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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
学園祭編
20/95

20.シュガープラス

 金曜日の午後。

 人々が、仕事あるいは学校を終えて帰宅途中の時間。

 一日が終わろうとしている時間帯。


 松田カンパニー、ご子息対策課BONではいまさらながら仕事を始めるところだった。

 リーダー牧原を除くBONのメンバーは一台のパソコンの前に集結していた。


 画面正面の椅子には人形のようなフリル服を身に纏ったリーコが陣取り、他の面々はその後ろに立ち、画面に注目する。

 画面上では、白いマシュマロボディが小さな体でちんまりと仁王立ちしていた。


「ふう。はたらいた。はたらいた!」

 ユーセンは額に伝う汗を拭いながら、わざとらしい大声で言った。

 つぶらな黒目は何かを訴えかけるようにリーコを見ている。

 その視線に耐えられなくなったリーコが折れた。


「わかった!わかった!金平糖欲しいんでしょ?!」

 ユーセンは金平糖という言葉に目を輝かせた。

 これのためにつまらない仕事を引き受けたのだ。


「わかってるじゃん、ふりる!はやく、はやく!」

 ユーセンが画面上で小躍りして跳ね回る。

 リーコはその様子を意地の悪い笑みを浮かべて眺めていた。


「ダーメ。まず哲から送られてきたデータ頂戴!」

「けちふりる!」

 そう毒づきつつも、ユーセンはどこかに隠し持っていたビデオテープを放り投げた。

 BONにとって大切な資料でも、ユーセンにとってはただのガラクタだ。


 リーコはカーソルを合わせクリックしてそれを回収した。

 今ここにいない牧原から送られてきた研究データだ。


「ご苦労様。」

「いいからはやく!」

「わかったわかった!」


 リーコはお手製のUSBを取り出した。

 大きな金平糖の形をしている、ユーセンのためだけにつくられた特別製だ。

 早くもユーセンは釘付けになっている。


「くらえ!『金平糖飴時雨』!!!」

 大技を繰り出すべく、リーコはパソコンに金平糖を挿入した。

 その途端画面の天井からカラフルな雨が降り出す。

 技の名前の通り、全て金平糖だ。


「むきゃあああ!」

 技をくらったユーセンは歓喜の奇声を発して、無我夢中で金平糖を拾い始めた。


「よしっ!では、皆様、早速拝見いたしましょう!」

 リーコはユーセンが金平糖集めに勤しんでいる間に、動画を再生する手配をした。

 3、2、1と古風なカウントダウンがされて動画が再生された。




 BONが揃って動画を見る8時間前。

 牧原はいつものスタジオで少女と向かい合っていた。

 彼女と同い年の人達は学校で真面目に学校へ行っている時間帯だ。

 しかし、そんなことはこの少女には関係ない。


 少女の名は葵。

 お寿司と書かれた謎のプリントシャツに、自分とは違う名前が書かれた上履きを履いていた。

 おまけに上履きはサイズまで違うようで、歩くたびカポカポしている。


 葵は、好奇心に満ちた瞳で牧原を見ていた。

 牧原は顔をまじまじと見られて落ち着かない。


 まあ、これでも一応仕事に欠かせない重要参考人なのだ。

 牧原は咳払いをして、葵に念を押した。


「じゃあ、今から撮るから、なるべく簡潔に聞き取りやすく話してね。」

「はぁい!」


 やる気十分すぎるその返事にかえって牧原は心配になった。

 本当に大丈夫かな?


 そんな心配をする牧原には全く目もくれず葵は、周りをキョロキョロとうかがった。

 『撮るよ』と牧原は言ったが、牧原が動く気配はないし、カメラが出てくる気配もない。


「カメラは?」

 大砲のような大きなカメラを想像していた葵は不服そうだ。

 あからさまに残念そうな顔をする葵。

 牧原はその様子を見て、良くぞ聞いてくれたと得意そうに笑った。


「ここだよ。」

 牧原は左眼の眼帯を指差す。

 眼帯の下には、彼が作り出した眼球型超高性能マイクロカメラが搭載されている。


 このカメラは、普通の目と全く見分けがつかない。

 言わなければ全くわからないので、相手に悟られないように撮影する事が可能だ。

 そのため、同僚からは『高性能盗撮機』と呼ばれている。


「いい?眼帯が外れたらもう映ってるから…」

 返事を待たず、眼帯の結び目を解き始めた。

 葵も何も言わず食い入るようにその動きを見ていた。

 音もなく眼帯が落ちて、それは膝に落ちる前に牧原の左手に納まった。


 食い入るように見ていた葵の目が、疑いに満ちた冷たいものに変わる。

「これ本当に映ってんの?」


 あまりに普通の眼に見えるためカメラに見えないのだろう。

 それを見て牧原は優越感に浸る。

 ここまで精巧に作るのは相当苦労した。


「映ってるよ。多分今あるカメラのどの機種より綺麗に撮れてるよ。」

「へぇ…」

 葵は感心の声を漏らし、まじまじと目を覗き込んだ。


 でもこんなものじゃ彼女の父親には到底足元にも及ばない。

 葵の父親は牧原の唯一尊敬する技術者だった。

 残念ながら、葵は自分の父親がどれほど優秀だったか知らない。


 そんな複雑な牧原の思いも知らずに、葵は再び好奇心に満ちた瞳でこちらを見ていた。

 嫌な予感がする。

 夏にカブトムシを見つけたような……

 純粋で残酷な子供の顔をしていた。


「そっかぁ。ねえねえ、見せて!」

 葵は牧原の高性能盗撮機に向かって手を伸ばしてきた。

「うわっ!ちょっと……!」

 牧原のリズミカルな美声が、悲鳴に似た大声を上げた。



 BONが見守る中、葵の手が迫ってきて画面がブラックアウトする。


「どうした?!哲!テツゥ~!!!」

「どないした?!」

 BONの人々が騒ぐ。


 生放送でない事に気付くものはいない。

「おいおい。おまえらおちつけよ!……あ、ここにもある!」

 唯一そのことに気付いていたユーセンは、散らばった金平糖を集めるのに必死だ。




 再び8時間ほど前。

 いったん撮影を中断し、牧原はなんとかカメラを魔の手から死守した。


 もっと説明してから始めるべきだった……

 今更になって反省した。


「容赦なく突っ込んでこようとする人、初めてだよ……」


 いつもの落ち着きを取り戻した牧原は、再び葵を撮る事に専念した。

 このカメラは体に埋め込まれているが、外すときに痛みは一切感じない。

 しかし、いきなり抉られるとなると抵抗がある。

 抉るほうはさらに抵抗があるはずなのだが……


 当の本人葵は涼しい顔をしていて、見せてよケチ。と口を尖らせていた。

 このご機嫌斜めの顔で撮り続けるのもなんなので、『後で見せてあげる』と約束してご機嫌をとった。

 手を焼くが単純なので助かる。

 牧原は気を取り直してこう切り出した。


「まあ、その現リゴレ・ルーンの悪事について話してくれればいいんだ。」

 やっと本題に入る。

 牧原は映像がぶれないように、椅子に深く腰をかけて姿勢を正した。

 撮影している間はカメラを支える生きた三脚となるのだ。


 葵は強く頷き、言ったるぞと意気込んだ。


「まず仁科の盗撮ファイルについて!」

「……仁科個人についてじゃなくって、できれば全体を語っていただきたいんだけど……」

 『盗撮』という言葉に過敏になりながらも、牧原は柔らかい口調で葵を促した。

 葵は牧原の言葉にうーんと唸って考え込んだ。


 長引きそうだ……と牧原は直感した。

 このまま黙り込まれても困るので、牧原が質問してそれに答えてもらう事にした。

 その方が必要な情報だけ撮れて効率的だ。


「例えば、作っちゃいけないものを作ってるとか……」

 ここまで言えばわかるだろう。


「盗撮ファイルじゃん。」

 さっきから言ってるじゃん。

 人の話聞いてないなあ……

 と言いたげに葵は頬を膨らませた。


「だからね……」

 そうじゃないんだって。


 葵にはオブラートに包んだ言葉は通じない。



「哲、苦戦してるね。」

 さっきから進展のない会話だ。

 リーコは画面脇で金平糖をかじっているユーセンを観察し始めた。

 ユーセンはポリポリと音を立てながらやたらとおいしそうに金平糖を齧る。


「この子、本当に山下先生の娘?」

 それにしちゃあ物分りが悪い。

 金髪碧眼のキャシーは関西弁に似た独特のイントネーションで呟いた。


「顔もあんまり似てないね。」

 ユーセンに似た白いマシュマロを頬張りながら和泉が言う。


「母似なんだよ。」

 和泉は骨のように細い指で頭をかき適当な見解を述べた。

 BONは昔の恩師と面影を重ねながら、懐かしい気持ちで映像を眺めていた。


 進展がなくしばらく雑談がつづく。

 集中が途切れ始めて皆自由に動き始めていた。

 映像の中で牧原が自慢の美声で何か呟いた。


「あ!ついに核心にふれよった!」

 映像を一人真剣に眺めていたキャシーが声をあげ、皆映像を凝視した。



「『永遠の命』の事だよ。」

 牧原が言うと、いっそう謎めいた不思議な言葉のように感じられた。

 葵の表情が明らかに先程とは違うものになる。


 葵の真剣になった表情は、何かよくないものを予期しているようであった。


「何それ……?」

 案の定の反応だ。

 今までの経緯から牧原は、このくらいのことじゃ驚かなくなっていた。


「禁忌。作っちゃいけないもの。この世に存在しちゃいけないもの。」

 辞書に書いてあるものをそのまま読むような口調で話した。


「キンキ……?」

 葵はボソボソと復唱した。

 いまいち意味がわかっていないようで、葵は愛刀『田邊』をイジリはじめた。

 少し葵のことについて調べてある牧原は、彼女が喰いつきそうなネタを話す事にした。


「君のお父さんが、君達兄弟のためにだけ作った史上最高システム『RPA』。それと安藤夜が作りあげた、ヒト型ロボ。その二つがひとつになったものが『永遠の命』。」

 ここで今まで黙っていた葵が急にアッと声を上げた。


「それを作るために仁科は、村のヒトを攫うんだ!」

「そう。そういうこと。」

 葵の父が作り上げたRPA。

 今では万人が愛用しているが、もとは息子と娘二人だけのために作られたものだった。


 人々が時と場所を自由に共有する事ができる。

 それがRPAの人々に愛される、最も大きな理由だ。

 しかしRPAそれが史上最高システムと呼ばれる由縁ではない。


 RPAは生まれた時から周りに馴染めていなかった二人のために作ったもの。

 広い世界に二人ぼっちになってしまわないように、先代は二人を大切にしてくれるような『ヒト』を作った。 

 多くの科学者が人工知能を作ったりしたが、それはどれも偏っていた。


 それを解消して作られた『ヒト』は完璧な自我をもった。

 この『ヒト』こそ、RPAが史上最高と呼ばれる由縁だ。


 一方、安藤夜が作ったヒト型ロボは名の通り、ヒト型にできているロボットだ。

 その姿は人間そのもので、傍から見ると見分けがつかないほど精巧に出来ている。


 『ヒト』の自我が魂ならば、ヒト型ロボは魂の器である。

 二つが揃えば、寿命のない完璧な人工人間が完成する。

 そのため仁科率いるリゴレ・ルーンは夜な夜なRPAから『ヒト』を攫いにくる。


「もう『永遠の命』はすでにひとつ完成している。」

 現にその『永遠の命』を持った存在を牧原は見ている。

 葵は牧原の言葉を聴いてギュウっと田邊を握り締めた。


「……それ、マグの家のリリかも知れない。」

「リリ?」

 牧原が聞き返すとうんと葵は重々しく頷いた。


 この事は牧原も知らない事実だった。

 牧原は注意して目で聞いた。

 自分が聞いたもの全てが、そのまま資料になるのだ。


「連れてかれちゃったんだ。黒い奴らに……アオ助けられなかったんだ。マグ達悲しんでた……」


 数年前の事だ。

 その夜も、不気味な月が人の形をした黒い影を吐き出していた。

 仁科が差し向けた、ヒトを攫うための特別なウィルスだ。

 その夜がはじめての襲撃だった。

 リリは葵と同じ年ぐらいの女の子だった。

 葵が他のヒトを守るのに必死になっていた時、後ろから悲鳴が聞こえた。


 それが彼女だった。


 リリは黒い影に捕まっていたけれど必死にこちらに手を伸ばしていた。

 葵が助けるまでもなく、黒い影と共に笑う月の口の中に消えていってしまった。


『助けて!』

 その声は今もしっかりと葵の耳に残っている。


 その後リリがどうなったのか葵は知らない。

 それ以来葵は敵襲に備え、村を見守り続けていた。


「それは仕方がないよ……君だって人間なんだから。RPAを君たちだけで守りきるには無理があるよ。」

 君たちと言うのは、まだ牧原が会えていない葵と葵の兄、圭のことだ。


「それに彼女はまだ生きてるよ。」

「ホント?!」

 葵の瞳はかつての輝きを取り戻し、眩しいほどに光っていた。


 もっとも、消えかかりつつあるけどね……

 牧原は心の中で付け加えた。


 葵はまだ井上真華の存在を知らない。

 そしてその存在が消えかかっている今、葵に彼女の存在を教えないほうが良い。


 井上真華は葵を知っているのだろうか?

 それとも昔の記憶がなくなっているのか?

 井上真華本人でなければ誰にもわからない。


 とにかく、彼女の充電が切れる一ヶ月までに何とかしなければならない

 永遠に生きるために造られた彼女だが、条件を満たしていなければその命は人間以上に儚いものだ。


「そうだ!アオもうあっちの世界に帰らないと!圭兄仕事できなくなって、一緒に住めなくなる!」

 今の葵にとっては、義母仁科から離れ、圭兄と暮すことが唯一の望みだ。

 いても立ってもいられないようで、葵は椅子から飛び上がった。

 かといって、仁科の私物を破壊してきた後では家にはもう戻れない。


「どうしよう!!!戻れないじゃん!!!」

 葵はボサボサの髪をさらに手でかき乱した。

 落ち着きのない葵を見かねた牧原は、眼帯を元の位置に戻して頬傷を掻いた。

 そして、ポケットに入っていた財布からカードを一枚取り出した。


 それをひょいっと葵に差し出した。

「君にこれを上げるよ。」

「何これ?」


 カードには松田カンパニーのウィルスバスターのイラストとU‐1000SPとかかれている。

 葵は知らないが、こっちではクレジットカードと言われるものだ。

 しかも特別仕様。


「君達の代わりにRPAを守ってくれるよ。」

 牧原は意味ありげに笑った。

 このカードは店に行ったら普通に使えるが、お金を払う意外にもうひとつ特別な機能が備わっている。


「なんで?」

 葵はカードを受け取りながら、首をかしげた。


 『どうしてこれがRPAを守ってくれる?」

 という質問ではなく、

 『どうしてそんなことをしてくれる?』

 という事だ。


 牧原は共犯めいた笑みを浮かべた。

「先生のつくったRPAだしね。あいつらの思いどおりにはさせないよ。」


 葵は八重歯をみせてニシシと笑った。

 『敵の敵は味方』

 葵の頭の中でしっかりと単純かつ明快に整理された。




 リーコ達がBON本部で映像を見ているのと同時刻。

 牧原から授かったカードを使い、葵はゴチャゴチャとしたゲームセンターに足を運んだ。

 ゲームセンターには一時間数万円という値段でRPCの貸し出しを行っている。

 その値段のせいで、利用する人は僅かだ。


 葵は『青』となり、二日ぶりにRPAの世界に帰ってきた。

 ログインすると、青はいつもの装備で草原に立っていた。

 青が守っている村が見える。


 いつもと違うRPCでここまで来たので心配だったが、無事に戻れたようだ。

 走って村までとんでいった。


「圭兄ぃ!」

 いち早く見張り台の上にいる兄の姿を見つけて子供っぽく手を振った。

 圭もすぐに気がついた。

 青がいない間彼が寝る間を惜しみ見張っていたらしい。

 青を見るなり下に降りてきた。


「アオイ!どこをほつき歩いていた!それとどこから入ってきた?」

 彼には珍しく仮面をつけずに、怒った顔を露わにしている。

 その迫力に押されながらブツブツと答える。


「ゴチャゴチャしたところだよ…」

「ゲームセンターか。」

 この兄妹は感性が似ているお陰で、少ない言葉で通じ合える。

 圭は眉間に皺を寄せストンと地面に座った。


 眉間に皺が寄っているのは怒っているのでなく、彼の真顔だ。


 よかった、怒っていない。

 そう確信した青は安心してその隣に腰を下ろした。

 重装備がガチャガチャと音をたてる。


「資金はどうした?」

 圭は短く青に質問をぶつけた。

「マキってヒトが魔法のカードくれたんだ!」

「クレジットカードか…?」

 圭の眉間の皺がより深くなる。


「葵。そいつ危ないヤツじゃないだろうな?」

 圭の問いかけに葵は首を振る。


「そんな事ないよ!眼帯で頬傷だけどいいヤツだよ。」

「そうか…危ないと感じたら田邊で攻撃だ。わかったか?それと…」

 圭はそこでいったん言葉を切った。


「それと…?」

 青が首を傾げ聞き返した。

 圭は草原を見つめていた。


「『あれ』はなんだ?」


 草原のかなたでは、ぽわんぽわんと聞こえてきそうな軽いステップで、マシュマロのような生物が一匹跳ね回っていた。

 よく耳を澄ますと、圭にもなじみのある日本語を喋っていた。


「およ?はじめてきたぞ。こんなところ!」

 ユーセンはノコギリ山に向かって!ヤッホーと叫んだ。


「あぁ、ユーセン君だよ。これからアオ達の代わりにここを守ってくれるんだ!」

 葵は期待に満ちた眼差しでユーセンを見つめていた。

 圭は露骨に不満のありそうな顔をした。


「帰ってきたと思えば、また妙なものを…」

 その声を聴きつけ、圭の膝ほどの高さほどしかないマシュマロボディがこちらへ向かってきた。


「おらおら『お前』!この『ウィルスバスター・ユーセン』さまをしらないな?!」

 お前呼ばわりされた圭は顔をしかめてユーセンを見た。 

 ユーセンはやれやれと溜息をつき、懐から長方形の紙を取り出した。


「こういうものです!」

 ユーセンは圭に紙を突き出した。

 圭は紙を受け取ってそれを凝視した。

 何しろユーセンサイズなのでかなり小さい。

 小さいものがさらに小さくなっているのだ。


 目を凝らすと、生意気にもそれが名刺である事がわかった。

「松田カンパニー、対ウィルスソフトU‐1000?」

 なるほど。ユーセン、だから『ユーセン』。


「そ!そういうこと。」

 その名刺には写真までついていた。

 横から名刺を覗き込んでいた葵は、目の前にいるユーセンと写真の中のユーセンを見比べた。


「なんか写真と違うね。」

 写真の中のユーセンは赤い兜の飾りが丸みを帯びているが、目の前にいるユーセンの兜は、角のようにピンと立ち尖っている。

 

「良くぞ気付いてくれた!」

 ユーセンはその場でふわりと宙に浮き、クルリと宙返りした。


「おいらは、おまえらやましたきょうだいのために『特別』につくられた『限定』ウィルス・バスター『U‐1000SPシューガープラス』だ!!!」

 ユーセンは踏ん反りかえって仁王立ちして見せた。


「すごーい!」

 特別と限定という響きでなんとなく葵は拍手を送った。

 圭は尚も訝しげにユーセンを見ていた。


「いまだにしんようしてないな?」

 まあな、圭は素っ気無く正直に答えた。


「ならば、説明してやるよ!」

 いや別にいい…という圭をよそにユーセンは誇らしげに語り始めた。


 SPは通常版と同様に、BONの人々によって生み出された。

 SPは通常のユーセンと違い、チップではなくクレジットカードの形をしているのが特徴だ。

 そうすることにより、カードを読み込んだ機械の中に入り込む事ができる。

 RPAの中だけではなく、自販機や、お店のキャッシャーの中にも入り込めるらしい。

 そして最大の特徴は、戦うべき相手の違い。

 通常版は名前の通りウィルスと戦うが、SPは『黒い奴ら』と戦う。


 ユーセンがすごいだろ?かっこいいだろ?と独自の感想を交えた説明をしている間に、空に上る月に変化が見られた。

 大きな目がギョロギョロと激しく泳ぎ始めた。


「来たぞ葵。行くぞ。」

 圭は素早く立ち上がり身構えた。

 彼がいきなり立ち上がったのでユーセンは驚いて後ろにコロンと転がった。


「きけよ!おいらもたたかえるんだっ!」

 まるで相手にされないユーセンはぷくっと頬を膨らませた。

 短い足をまげてバネをつくり、それを思いっきり伸ばした。


「このやろ!」

 圭の顎に頭突きをした。

 まともに攻撃を食らった圭は後ろに倒れて尻餅をついた。


「圭兄?!」

 青が信じられないものを見るように兄とユーセンを交互に見た。


「何をする?」

 圭は顎を擦りながら憎々しげに、宙に浮かぶユーセンを睨んだ。


「お前!しんようしてないだろ!」

 ユーセンは圭に言葉を浴びせた。

「おいらがつよいってとこみせてやるよ!」

 ユーセンがそう宣言したと同時に月の口が開き黒い影を吐き出した。


 圭と青が呆気に取られている間に、ユーセンは唐草模様のマントをこちらに向けた。

 ユーセンはちょこんと地面に足を付けた。


「よぉくみてろよ!!!」

 ユーセンは自分の身長よりも大きなチェーンソーを手にしていた。

 ブーンブーンと唸っている。

 ユーセンはつぶらな瞳で敵が地面に降り立ち人型に形成されていくのを見据えていた。


 一体目、二体目…最後の十二体目が完全な人型になるまでユーセンは手を加えなかった。


「大丈夫かな?ユーセン君…」

 青が心配そうに圭に問いかけた。


「さあな。」

 圭は素っ気なく答えたが、いつでも参戦できるよう体勢を整えた。


「しんぱいごむよう!」

 ユーセンは宣言どおり、怯む事無く敵に飛び掛る。

 敵も負けじとユーセンに飛び掛った。


 長い腕がユーセンめがけて振り下ろされた。

 ユーセンは素早い動きでそれをよけると、チェーンソーと共に飛び上がった。


「とっろ~い!」

 さも愉快そうにあざ笑い、チェーンソーを振り回した。

 ユーセンは確実に敵の首を捕らえ首を落とす。


 ブーンブブブッ…

 何かが刃に巻き込まれる不気味な音がした。


「わーい!ちまつりだ!」

 ユーセンがチェーンソーを振りかざすたび、黒い体がばったばったと積み上げられていった。

 ユーセンの無邪気で楽しそうな声チェーンソーと一緒になっていっそう不気味だ。


「ふう、いいあせながした!」

 ユーセンは自分の切りつけた黒い体の上に立った。

 ユーセンはものの三分で敵を全部のしてしまった。


「すごいよ!ユーセン君!」

 青は走ってユーセンに飛びついた。

 高い高いされるユーセンの姿は、本物のぬいぐるみのようだ。


「ユーセン。」

 圭は勇敢なウィルス・バスターの名を呼んだ。

 ユーセンの目には、差し出された手が映った。


「仲良くしていこうユーセン。」

 ユーセンを抱いていた青は圭にユーセンを突き出した。

「やっと、わかったか!ヨロシクな『圭』。」

 ユーセンは小さな両手で、圭の指を掴んで上下に振った。


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