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Kamikaze pilot  作者: 桜崎涼
2/2

梅ちゃん

豪邸が勲の住居だったそうです。。。

豪邸に着くなり、お手伝いさんとおぼしき人が掃除をしていたらしいことがわかり、そしてお手伝いさんから挨拶をされとても驚きながら進んでいく。


「随分と広い家だな。」


「田舎に暮らしていると簡単にこのような広さの家に住むことができますよ。私も隠居している身ですし、のんびりとした余生を過ごしたかったのです。」


はっきりと言えば、何を言っているのか俺にはわからなかった。しいて言うなら、とてつもなくお金の動いたであろうこの邸宅を見ているだけで勲の人生は荒波に揉まれたということだけは見て取れた。


・・・勲は俺の知らない間に、とんでもない人物になっていたのかもしれない。そういう気持ちになってきていた。


「少々、居間で美味しいお茶を飲みながら昔話でもしましょう。」とにこやかに提案してくる勲に俺はただただ頷くことしかできなかった。


この豪邸は、空気が綺麗だった。綺麗好きの勲のことだから、こうやってお手伝いさんを使って綺麗にしている事もよくわかった。そして、数分歩いて目的地につくと、大きな戸を開けて見るからに上質な椅子に座るように催促された。これは遺産相続が泥沼化しそうな邸宅である。


「この紅茶、インドから直接輸入している上質な茶葉を使用している本場のお茶なんです。」


にこやかに言ってくる勲から、このお茶はとても高いのではないかという考えしか浮かんでこない。


「香り豊かな紅茶だものな。わかるよ。」


勲には失礼ながら俺が好きな類のお茶ではなかったが、とてもお上品で味わい深いお茶であることはよく分かった。


「さて、今後はどうしていきますか?」といきなり勲が言ってきた。


確かに、俺はこの時代の人間ではないからどうしていくか考えねばならないだろう。しかし、それを今考えるのははっきり言って酷であった。正直、いまのこの状況に俺の処理速度が追いついてきてくれない。


「悩むだろうと思いました。そこで、後数時間後にエキスパートの方々に来てもらい、最低限兄さんがこの時代に普通の人として生きられるくらいの環境を整えることにします。」


エキスパートという肩書の方なのだろうか。カタカナ言葉があまり覚えられていないため、俺にはよくわからないが俺のためだけにこの豪邸に急遽足を運んでくれる人たちに申し訳無さが出てきたわけである。


「勲、心遣いは嬉しいがな?」


「安心してください。私に失敗なんてありえないです。」


そう言ってにこやかに微笑んでくる勲がはっきりと怖いと言い切れるくらいの気迫しか感じなかった。


「さて、私の孫がですね。兄さんの再来と言われるくらいそっくりだったのですが、兄さんに出会うと少々息子のお嫁さんの顔立ちにそっくりだったのだなと言いたくなるような見た目であることがわかりますわい。」


「そんな俺にそっくりな孫ができたのだな。俺の再来なんて、その子に失礼ではないかな。」


「失礼なんてそんな、喜ばしいくらいではないでしょうかね。兄さんは素晴らしい方ですし。」


そんなことははっきり言って無いのに、弟は俺を神格化して見てくる傾向にある。弟の孫は俺と比べられるなんて可哀想な事になってしまっているようだった。止めてしまいたいとは思うものの、こいつのことだから止まらない気がしてきた。


そう呆れつつ見ていると弟が真剣な顔をしてきていた。周りの空気が2度ほど下がった気がする。


「兄さんに伝えないといけないことがありました・・・大事なことでしたが、言っていませんでした。」


「なんだ・・・?」


神明な面持ちだ、あー・・・聞きたくないことが聞ける気がしてきた。外から見える空もここの空気感も青々しかった。


「母と父が亡くなりました。」


来た時代がもうあれから70年経っていたため分かってはいたものの、聴いてみるとショックさが増した。人前で泣くことは恥ずかしいので、堪らえようとしてみるが声が涙声となっていた。


「そうか・・・俺は親不孝者だな・・・親の死に目に立ち会えなかったなんて・・・」


親の死に目に立ち会えなかったことが何より辛かった。妹・・・ハツは見ることができたのだろうか。


「ハツは?」


「ハツもなくなっています。それも、戦争中に空襲で逃げ遅れてしまって・・・」


言うの忘れてたというハットした顔をしている弟を見ていると一気に言って欲しかった気持ちがこみ上げてしまうのでよくなかった。彼は悪く無い。ハツも亡くなってしまっていることがとても悲しい。しかも、あの忌々しい戦争によってなくなっていたとは。俺は、死に目を見ることができなかった人で沢山だったなんて・・・


「・・・悔しいな。」


涙が出てきた。戦時中こらえていたものも全て吐き出すような泣きっぷりで、もう止まらなかった。戦争は俺から色んな物を奪っていったのか。俺は・・・何故ここにいるのだろう。


一時間近く立っただろうか。水を頂いた後、顔も落ち着いてきて、やっとのことで話が再開できそうになっていた。


その時、「只今戻りましたわ。」というお上品な声が聞こえた。


「おお、おかえりなさい。」と勲が言っている。ハッと顔を上げてみるとそこには愛らしい顔をしているお年を召した・・・・あっ。


「あなた、もしかして正臣さんではないですか?」


この声、確信を持てた。


「え、ええ。お元気そうで何よりです。勲、お前やり手だなぁ?」


これは近所の梅ちゃんじゃないか。とても可愛らしい子だったが、勲が捕まえるなんてとても面白いことになっているみたいだった。ふふふ、面白いな。人の恋愛事には興味を持てないと思っていたが、兄弟のことになるととても楽しい気持ちになれるらしい。


「兄さん。良い年した弟をからかわないでください。」と勲もタジタジしている。


「だって初恋だったんだろ?凄いな、おめでとう。」


俺は生涯で一度も恋愛感情というものに触れたことなく特攻隊員になったが、彼は俺がまだ赤い紙をもらう前から一途に梅ちゃんのことが好きそうだったことはよく覚えている。そうか、あれから告白したのか。兄としてはそこにとても驚きと幸せな気持ちであふれていた。


「あら、正臣さんってやはり色男だったのですね。思い出補正かと思ってましたけど。」


「思い出補正って。それに俺は自分自身は色男とは思いませんけれど。」


勲も色男と言ってくるので、兄弟バカだと思っておこう。


「こんなに色男だったから近所の女の子たちから憧れられていたのね。」


「正臣兄さんだもん。当然。」


なんだか、もう話しについていけない。俺は近所の女の子たちから憧れられていたとか知らない。第一、恋愛事もなく特攻隊員になったので、身も清廉のまま本来なら天へ旅立っていたくらいである。


「いや、俺そんなことはないと思うのだが・・・」


「あらら?近所で美人と評判だった吉田さんは覚えていませんか?その子も貴方のことが好きでねえ。」


「兄さん、鈍感だったし気が付かなかったのかな。」


からかわれている気がする。からかい返しをされている気がする。俺が恋愛事をしたことのない初心者だから、経験者は語るみたいな空気感を発されていた。

色男で鈍感で頭の固い真面目ちゃんな感じが素敵な正臣くんの今後はどうなっていくのでしょう。

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