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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
学園祭編
17/95

17.遺跡コンビの苦悩

 樹が幸せとエビフライを噛締めた日の夜。

 あと数時間で日付が変わろうかという時間帯。


 リゴレルーンの下っ端兼雑用の三内武人と丸山風太郎の二人は仁科の命令で、逃げ出した研究材料を探していた。


 研究材料とは人型ロボットMac‐Aの事だ。

 それはそこらのロボットとは違う。

 それには自我があり、自由に動き回れる。

 見た目だって人間と見分けがつかないほど精巧に出来ていた。

 Mac‐Aを探すために彼らは日本中を飛び回った。


 いくら狭い島国でも、人と見分けがつかないロボットを探す事は不可能。

 であるかと思われていた…


 丸山は目深に被ったニット帽の下からその建物を見上げた。

 前に立っている兄貴分、三内の背中が、ついにたどり着いた…という雰囲気を漂わせている。


「兄貴…。本当にここでなんですか?」

 丸山は頼りなさげに声を上げた。


「ここだ。ここじゃなかったら困る。」

 三内はうんうんと力強く頷いた。

「だって兄貴…」


 丸山はそこでいったん言葉を切って、辺りを見渡した。

 目の前にある倉庫を横に並べたような建物。

 不気味すぎるぐらい静かな通り。

 すれ違う人々も世の中からはみ出した者ばかりだ。

 やはりそうだ、と丸山は確信した。


「だってココ!ご近所じゃないっすか!」

「その通りだよ!馬鹿野朗!!!」

 三内は丸山に向かって吠えた。

 やるせない気持ちでいっぱいだ。


 ここは彼らの本部、リゴレルーン本社から車で30分程度の場所にある監視ロボ管轄外の無法地帯だ。


「だって兄貴、車で12時間もかけて九州にも行ったのに!」

 理不尽に怒鳴られた丸山は、どういうことだと問いただした。


「なにが『遠くに行ったに違えない。』なんっすか?!」

 舎弟のくせに、丸山は生意気にも腕を組んだ。


「言うな!12時間、いや往復24時間、運転していたのはオレだ!!!」

「仕方ないじゃないっすか。俺免許ないんっすから。」

 全く悪びれず丸山は口を尖らせた。

 この丸山、移動方法は徒歩とママチャリオンリーだ。


 三内はゴツい体と顔に似合わぬ小さなため息をついた。

 歳が五つ下だっただけで、子分になった丸山の忠誠心はポケットで持ち運べるほどしかない。

 まだ兄貴と呼ぶだけましか…

 三内はそれでいいんだと何とか自分に言い聞かせた。


「オォイ、兄貴。早くサクッと仕事しましょう!」

 丸山はすでに建物の入り口に手をかけていた。

 一刻も早く仕事を終えたいようだ。


「待てい!」

 三内は丸山が中に入る前に呼び止めた。

 うっさいっすよ。という表情をしながらも丸山は踏みとどまった。


「なんっすか?!」

「慎重に行くんだぞ!」

 分かっていますよと丸山は鼻で笑った。


「分かってますよ!俺、今回ちゃんと作戦立てたんっすよ!」

 丸山は自慢げに胸を張った。

 妙に自信があるようだった。


「ほう、聞かせてもらおう。」

「はい。今までMac‐Aを探すときに各地で『この子知りませんか?』って聞いて、あからさまに退かれてたじゃないっすか?」

 三内はうんうんと頷いた。


『しりません。』

『知るわけあるか。』

 それもその筈、いかつい男が可愛らしい少女の写真を持ち歩き尋ね回っているという状況はかなり怪しい。

 集まってきた人々は白い目を向けてくる。

 その中には、あからさまに三内より悪そうな人相の男もいた。


「聞いてますか?!」

 丸山の声で回想から引き戻された。


「で!そこで考えたんっすけど、探すのを手伝いたくなるような事を言えばいいんすよ!」

 ほう…と頷いてみせた。


「で、具体的には?」

「俺が、妹を探しているって嘘つく!」

 なるほど、実に古典的だ。

 しかし案外上手くいくかも知れない。


「で、聞く人は、人の良さそうな少年か、気の弱そうなお年寄りっす。」

「いるか?そんなの…」

 こんな荒れたところにそんな人がいると思えないが…


「まあ、いいっすよ!とにかく行きます!」

 異様に自信あり気な丸山とともに、三内はしぶしぶ建物の中に入った。




 同じ頃、三内丸山と少ししか離れていない場所。

 無法地帯にあるスタジオにはそこの主の牧原と優太、真華が集まっていた。


「樹ってば、あんなニコニコして!」


 真華は愚痴をこぼして、牧原に握られてない方の腕で膝をペチペチと叩いた。


「へぇ。」

 牧原は真華の腕を点検しながら聞いているのか、無いのか分からない相槌を打った。

 牧原の意識は完全に真華の腕の傷に集中させている。

 しかし、たまに質問したり笑ったりするので、真華も長々と愚痴り続けた。

 無意識にそういうことが出来ることから、牧原はいわゆる聞き上手なのだろう。


 その様子を優太は回転椅子に座り面白く無さそうに見ていた。


 真華の言っていることは優太からしてみれば、愚痴というより惚気話に聞こえた。

 その証拠に言い過ぎると、でもこういういいところがあって…と言う会話をはさむ。

 結局、貶すのと褒めるのと同じ量になっている。

 何より本人が楽しそうに話していた。


 スタジオ全体が、放課後の保健室のようなアットホームな雰囲気を醸し出していた。

 牧原と真華は、怪我を見てもらうついでに先生と恋話する生徒そのものだった。

 おまけに今日は部屋の角の床で、丸くなっている少女がいた。


 優太と真華と同じような歳で、家出少女と思わしい外見だ。

 牧原のコートを体に巻きつけて寝ていて、起きる気配はない。


 牧さんはここを本当に保健室にするつもりか?

 本職はDJだろう!

 

 牧原の本職は別にあるのだが優太は知らず仕事の催促をした。

「牧さぁん!早くレコーディング!」

「あぁ、はいはい、ちょっと待ってね。」

 優太は相手にされずに頬を膨らませた。

 この場所を真華に教えてからというもの、彼女はこの場所に入り浸り、牧原を聞き役として独占するようになっていた。


「最近変わったことはない?」

 点検をし終わった牧原は、急に医者の顔になって真華に問いかけた。

 真華は立ち上がってその場で飛び跳ねた。

 長いポニーテイルが波打つ。


「なんか、最近からだが軽い。フワフワします。」

「そうか、やっぱり減ってきてるんだ。」

「うん。多分…」

 おそらく二人が言っているのはあの血に似た、黄緑の物質の事だろうと優太は思った。

 

 あれが減ってきているんだ。

 なくなった時には…

 嫌な想像を優太は下を向いて振り払った。


 牧原はそうかと頷くと、よし。といって切り替えて立ち上がった。

 そして優太に笑いかけた。


「木林森、お待たせ。」

「待っていました!」

 優太も同じように明るくいって切り替えた。


 真華はいってらっしゃいと手を振った。

「私はもう部屋に戻ってるから!」

「あぁ、じゃあ。」


 真華はコツコツと音を響かせながら、螺旋階段を下りていった。

 スタジオの隅にうずくまる少女を除き二人だけになった。


「彼女、しばらくしたら、あちこち少しずつ動かなくなっていくよ。」

 牧原は淡々と言った。

 優太はただ呆然と聞いていた。


「その時は、少しでも良いから助けてあげてね。」

 優太は重々しい表情で頷いた。

 それを見た牧原は申し訳無さそうに謝った。


「ごめんね、歌う前に。」

 優太はそれを払拭するように笑ってみせた。


「大丈夫です。」

 いわれなくてもそうするつもりだったので頷いた。


「それに、そんなことでは歌えなくならないから!」

 優太は腕を組んで得意げに言った。

「そっか、言うねぇ。」

 口だけ笑ったが、いまだに笑顔が戻らない牧原に、今日ずっと思っていた疑問をぶつけた。


「そういえばそこで寝てる子、誰ですか?」

 優太は手がふさがっているので顎でスタジオの隅を示した。


「あぁ、あの子…今日、来たら住み着いてたんだ。家出かな?コート返してくれるといいけど…」

 牧原はさも当たり前のように答えた。

「さいですか…」

 優太は防音室の中に入り込んだ。

 優太は準備を整えて、牧原に合図を送った。


「いくよ。」

 ヘッドホンから牧原の声が響く。

 そしてカウントが始まる。


 自分の歌は人を元気にするためにある。

 だってそうしたいと思って歌うから。

 一番聞いて欲しい人が聞いているか分からないけど。

 出来れば今日は真華にも聞いて欲しいと少し思った。



 再び少し離れた場所。

 無法地帯で一番賑わっていると思われる場所に三内丸山はいた。


「おい!ところで誰に聞くんだ?!」

 三内丸山が重い扉を開けた途端、爆音の衝撃波にぶち当たった。

 二人は顔を顰めながら奥へ進む。

 自分の声がかき消されないように、三内は声を張り上げた。


「は?!聞こえないっす!!!」

 丸山はニット帽で隠れた耳を三内に傾けた。

「これのせいだよ、馬鹿!」

 そう言ってニット帽を引っ張りあげた。


「えっ?!『俺のせいだよ、九州』?」

「ちがうわ!」

 今度はニット帽を鼻までかぶせてやる。


 生意気にもニット帽をベストポジションに直そうとする丸山を尻目に、三内は音が聞こえなくなるような所を探し出した。

 そして爆音の発信元である巨大スピーカーから遠ざかるように歩み始める。


「お前が言う人の良さそうな少年か、気の弱そうなお年寄りってのはどこにいるんだ?!」

 逆に不良っぽい少年と、気の強そうな老人ならさっきからどこを見ても、視界に一人は入っている。

 作戦の破綻を伝えようとするが、丸山は予想に反し声を弾ませた。


「ほら!あれっすよ!」

 まさかと思い丸山の指差すほうを見る。

 本当にそこには、中高生にありがちなスポーツウェアを身に纏い、何かの楽器を背負った少年がいた。

 ルンルンと楽しそうに鼻歌を歌いながら、例の人々の間を進んでいた。

 彼の周りだけ、平和な通学路であるかのような錯覚を受ける。

 身なりも清潔に見えた。


 まさに人が良さそうな少年だった。

 よくもまあ都合よく…


「よし。聞くか。」

 そう言って近づいていこうとする三内を丸山が引きとめた。

 何だよ!さっきとは全く違う立ち居地で同じ事をする。


「兄貴じゃダメっすよ!」

「なんでだ?」

「怖がられるじゃないっすか!ガキから嫌われる性質じゃないっすか。」

 兄貴には無理。と丸山がひらひら手を振る。


「俺がいつ嫌われた?!」

「挙げたら切がないっすよ。葵に、圭に、それから…」

 本当にキリがなかった上に、全て本当の事だった。


「わかった、わかった!さっさと行って来い!」

 三内は丸山の背中を蹴飛ばした。

 ブツブツ文句をいいながら、丸山は少年の元へ向かった。

 去り際に俺も嫌いっすと呟いた。

 丸山は早速その少年に話しかけ始め、三内は離れたところから見守ることにした。


「家出した妹の事を探しているんすよ…」

 丸山は同情を誘うような悲しい声で訴えた。

 不思議と助けてあげようという気分にさせる。

 丸山の純朴そうな顔のおかげだろう。


「君と同じくらいの…!」

 ポケットに手を突っ込んだ後、丸山は焦り始めた。


 そういやアイツMac‐Aの写真持ってんのか?!


 三内も釣られて焦り始めたが、少年はあぁ!と古典的ななるほどポーズをとった。


「それなら、あの上のスタジオの方にそれらしき子が!」

 少年は近くの螺旋階段を指差した。

 その先は高い天井の上に消えていた。


「あそこっすね!ありがとう!」

 いえいえ!といいながら少年はまた歩き出した。

 丸山はガッツポーズを取って兄貴に成功の合図を送った。


 それに引き寄せられ三内はぬうっと闇の中から姿を現した。


「えらく単純だったな!」

「当然俺の『じつりょく』っす!」

「お前どこでそんな生意気な言葉をおぼえた?」

 三内は丸山のニット帽をずり下げて、一人螺旋階段へ向かった。

 丸山は不機嫌そうに後について行った。


 上まで行くとその部屋が案外広い事がわかった。

「すごいっす!レコーディングスタジオっす!」

 感動する丸山をよそに三内は部屋の隅にうずくまる、人影を見つけた。


 今まで辛かった思い出が走馬灯のように駆け巡る。

 それに近づき、包まっていたコートのフードを掴んだ。


「見つけたぞMac‐A!!!」

 その叫びと共に、纏っていたコートを剥いだ。


「むぐ!」

 不意をつかれたMac‐Aはコロリと三内の足元に転がった。


 まず三内の視界に飛び込んだのは、『お寿司』の文字。

 このダサいシャツ見覚えがある…

 血の気がサーと引いていく。


「起こしたな…せっかく寝てたのに…」

 葵は寝起きのかすれた声で呻くように言う。

  

 ボサボサの髪の下から八重歯のある口を覗かせた。

 へへへと獲物を前にした肉食獣のように笑っていた。

 手には細長い日本刀が握られている。


 日本の警察は何をやっているんだぁ!


「葵?!何っ、なんでここに?!」


 上司の義理の娘である仁科葵。

 普段ならRPCに閉じこもり姿を現すことはない。

 しかしたまに見せる寝起きは、恐ろしく強暴だ。


 一見掟とか無さそうな三内の仕事にも、決まりというものがある。

 葵の寝起きは恐ろしく機嫌が悪いから、起こしてはならない…


 三内がじりじりと後ず去った。

 背中が何かにぶつかった。

 スタジオ見学していた丸山だ。


「あ!葵!」

 丸山は仰天して、三内の盾にして身を潜める。

「今更気付いたのか?!」


 互いに盾にしようとし合う三内と丸山の耳に不吉な言葉が聞こえた。


「わーい!ちまつり、ちまつり!」

 つけっぱなしのパソコン画面から、声がしていた。

 三内の脳内で、ちまつり=血祭り、と変換された。


 誰だそんなこと言ったのは?!

 三内はパソコンを睨み付けた。

 画面上ではマシュマロボディのウィルスバスターがこっちを見ていた。

 ユーセンが金平糖を手に、一方的な試合を観戦していた。

「いいな。おいらもやりたいな…」


 焦る二人を見ても眉一つ動かさず、葵は田邊を上段に構えた。


「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」

 防音効果があるこの部屋は、外に悲鳴が漏れることもなかった。


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