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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
学園祭編
21/95

21.お帰りパーティ

 土曜日の昼時。


 イブじいの家の広間には、豪華とまではいかないが、数多くの料理が並び、パーティが行われていた。


 パーティとは名ばかりだが気分を味わうためにしゃれた服を着ているので華やかだ。

 その中には芸能人の姿も多く見られる。


 その中心にいるのは、王野妃だ。

 今日は妃の帰国を記念するための催しだ。

 妃はこの催しが終わったらまた海外に飛び立つ事になっている。

 したがってこのパーティは帰国パーティでもあり、出国パーティでもあるのだ。


 広間は天井が高く、大きなテーブルに、寛ぐためのソファがあり、パーティ会場にはピッタリだ。

 パーティの主役である妃は大学の仲間と立食しながら笑いあっている。


「あのねぇ!ナイト君と私の出会いは…!」

 妃は酔っ払うたびに元夫との馴れ初めを恥ずかしげもなく話し始める。

 昼間から完全に酔っ払っている。


「知ってるよ!」

「横で見てたし…」

 会うたび聞かされている仲間達は、また始まったと嘆いている。

 妃ののろけ話は、聞いていてこっちが恥ずかしくなるほどの熱愛ぶりだ。

 とても離婚しているとは信じがたい。


 妃達から少し離れたところでは、樹がユウに腕を掴まれて動けなくなっている。

 その向かいにはデジタルカメラを手にしたオリがいる。


「とって、とって!」

 オリに向かってユウは手を振る。

 ユウはカメラが向いたときにポーズをとり表情を作るが、一方樹は棒立ちのままで、オリとユウに『腕はここ!』『もっと近づく!目線はこっち!』などと指示されている。

 戸惑いながらも、強く言われると従ってしまうので、樹は二人の良い玩具になっていた。


 また少し離れたところで中津所長が品定めするようにその様子を眺めている。


「あぁ、惜しいな…もうチョイ気が強かったらなぁ…」

 そうすれば事務所に入れたのにと落胆する。

「中津。普段仕事してないのに、何故今日に限って仕事モードなんだ?」

 中津の横で山下が首を傾げた。

 こちらは樹と違い必要以上にふてぶてしい。

 そのセリフはいつも仕事してないと言う事をはらんでいる。


「お前!上司に向かって何てこといいやがる!」

 憤る中津を、あら?という声を上げて藤木が押しのけた。

 中津は事務所の中で一番偉いはずなのに、どうも扱いが悪い。


 藤木が注目しているのは山下の服だ。


「どうしたの、それ?可愛いじゃない!」

 山下は今日スーツやジャージではなく、ちゃんとした私服を着ていた。

 その服はいつもの彼とは違い、歳相応の爽やかな雰囲気を纏っていて、よく似合っている。


 山下の影から桜がひょっこりと顔を出した。

 そのあどけない動作は芸能人らしいオーラが全く感じられない。


「ちょっと早いけど私からの誕生日プレゼントなの!」

「さすが姫乃ちゃん良いセンスしてるわ!」

 藤木は彼特有のクネクネした動きで賞賛した。


「サイズまで知っていようとは…」

 中津は腕を組みながらしみじみと呟いた。

 藤木が褒めるのを見て桜はフフンと得意げに胸を張った。


 藤木の声を聴いてオリとユウが寄ってきた。

「あ、山ちゃん今日私服だ!」

「写真とりたーい!所長とって!」

 中津はオリにカメラを手渡された。


「お前ら仮にも所長だぞ…」

 中津はブツブツ言いながらカメラを構える。

 オリとユウは山下の腕を左右から取った。


「いいでしょ、良いでしょ?私が着せたんだよ!」

 桜は嬉しそうだが、当人はユウとオリにまとわりつかれて鬱陶しそうにしている。


「おいおい!山ちゃん笑う!」

 カメラを構えた中津から指示がとんだ。

 山下はかえってムッスリとした表情になった。



 ユウとオリから解放された樹はソファに座っているイブじいを見つけて、その横に行って座った。


「賑やかだね。」

 イブじいは騒がしい家の中を見渡しながら言った。

「昔に戻ったみたいだよ。」

 イブじいの言う事に樹はニッコリと微笑みながら答えた。


 昔と言うのは、EVEがまだ最新機種と呼ばれていた時代だ。

 昔、この家は多くの学生達が集まる寮だったらしい。

 その時には学生が夜な夜な集まりここでドンチャン騒ぎしていたようだ。


「井岡君も、国枝さんも、秋山君も皆きてるね。」

 樹はそうだねと頷く。

 今、妃の周りで昔話に花を咲かせているのがその三人だ。


 筋肉太りの男が秋山。

 その横のインテリ系の男が井岡。

 妃と笑っているのが国枝だ。

 ちなみに国枝は今では苗字が代わり、井岡夫人となっている。


 この三人は、妃の大学時代からの仲間で、井岡と秋山の二人はここの寮生だったようだ。


「あとは、来てないのは安藤君だけだね。」

 樹はイブじいの言葉に苦笑いした。


「今日は来ないと思うけどな…」

 昔は、妃、井岡、国枝、秋山そしてその後輩である安藤君の五人でつるんでいたらしい。


「昔は有名だったんだよ。よく怒られてたな…」

 この辺の地域に悪名を轟かせていたらしい。


「そうなんだ…」

 あの母なら仕方がないか…

 周りの人々を巻き込み悪事を働く母の姿が容易に想像できた。

 決して社交的とは言えない父が彼らとつるんでいたのも、きっと母が強引に引きずり込んだからに違いない。


 イブじいは、ホホホと景気のいい笑い方をした。

「それが今は立派な親になって…」

 樹はイブじいの視線の先に、自分の視線を向けた。

 そこには三人の子供がテーブルの下に身を隠している。

 井岡夫妻の息子の空と大地。

 兄の空は小学四年、弟の大地は小学三年生だ。


 もう一人は秋山の娘の咲。

 小学五年生の彼女は二人の子分を従えてお姉さん気取りになっている。


 イブじいは、子供が大きくなり、その子供が大きくなるのを全て見てきた。

 それがどんな感じなのかは樹には想像できなかった。

 ただそれを見ているイブじいの目は穏やかだが貫禄がある。


 小学生達ははスパイごっこをして楽しんでいるようだ。

 三人の視線の先には桜のマネージャーの山下がいる。

 山下の周りには桜の他に、ユウとオリが彼を挟むような位置関係で立っていた。

 樹が解放された代わりに山下が捕まったようだ。


 美しい女達に囲まれているのにも関わらず、山下は眉間に皺を寄せていて、不機嫌そうだ。

 ユウとオリは彼が嫌がっているのを見て楽しんでいるように見える。


「なんか怒ってるよ。」

「山ちゃんって言うんだって。」

 咲と大地の声が聞こえて、思わず樹は笑ってしまった。


 声を殺しているようだが、この位置からも聞こえるぐらいなのだから本人にも丸聞こえのはずだ。

 空はずっと山下の方を睨んでいる。

 マネージャーという職種を知らない彼らからすると、山下は見慣れない不審な人物なのだろう。


 ユウが山下の腕を突っついた。

「ねぇねぇ。怖がられてるよ山ちゃん。」

 オリも横から突っつく。

「そんな顔してるからだよ。スマイル!」

 さすがに山下も子供の前では仏頂面はまずいと思ったのか、営業スマイルをつくる。


 完璧な笑顔過ぎて子供達が身構えた。

「おいおい、山ちゃん中間できないのか?」

 中津が中間、中間!と助言を入れる。


「無理だ」

 山下が不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「努力ぐらいしろよ!」

 中津は諦めのよい山下に苦笑いした。


 見かねた桜がパンパンと手を叩く。

「ハイハイ!注目!」

 子供のみならず談笑していた大人達も目を向ける。

 樹も思わず注目してしまう。

 桜の言葉と言動には、人を意のままに動かす事ができる力があるようだった。

 

 皆が注目する中で、桜は山下の横に立った。


「山ちゃん腕出して!」

 山下も不思議そうに首を傾げた。

 桜はじれったいなといった感じで、山下の腕を掴み地面と平行の位置まで持っていった。


「動かないでよ。」

 固定するようにポンポンと二度腕を叩いた。

「いくよ!見ててね!」

 桜は子供達に向かって言い、その一言で山下も身構えた。


 桜は山下の腕を掴みピョンと飛び上がった。

 子供達が歓声を上げた。


 桜は山下の腕を鉄棒のように使い、長い足の宙に浮かせてバタバタと振った。

 山下は桜の言った事を忠実に守り、動かなかった。

 大人が体重を全てかけているにも関わらず、ビクともしない。

 苦しい表情一つ見せずに、桜を眺めていた。


「力持ちでしょ!」

 桜は子供達が釘付けになったのを見て、クルンと前回りして降りた。

 その途端に拍手が起きた。


「スゲッェ!」

 さっきまで、警戒していたのが嘘のように子供達が駆け寄ってきた。

 女の子である咲だけはまだ少し距離を置いていたが、小学生男児達はスーパーヒーローを見るような熱い視線を山下に向けている。

 

「山ちゃん!おれたちも!」

 山下は子供達の期待にこたえてやった。

 空と大地を両腕にぶら下げると山下はクルリと回転してみせた。

 二人がギャーと楽しそうに声をあげると恥ずかしがっていた咲も一緒に加わった。


 片腕に二人がぶら下がっても山下は涼しそうな顔をしていた。 

 それどころか、ムッスリとした顔に少し笑みすら浮かべている。

 小学生三人のはしゃぐ声が響くと皆が釣られて笑顔になる。

 こうして楽しい時間は過ぎていった。



 楽しいパーティも終わりに近づいている。

 最後は、部屋で休んでいるイブじいを除き、皆で揃って庭に出た。


「まだ遊んでない~!」

「嫌だよう!」

 空と大地は、初め怖がっていたのが嘘のように山下にべったりだった。

 別れるのが惜しくて、子猿のように山下にしがみ付いていた。


 子供達にとっては、どれだけ遊んでも疲れない大人は希少な存在だ。


「充分遊んだでしょ?!」

 呆れたように井岡夫人は言った。

「そんな事言ってると今度連れてきてあげないよ!」

 決定的な一言に空と大地はイヤーだとごねた。


「ほら、咲ちゃんはもうおとなしく帰ったよ。お父さん車で待ってるから!」

 しばらく、山下を挟んで井岡親子は討論し続けている。

 その間山下は困った顔をしながら、棒立ちしていた。

 山下は自分に好意を持ってくれる子供を突き放す事はできずにいる。

 彼自身も離れがたく感じているだろう。 


「山ちゃん、凄く好かれちゃってるね。」

「そうですね……ユウさんもいい加減離してください……」

 ユウはふふ!と笑って余計に体を密着させて樹の腕に体重を乗せる。

 仲の良さそうな恋人がするような行為だが、幸せそうに見えて男の方は結構負担がかかる。


 山下と違い樹の腕は限界がきている。


「コラ、ユウ。帰るって言ってるじゃん。」

 オリも井岡夫人のようにユウに説得を試みている。


「嫌だ。」

「子供か!ハイ行くよ!」

 オリは無理矢理ユウを樹から引き剥がした。


「イヤァ!樹くーん!」

 ユウは引き裂かれた恋人のように樹に手を伸ばした。


 樹は軽くなった右腕を振った。

 風が当たってスースーする。


「じゃ、オリさんユウさんまた来てください!」

 オリは振り返ってじゃあね。と言った。

 ユウはむくれてこっちを睨んでいた。

 オリは素早くユウを助手席に詰め込み、自分は運転席に乗り込み車を発進させた。

 徐々に人が帰っていく。


 楽しい時間は学校の授業とは違い、あっという間に終わってしまう。

 ついさっきまで明るかったのだが、もう日が落ち始めていた。


「じゃあ、俺らもそろそろ行くか。」

「じゃあ、またね事務所にも遊びに着てね!」

 中津事務所の面々も車に乗り込みその場を後にした。

 彼らがいなくなったことで一気に寂しくなってしまう。


 残るは、井岡家だけになっている。

 やり取りは先ほどから進展してない。

 微妙に違うのは井岡夫人が息子達を力ずくで連れて行こうと考えている事だ。


「泊まってっても別にいいよ~?」

 空と大地は妃の発言に目を輝かせる。

 井岡夫人が妃を睨む。


「妃!その気になるから余計なこと言わないで!」

 グヒヒっと不気味に笑った妃はすでに酔っ払っている。

 埒が明かないので桜が助け舟を出した。


「今度も山ちゃん連れてきて上げるから。」

「ほんと?」

「うん。ホント。」

 桜にそういわれたので仕方がなく山下から降り始めた。


「ありがとう桜ちゃん。」

 井岡夫人は素早く息子達の腕を掴み拘束した。


「またな。」

 山下が名残惜しそうに、手を振ると、二人は俯くように頷いた。

 二人が泣きそうな顔を見せるので、山下はまたすぐに会えると言った。


「行こ。父さん待ってるよ。」

 井岡家は車に乗り込んで、車を発進させた。

 空と大地は見えなくなるまで手を振っていた。


 井岡家が帰ると本当にイブじいの家がガランとしてしまった。


「戻ろ。」

 妃は残った三人に向かって声をかける。

 そう言った妃だが足取りがおぼつかない。


 仕方がなく、樹は肩を貸そうとした。

 こんなところでこけて怪我したらどうしようもない。


「ワーイおんぶぅ。」

 妃はぴょーんと樹の背中に飛び乗る。

 首が絞まりそうになったが、体を前のめりにさせることで何とか妃の体重を背中に分散させた。


「うっひょひょ!爽快爽快!」

 皆が楽しい時間が終わってしまった、悲壮感に浸っているのに、妃一人だけ未だにハイテンションだ。


「なんか寂しいね。終わっちゃうと……」

「……」

「山ちゃん泣いてる?」

「泣いてない。」

 ムッとした顔で山下は桜を睨みつける。

 その顔がやはり寂しそうなので桜は笑った。


 グヒヒっと妃の笑い声だけ聞こえる。


「子供いいな……」

 ふとした瞬間にボソリと山下が呟く。

 今日空と大地と遊んだのがよほど楽しかったらしい。

 その一言に桜がぷっと吹き出す。


 山下がそのセリフを言うと異様にシリアスな感じがして面白い。


「将来何人欲しい?!」

 樹の背中から妃が叫ぶ。

 山下はこれもまた真剣に考える。

 頭の中で数えているようだ。


「六人。」

「多っ!」

 桜と樹が同時に叫ぶ。


 その反応を見て山下は事情を説明しだした。

「俺の好きなゲームをするには丁度それだけいるんだ。」

「あぁ、いいねそれ!」


 山下は一見頭脳はで、スポーツとは無縁のような外見だが、体を動かすのが好きだ。

 ムッスリした顔しているくせ子供達とたくさん遊んだりして、意外にいい父親になるのかもしれない。


「六人ってそれなんのゲーム?」

 樹は首を傾げた。

 スポーツ観戦はわりと好きなほうだが、樹の知っているものに六人で遊ぶものはない。


「スピアボール。」

 やはり樹のしらないスポーツだ。

「はじめて聞くそれ。」

 今まで世界中を飛び回っていた妃も首を傾げた。

 よほどマイナーなスポーツなのかもしれない。


 山下は不思議そうな顔をしている二人の顔を見て楽しんでいた。

「明日は早い。早く寝るぞ。」

 山下は話を打ち切って、館に向かって歩き出した。

 桜と山下は明日早くから仕事がある。


 今日は王野家と山下は空き部屋を借りて泊まる事にしている。


「そうだね!」 

 つい昨日まで彼女と過ごすという理由で王野家を空けていた山下だが、今日は久しぶりに一緒に過ごせるので桜は朝からご機嫌だ。

 桜は山下の隣の位置について並んで歩いた。


 部屋ももちろん別々で家族と一緒とはいえ、別の女の人と一つ屋根の下で過ごしてもいいのだろうか?

 異性の友達おろか同性の友達も一人しかいない樹には、男女間における友情の距離感はどんな程度のものか理解出来ない。

 アオイさんは今日の事知っているのだろうか?


 樹の不信感をよそに桜は楽しそうに山下に話しかける。


「スピアボールって球技だよね?」

「そうだ。楽しいぞ。」

「やってみたいな…」

 桜の言葉を聞いて山下は嬉しそうな表情を見せた。


「ホントか?攻撃チームはいいが、防御チームはなかなか大変だぞ。」

 攻撃?防御?攻めと守りって事なのか?


 二人の話し声はすでに小さくなりつつある。

 二人は樹を置いていこうとしているのか、早足で遠ざかっていく。


「待ってぇ…」

 樹も背中に重い妃を背負ったまま追いかけた。

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