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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
学園祭編
25/95

25.ノコギリ村発見記

 RPAノコギリ山某村。 

 月が沈み日が出た頃。


 SPシュガープラスは村長の家でルンルンと荷造りをしていた。

 月が沈むと敵も襲ってこないため、村の防衛を生業とするSPに自由時間が訪れる。

 眠らなくても済むウィルスバスターは24時間稼働することが可能だ。


「どこに行くんじゃシュガープラス?」

 村長が目覚めのお茶を飲みながら問いかけた。

 SPは誇らしげに村長の方を振り返った。


「ポルーといっしょに散歩にいくんだ!森を案内してもらうんだ!」

 ポルーとは、この村を囲うようにある森に棲む生き物だ。

 あちらの世界にいるもので例えるなら、大型犬ほどの大きさのキリンに似た生き物で、ヒューウィクと鳥のような声でなく。


 もちろんあちらの世界には存在しない。


「もう友達ができたのか?」

 ガロンはそう言いながらSPの手元を覗き込んだ。

 いつもはマントとして使っている唐草模様の上には大きなガラス瓶に入った、金平糖がいっぱいに入っている。


 確かに青の言った通りゴツゴツしていてトゲトゲだ。

 しかしイメージと違い可愛らしい。


「これが金平糖か……」

 そうそう!とSPが答える。


「たべてみてよ!うまいから!」

 SPは小さなマシュマロハンドの上に金平糖を三つのせると食卓の上に飛び乗った。

 その時丁度ヘナーが朝食の後片付けを終えて、食卓に戻ってきた。


「コラ。食卓の上にのらないの。」

 すかさずヘナーが野次を飛ばす。

 SPはまあまあと宥めて金平糖を突き出した。


「はい。あーん。」

 ヘナーに口を開かせてSPは金平糖を放り込んだ。

 食卓の上を横断して村長とガロンの口の中にも一粒ずつ放り込んだ。


「甘いだろ?美味いだろ?」

 よっと!といいながらSPは食卓の上から飛び降りた。


「砂糖菓子か……」

 ガロンはなるほどと感慨深そうに呟いた。


 村長とガロンは金平糖を舌の上で溶けきるまで転がした。

 一方ヘナーはボリボリと音を立てながら噛み砕いた。


「美味いもんだね金平糖!」

「だろだろ?おいらがおもうに、この世でいちばん甘旨なたべものだ!」

 SPは再び荷造りを始めた。

 大きなガラス瓶を風呂敷に包みたいのだが大きすぎて中々うまくいかない。


 その様子を見たヘナーは台所に行って、片手に収まるほどの鉄製の小箱を持ってきた。

「これに入れてお行き。」

 SPは差し出された小箱を両手で受け取った。


「なんだこれ?」

「青が昔使っていたお弁当箱。森に行くときはいつも持っててたね。」

 懐かしそうにヘナーが言った。

 空の月が替わってしまった以来、夜に起き、昼に寝るようになったので最近は使っていないようだ。


「使っていいのか?」

「もちろん!」

「ワーイ!サンキューだぜ!」

 SPはトロフィーのように頭上にお弁当箱を掲げた。

 ヘナーからもらった、小さなお弁当箱に金平糖をたっぷりと詰め込む。


 ビンは部屋の隅に置かせてもらった。

 三人の視線に気づいたSPは一日5粒……いや、3粒までだぜ?と釘を刺しておいた。


「はいはい!」

「勝手に食べないよ」

「余程好きなんじゃの」

 三人が笑うのでへへっと笑い、弁当箱のふたを閉めて、風呂敷で包み込んだ。


「じゅんびかんりょう。」

 SPが準備を終えたのを見計らったかのようにドアを叩く音が耳に入る。

 コンコン。


「お迎えが来たみたいだぞ。」

 ガロンはそう言って立ち上がると、玄関の扉を開けた。


 ドアの向こうにはポルーが緊張したお持ちで立っていた。

 ポルーは扉を開けてくれたガロンに頭を下げて一礼すると、家の中を覗き込んだ。

 SPの姿を見つけると、ヒューウィクッと鳥のような声で鳴いて、SPを急かした。


「お待たせだぜ!」

 SPは家から飛び出すと、ピョンと飛び上がりポルーの背中に飛び乗った。

 ポルーの背中は小さいが、小さなウィルスバスターが乗るのには充分だ。


「行ってらっしゃい。」

 家の中から、村長とヘナーが手を振った。

 それにこたえて、SPも手を振った。


「日が沈む前にかえるぜ!」

「ヒューウィクッ!」

 SPとポルーは日の光を浴びながら森に向かって歩き出した。


 月が出ていない時間帯。RPAは平和そのものだ。

 今日、SPは村の人間が大茸と呼び大切にしているRPAのシンボルを拝みに行くのだ。






 深い森にザックザックと言う音が響いている。

 森はまだ日も高いというのに薄暗い。


 不規則に立つ木々の間に直径二メートルほどの穴があり、堀かえされた土が穴のすぐそばで小さな山になっている。

 かなり深くまで掘ったようで山は今にも雪崩をおこし、また穴を埋めてしまいそうだ。


 穴を掘っているのは三白眼のクマ、イッキと二足歩行が得意なシマウマ、ロッキだ。

 二匹はオンラインゲームRPAのアバターである。


 本来ならばコロニーと呼ばれる町の中にいるはずのアバターだが、『車』というアイテムを使い、外に飛び出してきた。


 イッキとロッキは黒い作業着に身を包みただ黙々と穴を掘り続けていた。

 イッキが沈黙を破り呟いた。


「なんか死体埋めるみたいだね……」

 今の状況を的確に比喩した。

 深い森の中で、人気のないところで、穴を掘る。

 火曜サスペンスでは横に死体が転がっているところだ。

 

「そんなつもりはなかったのよ!!!」

 ロッキもそれに乗っかってお決まりのセリフを言う。


 それをきっかけに二人は穴を掘るのをやめてシャベルを地面に突き刺したままその場に座り込んだ。

ひとまず休憩というわけだ。


「あ、ロッキも見てた?先週の汗水警部事件簿!」

「見てた見てた!あの犯人は予想外だった!」

「あれはよめないよー。」

 先週の火曜日の内容にも丁度このようなシーンがあった。

 犯人がコッソリと死体を山奥に埋めに来るのだ。

 犯人はお約束通り、汗水警部に岸壁で手錠を掛けられた。


「あーどこまで掘ったかな……」

 ロッキはおぼろげな瞳で上を見上げ、イッキも釣られて上を見上げる。

 画面上でも圧迫感を感じてしまうので自然とそうしたくなってしまったのだ。

 見上げると、丸い穴の奥に木がお生い茂っていて、葉と葉の隙間から光が漏れていた。

  

 イッキはポケットにしまってある地図を広げた。

 年季の入った古い紙のようなデザインになっているが、現在地が座標と赤い点で表示されるデジタルなアイテムである。


 RPAに存在する場所は全て、ノコギリ山大茸を原点とした座標で示されている。


「今いるのはX座標103。Y座標-3。Z座標903!もうすぐだよロッキ!」

 目標は高度を表すY座標をあと2つ堀り進めた、X座標103。Y座標-5。Z座標903だ。

 イッキは勇気付けるつもりで言ったがロッキは頭を抱えて吠えた。


「あー!!!座標なんて授業の時だけで充分だ!!!」

 ロッキはイッキと同じ高校生だ。


「数学か……ロッキさては二次関数苦手だな?」

 イッキは三白眼の瞳でニシシと笑い、肉球のついた手でかの放物線を描いた。

 ロッキは止めてくれー!!!と十字架を見たドラキュラのごとくのた打ち回った。


「だって二次関数なんていつ使うんだ???!!!」

「ここから物体を投げてその着地地点を導き出せるんだよ。」

 イッキは先生が言っていた事をそのまま言った。


「モノは投げちゃいけません!!!」

 二匹がしばらくの間寛いでいたら急に視界が暗くなった。

 誰かが穴に差し込んでくる光を遮っているようだ。


「二人とも!口動かさないで手を動かす!」

 上を見上げるとわずかな光によってリスの形になったシルエットだった。

 同じチームに所属しているリッキだ。


 ネット世界で休日を楽しもうとしていた二人を車でここに連れてきたアバターだ。


 本当はこんな山奥だけでなく、ネット世界自体に来ないでおこうと思っていたのだが、樹は暇と寂しさを持て余しRPAに来てしまった。

 母は賑やかなパーティを行なった昨日の今日で再び海外に旅立ち、姉と山下は仕事へ向かった。


 樹はゆっくりイブじいの家に留まっていてもよかったのだが、もしかしたら夕方迎えに行けないかもと姉が言うので、姉達の予定に合わせ早朝自宅に送り届けられた。


 家の中は空っぽで、二度寝をする気にもなれず、RPAに手を出した次第である。


 するとそこにはロッキがいて、この時間帯珍しいねぇ。などと会話をしていたところに更にリッキが現れた。


『お二人さんヒマ?ヒマだよね!そうだよね?!』

 そうして、あれよあれよと言う間に車の詰め込まれ、この場所に連れてこられた。


 仁王立ちをして怒ったような顔立ちでこちらを見下ろしているのがシルエットだけでもよくわかる。


「さぁ!早く掘るよ!!!」

「ヘイヘイ……」

 ロッキとイッキは仕方がなくまた作業に戻った。

 それを見たリッキは満足そうにまた穴を掘りにいった。


 ここ、ノコギリ山の大キノコ周辺は、前に謎の仮面男にであった場所でもある。

 謎の黒い生物から救ってもらったのだ。

 今になってもあの黒い生物がなんだったのかわからない。


 それにいたく感動したリッキは彼の追っかけになってしまった。

 彼の足型のついたナンバープレートはマッキの部屋に大切に飾ってあるそうだ。


 リッキは再び彼に会うために、ロッキとイッキを強引に連れてここまで着た。

 そして今は彼を捕まえるための落とし穴を掘っているのだ。


 イッキとしてはここに来るのは大反対だった。

 この前追いかけてきた黒い生物はホラー映画並みに怖かった。

 それに『アカウントを消されたくなければここに来るな。』とも言われていたし……


 何より人のストーカー行為に加担するのが嫌だった。

 ロッキも全く同じ心持だ。


「なあ、イッキ。『仮面男』って何者だと思う?」

 ロッキが地面にシャベルを突き刺しながらイッキに問いかけた。


 ウーン……

 イッキは唸った末に自分の見解を述べた。


「『仮面男』も青サマみたいなVIPプレイヤーなんじゃないかな……?」

 イッキたちと違い、この世界には自分自身がゲームの中に入り込んでこの世界を楽しむプレイヤーもいる。

 イッキは『仮面男』もその一人だと思っている。


「でもさ~ありえなくない?だって全速力出してる車を足一本で止めれちゃうんでしょ?」

 VIPプレイヤー達はRPCという機械を使いこの世界に出入りする。

 RPCはVIPプレイヤー達の運動能力をダイレクトに反映させる。

 車を足で受け止めるとなると相当な力が要るし、普通の人間ではない事は言うまでもない。


「なんか特別なアイテムでもあるんじゃない?飲むとパワーアップしちゃう薬とか?」

 そんなもの存在するのかはさだかではないが…… 

 イッキが適当な答えに大いにロッキは共感した。


 半開きの目がカッと見開かれる。

「あぁ!そうなのかも!何でもありだもんなぁこの世界……!」

 ロッキが共感してくれたにも関わらず、イッキは自分の言った事に違和感を感じ、腕を組んでウーンと唸った。


「でも、なんでそんな強いアイテム持ってるのに、コロシアムには出ないんだろう……?」

 VIPプレイヤー達はそのコロシアムで勝ちその頂点に君臨する事を目的にしている。

 最強とも言えるアイテムを持っているのに、それを誇示しないなんて勿体ない。

 あの力があれば、青サマに勝つ事も夢じゃない。


「一時的にしか効果が無いとか?」

「なるほど!」

 次はロッキの言ったことにイッキが感心した。


「イヤイヤ!あの状況でそのレアアイテム使うか……?」

 イッキがそうであったようにロッキも自分の考えに納得いかないようで、地面に刺さったシャベルを放置して腕を組んだ。


「俺さ『仮面男』は、生身の人間じゃないような気がするんだよ……!」

 ロッキの言うことが事実ならば、彼の桁外れた強さにも納得がいく。

 

 だとすると、存在しない人と会話をしていた事になるのだろうか?

 実在しない人物と会話を交わしていたと考えるのは不気味だ。


 イッキが背筋で気味の悪さを感じているのを見て、ロッキは微妙な表情を作った。

 イッキにちゃんとした言葉で説明できるように模索しているようだ。


「いや。違うんだって。実際に存在しない訳じゃなくて、存在するけど人じゃない。みたいな?」

 ロッキは謎ナゾのような説明を加えた。


「ロボットとか……?」

 イッキは自信が無さそうに答えた。


「そう、そういう事!」

「あーそれもあるかも。」

 イッキはそう呟きながらも、内心納得できないでいた。


 傭兵型ロボは一番新しい機種でGD7がある。

 しかし、そのGD7は人と会話できるほど優れた知能は持っていない。


「もし本当にそうだったとしたら、会話してたんだし、自我があることになるのかな……?」

 もしそんなものが存在していたら、RPAだけでなく現実世界でも大きな問題になるはずだ。

 法律でロボットに自我を持たせる事は硬く禁じられている。


 自らの思いのままに生き物を作るという反道徳的問題だ。

 そして人間より優れた運動機能を持つロボットの自我がバグを起こした時の恐れ。

 このような理由から帝都の革命が起こったと同時に、政府が新たに法律に加えたのだ。


 仮面男がVIPプレイヤーでも、RPAだけにいる人工知能だとしても、何にしてもあまり深く関わりたくはない。


「そうなのかな……やっぱり、普通はロボットと話したりできないよな……」

 ロッキの話しぶりは自分がそういう存在にあったことがあるような言い方だ。


「ほらほら!また手ぇ止まってるよ!」

 会話が途切れたところで、リッキの声が降ってきた。


「ヘイヘイ……」

 ザックザックと再び掘り始める。

 目標のエックス座標103。ワイ座標-5。ゼット座標903まではまだまだ掘らなくてはならない。


「リッキ……!こんな古典的な罠に引っかかるか?」

 ロッキは不満げな声で頭上にいるリッキに問いかけた。


「古典的だからこそいいの!誰がこんなところに落とし穴があると思う?!」

 リッキは自信たっぷりに答えた。


「さっきから思ってたんだけどさ、リッキ文字早くない?」

 前々から文字を打ち込むのが早いリッキだったが今日は段違いだ。

 一瞬にして文字が表示される。


 リッキはムフフと笑う。

「仮面男様と円滑に会話するために、音声入力マイク付きのVR機器買っちゃいました!」


 VR機器は中々に高いものだが、オプションが付くとさらに値段は跳ね上がる。


「この前買ったばかりじゃなかった……?」

「すげー経済回してんな!お古くれよ!」


 イッキとロッキの言葉は耳に届いていないようだ。

 リッキのシルエットの尻尾が興奮したようにピョンピョン跳ねているのが分かる。


「ねーリッキ……!万が一仮面男が罠にかかったとしてどうするの?」

 リッキはウフフと狂気めいた笑い声を上げた。


「恥ずかしいから聞かないでよう!!!」

 イッキとロッキは顔を見合わせた。


「リッキ!止めようよ!」

「言えないようなことするの?!」

 穴の中で騒ぐ二匹を黙らせるように、リッキはシャベルの持ち手を地面に叩き付けた。

 ガキン!と言う音が響く。


「シャラップ!私にはもうこの世界しか残されてないんだよっ!!!もう三次元は終わった!!!」

 穴の中で二匹が悲鳴をあげる。


「何があったんだ?!早まるな!!!」

「ちょっと!ヤバイよこの人!」

 リッキは今一度、柄を地面に叩き付けた。


「なんとでも言え!ドキドキ青春ライフを満喫しているお前らに何がわかる!!!」


 リンリンリン!!!

 静かな森にけたたましい鈴の音が響き渡った。

 何かが落とし穴に落ちた合図だ。

 リッキは素早く音のした方を見据える。


「仮面男様!!!」

 ロッキとイッキは目を丸くさせて慌てて穴から這い上がった。


 リッキは今日最初に掘った穴まで走った。

 リッキの隣からイッキとロッキも穴を覗きこんだ。


「ユーセン?!」

「レアキャラクターだ……」

 しかも見たことのない特別仕様だ。

 通常版では丸みを帯びた兜の飾りは、ピンととがっているし、ボディーも全体的にクリームがかった色をしていた。


 罠にかかっていたのは二匹の動物だった。

 一匹は見たことないような生物で、もう一匹はかの有名なウィルスバスターだった。

 馬のような体の上にウィルスバスターが乗っていた。


 上にのっているウィルスバスターがふわふわのマシュマロボディだったため、下にいた生物も怪我は無さそうだ。

 リッキが『仮面男様が怪我しないように』としかれていた落ち葉のクッションが効いたのかもしれない。

 そのような配慮が出来るのならはじめから落とし穴なんて作らなければいいのに。と無意識にため息が漏れる。


 リッキは途端にガッカリしたように肩を下ろす。


「仮面男様じゃない……」

「そんな簡単に引っかからないよ……」

 よくよく考えたら、あの仮面男がこんな罠に引っかかっても、すぐに脱け出してしまうだろう。


 仮面男がかかったのでなくて内心ホッとしたが、二匹の可哀想な動物たちを早く自由にしなければ。

 イッキは肉球のついた手を差し伸べた。


 ウィルスバスターはその手を必要ないぜと言わんばかりに無視して、ポルーに手を貸しながら自力で這い上がった。


「とんだめにあったぜ!な、ポルー!」

「ヒューウィクッ!!!」

「このSPを穴に落とすとは!許さぬぞ!許すまじきぞ!!!」

 二匹は怒りを地面に正座し恐縮しているロッキとイッキに向けた。


「本当にゴメンね……」

「ここにいるリスがゼンッッッブ悪いんだよ……」

 自らをSPと名乗ったウィルスバスターが二人に言われた方を見ると、リスのアバターがぐったりと肩を落としている。

 SPは本アバターから直接聞くことは改めてロッキとイッキに向き直った。


「……ところで、なんでおまえたち、こんなところにおとしあななんかつくったんだ?」

 危ないじゃないか!とSPが憤る。

 ロッキとイッキが激しく何度も頷いた。


「うん。全くその通り!このリスにも言ってやって!!!」

「これで仮面男を捕まえようとしてるんだよ……」

 二体のアバターは後ろのリスが首謀者であり、俺達はふりまわされているだけなんだ!という事を伝える。


 仮面男と聞き、リッキは赦しを乞うロッキとイッキを押しのけた。

「そうだユーセン!!!あんた『仮面男』知らない?!」

 リッキは血走った目を見開いてSPに迫った。

 その迫力に押されてSPは後退る。


「おいらはユーセンSPだっつーの!仮面男?そんなあやしいやつしらないぞ!」

 断言するSPにポルーが背中を遠慮がちに突付いた。


「ヒューウィクウィク。ヒュウー。」

 鳥のような、綺麗な鳴き声だ。

 イッキたちには何を伝えたかったかわからなかったが、SPにはちゃんと伝わったようだ。


「なに?!あいつのことか!」

 ポルーの言葉にSPが仰天する。


「知ってるの?!」

 血眼の瞳で詰め寄るリッキにポルーが怯えて悲鳴をあげた。


「しらないもーん。もどるぜポルー!」

 SPはヒラリと舞い、ポルーの背中に飛び乗った。

「ウィク!」

 それを合図にポルーは悲鳴をあげるのを止め、走り出した。


「追うよ!」

 リッキはすでに走り出していた。

「「追わないよ!!!」」

 ロッキとイッキは同時に叫び声を上げた。


 ここでリッキの帰りを待っていると、いつまでかかるかわからないので、仕方がなく二人はリッキの後に続いた。


 SPはポルーの背中から後を振り返った。

 目を血走らせたリスがそこまで迫ってきている。


「ぎゃー!!!なんでついてきてるんだ?!にげろポルー!」

「ウィク!」

 ポルーはスピードを上げて加速した。


「逃すか!!!」

 リッキはそう言うと二足歩行から四速歩行に切り替えた。

 こちらもぐんぐん加速していく。


「ハッ?!何あれどうやるの?」

「シフトとエフキー!!!」

「うわっ出来た?!」

「イソゲ!見失う!」


 イッキの言ったとおり見失ってしまった。

 なんせここはちゃんとした道がなく木々が不規則に生えている未開拓ゾーンなのだ。

 二人は走るのを止め、辺りを見回した。


 ポルーの蹄の音もリッキの『マテエェェー!!!』も聞こえない。

「ここどこだ?」


 リッキを追いかけてメチャクチャに走り回ったので現在地は全くわからない。

 仕方がないので車の置いてある所まで戻る事にした。


 ロッキは地図を広げた。

「えーっと……お!ここ山頂の近くじゃん!」


 現在地を表す赤い点が、車を停めてある大茸より山頂に近い位置で点滅していた。

 イッキもロッキの持っている地図を覗き込んで見た。


「こんなに上ってきたんだ……」

 ロッキはイッキを見てニヤリと笑った。

 イッキも同じ事を考えていた。


「登頂しちゃうか!」

「そうだね!」

 山道は厳しい坂になっていたが、ゲームのアバターである二人はキーボードの上矢印を長押しするだけで簡単に移動していった。


「「登頂!!!」」

 二人は山頂について歓声を上げた。

 ついでにコマンドで紙吹雪を散らしてみる。


 山頂から来た道を振り返るとブロッコリーのように見える木と、その間から白い大キノコが見える。

 ここから見るとさらに大キノコの大きさが際立つ。


「おーい!イッキ、見てみて!村がある!SPもいる!」

 イッキはロッキが騒いでいる隣に歩み寄った。


 ロッキがひずめで指す先にはヨロヨロと危なっかしい走り方をするポルーとその上にいるSPだった。

 そしてその先には、白壁に茅葺き屋根の低い建物が塀に囲まれて密集していた。


「こんなところに村なんてあったかなぁ……?」

 イッキはリッキに手渡された地図を広げてみた。


「あれ?!」

 イッキは素っ頓狂な声を上げた。

 現在地はエックス座標???ワイ座標???ゼット座標???を示している。


「おかしいな……バグってる?」

 ロッキがイッキの地図を覗きながら目を輝かせた。


「イッキ、聞いたことある?ここノコギリ山の山頂にいくと、青サマだけポンと消えちゃうんだって。秘密の場所に行くらしい。もしかしたらここって……」

 ロッキの言葉が終わる前にイッキが声を上げた。


「秘密の場所?!」

「絶対そうだ!!!」

 二人は転げ落ちるようなスピードで坂を下りて村に向かった。






 その頃SPを乗せたポルーが慌ただしく村に滑り込んだ。

「ガロン!たいへんだ!」


 SPは塀のそばで家畜の世話をしていたガロンに向かって叫んだ。

 その声を聴き村の住民がわらわらと集まってきた。


「何があったんだい?」

 家から飛び出てきたヘナーは倒れそうになっているポルーを膝で休ませ、酸素を送ってやった。

 SPはポルーが倒れる寸前にその背からひらりと降りた。


「へんなやつらが圭をねらってるぞ!」

 住民がどよめき始める。


「なんだって?!」

「まだ、月も出てないのにっ!」

「そいつらはどうした?」

「どんなやつらだ?」


「リスとシマウマとクマだ!」


 一瞬の間が空く。

「何だそれは?」


 当然ここの住民達が外の世界の動物たちを知っている訳はない。

 そこへのこのことロッキとイッキがやってくる。


「えーと……ああいうやつらだよ!」

 SPが柔らかそうな手で指をさした。


「あ!仮面男と同じ格好してる!」

「ここやっぱり秘密の場所だって!」

 住民たちは珍妙な生き物が話しながらこちらへ向かってくるのでパニックになる。


「なんなんだコイツら?!」

「喋ってるぞ?!」

 イッキは様子がおかしいぞと思い立ち止まったが、ロッキは気付かずドンドン進んで行く。


「どうも、こんにちは!」

 ロッキが友好的な挨拶と共に蹄のついた前足をヒョイと上げた。

 黒光りする蹄は何か刃物のような武器に見えなくもない。

 住民達が悲鳴交じりの声を上げてどよめいた。


「あれ?歓迎されてない?」

 今さらながらそれに気がついたロッキは後退し始める。

 ロッキとイッキの目には鉈や鎌や斧を構えた村人達が目に入る。


「アイツの敵は俺たちの敵だ!」

「「オウ!!!」」

 ガロンに同調し村の男達が雄々しく武器を掲げる。


「とっちめてはかせてやろうよ!」

 ユーセンはお気にいりのチェーンソーをうならせた。


「なんか怖いこと言ってるよ!」

 ロッキとイッキは背中を向けて走り出した。


「かかれぃ!」

 SPの掛け声と共に雄々しい男達の雄叫びと共に攻撃が始まる。

 まず石を投げつけられる。


「イテテテ!」

 それはコツン、コツンとあたってアバターのヒットポイントを奪っていく。


「ウワ!なにこれ?はじめて見た!」

 ロッキは頭上に浮かぶゲージを見てうろたえる。

 これはコロニーで普通に生活していたらお眼にかかれないものなので、二人がこれを見るのは初めてだ。


 それは対戦ゲームでよくみるものと似ていて、緑で表示してあるヒットポイントの上に、青で表示されている減らないゲージがある。

 青いゲージは魔法か何かを使うと消費していくものだと思われる。

 もしそうだとしたら、イッキの経験上この緑のゲージがなくなったら無事ではすまない。


「早く逃げよう!!!」

「おうっ!」

 ロッキとイッキの緑のゲージが半分ほど消費された時に攻撃は止んだが、二人は山の上まで走り続けた。


「なんだよ!はりあいがないなー……」

 後でSPがつまらなそうにチェーンソーのエンジンを止めた。



「なんだったんだ今の?!」

「わかんない……」

 ノコギリ山の山頂に戻ってきた二人はやっと走るのを止めて息をつくことができた。

 追ってくる気配はない。


 イッキは頭上を見上げた。

「あーダイブ減っちゃったね……」

 緑のゲージは半分ほどなくなってしまっていた。

 今まで意識してこなかったゲージだが、半分以下になってるとやはり精神的に落ち着かない。


「今の仮面男と同じ格好だった!仲間かな?」

「そうかもね……!」

 二人の耳におーいと呼ぶ声が耳に入った。


「どこ行ってたの?探したじゃん!」

 リッキがプンプンと頬を膨らませる。


 ロッキとイッキは目を見開いた。

 二人の思いはひとつ。


「それはこっちのセリフだ!!!」。

 珍しくリッキに反抗して見せた。


「探したじゃんじゃないよ!」

「勝手にとことこ行っちゃってさ!」

「ひどい目に合ったよ!」

 リッキはさすがに悪かったと思ったのかいつもより背中を丸くさせて小さくなった。


「どうしたの……?」

「変な人達に……!!!」

「タンマっ!」

 イッキはロッキの口をふさいで耳打ちした。


「黙ってようよ!」

「なんで?」

「またいくはめになるよ?!」

 すぐに二人の結論が出た。


「リッキにはあの村の事黙っておくか……」

 ロッキとイッキは頷きあう。


「何でもありません。」

「早く帰りましょう。」


「あれ?あぁそう?なら……」

 リッキは若干首を傾げながら、来た道を戻り始めた。

 ロッキとイッキもそれに続く。


「聞いてよ!ユーセンとポルーだっけ?急に消えちゃってさ……!知ってる?この辺に青サマの住んでる村があって、そこに行ったと思うんだよね!」

 リッキは熱を入れて話し始める。


「いやぁ!そうなのかぁ!」

「みなかったねーざんねんだー」

 こうして、あの村の存在はロッキとイッキのみが知るところとなり、その存在が他の人々に知れる事はなかった。

 なぜリッキが入れなくって、自分たちだけが入れたのかと疑問は残ったがそれも今はひとまず置いておいた。

 それよりもイッキとリッキはこの減ってしまったゲージの戻し方が知りたかった。


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