プロローグ 『”ぬくぬく”という単語は帝国語らしい』
初めまして。気楽~に書いていきます。主に第二章を。
ぬくぬく。
この不思議と語呂のいい言葉を初めて見つけたのは、私が生まれて197年経った朝だ。
寝ぼけた頭のまま、就寝までお供をしてくれる本を探して《帝国書庫》に入り、まるで小人族が遊戯を楽しんだあとのように雑然とした部屋の、落ちていた辞書並みに分厚い本に躓き、何メートルと積み上がった本の山に頭から突っ込んだあと、どかーんと派手な音を立てて落ちてきた童話集『ケロベックの勇者』がたまたま開いていたページ。
『あぁ、この温かさ、ぬくぬくやわぁ』
びびんという衝撃が脳を走った。
語呂の良さ、可愛らしい発音、自分の気持ちをド直球で表せる簡潔な単語、そしてなにより、大好きな布団世界を表すのにこれほどぴったりな言葉は見たことがない。
食い入るように一文をなぞり、声に出し、余韻に浸る。
結論、私はぬくぬくするのが好きだ。
唯一まともに陽の光があたる大樹の天辺で天日干しした枕に頬ずりしながら、もけもけ毛皮の敷布団ともこもこ羽毛布団の間に体を滑り込ませることが大好きだ。
一日の約半分をそこで過ごしたい。
夜に誰にも邪魔されずに眠ることが至福のひととき。
天樹海の冬期ともなればなおのことだ。
乾期、雨期、冬期と期間によってめまぐるしく気温が変化するこの土地の冬期は、平均気温零下三十度、場所によっては零下五十度を下回る極寒ぶりをみせる。寒がり兼冷え性兼引きこもりの私の、楽しい冬眠生活を邪魔できるものなど誰もいない。そう誰もいない。いない。いないいないはず。……はずだった。