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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
学園祭編
28/95

28.学校へ行こう

 金曜の朝

 樹は昨日の今日で、いつもと同じように学校へ向かった。


 樹の家から出て左に曲がると、右手の方に三段ほどしかない階段がある。

 そこを降りれば広い歩道に出る。


 歩道を真っ直ぐ歩けば、15分で駅につく。

 車も通らない安全な道なので朝のこの時間帯は利用する人も多い。


 毎朝同じ時間に出ていれば、歩いている人も見知った顔が多くなってくる。

 樹も人々が駅に歩いていくのに混ざった。


 歩道は高台にあり、駅の方へ向かって歩くと左側には落下防止の柵と背の低い植え込み、右側には民家の壁が続いている。

 左の柵に近づき下を見ると、道路と車の天井部が見える。

 車道はいつものように右側車線が軽く混雑していた。


 樹は玄関で桜に手を振った後、ずっと握り締めていた手をぎこちなく開いて、手汗をカーディガンでぬぐった。

 家を出た後からずっと付きまとっている緊張感。

 樹はその緊張感を漂わせる原因である少女に視線を向けた。


 少女は樹の視線に気付いてこちらを向いた。

 少し釣り気味の目が不思議そうに樹の目を覗き込んでくる。


 この少女、葵の扱いに慣れていない樹は訳もなくヘラヘラとした笑みを浮かべた。

 すると葵はへへへと微笑み返した。

 微笑み返すと表現するにはやや陰のある笑い方だ。


 樹は肩をピクリと震わせて、怪しい笑顔の意味するものに怯えて身を強張らせた。

「めぇ。桜と同じ色だ!」

 

 『めぇ』が『目』に変換されるまでしばらく時間がかかった。

 その後ようやく返事をした。


「あ、ほんとっ?」

「うん。濃い青。」

「そっかー」

 会話が途切れて次の話題を探そうとする樹を余所に、葵は歩道に展示されているポスターを眺め始めた。

 地元の小学生が描いた、実に微笑ましくて可愛らしい絵だ。


 樹は無理に話そうとするのは止めて、彼女の様子を窺う事にした。

 格好は樹が始めて葵と会った時とあまり変わっていない。


 シャツの模様は『お寿司』から『一石一鳥』に変わっているがそれは大した変化ではない。

 少し変わったのは、初めて会ったときはボサボサだった髪が、サラサラと風に揺れている事ぐらいだ。


 昨日は桜と同じシャンプーの香りを漂わせてご満悦だった。

 樹の顔に髪をムチのように叩きつけて、香りを自慢してきた。

 洗うのと同時に桜が苦労して髪をとかしたので、真っ黒なストレートになった。

 今朝も桜が髪をといていたので、その状態が保たれている。 


 葵は未だにサイズの合わない上履きをカポカポさせて歩いていた。

 この履物は樹が渡したもので、そのまま使い続けているようだ。

 帝都学園の上履きはスニーカーのようなデザインなので傍目から見ると運動靴のようにしか見えない。

だから桜も気付かなかったようだ。


 今はそれ程目立たないが、学園に入ったら上履きだとばれてしまいそうだ。

 樹がどうしようかと考えていたら、葵は突如として笑い声を上げた。


「へへへ……!」

 樹はビクリとして体を強張らせた。


 葵はポスターに書かれたダジャレを見て笑っているようだ。

 なんだ……

 どうやらこの笑い方は彼女の素らしい。


 樹は強張った肩の力を抜いた。

 彼女の言動に一々怯えるのはアホらしい。

 まあ、樹が怯えるのは無理もない。

 第一印象がよくなかっただけ打ち解けるのには時間がかかりそうだ。


 葵の身長は樹の胸ぐらいと小柄だ。

 ダボダボした服から出ている手足は棒のように細い。

 こんな少女の何を怯える必要があるのかと思うが、彼女の身体能力は常人のはるか上。

 樹が勝負したところで腕力も脚力も何一つとして彼女にはかなわないだろう。


 現にこの前駅で襲われた時だって、全力で抵抗したが樹は彼女の細腕を振り払う事はできなかった。

 つい昨日、山下の妹であることが分かったので、かろうじて今横に立って入れる状態だ。

 知り合いの妹と言うだけで不思議と安心する事が出来た。


 いつもの思考癖であれこれ考えていたらいつのまに葵と間隔が空いていた。


 葵は樹と離れても小走りで寄ってくるという事はしない。

 代わりに樹が葵の様子を見てしばらく立ち止まった。


 樹には土地勘のない少女を一人で置いていくような事は出来ない。

 一方葵はお構いなしで、樹が立ち止まっても、急ごうという気はないらしい。

 自分が置いていかれるという危険性を全く考えていないようだ。


 このペースで歩くといつもの電車に遅れそうだ。

「アオイ……電車遅れるよ?」

 樹は恐る恐る葵を急かした。


「はーい。」

 葵はトットッと足音を立てながら樹の横まで跳ねてきた。

 その姿は散歩に出た犬を彷彿とさせる。

 樹が視線を向けたら、少女は何食わぬ顔で微笑み返してきた。

 敵意がない事はなんとなく分かるが、未だに彼女がなぞに包まれている事は変わらない。


 樹はいつもより少し足を速めた。

 葵はその横をスキップ交じりでついてくる。


「樹!あれナニ?!」


 葵は歩道と歩道橋が一体になっているところで足を止めた。

 二人の足の下には車が行きかっている。

 それなのに葵が柵から身を乗り出すようなマネをするので樹をヒヤヒヤさせた。


 葵が細い指で示したその先には、プロペラのついた物体がゆっくりと近づいてきていた。

 それは車道の上を飛んでおり、二人の足の下を通過していった。


 葵は素早く移動すると橋の下を通過してくるそれを観察した。

 葵はそれが遠くなって見えなくなるまで見ていた。


「巡回監視用ロボ。GD03スパークだよ。警備ロボのことを総称してGDって言うんだ。あれは浮遊型だと最初のモデルで、GDの中だと三番目の……」

 葵は急に饒舌になった樹に圧倒されて、ポカンと口を開けていた。


「じーでぃー?」

 葵は首を傾げて繰り返した。

 樹はそこで葵が取り残されている事に気がついて口を噤んだ。


 GDというのは地域によってデザインが異なるのでスパークを知らないだけかと思っていたが、彼女はGDという存在自体知らないらしい。


「GD見たことないの?」

「うん。」

 葵は平然として応えた。


「田舎だからね!」

 葵はまたへへへと笑う。

「そうなんだ。」

 いまどきロボットが飛んでいないところも珍しい。


 特にこの国なんて『ロボット大国』とまで言われている程普及しているのにも関わらず、彼女はGDを生まれて初めて見るらしい。


「ねぇ、樹。コッチってどこにでもあんなの飛んでるの?」

 葵は足の下を通過していく車を見ながら言った。


 『コッチ』という単語表現は、葵がどこか知らない遠くの土地から来た事を意識させる。


「うん、まあね。飛んでるのだけじゃなくて地面を歩くのもあるよ。動かないのもある。一家に一台はあるんだ。」

 葵は車を見るのに飽きたのか樹に向き直った。


 そしてあれ?と言うように首を傾げた。

「でも、樹んチにはないね。」

「そうだね……ちょっと色々あって。」

 樹は力なく笑った。


 ロボットのいない家もこの時代かなり珍しい。


「ふーん。」

 葵は興味無さそうに呟いて、それ以上追及してこなかった。


「詳しいね樹!」

 樹はピカピカと光る葵の目を見てしまった!と思い、はぐらかすように足を動かした。


「そんな事ないよ!」

 葵はピョンと大きく跳躍して樹の横に着地した。

 柵から樹までの距離を一気につめた。


「そーなの?」

「そうだよ。皆知ってるし。」

 コレは嘘だった。

 そのロボットが何に使われているか知っている人は多くとも、その機種の名前まで言える人は少ないだろう。

 だがこっちに来たばかりの葵は知る由もない。


 これは家にロボットがいないその反動でロボット情報誌を買ったりして身についた知識だ。

 そのうち一般人の持っている知識より多くの知識をつけてしまった。

 俗に言われるロボットオタクとなった。


 家族はこの事は知らない。

 だからその前に『カクレ』がつく。

 もちろん桜には内緒だ。

 妃にも『ナイト君に似たんだよ!』と言って家に波乱を起こすに違いないので言っていない。


 普段このカクレロボオタの皮が剥がれる事はないのですっかり油断しきっていた。

 それが急に現われた葵によって縁がぺろりと剥がれた。


「みんな物知りだね。」

 感慨深そうに唸る葵を見て少し罪悪感を覚える。

 

 葵は人の言ったことを鵜呑みにするので、これから迂闊に嘘を喋らないようにしよう。


「うん、まあね。」

 今日の通学路は人の他にも色々な物が行きかっていた。

 気のせいかいつもより多い気がした。


「樹あれは?」

「家事ロボ。」

 わざと素っ気無く手短に応える。


「カジロボのなーに?」

「KM05」

「何するヤツ?」

 どうか葵には桜の前で皮を剥がすようなマネはしないで欲しい。


「あ!」

 また何か見つけたらしい。

 葵は目ざとく住宅の間にある小さな公園を見つけた。


「樹ちょっと待ってて!」

 遊具に突進していく葵。

 腕時計を確認して樹は仕方がなく、電車を一本遅らせる事にした。


 葵が立ち止まったのは何の変哲もない公園だ。

 樹も幼い時は何度もここで遊んだが、大きくなってからはメッキリ遊ばなくなった。

 いつから遊ばなくなったか明確には分からない。


 ちょっと気が引けたが葵が呼ぶので仕方がなく、樹も久しぶりにその公園に足を踏み入れた。

「来てきて!」

 朝から元気だねと呆れながら葵に駆け寄った。


 この場所にはちょっとした思い出がある。

 良い思い出ではない。

 かといって、もうここに二度と立ち寄りたくないというほど悪い思い出でもない。


 葵がいる円形状のジャングルジムの奥には、ボウルを反対向きに置いたような遊具がある。


 樹は幼い頃にプチ家出をした。

 家出の理由は桜が樹のお気に入りだったロボを廃棄処分してしまった事だ。

 それ以来王野家にはロボットがいない。


 小さい頃の樹は怒って家を飛び出し行方不明になった。

 近所の人や中津芸能の皆が探し回って、警察に連絡しようと思い始めていたときに、樹はあの遊具の中で見つかった。

 皆が必死に捜索していたのにも関わらず、樹は暢気にこの中で眠っていたらしい。

 家に帰った時にめちゃくちゃ叱られたのは言うまでもない。


 それがここへ来なくなった原因なのかもしれないが、その後も数回ここに来た覚えがあるのでそうとも言い切れない。

 ただその後何度かここに来てもとてもつまらなかった。

 『こんなんだっけ、公園?』

 幼いながらにそう思ったのを覚えている。

 ただ単にその事件をきっかけに大人になって、飽きてしまっただけかも知れない。


「イツキ!」


 葵の声で過去から戻ってきた。

「イツキ!回して回して!どっちが先に飛ぶか勝負だよ!」

 葵は円形状のジャングルジムが回転する遊具に掴まっていた。

 遠心力を最大限に利用した危険極まりない遊びだ。


「飛ばないよ?!危ないよ?!」

 樹が止めると葵は唇を尖らせた。


「えー。」

「ダメ。子供が真似するし。」

 それ以上に樹自身が怪我したくない。


 樹はだんだん葵の扱いに慣れてきた。

 ダメなものは早い段階でキッパリ言わないと、ズルズルと悪い方向に引っ張られてしまう。


「ケーニーはこうやって遊ぶっていってたもん。」

 葵はブウブウと頬を膨らませた。

 山下兄妹は随分とアグレッシブな幼少期を過ごしたらしい。

 兄妹の人並みはずれた運動能力の理由を今知った気がした。


 葵は遊具によじ登り、鉄製の遊具に足を絡ませた。

「ねぇ、樹。学校って樹と一緒なんだよね?」

 葵はさかさまになったまま話しかけた。

 長い髪が地面につきそうだ。


「うん。そうみたいだね。」

 山下から聞くところによると、彼女は樹と同じ帝都学園に所属しているらしい。

 その話を聞いて樹は自分の隣の空席を思い出した。

 いつもは休み時間になると永久が使っている空席だ。

 まさかと思ったらそのまさかだった。


 一学期から一度も顔を出していない謎の同級生は葵だったのだ。


 人づてに聞いた話だが、中学1年生の時から学年のどこかのクラスに必ず空席は存在していたらしく、学年が上がっても、上がっても誰もいない空席も一緒に進級しているそうだ。


 その噂を信じるとすると、葵はこの五年間不登校だったようだ。


「アオ、初めて学校行くんだ!」

 遊具に足を引っかけたまま樹の前を旋回していく。

 元気ハツラツの葵は樹のイメージする不登校者とはかけ離れている。


「そうなんだ。緊張してる?」

 葵は間髪入れずに返事を返す。

「ううん。楽しみ!」

「ならよかった。」

 不登校になっていたのは何か問題があった訳ではないようだ。


「ねぇ、葵の住んでるところってどこら辺?」

「山に囲まれてるところ。」

 昨日と同じ答えが返ってきた。

 抽象的な答えではなく具体的な事を答えて欲しいのだが……


「エリアでいうと?」

 葵は首を傾げる。

「わかんない。でもね、動物いっぱいいる。ポヒドンとかコモスとかバーパーとか…」

「へぇ……?飼ってるの?」

 樹は家畜に名前を付けているのだろうと思った。


「うん!ガロンが育ててる。」

 

 『ガロン』というと海外の人だろうか?

 つい最近までそんなところにいた葵と父がどんな関係にあるのだろう?


 初めて会ったとき、イキナリ刃物を突き付けてきた葵。

 田舎で平和に暮らしていた彼女に殺意を抱かせる程、父は悪い事をしているのか?

 聞きたいような気がするが聞きたくない。

 だってどんなに離れていたって親子なのは変わりないから。


 樹の視線に気づいたのか葵は樹を見上げて尋ねる。

「ねぇ、樹。電車っていつ来るの?」

 葵は体を揺らし再び樹の前を旋回していった。


「次のは五十分。」

「四十五分だけどいいの?」

「今まだ三十二分だよ?」

 樹は腕時計を確認した。


 あれ?秒針が動いてない?!

 樹はおそるおそる葵が見ていた公園の時計を確認してみた。

 時刻は四十五分。


 樹は絶望的な悲鳴を上げた。

「どうしよう!」

 樹は今まで無遅刻無早退の優等生だ。

 それに葵を頼んだと言われたのに!

 遅刻していては合わせる顔がない。

 

 遅刻したらまず何すればいいんだっけ?

 慌てる樹を見かねた葵は、ぴょんと遊具から降りた。


「葵、急いで!走るよ!」

 半分以上は葵が道草くっていたせいなのだが、葵は偉そうに腕を組んだ。

「ダメだなぁ樹は!遅刻しちゃうよ!」

 葵は樹の腕を掴んだ。


「ヒョエ?」

 樹は疑問符のついた妙な声を上げた。

 次の瞬間、腕だけすっぽ抜けそうな程の力で引っ張られた。


 腕がすっぽ抜ける前に樹は足を動かした。

「早く電車来ちゃうよ!」

「ちょっ!まって!!!」

 樹は葵のスピードについていくため、必死で足を前に前に出した。


「ヒィイイイィィィ!!!!!!!!!!」

 樹は住宅街の中にいるにも関わらず悲鳴を上げた。

 葵は樹の手を引き、人の足では到底出せないようなスピードで走っていた。 

 見慣れた筈の景色が歪んで見える。


 少しでも足を止めると引きずられそうになる。

 引きずられたら一瞬でミンチになるに違いない。


 その事が頭によぎった瞬間歩調が乱れて躓いた。

 樹の生きたいという意志が咄嗟に左足で強く地面を蹴らせる。

 フワリと体が宙を浮く。


 何だコレ?!

 落下しそうになると今度は右足で地面を強く蹴った。

 再びフワリと体が宙を浮く。

 跳んでる?いや、飛んでる!!!

 人って飛べる生き物なんだと樹は認識を改めた。


 樹がそう感じたのも無理はない左足から右足の一歩の間だけで十メートルは移動していた。

 樹が慣れて楽しみ始めた時に駅についてしまった。


 止まった途端にジーンと足の裏から痺れ始めた。

 葵はボサボサに乱れた髪の隙間からニシシと歯を見せて笑った。


 気分は悪くない。

 疾走した爽快感が勝っていい気分だった。


「早く早く!電車来ちゃうよ!」

 葵はぶるぶると体を震わせて、顔の前に来た髪をどけると、一人で建物の中に入っていった。


「待って、葵!!!」

 ガクガクして動きにくい足を無理に引きずって葵についていった。

 一本遅らせようとしていたが、駅の時計を見ると、いつも通りの電車に間に合っていた。


「早く早く!」

 葵が切符売り場の前で手招きしていた。


「樹、切符!」

「はいはい。」

 葵は今朝兄からもらったお金を販売機の中に入れた。

 葵はそのまま立ち尽くしていた。


 樹は何駅なのか知らないのかと思い後ろから「双葉駅だよ。」と囁いた。

「え?……うん。」

 葵は返事をしたものの、料金が表示されたタッチパネル上で手をさまよわせる。


 『ボタンを押してください。』

 急かすように無機質な音声で告げられる。

 樹は360円の枠を指さした。

 葵の顔がほころぶ。


 樹はうんうんと頷いて葵にボタンを押させた。

 『ありがとうございました。』

 切符とお釣りがじゃらんと出てきた。


 葵はそれをかき集めてスウェットのポケットに入れた。

 樹はそれを確認すると改札口に移動した。

 樹はいつものように改札の前からパスを掴んでいた。


 ブー。

 鳴り響く拒絶の音。

 何度聞いても心臓に悪い。


 期限切れだっただろうか? 

 自分が鳴らしたと思ったが、音は隣の改札口だった。


 音に驚いた葵は手と顔を横に振る。

「アオなんもしてないよ?!」

 その手には切符がしっかり握られているのを見て唖然とした。


 葵の後ろに列ができていく。

「この音止めてよ樹!」

 葵は耳を塞いでうるさいアピールをする。


「葵、切符入れて!!!」

 葵の焦りが伝わってきて樹もあたふたと支持を出す。

 葵が切符をいれた事で通せんぼされていた扉が開かれた。


「葵!切符とって切符!」

 葵は慌てて改札から出てきた切符を掴んだ。

 渋滞は何事もなかったかのように解消された。

 先頭にいた人はチラリと葵を見たが、後の人は二人の横を素通りしていった。

 

「切符降りるときいるから。まだとっておいてね。」

 樹は念のため釘を刺しておいた。

「うん。」

 葵はポケットの中に入れた。


「葵って電車乗るのって……?」

「初めて。」

「そっか。」


 GDも見た事ない。電車に乗った事もない。

 一体今までどこに住んでいたんだ?


「行こうか。」

「はーい。」

 さっきので懲りたのか、葵は先に行くような事はせず、後ろにピッタリとくっついて歩いた。

 樹たちがホームについてしばらく経つと電車が滑り込んできた。


「樹、いっぱいだよ?乗れないね。」

 ホームの壁によっかかる葵を呼び寄せた。


「乗れるよ?!まだまだ乗れる。」

 葵はいっぱいというが、座席は埋まっているが、立っている人がまばらにいる程度だった。

 この程度で乗れなかったらいつまでたっても乗れない。



 まだまだ先は長い……



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