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カリロボ  作者: 広瀬ジョージ
学園祭編
10/95

10.マイワールド

 青は生まれた時から、二つの世界で生きてきた。


 ひとつは、あたり前のようにある人間の世界。

 もうひとつは、作り出された世界、RPA。


 人間の世界があるからこそできたRPA。


 しかし、青にとっては、自分のいるべき所はRPAで、それがこの世の全てなのである。

 どちらかの世界がいいかと聞かれたら、間違えなくRPAとこたえる。

 青にとっては最早こちらの世界が本当の世界で、人間たちがいる世界が偽者のような気さえしていた。


 そんなRPAを汚す奴がいるならば、絶対に許せない……!


 右、左。もう一度右。

 青は警戒態勢に入っていた。

 

 青は一言で言うと強そうな奴だ。

 RPAに詳しい物ほどその印象が強いだろう。


 足には鋼の竜を討伐したものに与えられる『鋼鉄のブーツ』。

 手にはトロール相手に素手で勝利した者のみに与えられる『トロールグローブ』

 体をスッポリ覆うのは地下迷宮を一番早く攻略したものに与えられる『常闇の鎧』。


 常闇の鎧は青しか持つ者がいないのでVIPプレイヤー青の代名詞となっている。

 RPAのプレイヤーなら皆が羨むようなレアアイテムばかり身に着けていた。

 強いのは見た目ばかりではなく、実際に『RPコロシアム』で6連勝という快挙を成し遂げている。


 青の視界には左端から右端まで鋸の刃のような山脈が広がっている。

 山脈はグルリと青のいる村を囲うように出来ていて、侵入者を排除する。

 かつては許された複数のものしか入れない仕組みになっていたが、今ではその秩序も失われつつあった。


「青、少し休んだらどうだい?」

 腰の曲がった老人が青の後ろから話しかける。

 彼はこの村の長で、青の祖父のような存在だ。


 日が沈んでからずっと村の外で待機している青の身を案じて外に出てきたようだった。

 

「大丈夫だよ!危ないかもしれないから、中にいてよ!」

 青は格好に似合わず子供っぽい口調で言った。

 声も幼い少年のようだ。

 老人はやれやれと首を振って、あまり上がらない首を上へ向けて夜空を見上げた。

 

 青と老人の頭上では笑う三日月が二人をギョロギョロと見下ろしていた。

 もう何年も青や村人達は満月を見ていない。

 RPAを取り仕切るリゴレルーンの社長が変わってからというもの、RPAの夜空には趣味の悪い三日月しかあがらない。

 

「いつまで続くんだろうね……」

 村長の口調こそ穏やかだが内心穏やかでない事は青が一番よく分かっている。


「大丈夫だよ、村長が元気なうちに、元どおりの月に戻してあげるよ。」

「それは頼もしい。」


 そう言っては見たものの保証はない。

 ただそうしたいという願望だ。

 村長もそんな事は分かっていたので、どことなく寂しい口調になった。

 村長が村に戻り、青は余計に警戒態勢に入った。

 嫌な緊張感が流れる。敵は決まって夜に現れる。


 そしてついに来ないで欲しいと願ったその瞬間がきてしまった。

 視界の遥か上の方で笑う月の黒目がギョロギョロと動いた。


 青は立ち上がり腰に帯剣した細い刀に手を添える。

 黒目の動きはドンドン活発になり、やがてピタリと止み静かになった。


 パカッ。

 大きな口を大きく開け尖った牙がよく見えた。

 真紅のグロテスクな舌をのぞかせ、大きな目が白目をむく。

 その口から黒い塊が三つ吐き出された。


「きた!行くよ、田邊さん!」


 青は素早く田邊と呼ばれる刀を構えた。

『田邊』は情報公開一切なしの超レアアイテムだ。

 田邊は青に応えるように青い光を放つ。


 塊は青の目の前に落ち、縦に伸び、腕が生え、足が二本に分かれ、人型になった。

 しかし腕は普通に立っていても地面に付くほど長く、それを引きずって歩くのでひどく不気味だ。


 ズルズルと腕を引きずりながらゆっくりとこちらへ向かってきた。

 動きはのろい。


 相手は三体。

 これならば楽勝だ。

 心配して損した。


 相手に攻撃させる隙も与えず、青は三体まとめて切りかかった。

 抵抗もせず黒い体が全て真二つになった。

 六つの塊が地面に落ちる。


 いつもならここで地面と同化して跡形もなく消えてしまうところだが、今日は違っていた。

 六つの塊が再び蠢き始める。


「あれ?!」

 青はあわてて田邊を構えなおした。

 塊はそれぞれ大きくなっていき、もとの姿に戻っていく。

 しかも、倍の六体になっていた。


「なんで?なんで?!」

 パニックに陥りながらも次の攻撃をしかける。


「てえい!」

 可愛らしい掛け声とともに、一番近くにいる敵に切りかる。

 とは言え、人間で言うと心臓の位置に当たるところに田邊を貫通させ、おまけに九十度ひねるという確実で可愛くない攻撃だ。

 この攻撃なら敵をきりわけてしまうことは無い。

 田邊が刺さった半透明の体越しに守るべき村がボンヤリ透けて見えた。


 反応はない。

 青は不気味に感じて後退りする。

 少し田邊を引き抜きかけて現れた刀身に、敵は自らの腕を田邊にふれさせて切り落とした。

 落ちた腕も先程と同じように蠢き始める。


 青はあわてて田邊を引き抜いた。

「田邊さんが効かない!」

 悲鳴のような声を上げて、田邊を鞘に収める。


 今まで田邊に全て頼りきった戦い方をしてきたので、それが効かないとなるとかなりの痛手だ。

 完全なる丸腰になったが、それでもまだ村を守る事だけは頭にある。


「とう!」 

 青は大きく跳躍し、敵を飛び越え、敵に触れることなく村の門の前に降り立った。


 名付けて『青の屍を越えて行け』作戦。

 屍になるのは出来れば回避したいところだ。


 自ら切り落とした腕も人型になり、敵は7体になっていた。

 最後に出来た敵だけは他と比べて色が薄い。

 敵はゆっくりとした動きで村に近づいてくる。


 それ以上近づかないよう、青は自ら距離を詰めた。


 スピードを殺さないまま腕を広げラリアットをお見舞いする。

 打撃は効くようで、食らった敵は後方に飛んでいった。

 攻撃が効いて安堵するが、人型は見た目以上に重く、腕がジンと痛んだ。


 ガキンッ。

 別の敵が攻撃を仕掛けてきた。

 長い腕を振り下ろすダイナミックな動きだ。

 青の鎧と腕がぶつかり、鈍い音をたてた。

 田邊で斬った時には、プリンのように柔らかかった癖に攻撃してくる時は物凄く硬い。

 素早く払いのけて次の攻撃に備えた。


 青は鎧のお陰で無傷だが、敵も無傷だ。

 このままではいつか力尽きる。


 どうする?

 青は考えながら攻撃をかわし続けた。


 手榴弾を使うか?

 いや、それでは余計バラバラになってしまうはずだ……


 四方六方から来る攻撃についに耐え切れなくなった。

 ゴツンと脳天に一発お見舞いされた。

 いくら全身に鎧を纏っていても、振動が伝わり、頭がぼうっとした。

 今の一撃で体が傾いたのが青自身も分かった。


「青ッ!」

 誰かが塀から身を乗りだして叫んだ。

 青がふらついたのを見て誰かが悲鳴をあげる。

 その声を聴いて黒い塊の注意がそちらの方へ向く。


 そして1体がゆっくりと声のするほうへ向かっていった。


「来るぞ!逃げろ!」

「戦うヤツは前に出ろ!」

 住民たちの悲鳴と雄叫びが聞こえる。


「行くな!青を倒してから行け!」

 そう叫びながら、村に足を向けるが地面に足を取られ転んだ。

 敵はここぞとばかりに青を囲み殴りかかってくる。

 長い腕を青めがけて振り下ろしてくる。

 青には腕で防ぐのがやっとだ。


「待てやい!クソ!呪ってやる!」

 口でどんなに暴言を吐いても敵は歩みを止める事はないし、かえって惨めになる。


 村人たちの悲鳴が聞こえてくる。


 ああ、もう終わった……

 その時、青は天の声を聴いた。


『プレイヤー・圭。ログイン』

 男とも女とも付かない、無機質な不思議な声だった。

 でもどちらにしろ、今の青には天の声に違いなかった。


 声と共に突然姿を現した圭は青とは対照的に、村人達とよく似た民族衣装と戦闘用の仮面を身に着けていた。

 ふと姿を現したかと思えば、人型と村の間に飛び込んだ。

 敵の腕を掴み地面から引き離すと、青を囲む敵に投げつけた。

 黒い体同士が1つに重なり合うと、一方がムニュンと吸収され、1つの体になった。


「大丈夫か?さっさと起きろ。」

「うん!」


 ころころと転がり距離を取って勢いよく立ち上がった。

 圭の登場により、戦闘力が上がった気がした。

 青は手短にいる敵の腕を掴んだ。


「お返しだ!」

 そう言って振り回してドンドン吸収させていく。

 最後の二体になり、青は手に掴んでいた塊をもう一方に分投げた。

 ブルンと吸収され、残りの一体となった。


 最後の一体になった途端、腕を引きずりながら逃げようとした。

 今はもう半透明ではなくなっていて、光を通さないほど真っ黒な体になっていた。


 ノロノロと逃げる敵に圭が追いつくと、頭を鷲掴みにしてヒョイっと持ち上げた。

 そして黒い体を半分に折り曲げ、ありったけの力と鬱憤をこめて握りつぶしていく。

 最後にはサッカーボール程の大きさになった。


 圭は敵を丸めると、夜空の笑う月を仮面の下から睨みつける。

 月はあざ笑うように大きな黒目をクルリと回した。


 圭は一度宙に球を投げると、月に向かって黒い塊を蹴り出した。

 月が目を白黒させたのは一瞬のことで、口を大きく開き、球は吸い込まれていった。

 

 月がゴックンと大きく喉を鳴らすと、再び村に静かな夜が訪れた。


「圭兄!」

 青はとどめをさし終えた男の背中に飛びついた。


「ありがとう!助けに来てくれたんだね!圭兄が来なかったら死んでたよう!怖かったよう!」

 あれだけ戦っておきながら大げさな泣き言をいう。

 

 隠れていた住民達が圭の前に現れる。

「ありがとう、圭。」

「兄様ありがとう。」

「おかえり兄様」

 圭は照れ隠しに、痒くもない面を掻いた。




「久しぶりに戻ってきたな……」

 圭は仮面をとると久々村の住宅の空気を吸った。

 この村のベットは干し草で出来ていて、その香りが部屋全体を温かい雰囲気にさせている。


 青は兄の様子を見て満足そうに胸を張った。

「むふ!圭兄が帰ってくると思って草を交換しておいたのさ!」

「えらいぞ……」

 

 そう言って圭は寝床に倒れこむ。

 干草でできているので適度に沈んで気持ちがいい。

 RPA外の自室には硬い簡易ベットしかないのでこうはいかない。


「圭兄、寝ないでよ。」

 青が釘を刺したが睡魔には勝てない。


 時刻は深夜2時。

 昼夜逆転生活をしている青は元気が溢れているが、日中も活動していた圭には堪える。


 青は仕方がないかとあきらめて青は装備を解き始める。

 ガチャガチャと怪しい音をたてて床に抜け殻が積み重なっていく。


「ふう!」

 青は装備を全て取り終わると一息ついた。

 装備を取り終えた青の姿は、元のひとまわり以上も縮んでいた。


 伸び放題になった黒髪に、明らかに部屋着と一目で分かるだらしない格好だ。

 部屋着は民族衣装ではなく、ヨレてはいたが化学繊維で出来た現代的な代物だった。

 彼女ががRPA最強プレイヤーだと思うものはいないだろう。


 青は装備を解くと再び圭に近づいた。


「圭兄、起きてる?」

「起きている。」

 青は顔を覗き込む。


「やっぱり寝てる!」

「大丈夫だ。聞こえている。」

「ならいいけど!」


 青は身軽になると圭の背中に飛び乗った。

 圭が疲れていようが、青には知った事じゃない。


「圭兄!大変だよ!あいつらドンドン、パワーアップしてるよ。もう田邊さんじゃ切れない。しかも、仁科達、お遊び程度の感覚で襲撃してきてるよ!」

「うん……」

 青が一生懸命なのは分かるがやはり睡魔には勝てない。

 それよりもむしろ聴きなれた青の声は安心できてより睡眠効果がある。


「許せないよ!どうしよう!そのうち、圭兄でも太刀打ちできない奴が来るかもしれないよ!」

「ああ、そうだな……」

 いずれはそうなるだろう。奴らはこの村の住民を狙っている。

 ここの住民は皆RPAの世界でしか生きられない。

 もし自分達が太刀打ちできなくなったらこの村はなくなるだろう。


「でも、大丈夫だ……」

 今のはタイミングよく出た寝言だったが、青は目を輝かせた。


「そうだよね!大丈夫だよね!」

 そう言い聞かせるように頷いた。


「あっ!そういえば!圭兄、青の出した手紙見た?!あいつが帰ってきたんだって!」

 青は興奮した様子で思い出したように語りだした。


「あいつ……?」

 圭が聞き返すと青は苛立ったように、背中の上で跳ねた。

 いくら青が軽いと言ってもヴっと声が漏れる。


「安藤の事だよ!あいつ海外にいっていなくなったと思ったら、次はどこにいたと思う?!」

「事務所にいつもいるだろう……?」

 寝ぼけた兄の言うことは聴かず、青は怒りをあらわにした。


「それが!あいつ学校に居たんだよ!しかも青と同じ学校の、同じ教室に!」

「それ、おかしいだろう。」

「でしょ?!舐めたまねしやがって!今度乗り込んで八つ裂きにしてやる!」

 青は意気込んで立ちあがった。


「お休み、圭兄!」

「ああ、分かった。」

 青は脱ぎ散らかした装備と田邊をまとめて、隣の自室にもどった。


 圭の部屋に静寂が訪れる。

 静かになり寝ぼけた頭で青の言っていたことを思い返してみた。

 安藤というのは自分のよく知る安藤姫乃ではなく、リゴレ・ルーン研究員の安藤。


 青のいっている学校というのは帝都学園。

 何かがおかしい。


 そういえば帝都学園に良く知っている奴がいる。

 研究員の安藤とそっくりで、見た目はいいが恐ろしくヘタレで少し残念な…


 冷静になれば単純に分かる事でも、寝ぼけた頭では何も分からない。

 分かったとしても眠る事を優先したと思うので同じ事だ。


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