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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
学園祭編
23/95

23.マドンナとシンガーとDJ

 土曜日が日曜日になりそうな時間帯。

 無法地帯に存在するスタジオはお悩み相談室と化している。

 真華は学校から帰ると自分の部屋に行くより、真っ直ぐスタジオに来る事のほうが多くなっていた。


 牧原が文句を言わないのをいい事に入り浸っている。

 牧原は何も言わずに、必要な時だけ話しかけてくる。

 その距離感がいいのだ。


 優太もまたスタジオに入り浸り、ギターのチューニングをしていた。

 こちらには家の中で大っぴらに楽器をいじれないという理由があった。


「どうしよう……」

 真華は大きな溜息をついた。

 無意味に回転椅子でゆっくりとまわっている。


 優太はチラリと目をやって再び作業に戻った。

 しかし沈黙に耐え兼ねて声をあげる。 


「お前いつまでしょげてんだよ!元気出せ!」

 優太は嫌な事があっても寝たら、酷ければ数時間のうちに忘れてしまえる超前向き人間だ。

 後悔なんて言葉は辞書に存在しない。


「キバ、ゴメンだけど黙ってて。」

 こんなときに、優太の有り余る元気は、はげましにならない


 あっそう……

 優太はしおしおと静かになった。


「どうしたの?」

 甘い美声が真華に問いかけた。

 こんなとき、静かに耳を傾ける牧原は大人の男だ。


「マキさん……!」

 この言葉を待っていた。

 真華は堰を切ったように話し始めた。


「樹にスキッて言って欲しくて、告白したらって言ったのに……!

 『わかった。そうする。』

 って言ったのに私にはなんも言ってくれなくて……!」

 真華が話す間、牧原はうんうんと頷いていた。


「樹の好きな人、私じゃなかったんです……

 絶対樹も私の事好きだって思ったのに!

 それなのに、なんで勇気付けるような事を……」

 真華はガックリとうなだれる。


「樹に告白されたら大抵の子うんって言っちゃうよ……」

 ギターのチューニングしていた優太もうんうんと頷いた。


「そりゃそうだ。」

 もし断るにしても帝都学園一のイケメンに告白されたら、女子は一生の自慢になるだろう。

 真華は優太の発言に腹を立てる元気もないらしく、大きなため息をついた。  


「どうしよう。最近愛希ちゃんと仲良いし。」

「ナニッ?!」

 優太はよく通る声で叫んだ。

 自分にはあまり関係ないと思い聞き流していたが、幼馴染の名前が出てきて他人事ではなくなった。

 まさか、こんなところで幼馴染の名前を聞くとは思わなかった。

 確かに放課後、怪しいやり取りをしていたけども……!


「うるさいな……」

 真華が迷惑そうな顔をしているがそんな事は聞いてなかった。


 男より漢らしい愛希に限ってそれは……

 優太は一人悶々と考える。


「そうなんだ。青春だね。」

 牧原は暢気に笑った。

「そんな他人事みたいに言わないでくださいよ!」

 真華の言葉に牧原はまた笑った。


「いちおう他人事だからね。」

「ひどいですよ、マキさん!どうしたらいいと思います?」

「そういう事は木林森に聞いたほうがいいんじゃない?」


 真華は訝しげな視線を優太に送った。

 ジャジャン!と優太は手にしたギターを掻き鳴らし、精一杯格好をつける。


「えぇ……」

 真華は明らかに不満がありそうな表情を作る。


「おいおい!俺はラジオ越しに愛を叫ぶ男だぜ!!!」

 ふざけているように見えるが言っていることは全て本当だ。

 優太はラジオを通じて、自作の歌を配信しては、人々に幸せを届けている。


「ホントだよ。それと、木林森が歌い始めたのは幼馴染の愛希ちゃんのためなんだよ。」

 牧原はいまだに、訝しげな表情をしている真華に諭した。


「そうなの?」

 手持ちのギターで優太は肯定の意でポロンと音をたてた。


 ポロン……

 優太は再びギターを鳴らす。


「まだ続くのこれ?」


 ポロン……

 肯定するように弦を弾いた。 


「そう、それは数年前の話。」


 その日、愛希と優太はラジオを作っていた。

 作っていたと言っても、図案道理に組み立てるだけの簡単なものだった。 

 技術の授業でつくる、手動充電式のラジオだ。


 歌だったらスマホでも聞けるし、ニュースだったらテレビをつけたら流れてくる。 

 災害時以外にはほとんど役に立たないものなので、多くの学生は災害用にと親に押し付けた。

 優太の作ったラジオも今はどこにしまわれているか分からない。

 ひょっとしたら配線ミスをしたのでゴミに出されたかもしれない。


 そんなラジオだったが愛希は使わないのはもったいないと言った。


『じゃあ試しに使ってみるか!』

『壊さないでよ。』


 適当にダイヤル弄くり回したら牧原の声が聞こえてきた。

 あてもなくこねくり回したダイヤルは偶然にも違法電波をキャッチした。



「えっ?!違法電波?!」

 真華が驚きの声をあげると、牧原は照れたように頬傷を掻いた。


「言ってなかったっけ?本当はダメなんだけど。

 この建物の一部、昔は電波塔だったみたいで、まだ生きてたから勝手にね」

 牧原は涼しい顔して笑っていた。



 その時かかってた女性ボーカルのバンドの曲を愛希はすごく気に入ってしまった。

 結局そのバンドはそれ以降聞けなかったが、それ以来愛希は良い音楽との出会いを求めラジオを聞くようになった。


「あの愛希が夜中充電切らさないように取っ手クルクル回してんの。可愛いっしょ?」

「そうだね!」


  

『愛希それ好きだよな……』

 いつものように取っ手を回す愛希に問いかけた。

『だって名前も公表しないで、歌ってるの凄いカッコいいでしょ?』


 それ聞いた日に屋根裏を整理していたらギターが出てきた。

 早速ギターをもって公園で練習を始めた。

 愛希に聴かせられるレベルに達するか達しないかという時に、一人の男がふらふらっとやってきて、優太に話しかけた。


『俺ラジオのDJやってるんだけど歌ってみない?』

 

 この男とは当然ながら牧原で、偶然にも優太に名前も公表せず歌う機会が訪れることになった。 


 ジャジャン! 

 最後はやはりギターで話を締めくくった。



「へぇ!」

 真華は納得の溜息を漏らした。

「結構いい話だろ?!」

 優太はドヤドヤ!と真華に感想を求めた。


「そのキバのドヤ顔が全てを台無しにしてる。」

「あ、やっぱり?」

 知っていてもやってしまう。

 特に反省はしていない。


「まぁ、歌い始めたのは愛希ちゃんのためなんだ……歌のために取っ手をクルクルしてるのは、可愛い。」

「それ見るがためにやってるトコありますから!!!」


「なにが大切なのかな……?ギャップ?」

 真華は眉間に皺を寄せて考え込む。

 やがてふと力を抜いた。


「私の方が可愛いけどな…」

 そう呟いた高飛車ロボットは確かに可愛いくはある。

 

「自分の事可愛いっていう女子嫌だ!」

 痛い。猛烈に痛い!

 優太は身震いまでして見せた。

「あと、愛希のが可愛いわ」


「だってぇ……」

 真華は不服そうに唇を尖らせた。

 そんな顔でも可愛い事は可愛い。

 まるでどうしたら可愛いく見えるか知り尽くしているようだ。


「じゃあ、キバはさぁ……イキナリ自分がすっごく可愛く生まれ変わっちゃったらどうする?」

 今まで聞き流していた牧原も耳を傾けた。


「俺、可愛くなっても困るけど…?」

 両手で自分の頬を挟んで、くねくねと身をよじった。


「じゃあ、カッコよく。樹になったら?」

 真華の中ではカッコいい=樹というのがあるらしい。


「そりゃこんなカンジに……!」

 ナルシイズム溢れる動作で髪をかき上げ流し目で見つめ返した。

 すると真華はブルリと震えた。


「嫌っ!その樹……ッ!樹の中身がキバだったら好きになってない。」

「酷すぎるだろ!俺カッコよくなってもモテナイのかよ!」


「やっぱり中身が重要なんだよ…」

 真華がしみじみと呟き、二人は見た目が重要でなく中身が重要であることを知った。


「中身というより、外見と内面の釣合いが重要なんじゃない?」

 スタジオのメンテナンスを行いながら牧原が口を挟んだ。


「牧さんそうだよ!」

「鋭い!」

 二人がそう言って牧原を賞賛した。

 牧原はありがとうと苦笑いでそれに答えた。


「まあ、とにかく!朝起きたらイキナリ変ってて、しかもよくなってたら?」

 真華はそう言って仕切りなおした。

 優太はさほど真面目に考えず返事をした。


「あぁ、それは…まあ実際ないでしょ?」

「私の場合はあったの!」

 牧原はメンテナンス中の手を止めた。


「イキナリ、可愛くなったわけ?」

「そう!だって可愛いでしょ?」

「だから自分で可愛いって言うなよ!」

「だって…」

 二人は射るような視線を感じて同時に牧原の方を見た。

 そこには、眼帯を外した両目で半端のない眼力でこちらを見ている牧原がいた。


「牧さん!それ外したり取ったり何の意味があるんですか?!」

 外したり、取ったりって同じ意味だよ。

 普段の牧原ならそう静かに突っ込みを入れるところだ。


 シィ!

 しかし牧原は真面目な顔で、唇の前に人差し指をあてて制した。


「どうぞ。」

 牧原は構わずつづけて。と催促する。


「じゃあ……キバも長い話ししたから私もするよ。」

 牧原は一言も発さず、静かに耳を傾けていた。


「今さっきも言ったけど、私イキナリ可愛くなっちゃったの。

 起きたらイキナリ可愛くなってた。

 起きたらこの体になってた…つまりロボットになってたの。」


 次の日起きたら……

 想像が湧かずに優太は賑やかすのも忘れて聞き入った。


「それまでは別のところにいたの。

 こことは違うけど、いいところだった。

 連れてこられたの。

 初めはすぐに戻りたかったけど、こっちの世界も今は気に入ってる。

 樹もいるしね!」


「結局そこかよ!」 

「しかも、可愛くなってるし!」

「そこ重要?」


 真華は分かってないなぁと大袈裟なヤレヤレポーズをとった。

 

「女の子って可愛いと絶対的な自信がつくの!

 私には似合わないや……って諦めていた服も、今なら!って自信もって着れちゃうの!

 可愛い子じゃなくちゃ許せないセリフも言えるの!

 あっちにいた時の私、そういうの凄く憧れてたから、今実現してる。

 どうせならやりたい事全部したいじゃん!

 チャンス到来だよ!」


 真華は体の前で拳を握った。 

 ここに来るようになってから真華は学校ではしないような、拳を突き出したり、胡坐をかいたりする姿をよく見せるようになっていた。

 

「白雪姫やるでしょ!

 私姫で、樹王子様。

 これも憧れだったんだ。

 お姫様なんてさ。自信がないと、なれないじゃん」


 彼女はふとネガティブになり、それに誘発され本来の相談に戻った。


「せっかく姫になったのにさ。樹、好きな人別にいるって……」

 真華は大きな溜息をついて話を終えた。

 牧原は眼帯をもとに戻した。


「略奪計画を実行しようぜ!」

 勇気づけるように明るい声を出すと、真華は顔をあげ、優太を睨んだ。


「まだ、誰のものにもなってないもん!多分…」

「ならなおさら!チャンス!!!」

「キバにはわからないだろうな…あっちから好きって言って欲しいの!!!」

「あぁ、無理だっ!幸運は己の手で掴みとらねば!」

「努力はしてるもん!」


「あの……」

 牧原が言いにくそうに入ってきた。

「そろそろ、本職始めたいんだけど…」


 慌てて優太は立ち上がった。

 今から牧原はDJになる。

 優太を含む、名の知られていない歌手達の歌を配信するのだ。


「お願いします!」

 急に改まって、優太は腰を九十度に曲げた。

「うん。わかった。」

 牧原は任せてといって笑った。


「私、見たいな!」

 そう言った真華を優太は拳で小突いた。


「馬鹿やろう!神聖な仕事の邪魔するんじゃねぇ!」

 真華がブーブー言っている間に、優太は素早くギターをケースにしまった。


「失礼しました!」

 優太は牧原に一礼すると真華を押し出しながらスタジオを後にした。

「ありがとマキさん!また来るね!」

 真華も最後に手を振った。




 二人が部屋を出てすぐ、スタンバイモードになっていたPCが起動した。

「ほうほう。やっぱりあいつは『リリ』だったんだな!」

 ユーセンは短い腕を組んでうんうんと頷く。

 ずっと喋りたかったのを我慢していたようだ。

 

 ユーセンも牧原の義眼を通して、Mac‐Aが自我バンクの中、RPAの中にいた時の記憶があるのを確認したようだ。

 BONはそのことを証明する物的な証拠を手にいれた。


「やっぱり、RPAにいた頃の記憶はあるみたいだね。」

 牧原はしみじみと言った。


「はやいとこもとにもどそうぜ!」

「でも彼女は自分の姿、気に入ってるみたいだよ。」

 それに戻すと言っても方法が思いつかなかった。

 ただRPAの中に行くだけなら、RPCを経由すればいつでも戻る事はできる。

 

 しかし、もといた場所に戻すとなると、山下兄妹しか足を踏み入れた事のないあの村に行かなくてはならない。

 普通の人なら跳ね返されてしまう。

 どのRPCを経由しても無理で、あの兄弟だけがあそこにいけるという原理が未だにわかっていない。

 

「そういえばSPシュガープラスの調子はどうなのかな?」

 そこまで考えて急に思い立った。

 バタバタしていて忘れていたが、果たしてあのウィルス・バスターは無事にたどり着いただろうか。


「でんわしてみるか!」

 ユーセンは懐からユーセンサイズの携帯電話を取り出した。

 通常版のユーセンどうしならば情報は5分おきに更新され共有されるが、特別につくったSPはそうもいかない。

 特別な機器を持たせることで何とか音声だけ届くようにしてある。


 ダイヤルしてプルルルと呼び出し音が響く。

 やがて鳴り止んだ。

 ユーセンがポチリとボタンを押して牧原にも聞こえるようにした。 


「はろぅはろぅ?SP」

『おう!ひさしぶりじゃねえか!』

 元気な声でSPが応じた。


「ちょうしはどうだ?」

『最強だぜ!初ぼうえいにせいこうしたぜ!』

 どうやら、無事に向こうへ行けたようだ。


「SP。そっちはどんな感じ?」

 牧原は画面に語りかけた。


『きれいなところ。へんなせいぶついっぱいだぞ。ともだちになったんだ!こんどしょうかいしてやるよ!』

 まだ見ぬ秘境には牧原の知らない生物がたっぷりいるらしい。


「SP。そっちに行く時、葵は何か特別な事をしていたかい?」

 電話の向こうからウーンとSPの唸る音が聞こえた。


『わかんないな。カードがよみこまれたら、つぎのしゅんかんにはここにいたんだ。』

 手掛かりはつかめなかったが、ウィルス・バスター一匹送り込む事ができたのは大きな進歩だ。


「そうか。わかった。今葵はどうしてる?」

 本人に聞くのも手だ。


『あ、アオならそとのせかいにでかけたぞ!おいらがここをまもっておるからな!』

 牧原は少し落胆したが、こっちに来ているのなら、顔を見せに来るだろうと思った。


「そうか。わかった。ありがとう。」

『おう、じゃあな!』

 そう言った途端電話が切れて、通信が途絶えた。


 画面上には、切るの早いなこいつ…とぼやくユーセンが取り残された。


「たのしくやっているみたいだな!」

「いいな。俺も行ってみたい。」

 恩師の作ったRPAとそこに住まう人々。

 一度この目で見てみたい。


「そうだな。こんどいっしょにRPAりょこうにいこうぜ!」

「そうだね。」

 無邪気に旅行の計画を立てるユーセンを残して、牧原は曲を配信する準備に取り掛かった。


 このラジオはゲストなんてものはいない。

 あるのは、声だけのDJと無名の歌手が歌う無名の歌だけだ。

 牧原はマイクのスイッチを入れた。

 彼は甘い美声で語りかけるように、声を吹き込んだ。


「こんばんは。よい一日でしたか?

 これを聞いてくれているのならば、悪くわなかったはずですよね?

 早速いってみましょう。お聞きください『彼』の新曲です。」

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