映し出された。


「あけおめだぜ!」


 彼は松田カンパニーBON発のヒット商品ウィルスバスター・ユーセンだ。


 つぶらな瞳。

 クリームがかった柔らかそうな2頭身ボディに唐草模様のマント。

 赤い兜には左右にエビの尻尾のような飾り。

 さらに赤い兜には一対の黄色い角がたっている。


 マシュマロのような可愛いらしいマスコットだが、このように口調は可愛らしいとは程遠い。


「お前らそんな大事なこと運任せにしていいのか?」

「と言いますと?」

 ユーセンはぴょんと鏡餅から飛び降りるとすぐさま3匹分身を作り4匹になった。


 4匹全く同じウィルスバスターが並んでいる。


「そろそろオイラの新しいウェポンを作ってくれよ」

「オイラら4匹はみんな互角だぜ!」

「一番いいウェポンをもったヤツが一番つよくなるぜ。」

「一番いいウェポンをつくったヤツが勝ちだぜ!」


 メンバーは顔を見合わせた。


「面白いんやない?」

「腕がなります」

「手加減なしだよ」

「ねぇ、制限はナシ?」

 画面上でユーセン達が制限ナシ無し!と飛び跳ねている。


 それぞれが自分のデスクについて睨みあう。

 それぞれが趣向を凝らした武器を作ろうとキーを叩く。

 とても元旦とは思えない光景だ。


「俺もやりたかったなぁ……」

 牧原がぼやいたところでインターホンが鳴った。


 作業に取り掛かっていた面々はギクリとする。


「忘れてた!坊だ!」

 席から立ち、お出迎えの体制を整える前に坊こと和馬が入ってきた。


「あけましておめでとう皆!うわぁ、正月がら仕事熱心だね!」

「皆様、おめでとうございます」

 和馬の一歩後ろから、彼のお気に入りの使用人リンと彼の愛犬ワン太郎が遅れて登場した。


 和馬は一目で高級と分かる袴羽織を着ていて、リンも真っ赤な高級振袖を着ていた。

 何とワン太郎までも和馬の着物と同じ生地で出来た着物を着ていた。


 ワン太郎サイズの犬なら間違いなくオーダーメイドだろう。

 相変わらずの羽振りのよさだ。


「あけましておめでとう、坊、リンそれとワン太郎」

「今年もよろしくねテツ。ところで皆何してるの?」


 作業に取り掛かっていた面々は再び顔を見合わせる。


「「「「新しいウェポン開発だぜ!」」」」

 メンバーが答える前に4匹になったユーセンが答えた。


「おめでとユーセン君。なんでこんな日に?」

「実はこんなものが……」

 牧原はチケットを和馬に手渡した。


 他のメンバーはあっ!と悲鳴を上げる。

 坊なら『面白そう!連れていっておくれよ!』と言いかねない。


 案の定というべきか和馬は嬉しそうにニンマリと笑う。


「なるほど、これを景品にかけてるわけかぁ……」

 和馬はひらひらとチケットを揺らめかせた。


 メンバーは頼むからリンとワン太郎を連れてパパンの金で行ってくれ!と願うばかりだ。

 しかしメンバーの予想に反し、出てきた言葉は意外なものだった。


「これ、追加料金であと三人まで同行オッケーになってるね。丁度いいし、慰安旅行として皆で行っておいでよ。父さんに掛け合ってあげるよ。」

「ほ、ホントに?!」

「うん。1月末は僕も修学旅行でいないし。皆休めるんじゃない?」

「坊……っ!ありがとうっ!」


 急に緊張がほぐれたメンバーは代わる代わる和馬に抱き付いたり握手を交わしたりした。


「おい待て!おまえら!オイラのニューウェポンは?!」


 次々と席を離れるメンバーをユーセンは引き留めようとしたがもはや誰も聞いてはいない。


 そして面々は流れるようにおせちの置いてある団欒スペースに移動していった。


「おせちも準備できてるよ、坊!」

「カニも剥いてあげますよ、坊!」

「座布団は一枚でええか、坊!」

「皆おそろいでお洒落さんだよ、坊!」


「ハハハ、分かりやすいね君たち!」


 ユーセンは4匹になったためいつもの4倍の騒々しさで暴れまわった。


「ひどいぞ!」

「ゆるさぬぞ!」

「ゆるすまじきぞ!」

「やってらんねーぜ!」


 牧原はまぁまぁとユーセンを宥めた。


「今度、俺がイイもの作ってあげるから。」

 ユーセンはポンと音をたてて1匹に戻った。


「ホントだな約束だな!」

「約束、約束。じゃあ後でね。」

 ユーセンはおせちとカニ鍋を囲む集団の中に牧原が入っていくのを名残惜しそうに眺めた。


「いやぁ、豪華だねぇ!」

「そりゃ二万五千円も使えばね。」

「え?!そんなんでこんなに買えたのかい?!」

「出たよ、坊のブルジョア発言!」

「普段から良いもの食べ過ぎなんだよ!」

「坊、一度庶民の相場というものを知った方が良いよ」

「私もそう思います。」

「コラ、ワン太郎これは人の食べ物だよ!」

「そうだよワン太郎。ワン太郎用におせち持ってきたからねぇ」

「あかんで、山城。それは犬の食べ物やで!」

「それにしてもいい着物だねリン。これ老舗の呉服店のでしょ?」

「よくわかりませんが。和馬様からのお年玉でございます。」

「ちょっと聞いた?!私らとの扱いの差ッ!」

「ところで坊、修学旅行ってどこに行くの?」

「さぁ、おぼえてないなぁ、どこだっけ?」

「それって高3の時に行くんじゃなかった?」

「あれぇ?そうだっけ?」


 楽しそうな宴を始める面々を画面に張り付いて見ていたユーセンはポツリと呟く。


「……オイラも混ざりたいぜ……」


 ユーセンの呟きは喧騒に掻き消された。

 ユーセン君は今回のキーウィルスバスターです。

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