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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
学園祭編
24/95

24.ハロー文明社会


「あぁ、ユーセン君がきてから平和だねぇ!」

 重い装備を解いた青は家の中で寛いでいた。

 

 VIPプレイヤーにとって装備はステータス。

 プレイ中に装備を解くなんてことはしない筈だが、青は例外だった。

 誰もが羨むレアアイテムも、青にとっては村を守るための一つの手段でしかない。

 用がなければ動きにくいだけの物なので、青の代名詞とも言える常闇の鎧は部屋の隅に無造作に置かれていた。


 常闇の鎧のサイバーパンク風のデザインは、自然素材で作られた住居に不釣り合いこのうえない。


 住居に不釣り合いなのは常闇の鎧だけでなく、持ち主の青自身もだった。

 青は訳のわからないスラングが書かれたプリントトレーナーに、ゆったりとしたスウェット姿でだらけていた。


 これまで一日も欠かさず村人を守り続けてきたのだから、これくらいの事は許される。

 そのため村長達はだらける彼女を微笑ましく見ていた。


「ユーセンがきたからお前もゆっくり休めるだろう。」

 村長の息子ガロンが自分の事のように、嬉しそうに言った。


 彼はこの村の民族衣装に身を包んでいる。

 村の近隣でとれる動物の皮や、植物で染められた布で作られた民族衣装は住居の雰囲気によく似合う。


「うん。見張り代わるって言ってるんだけどね……」

 青は床に転がったまま答えた。


 ユーセンは、おいらの『あいでんててー』をうばうきか!といって頑なにゆずらない。

 ユーセンは今も見張り台の上で金平糖を食べながら、敵襲に備えている。


「じゃあ、これができたら持ってっておやりよ!」

 ガロンの妻、へナーが台所から声を張り上げる。


 台所からは青の好きな『ガーゴの手羽煮』のイイ匂いがする。

 青はその匂いを嗅いでうっとりとした。


「ユーセン君『金平糖』しか食べないんだって!こんな上手いもん食べれないなんて残念だよね。」

 あら残念。と、へナーは台所で呟いた。


「ほう、『コンペイトウ』とな?何じゃそれは?」

 村長は白っぽくなった目を少年のようにキラキラ輝かせていた。


 村長達は、外の世界にある金平糖の存在を知らない。

 好奇心をかきたてられるのだろう。

 老人になっても、心はいつまでも少年のままなのだ。


 青はうーんと唸って立ち上がった。

 そのままガロンや村長のいる食卓へ向かった。


 外の世界のものを説明するのは、言語力の足りない青には難しい。


「ゴツゴツしてて、色いっぱいで…」

 ガロンまでも参加する。

「色がついた石みたいなもんか?」

 ガロンはその辺の石に絵の具で色をつけたものを想像しているに違えない。


「違う違う!えっと…トゲトゲで、ちっさくて…」

「痛そうじゃのう。」

 村長は色つきサボテンを想像しているらしい。


 説明するのが面倒臭くなってきた。


「今度ユーセン君に見せてもらうといいよ。」

 と締めくくった。


 村長は不服そうな顔をしていたが、へナーが大きな鍋を抱えて台所から出てきたので会話が中断された。


「はいはい!お待ちどう!」

 へナーがドンと鍋を食卓の上に置いた。

 琥珀色のスープはまだまだ熱いようで、ボコボコと沸騰していた。


「おいしそう!」

 青は急いで自分の席に着いた。


 青、村長、ガロン、ヘナーで食卓を囲む。

 木を削って出来た皿を配って、順番にそれをヘナーに渡した。

 青の皿にも料理がのる。

 全員に配られたところで、揃っていただきますをする。


 青は早速フォークとナイフを使い、肉と骨を綺麗に分けた。

 分け終わった肉を一口、口に運ぶ。


「うま~い!!!」

「青は本当に美味しそうに食べるねぇ……圭もこれ好きだよね。」

 昔は兄妹揃って旨そうに食べていたものだ。

 最近は皆で食卓を囲む機会がグンと減ってしまった。


「そういえば、圭はどこに行った?」

 村長が思い出したように言った。


「あの小僧、戻ってきたと思ったら別れもなしに帰って!」

 とヘナーは憤った。


 怒ってはいるが、それはヘナーが圭を好きだからだ。

 子供のいないガロンとヘナーは山下兄妹を息子、娘同然に思っているからだ。


「あいつは、あっちでいつも何をしてるんだ?」

 ガロンがまた一口肉を口に運んだ。


「圭兄はあっちで、働いてるよ。青と一緒に住む家のためだよ!」

 羨ましいでしょ?というような口調で言う。


「何して働いてるんだ?」

 ガロンはまたしても質問を重ねる。


「まねーじゃー。」

 青は言った途端後悔した。

 村長のみならず、ヘナーまでもが目を輝かせている。


「何だそのマネージャーって言うのは?」

 また説明に困る事を!


「姫乃って子の相手するんだって。」

 青はいつも姫乃という女の子に苦労させられている話しか聞かない。


「相手?おかしな仕事じゃないだろうな?」

 ガロンが深刻そうな顔をして言うので青は大いに笑った。


 言い方が悪かった。

 圭が身を売るような仕事をしていると思っているんだろう。

 具体的になにをしているのかは知らないが、無愛想の塊のような兄にそんな仕事が勤まるわけがない。


「違う。絶対にそれはない!ただその人のお世話をするんだ。」

「自分も世話の焼ける子なのに、人の世話なんてできるのかい?」

 呆れたようにヘナーが言う。


 ヘナーの中で兄はいくつになっても世話の焼ける子だ。

 もう身長だってガロンよりも大きいのに。


「うん。大変らしいけど。ご飯はもらえてるらしいよ。」


 青の言葉にヘナーは鼻で笑った。

「やっぱり世話されてんじゃないのさ!」

「人様に迷惑かけてないといいが…」

 たいしてガロンは、心配そうだ。


「一度働いているところを見てみたいものじゃ。」

 村長はそこで何かふと思い出したように青に問いかけた。


「青は外の世界にはいかんのかい?」

「えー行きたくないよ、面倒だし…」


 青はこの世界が気に入っている。

 ここが青のいるべきところであり、それはこの先も変わらない。

 しかし、兄の働いている姿は一度見てみたい。


「んん…でもちょっとだけ行ってみようかな…」

「いいんじゃないか?もう見張り続ける必要がないしな。いざというときは俺達だって少しは戦えるさ。」

 葵は大きく頷いた。


 もうすっかり行く気になっていた。

 RPA以外で兄に会うのは久しぶりだ。


 一度RPAから出たらマキにお礼を言わなければならない。


 それに…

 青は自分の足を見下げた。

 ここに入ってきた時のまま、カポカポした上履きを履いている。


 『命はないと思え!!!』

 ああ言ったけど、王野樹にもお礼を言いにいこう。

 顔は大嫌いな安藤に似ているから嫌いだ。


 『ヒィッ!』とか言っていてカッコ悪かった。

 でも、きっと悪いやつじゃない。


 姫乃にも会いに行って、美味しいもの作ってもらおう。

 モデルだから背高いだろうな。

 でも、圭兄よりデカかったら恐いな…。


 こうして、青は再び葵に戻り、外の世界に舞い戻ったのである。




 山下は桜を彼女の自宅へ送ったあと、彼の自宅である雛罌粟ひなげし荘に向かっていた。


 どうもおかしい。

 誰かにつけられている。


 今日はどこで仕事していても、視線を感じる。

 初めは桜のストーカーかと思っていたがどうも違うらしい。


 彼女と別れた後も視線を感じるのが何よりの証拠だ。

 つけられるような真似をされる覚えはないが、いくつか思い当たる節があった。


 一瞬、仁科の手下の三内と丸山の顔が浮かんだが、奴らがここまで本格的に後をつけられるとは思わなかった。

 追っ手は何度場所を移動しても次の場所には必ずいた。

 そんな事ができる人物は一人しか知らない。


 害はないだろうが、なぜそんな無駄な事をするのかという疑問が沸き起こった。


 山下はいつものように雛罌粟荘の裏にある駐車場に車を止めた。

 雛罌粟荘は築五十年を超える由緒正しきボロアパートだ。

 駐車場は雛罌粟荘と違い、白い線もしっかりと引いてあり管理が行き届いていて広い。

 雛罌粟荘の向かいにある小綺麗なアパートと共同で使っているからである。


 その駐車場でも人の気配を感じる。

 耳を澄ますと、風の音に混じり微かに笑い声が聞こえる。

 押し殺しているようだが、殺しきれていない。

 その笑い声にはやはり聞き覚えがある。


 山下はいつもと変わらぬ様子で自分の部屋まで向かった。


 途中には葉の生い茂った木がある。

 木登りが好きなあいつならここに身を潜めているはずだ。

 笑い声もそこから聞こえてきているようだ。


 かまわず通り過ぎて庭を突っ切り、階段へ向かった。

 トタン製で安く済むが階段を作るのには向かない素材だ。

 この階段は上るたびけたたましい音をたてる。

 二階にある自室に向かうのにはどうしてもこの階段を通らなければいけない。


 夜分遅いので近所迷惑にならないように、なるべく音をたてずに上った。

 まあ、他の住民の顔は見たこと無いが……


 階段を上がると、黄色い裸電球ひとつの薄暗い廊下があり、その廊下を挟んで左右に部屋がある。


 この廊下は二階全体が傾いている事によって、緩やかな坂になっている。

 部屋の前にボールなどの球体を置くと、廊下を渡り、階段を転がり落ち、一階まで行ってしまう。


 自分の部屋は、奥から二番目の左側だが、一番手前にある大きなゴミ箱の影に身を隠した。

 いい年こいてゴミ箱に隠れるなんて思わなかった。


 しかし山下は動かずに気配を消した。

 近頃平和ボケして忘れていた、丁度いい緊張感がある。


 しばらくすると、コンコンと階段を上がる音がした。

 一刻も早く上に上がりたいが、足音を立てないようにしている。

 そんな足音だ。


 いくらあいつでもこの階段で音は消しきれないらしい。


 やがてその音が消えて、足音がゆっくりと近づいてきた。

 最後の最後で詰が甘い。

 山下は音をたてずにほくそえんだ。


 その人物はアッサリ山下の横を通過していった。

 それを見計らって、音をたてず立ち上る。


 目の前で小さな背中がルンルンとはねていた。

 山下は気付かれる前に手を伸ばして獲物を掴みあげた。


 相手の反応は早かったが、もう遅い。

 すでに山下がパーカーの首根っこを掴んだ後だった。


「何してるんだ?葵?」

 葵は素早く対応する。


「圭兄!会いたかったよぅ。」

 捕まるやいなや葵は方向を変え、胸に飛び込んできた。

 うえーんとあまり上手くない泣き真似をする葵。

 再開に涙するかわいい妹を演じているのだろうがそれは通用しない。

 葵を体から引っぺがすと、瞳を潤ませるのを止め、八重歯を見せてニシシと笑った。


「へへっ!バレたか!」

 無邪気に笑っている妹を掴み上げておく訳にはいかないので、仕方なく山下は手を離した。

「ひさしぶりだね!圭兄!」

 自由になったところで改めて葵が言った。

「あぁ、久しぶりだな、葵。」

 二人はこの前RPAであったばかりだが、外の世界で顔をあわせるのは、年単位ぶりだ。



「部屋汚っ!」

 それが、葵が兄の部屋に入った時の第一声だった。

 文字どおり部屋は汚い。


「文句があるなら入るな。」

 その一言で葵は仕方なく部屋に入った。

 ながしには洗い物が溜まっていて、床には隙間がないくらい服が散らばっている。

 布団もたたまずに放置してある。

 まさに汚い部屋だった。


「あぁあ……ヘナーが心配してたよ……『あの子一人で生活できてんのかね?』だって。できてないよこれは。」

 言い返す言葉もなく、眉間に皺を寄せた。

 代わりに小さな卓袱台の横を指差す。


「そこに座れ。」

 無論そこには脱ぎ散らかした服が散乱し、座るところがない。

 葵がどうすんのこれ?と言う視線を山下に送る。


 こうするんだと言うように、服を蹴散らしてそこに座った。

 葵も真似して服を蹴散らし、卓袱台の対極に座った。


「で、お前。いつからつけてたんだ?」

「バレテタ?」

 葵はニシシと笑った。


「当たり前だ、あれでバレてないと思ったか?」

 葵は自信あったけどな。と呟いた。


「圭兄の働いてるところ見たかったんだ。」

「お前な…」

 それでこっそりつけてくるヤツがいるか。

 呆れて言葉も出ない。


 言い訳するように、葵は口を尖らせた。

「だってさあ、ガロンが心配してたんだよ…危ない仕事してないかなとか?」

 確かに。

 仕事内容もハッキリ教えていないし、心配性のガロンが不安になるのも無理はない。


「それで、お前が代わりに見にきたわけか。」

「そうそう!」

 葵は大きく頷いた。


「で。お前は今日何を見て、何を学んだ?」

 うっ!と葵は言葉に詰まる。


「えっと……写真とられてたね……姫乃が。」

「あぁ、モデルだからな。」

 葵はうんうんと頷き、それっきり黙る。


「お前それ以外見てなかったんだろ。」

 そういうと、アッサリ葵は白状した。


「圭兄見てるより楽しかったんだもん。ねえねえ!姫乃、可愛いね!可愛いね!」

 葵はうっとりとしながら興奮気味にいった。

 妹はえらく彼女の事を気に入ってしまったようだった。


「会わせんぞ。」

 葵は膨れっ面を見せた。


「圭兄だけズルイよ……」

 葵はおもちゃを取り上げられたような表情で言う。

 この顔をされるとつい甘やかしそうになるが、心を鬼にして顔を顰めた。


「何がズルイだ。こっちは仕事だ。」

「会いたい。会いたい!」

 『会いたい』にあわせて、卓袱台をドンドンと叩いた。


「いい加減にしろ。」

「だってズルイよ!圭兄、姫乃に美味しい手料理作ってもらってるでしょ!食べたい!」

 それは仕事じゃないでしょ?!と葵は得意げに言う。


「なんだ腹が減ってるだけか。カップ麺がそこに……」

 台所の隅に箱買いしてあるカップ麺を指すと、葵はぶんぶんと首を振った。


「それじゃ嫌だ!姫乃が作ってくれるご飯がいい!逆に何で会わせてくれないんだよ!ケチ兄。」

 山下としては、葵が妹だと知られるのはなんとしてでも避けたい。


 長時間RPAに入る時、桜には『葵に会いにいく』と伝えてある。

 決して嘘はついていない。


 桜はその時だけ寂しそうにしながらも遠慮して彼を一人にさせてくれる。

 きっと『葵』を彼女か何かと勘違いしているのだ。


 度々RPAに行く事を桜には秘密にしておきたかったので、訂正していない。

 葵の言っている事はもっともだ。

 自分は仕事じゃない時に顔をあわせているのに人の事は言えない。

 葵を黙らせるべく山下は最終手段をとる。


「あいつが、お前の嫌いな安藤の娘でも会いたいか?」

 葵は目を丸くした。


 五年前、自分も同じような顔をしていた。

 『安藤姫乃のマネージャーになれ。』そう告げられたとき、中津はなにを考えているのかと思った。

 仇の娘を世話する事になろうとは……


「会いたいよ。」

 山下の予想に反して葵は当たり前だというように言った。


「だってさ、安藤の娘だからって、悪いヒトじゃないでしょ?」

 全くその通りだ。


 血のつながりとその人の性格は関係ない。


 彼女がいると危なくて仕方がなかった怪力も楽しい遊び道具になった。

 彼女といると引きこもりがちな休日も賑やかにすごすことができた。

 桜と葵を会わせたくはなかったが、葵に彼女の事を否定されたくはなかった。


「お前成長したな…」

 葵はふふんと鼻を鳴らした。


「だって樹は結構いい奴だったよ!」

 山下の表情が一気に曇った。


「会ったのかお前?!」

「うん。ってあれ?姫乃も樹も安藤の子供だ!姉弟なの?」

 葵も目を丸くした。


 今さら気がついたようだ。

 どちらも安藤の子供だという認識はあったが、二人が姉弟だというところまで、頭が回らなかったようだ。


「そうだ。ナニを今更……」

「じゃあ、ケチ兄、樹の事知ってたの?!」

「当たり前だろ。」

 山下は、葵がこちらを睨んでいることに気がついた。


「どうした?」

 葵はアングリと口を開けた。


「何で止めてくれなかったの!!!危うく田邊で八つ切りにするトコロだよ!」

 一人後悔の念に沈む葵を山下は不思議そうに見ていた。


「八つ裂き?前に安藤を斬るって言ってたな……」

「そのことだよ!それは別人だって教えてくれればよかったのに!!!」

 そういえば前に葵が、学校に安藤がいたとか、訳のわからない事を言っていた。

 どうやら非はこちらにあるようだからシラをきることにした。


「全く記憶にない。」

 葵は卓袱台に前のめりに倒れた。


「あぁ……ダメだ圭兄!人の話全く聞いてないよ……」

「寝てるときに話しかけるからだろ。」

 白をきるつもりだったのに、おもわず口を滑らせてしまった。

 葵が再びこちらを睨みつける。


「記憶にあるじゃん、馬鹿兄!最初っから知ってたら田邊を向けたりしなかったのに……」

 山下は耳を塞いで葵をなだめた。


「わかった。今度会ったら謝っておく。」

 葵が目を輝かせる。


「アオも一緒に行く。姫乃に会いに行く!」

「くどい。諦めろ。」

「い~や~だ~!!!」

 葵はわかりやすく口を尖らせてごねた。


 葵に桜の家を知られてしまったのは痛手だった。

 一人で後をつけてきた来た葵なら、勝手に会いにいってしまうかもしれない。

 葵は尚も姫乃に会うことを諦めていないようだ。


 山下は無理やり話を打ち切った。

「俺はもう寝る。」

 山下はその辺の服を掴んで立ち上がった。


「それ綺麗なの?圭兄?」

 ずぼらさに呆れながらも、葵も寝る支度をはじめた。


 支度といっても普段から寝巻きのようなものなので着替える必要はない。

 葵は引きっぱなしになっている布団に寝そべった。

 早くも葵は眠りかけている。


「おい、葵、そこは俺の寝床だ。」

 下布団を掴んで思いっきり引っ張った。


「ぎゃぁああ!!!」

 葵はゴロリと床に転がった。

 気にせず布団をひき直し、もぐり込んだ。


「ひどいよ圭兄!そこは『しょうがないなぁ』って譲るところでしょ?!」

 山下は葵の顔も見ずフッと鼻で笑った。


「知るかそんな事。明日も仕事なんだ」

 葵は腹いせに上布団を奪っていった。

 風邪をひかれても困るので上布団は譲ってやることにした。


「圭兄、一番大切な事を忘れてたよ。」

 泣く泣く床で寝る事になった葵は、ムクリと背を起こした。


「リリが生きてるんだって。マキから聞いたんだ。」

 壁側を向いていた山下は葵の方を向いた。

「そのこと、村長やリリの家族には話したのか?」

 葵は首を振った。


「ううん。話してない。嘘だったらマグ達を悲しませちゃうだけだから。」

 成長したなと呟き、再びまた壁の方を向いた。


「そのマキってヤツに一度会ってみる必要がある。」

 山下は独り言のように呟いた。

 葵は布団の端を掴んでコロコロ床を転がり、海苔巻き状に丸まった。


「マキ、アオ達よりRPAに詳しかったよ。」

「何者なんだそいつは…?」

 横になるとすぐに睡魔が襲ってきた。


「連れてってあげるよ圭兄。たぶんスタジオにいるよ。」

 スタジオ?

 聞き返そうとしたが、やはり睡魔には勝てなかった。


「そうか。もう寝る。」

「じゃあ、もう喋らない。」

 おやすみを言う前に、葵は夢の世界へ落ちていた。


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