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Kamikaze pilot  作者: 桜崎涼
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落ちてきた

プロローグです。

太平洋戦争末期、国家総動員法が施行されているため、ただ日本男子は拒否権もなく戦争へ駆りだされた。


知り合いの父親も、隣の家の旦那さんも、3つ年上の優しい先輩も全て戦場で亡くなったそうだ。それだけではない。空襲も各地で沢山起きている。沖縄には米国の兵士が上陸したらしい。まさに今の国の状態は紛れも無く地獄絵図である。


色々と書き留めねば、色んな物が後世に残らない。いや、書き留めても後世には残らないだろう・・・そんな言論の自由さえ与えられないこの世の中。戦争に勝利すると国民は信じてやまない。ただ、こんな地獄をみて勝利なんて、俺にはもう信じられなくなってきている。


そんな中、俺・・・横井正臣は特別攻撃隊という、"死刑宣告"とも言える部隊に配属された。周りは同じ年代の若い男児ばかりいるわけである。未来ある若者が死んでいくようだ。才能のある人間もいるだろう。だが、国からの出撃命令が出たら、この若者たちはついに死ぬ運命になるだろう。いつ、出撃命令がくるかはわからない・・・


そのために、この数ヶ月"死ぬための準備"を軍隊で学んできた。こんなことを人生で一度も学びたかったわけではないが、これは選ばれたものの覚悟というくくりで受けねばならなかった。


物思いに耽けても、気が狂うだけである。ただでさえ、特別攻撃隊に配属されただけで気が狂いそうだった。無心になることだけに集中すべきだった。このむさ苦しい飛行場ではなく、どこか誰からも邪魔されない自由のある場所で暮らしたくなってきた。今更、俺にそんなことできないけれど。


「横井、出撃命令が出たぞ。二時間後だ。直ぐに向かえ。」と男性の声が聞こえた。飛行場の空気感は過去最悪。おどろおどろしい、それでいて空気が汚くすら感じる。ついに死刑執行らしい。


飛行場はいつになく風が強く、嫌なくらい爽やかな空気が俺を浄化しようとしてきた。日差しも俺を歓迎しているかのような照り方だった。


7機ほど、旧式と思しき零戦が並んでいる。見るに荘厳な景色だ。まるで零戦が菩薩様に見えてくる。そのくらい、神がかった光景を俺はこの目で見てしまった。只今、死刑執行だ。これから俺たち特攻隊員が国に尽くすという最大の洗礼を受けているように俺には見える。


乗り込む命令を受け、燃料の「片道分」しかはいっていない零戦へ乗り込み、目的地へ向かう。目的地へ向かっている途中で落ちていく機体も見えたし、米国の戦艦が次々に仲間を撃ち落としていくため、突撃できる残りの特攻隊員は俺ともう一人になっていた。


お父さん、お母さん、弟、妹に何もできず、ただただ「お国のために」死ぬ正臣をお許し下さい。


青い海に憎き米国艦の大群、そして銃弾の雨が逆流してこちらへやってくる。死が目の前へ広がり、先ほどの酒が抜けきってしまい、死ぬことの恐怖が受け入れがたく、そして拒絶したくなるほどだった。奇声すら上げたくなっていた。


キキーッと音が広がる。耳鳴りが凄い。撃ち落とされて死ぬか戦艦に突撃して死ぬか、どのみち死ぬのか。


耳鳴りが・・・・ひどい・・・・


その刹那、視界が白くなっていた。それなのに痛みはない。撃ち落とされた時の爆風が白かったのか、それとも・・・


・・・・・・・ドサッ


カーカー・・・・というカラスの声が響いている。夕日のように見える。ここが死んだ後の世界だろうか。周りを見渡してみると謎の服装に身を包んでいる恋人たちが、俺を謎の生き物を見るかのような目で見てきたのである。


そして、俺の後ろを振り向くと「恋人の岬」と大きく書かれていた。ここはどこだ?


「・・・?」


そんな中、お年を召した男性がこちらへ血相を変えてきた。それは周りのカップルたちが俺の存在を忘れてしまうくらいの気迫であり、俺からすれば助かるものだったが。


「早く、こちらへ来てください」


・・・話が見えない。気がついたら早足で、駐車場まで駆け抜けてその男性の車に似ているものの助手席側に乗せられた。その乗り物はとても綺麗に手入れされていて、この乗り物の持ち主の性格が現れているように感じた。


「・・・兄さんですよね。」とお年を召した方に言われた。それも真剣に、真顔で。


「私にはそれほどお年を召している兄弟はいませんが、いかが致しましたか。まずはあなたに名乗っていただけると嬉しいのですが。」


というと、男性は恥ずかしさを表情に出してきて、口をモゴモゴさせた・・・弟の癖そっくりである。


「勲です。弟の横井勲です。兄さんは横井正臣と云いますよね。おかわりなくてとても驚いています。今は兄さんがいなくなってから、70年も経っているのです。それは私のほうが年を取っていても不思議ではないかもしれないのです。・・・?」


こうやって、いきなり話を決めつけ、勝手に話を進めていく癖は本当に勲であった。ああ、もう分かった。こいつは俺より年を取った勲であるみたいだった。色々と変わった部分もあるだろうが、根本的な部分は何一つ変わらない。


「まて、勲・・・貴方が勲であることはなんとなく察しがついたが、なぜ俺が勲の兄の横井正臣であり、そしてなぜかこの時代へ来てしまったことに疑問を抱かないのか?」


謎なのであった。そもそも俺のように見えたとしても、似たような人として片付ければ良いだろうし。勲らしき人曰く「俺が特攻して70年ほど経っているらしい」のに、何故俺だと思ってこの乗り物に勢い良く連れてきたのか。


「兄さんはお変わりありませんでした。声も見た目もまるで当時のままです。たまたま、特攻の衝撃で兄さんはこちらの世界にきてしまったのかもしれません。」


にこやかに言ってくる。しわくちゃな顔をしていて笑いそうになった。


「お前は本当に年を取ったな。俺よりもう60以上は年上だろう。今更、何を兄さんと言ってくるんだ。兄さんはもうお前だろうよ。」


笑うしかなかった。そして、俺は気がついたら謎の豪邸へ連れてこられていた。

次から本格的に物語を始めていこうと思います。よろしくお願いいたします。

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