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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
学園祭編
46/95

46.復讐

ちょっとスプラッタです

 金曜日の夕方。

 仁科は部下の哲原牧男を連れ、リゴレ・ルーン本社の地下にある秘密の場所に来ていた。


 ここは一般の会社員達が訪れないため、仁科はここを密会場所として利用している。


 仁科は部屋の真ん中にある棺をベンチ代わりに腰かけていて、哲原はそのすぐ横に立ち一定の距離を保っていった。

 棺には仁科の座り心地を確保するためのカバーがかけられていて、段々と私物化が進行している。


 今日は棺だけでなく、この部下も私物化しようともくろんでいた。


「ねぇ、哲原くぅん!今夜空いてる?」

 仁科は棺からぴょんと立ち上がると哲原の腕を引いた。


 哲原はどんなに仁科が誘惑しても決してなびかない。

 現に今だって体を密着させても表情一つ変えなかった。

 それが頬の傷と相まって、堅気でない雰囲気を醸し出している。


 そんな危ない感じのするこの男を、仁科は何としても手中に収めたかった。

 

「夕飯の予定ならないですよ。」

「その後の事聞いてんのよぅ!」

「なぜ?」

 仁科はフフフと鼻にかかる笑い方をしてみせた。


「……そろそろ、いいんじゃない?」

「なにがですか?」


 哲原がとぼけると仁科は独特の含みを持たせて言った。

「分ってるくせに……」


 硬派な哲原でも、女からこのように大胆且つ明朗に誘えば断らないだろう。 

 哲原はじっと仁科を見つめ返したまま動かなかった。


 硬派なフリして実は単に女に慣れていないのかもしれない。

 仁科が胸に入り込むと心臓の音が聞こえた。

 哲原が緊張しているのかと思うと興奮が抑えきれない。


 抱きしめられることを望んだがそれとは裏腹に、哲原はすり寄ってくる仁科を手のひらで制した。

 そしてあろうことか距離を置いた。


「もうっ!なによ!」

 仁科は頬を膨らませてみせた。


 今日こそは乗ってこないと、愛想つかしちゃうんだから!!!


 いつもの哲原なら微笑を浮かべて仁科を宥めるが、今日は一切の笑みを浮かべていなかった。

 こちらに近づく気配もなかった。


「お言葉ですが社長。まだ気づきませんか?」

「えぇ?何を?」

「大ヒントです。」

 哲原が頬を覆っているガーゼを取ると痛々しい傷が現れた。

 もう塞がっているようだが深い傷らしく、赤黒く変色している。


 仁科は気味悪がって一歩半後退した。


「これでもわかりませんか?」

 哲原はやれやれと首を振ると、自らの後頭部をコツンと叩いた。


 何かが飛び出て、それは哲原の手の中に納まった。

 哲原がゆっくり顔を上げる。


「ひゃぁ!」

 仁科は悲鳴を上げて、さらに数歩後ろに下がった。


「サイボーグのあなたでも怖いですか?」

 哲原の顔には本来左目のある位置には何もなく、小さな闇がそこに存在していた。


 仁科はじりじりと哲原と距離を置いた。

 哲原は外した左目を摘まんで本来左目のある筈の位置と重ねた。


 左目も右目も仁科をしっかりととらえ、口元にニヤリと笑みを浮かべた。

 目の前の男が『哲原牧男』以外の誰かだということが分ってきた。


「知らないわよ!なんなの?!」

「いい加減に返してください。俺の左目。」

 哲原の手が真っ直ぐ仁科の顔に向かって伸びてきた。

 その手は躊躇なく顔を抉りそうで、仁科はその手をはたき落とした。


「止めてよ!」


 じりじりと後退しながら、自分の左目に思いを巡らせていた。

 正確には左目の位置にある体のパーツ。

 確かパーツを手に入れたのは十年以上も前。


 このパーツは映像記録が出来て、被写体に気が付かれないように撮影できる優れもの。

 コレのお蔭でお目当ての男の写真を入手することが出来た。

 確かこの会社に出入りしていた少年から奪った物だった筈だ。


 十二年経てば少年は大人になる。

 仁科の頭の中に少年の笑顔が蘇った。


「あなたあの時の!!!」

「やっと気付きましたか?!あの時は本気であなたの事好きでしたよ。あなたもそう言いましたよね?なのに忘れますか?」

 





 十二年前。

 山下先生の葬儀が済んで二週間ほどたった時だった。

 当時はBONなんてなかったが、今より十二歳若いメンバーがパソコンを囲んでいた。


 牧原、リーコ、キャシー、山城、和泉の五人は昔から一緒にいて、その年の四月から就職して、初めてそれぞれの別の道に進もうとしていた。

 それぞれが先生に教わったことを活かせる就職先を見つけていて、やっと働いて恩返しすることが出来る。

 そう思っていた矢先の先生の死だった。


 無法地帯でその日暮らしをしていた五人を保護したうえ、持っている技術全てを教えてくれた恩は本人に直接返すことは出来なくなってしまった。

 先生が亡くなる前に口にした願いは『それぞれが自立した生活を送り幸せに暮らす』。

 その願いを叶えるべく、四月から始まる新生活に向けて準備をしている最中だった。


 五人が一緒にいられる最後の時間が名残惜しくて、よく一つの部屋に集まっていた。

 悲しいことはもうこれまでであとは明るいだけの生活を待っている状態だった。


 その日、パソコンを見ていたリーコが声を上げたことでデスクの周りに集合した。


「ちょっと見て!このニュース!」

 その時に笑月が完全仮想世界RPAをネット上に展開した事をニュースで知った。


「なんで?!これって先生からの圭と葵へのプレゼントじゃ?」

「なんかの間違いじゃない?」

「でも通貨取扱いスタートってかいてあるよ?」


 すでに世界中で総額三億円近くの金が換金されていることも書かれていた。

 笑月社長の座は先生の死後、仁科にうつっていた。

 仁科の仕業であることは明確だった。


 牧原はうろたえる仲間達に何も告げずに一人で本社へ向かった。

 仁科も自分が話せば取りやめてくれると思ったからだ。


 皆には黙っていたが牧原は密かに仁科と交流を持っていた。

 自分だけ笑月本社のパスも持っていたし、仁科の部屋の合鍵まで渡されていた。


 黙っていたのはなぜかというと、仁科は当時男子の憧れの的だったが、女子のウケはすこぶる悪かったからだ。

 自分達の関係を打ち明ければ、仲間内で混乱を招くのは目に見えていたし、大人の女性と付き合っている自分に少し優越を感じていた。


 社内の人間でも持っている人は少ない社長室のパスを使い、牧原は仁科の前に現れた。


「どういう事ですか?!先生のRPAをなんで勝手に一般開放したんですか?!」

「課金制も導入したから儲かるのよ!このお金を研究費にするのよ。見たでしょ?解禁初日で三億よ、三億!」

 仁科は全く悪びれる様子もなくヤスリで爪を研いでいた。

 仕上げにフーと息を吹きかける。


 その表情から反省の色は窺えない。


「翔もあなたが優秀な研究者になることを望んでいたわ。」

 甘く優しい言葉を掛けられて表情が緩んだがそれをグッとこらえた。


「でも……!RPAは圭と葵だけのものです!」

「二人は私の子供なの。家族なんだから。いいんじゃない?」

「子供……?!どういう事ですか?!」

 牧原は声を裏返らせた。


「もう、怖い顔しないで……勝手に子持ちになってゴメンねぇ。魅力半減かしら?」

 仁科が悩ましげに溜め息をついたので牧原は慌てて首を振った。


「そんな事ありません!いえ、そういう事じゃありません!母親は?エマさんはどうしたんですか?!」


 ぶっきら棒だが面倒見のよい二人の母親。

 研究室に顔を出すので牧原もよく知っていた。


 仁科はあぁと呟いて斜め上を見た。


「翔を失ったショックかしらね。蒸発したのよ。」

 仁科は電柱にいた鳥がね。飛んだのよ。程度のトーンで応えた。

 実際仁科はそれくらいの事にしか思っていないだろう。


 牧原はあまりのショックに言葉を失った。


「今、圭と葵は……?」

 突然両親をいっぺんに無くした二人の事が真っ先に心配になった。


「会いたいの?止めといた方がいいわよ。」

 牧原はそっとしておいてあげなさい。と言う意味と受け取って押し黙った。

 しかし、仁科の次のセリフを聞いたら黙ってはいられなかった。


「圭は地下で暴れてるし、葵はRPCで寝たっきりよ。」


 寝たっきりの葵をなぜ放っておく?

 圭に至っては暴れている?

 それも物置と化していた地下で?


 少々乱暴なところがある圭だが、意味もなく暴れたりするような少年でないと牧原は知っていた。

 山下家は先生中心に回っているようではあったが、こうも簡単に崩壊してしまうだろうか。


 牧原は再び感情的に問いただしたい気分に陥っていたが、冷静に細かい質問を重ねる事にした。

 この時点ですでに仁科への不信感は生まれていたが、恋人である仁科を信じていた。


「葵はRPCの中にいて、圭は地下にいるんですね。地下には研究室と備品があるだけです。圭はそこでなんで暴れているんですか?」

 牧原が冷静な口調で問うので仁科は少々うんざりした表情になった。


「圭を今度の研究対象にしようと思って。知ってるでしょ?あの子の身体能力の高さ!もし、同じ身体能力を持つロボットが作れればスゴイことよ!」

「そうですね。それに圭は協力すると言ったんですか?暴れてるところを見ると協力する気はなさそうなんですけど。」

 仁科の機嫌は目に見えて悪くなった。


「あなたも研究者でしょ?」

「でもその前に人間です。」

「私が人間じゃないみたいな言い方止めてくれる?実際半分違うけど」

「俺は嫌がる人間を無理やり研究対象にしてまで、研究をしたくありません。美由さん、こんなこと止めましょうよ」

 仁科は大きなため息をついた。

 仕方がないわね……と呟いたのが聞こえた。


「ねえ。あなたの左目、見せて頂戴。」

「いいですよ。」

 牧原の左目は幼い頃から見えなくて、義眼で生活していた。

 このときの義眼は先生と牧原の共同作で、撮影機能がついていることは以前仁科に教えた事がある。


 何か義眼に映っているのかもしれないと思いそれを仁科に渡した。

 仁科が非道な行いをする理由がそれで分かるかもと期待もした。


 彼女に怖がられたくなかったので目のなくなった部分は手で覆って見せないようにしていた。

 仁科はしばらく渡されたものを観察して、牧原はそわそわとその様子を見ていた。


 視野が狭くなっていたその時、仁科が机の下でゴソゴソ何かを動かしていることに気が付かなかった。


 仁科の手元で何か光ったと思った時には、すでにナイフは振るわれていた。

 とっさに後退りし、よろけたお陰でよける事が出来たが、右の頬に感じた事のない痛みを感じた。


「残念ね」

 仁科の手の中のナイフの先は紅く染まっていた。

 鉄くさい匂いが蔓延するが、その匂いはほかでもない自分自身から発されていた。


「私の思い通りになってくれるから可愛かったのに」

 仁科が椅子から立ち上がったのを見て牧原は恐怖で動けなくなった。


 傷口から頬を伝い口の中にも不快な味が染みた。

「思い通りにならないなら……」


 牧原はやっと体が動くようになって出口に向かって駆け出した。


「いらないわよ」

 その言葉が耳に入ったと同時に社長室を飛び出した。

 それからは一目散に仲間の下に走った。


 心配して声をかけてくれる人もいたが、そこに着く間はみんな仁科の手下のように思えて走り続けた。

 誰かが血を見て悲鳴を上げようが知ったことではない。


「どうしたの哲?!」

 いつの間にいなくなったと思えば血まみれで帰ってきたのだから、皆が驚くのも無理はない。


「救急車は?!」

「気を確かに!!」

「うわーん、哲!!」

 皆の声を聴いてその場に崩れ落ちた。


 彼らは自分の事をこんなに心配してくれるのに、なんで彼らに相談もしなかったんだろう。

 彼らの前で涙を流したのはこの時が最初で最後だが、誰も理由を聞かず看病してくれた。


 この時絶対に仁科に復讐してやると密かに闘志を燃やした。








「顔で思い出さなくても『哲原牧男』で気付いて欲しかったです。」

 牧原はあの時の仁科同様じりじりと近づいた。

 もう哲原のフリをする必要がなくなった牧原は、まるで別人のようにペラペラと口を動かす。


「来ないで!」

 牧原はそれ以上近づかなかった。

 もう一歩近づいていたら仁科のナイフの餌食になっていたからだ。


「口出し過ぎよ!学習して頂戴。頬の傷もナイフで付けてあげたんじゃなかったかしら?」

 続けて仁科は剥き出しになっている首に狙いを定めたが、牧原に簡単に封じられた。


「あなたこそ学習してください。決定打はいつも首を狙いますね。前も外したじゃないですか!」

 牧原が手の力を緩めるとナイフが牧原の心臓辺りに突き刺さった。


「なっ?!」

 赤いモノがベットリとついているかと思われたが、手に握っているモノは鉄で出来た花のようなものだった。

 もう何も切れないだろう。


「なによコレ?!?!」

 仁科は牧原に向かってそれを投げつけた。


 牧原はそれをキャッチすると挑発するように仁科の前にチラつかせた。

 それの柄は紛れもなく仁科が使っていたナイフだ。


「驚きました?金属を防ぐチョッキです。金属を瞬時に分解、再溶接するんですよ。コレで特許貰おうと思ってます。悪用されたら大変ですし。」

「知らないわよそんな事!!!」

 仁科はすかさずピストルを出して牧原を打ち抜く。


「学習能力ゼロなんですか?弾の成分は金属です。」

 牧原が仁科言葉を借りて馬鹿にしたように笑った。

 放った二発の弾はチョッキに当たりタンポポのような鉄の花になっていた。


 だけどチョッキというくらいなのだから守っているのはせいぜい胸部だけ。

 仁科は牧原の眉間に狙いを定めた。


 パンッ


 吹き飛んだのは牧原の頭ではなく仁科の手首から先だった。


「なっ?!?!」

 全身サイボーグの仁科には痛覚は存在しない。

 痛みよりも驚きの表情で手先を見ていた。


「一人で来てるわけないじゃないですか」

 仁科は視線を彷徨わせて狙撃手を探した。

 左手の奥に見える闇にも、右手の闇にも誰かがいそうな気がしてくる。


「そこには誰もいませんよ」

 牧原は天井に隠れている狙撃手を指で示した。


「げ、なんで教えちゃうんですか哲!」

 すっかりスナイパーキャラに浸っていた和泉は不平を漏らしてライフルを再装填しようとあたふたした。

 仁科はチャンスとばかりに無事な左腕で新たに銃を取りだし、和泉に狙いを定めた。


 その時仁科は、牧原が友人に銃を向けているのに驚くほど平静なのに気が付いた。


 パンッ


 吹き飛んだのは和泉でなく仁科の手首だった。


「だから学習能力やで。バアチャン。」


 牧原の横に現れたのは仁科と同じぐらい魅惑的な体つきをした金髪の女。

 キャシーが手にしたピストルからは硝煙が上がっていた。


「二回も手飛ばされとるし、肉体は若くっても脳はそうでもないんか?それとも元から出来悪いんやろか……」

 仁科は怒りのあまり言葉を失っている。

 その隙に牧原は先のなくなった手首を掴んだ。


 仁科が暴れると牧原はそれを利用して足をすくうと地面に押し倒した。

 両手首を頭の上で固定すると仁科は動けなくなった。


 押し倒されることをちょっと前まで望んでいたが今は状況が違う。

 仁科は必死に足をバタつかせて牧原をどけようとした。


「あなたが望んだことじゃないですか。そういえば前にもありましたねこんな事。あの時は逆でしたっけ?」

「ちょっと生々しいで哲……」

 キャシーは仁科が見下ろせるところまで近づいて、不潔やなぁと軽蔑の目を向けた。


「さっさと返してもらったら?」

「そうだね。」

 牧原が仁科の左目に手を伸ばして、仁科は悲鳴を上げて首を左右に振った。

 すると横に立っていたキャッシ―がしゃがみこみ、顔が変形するほどの力で仁科の顎を鷲掴みにした。


「往生際が悪いで」

 仁科はキャシーを視線で殺しそうな勢いで睨み付けると歪んだ口を開いた。


「早く逃げた方がいいんじゃない?!もうすぐここに警備ロボが押し寄せるわよ?」

 キャッシ―がフッと鼻で笑った。


「仲間はこの二人だけじゃなくてもう二人いるんです。」

 牧原が補足すると丁度扉が開いた。


「テツ!この廃材何かに使えると思わない?!これレアメタル!!!」

 リーコは自ら廃材にした警備ロボのパーツを身に纏っていた。


「テツ。運動したから焼肉解禁していい?」

 山城はサンタクロースのように回収したものを袋に詰めて背負っていた。

 そのままどかどかと足を踏み入れてきて仁科は言葉を失っている。


「こういう事です。」

「きーっ!いつかぶっ殺してやる!」

「この状況でよく言えましたね!俺も十二年前からずーっと同じこと考えていましたよ。」


 そして今はそれができる状況にある。

 仁科もやっとそのことに気が付いたようだった。


「嫌よ!止めなさい!」

 仁科の声を無視して牧原は山城に呼びかけた。


「ありがと。今使う。」

「了解!」

 山城は背負っていた袋を下ろした。


 袋から回収したパーツが出され、その次からペンチ、ノコギリ、などが出てきた。

 ただの工具かと思えばそのあとからメスや医療用のハサミなども出てきた。


 それらは前に羅列したものはロボットに使う物、後に羅列したものは人間に使う物、したがって両者とも仁科には有効なものだった。

 仁科にも牧原が何をしようかわかってきたところだった。


 袋から最後に出てきたのはアイスピック。

 これにより仁科の予想は確信になった。


「それにしよ」

 牧原は山城からそれを受け取った。


「まず。それ、返してくださいね」

 仁科が最後に見たのは牧原が大きく振りかぶるところだった。




「テツ怖いわぁ……」

 仲間に何を言われようが牧原は涼しい顔だった。


 一方的な惨劇を繰り広げた後、返り血だらけになっているかと思いきやそうでもなく、綺麗なものだった。

 純粋な生き物ではない仁科には血が通っていないからだ。


「ジワジワいかずに一思いにやっちゃえば良かったのに。」

「なかなかのサディストっぷりでしたぞ。」


 山城と和泉の口調も牧原を心から軽蔑しているようには見えなかった。


「少しでも反省したらいいなぁと思って。」

 牧原は頬の傷を掻きながら照れくさそうに笑った。


「そんな風に見えなかったけどな。」

「テツ怖ぁい!」

「スプラッタ好きにはたまらない地獄絵図でしたよ!」

 

「この会社これからどうなるの?」

 リーコは地面を指さしながら牧原を見上げた。


「たぶん、笑月の下に松田カンパニーのロゴが小さく入るんだろうね。ここの会社の人には迷惑かけず、今まで通り動くと思うよ。」

「これでボンもご機嫌やな!」


 仁科は徹底的に人任せな仕事を行なってきていた。

 そのため牧原が数枚の書類に仁科の印鑑を押したことにも気が付かなかった。


「そんな社長のもとで働かされてるってなんだかなぁ……」

「それで成り立ってるんだから、よっぽど有能な社員さん達なんだよ!来年の決算が楽しみだね!」


 BON一行は機能を停止しておいた警備ロボの前を素通りし、そのまま建物を出た。

 誰も地下室で社長が大変なことになっているなんて思わない。

 疑いの目は一切向けられない。


 何事もなかったかのようにBONへの支給品のワゴン車に乗り込む。


「発見が遅れるだろうな。そもそも見つかるかな?」

 運転席に乗り込んだ牧原は独り言のように呟いた。

 助手席に座ったキャシーは面白くなさそうに鼻を鳴らす。


「哲はお人よしやなぁ。あんな鬼婆、地下で寝とけばええねん。」

「安藤夜あたりが見つけるのでは?」

 牧原の後ろの席で和泉がライフルを片付けながら答えた。


「まぁ、いいでしょ!これっきりで全部終わり!焼肉!」

 和泉の隣の山城はお腹を摩っている。


「私もお腹すいた!」

 最後部座席でリーコが同調した。


「はいはい!」

「今日は哲の奢りだね!」


 十二年前から今日まで銃やライフル、体術の習得までしてくれた仲間たちだ。

 一回分の焼肉なんてお安い御用だ。


「いいよ。どこ行く?」

 やったぁ!とリーコと飛び跳ね、山城は早くもよだれが垂れそうだ。


 その前に。と牧原は言いながら携帯を取り出した。

「圭に報告。」


「私やる!」

 キャシーが手を伸ばしたので、牧原はその上に携帯をポンと置いた。

 

 キャシーはいたずらっぽい笑みを浮かべながら携帯を操作した。

「安藤姫乃といい感じで安心しきってるみたいやからなぁ。オネェさんがちょっとしたスパイスを加えてあげようやないの!」

 葵から聞くところによると安藤姫乃はかなりヤキモチ焼きな性格らしい。

 知らない若い女から電話が掛かってきたらどう思うだろうか。


「やめてあげなよ。」

 牧原の静止を無視してキャシーは電話を発信すると咳払いをして軽率そうな女のフリした。


「ハァイ!圭?……あぁ、なんだ。安藤姫乃と一緒やないんか……」

 キャシーが残念そうに言って周りからクスクスと笑いが漏れた。


 その笑いはキャシーが眉を吊り上げたことによってかき消された。


「え?なんて?葵が行方不明?」



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