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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Superior Ⅰ Dance of Anima(l)

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第三話 山中の奇人変人

( ̄(エ) ̄)<メリークリスマスクマー

 □<サウダ山道・???> 【闘士】フィガロ


 ある日森の中でクマさんに出会った。


『いやー、こっちの時間でかれこれ一週間もこのエリアをさまよって食料からっぽだったクマー。食料ありがたいクマー』


 クマさんもといシュウは、僕が提供した食料を平らげながら、自分の事情を話していた。


「一週間も?」

『ああ。卵女に誘導されてこのエリアに入ったら出られなくなったクマー』


 たまごおんな?


「出られないのはエリアが広いから?」

『山一つ分だから広いといえば広いけれど違うクマ。東西南北どこ行っても見えない壁があって通れなかったクマ。昔のゲームで言う画面端みたいな感じクマー』

「ゲームしたのはこれが初めてだからわからないや」

『おや、古風なお家クマ』


 身体上の理由で出来なかっただけなのだけれどね。

 元貴族だから、古風な家ではあるのだろうけど。


『ふぃー、ごちそうさまクマー』


 結局、シュウは僕が持っていた食料のほとんどを平らげていた。


「すごいね……そんなにお腹空いてたの?」

『そりゃリアルに戻れば飯は食えるクマ。でもこっちにログインすると【飢餓】の状態異常がきつかったクマ』


 【飢餓】か。僕はまだその状態異常になったことないね。


「山なのだから、食べ物とかなかったの?」

『……これくらいクマ』


 シュウはそう言ってアイテムボックスの中から……ひどく匂う木の実を取り出した。


「なに、それ?」

『【ギャレルの実】っていうらしいクマー。食用らしいけど、正直臭すぎで食う気にならんクマ。試しに実を割ったらこれよりもっとヒドイ匂いがしたクマ。落ちてる銀杏より数十倍ヒドイクマ』


 ギンナン、とやらは知らないけど……たしかにこれは食べる気も起きない。

 シュウは「アイテムボックスの中身に匂いつかなけりゃいいけどなー」と言いながら【ギャレルの実】をしまった。

 ……それを気にするなら確保しなければいいのに。


『しかしこのエリア、セーブポイントまで書き換えられてるし、わけわかんねークマー』

「ああ、僕もだよ」


 どうやら<アクシデントサークル>の影響ではなく、このマップのせいだったらしい。

 ああ、僕が<アクシデントサークル>でレジェンダリアから飛ばされてきたことは、既に説明しておいた。


「どうすれば脱出できるかな」

『どこかにあるかもしれない抜け道を探すか、見えない壁の原因を取り除くかしないといけないクマ。RPGではよくあるクマ』

「そうなんだ」


 そういったものに疎い僕とは違って、シュウは詳しそうだ。


『ちなみに抜け穴はこの一週間ほぼ総当りで探してみたクマ。東西南北駆けずり回り、時には川にダイブして泳ぎまくったクマ。「見えない壁は地下にはないはず」と穴も掘ったクマ』

「それでも出られなかった、と」

『YES』


 ……想定以上に厄介な場所みたいだ。


「それを聞いていなかったら……僕も一週間、試行錯誤しながら彷徨うところだったよ。助かった、ありがとう」

『いやいや、食料のお礼としては軽いもんクマー。コヘレトの言葉でも「ひとりよりも二人が良い」と言っているし、困ったときは助け合いクマー』

「…………」


 明らかにひょうきんな格好と口調なのに聖書を諳んじるんだね。

 どういう人なのか中々つかめそうにないかもしれない。


『ま、そうは言っても実はまだ見ていない場所はあるクマ。この辺』


 シュウはそう言って自分のマップの一点を指差した。

 それは丁度、このマップの中心地点だ。


「真ん中を見ていなかったの?」

『正確には見えなかった(・・・・・・)、だな』


 見えなかった?


『ま、百聞は一見にしかずクマー(見えないけど)。ちょっと一緒に行ってみるクマー』

「あ、うん」


 そう言ってシュウは立ち上がり、僕を先導し始めた。


 ◇


 そうして三十分も歩くとマップが示す中央に到着したのだけれど。

 

「……なるほど、たしかに見えないね」

『だろう?』


 その場所は――不透明な黒い半球に覆われていた。


 半球の内側を窺い知ることは出来ないし、触れてみたけれど押しても自分の指に圧が返ってくるだけで、半球自体はまったく形状が変化しない。随分と硬いようだ。


『ちなみに半球の直径は300メートル弱ってところクマ』

「測ったんだね……」

『手持ちの武器で攻撃してみたけど跳弾するだけで無傷だったクマー』

「撃ったんだね……」

『口説いても無反応、歌ってみても無感想、舐めても味はしなかったクマ』

「…………」


 シュウはこの黒い半球に対して、この一週間で“色々”と試してみたらしい。


『っと、ちょっと反対側に回るクマー』

「え? いいけれど」


 そうして少し歩いて反対側に回ってみると……、


「……何かな、あれ?」


 そこには得体の知れない物体が置かれていた。

 実物は見たことないけれど……“戦車の上半分”だけ置いてあるみたいな……スクラップ?


『俺の<エンブリオ>クマー』

「え? あれがシュウの?」

『おう。固定砲台(トーチカ)型クマー。他にガトリング砲みたいな銃器にもなるクマー』


 ……そんな露骨に兵器みたいな<エンブリオ>あるんだ。

 心臓だったり兵器だったり、<エンブリオ>って個性豊かにも程があるね。


『監視カメラ代わりにこの結界の傍に置いてたクマー。だけどこいつの周りでは何も起きなかったみたいクマー』

「……監視カメラ」


 物騒な監視カメラもあったものだ。

 監視と射殺……否、爆殺がイコールで繋がりかねない。


『……さっきの狼、ここから出てきたと思ったんだが……反対側だったかな』

「?」

『と、こんな感じに俺はこの結界に色々アプローチしたけど梨の礫クマー。試しにフィガ公もちょっとアクションしてみるクマ』

「あ、うん。…………フィガ公?」


 なんだか呼ばれ慣れない呼び方をされた気がする。

 ……独りだからフィガロの名前で呼ばれること自体がほとんどないけれど。

 それはさておいて、この結界のことはたしかに気になるね。


「……試してみよう」

 

 僕は装備を手持ちで一番攻撃力の高い武器、【ブレイズアックス】に切り替える。

 両手持ちの大斧で、MPを流すと刃が発熱するという代物。

 霊都のバザーで中古品として安くなっていた武器だ。

 それでも僕のそのときの所持金の大半がなくなったけれど。

 装備を強化する<エンブリオ>だから、もっと装備は充実させたいな。


 さて、【ブレイズアックス】を構え、MPを流し込む。

 【闘士】である僕のMPは少ないので短い時間しか加熱させられないけれど、試すには十分。

 既に僕の<エンブリオ>のパッシブスキル、《武の選定(アームズ・セレクター)》は発動している。

 僕の装備全てを強化し、装備数を減らすほどに強化効率を上げるスキル。

 使いどころは難しいけれど……今なら。


「《瞬間装着》」


 防具を切り替えるスキルを使用して、僕の防具を全て(・・)アイテムボックスにしまう。

 僕の装備は掌中の【ブレイズアックス】だけになり……強化が集中する。

 そして僕の出しうる最大の攻撃力で黒い半球を切りつける。

 二度、三度と繰り返し、繰り返し、半球を切りつける。

 けれど……。


「……傷一つつかないね」


 どうやら、僕の現在最大の攻撃力を使ってもまるでダメだったらしい。

 僕と同レベル帯らしいシュウが駄目だったから、元々無理そうだとは思っていたけれど。

 と、そのシュウが何やら怪訝そうに僕を見ている。

 表情は見えないのだけれど、顎に手を当てて首をかしげているから多分怪訝に思っているのだと予想する。


「どうしたんだい、シュウ?」

『…………なんで脱いだ?』

「ああ。僕の<エンブリオ>の固有スキルの関係だよ。装備を減らすと他の装備を強化するスキルなんだ」

『そうなのか……』

「そうだけれど」

『…………趣味じゃないよな?』

「何が?」

『……何でもないクマー』


 シュウはこめかみを手で押さえ、先ほどまでのひょうきんさがちょっと弱まっている。

 何を思い悩んでいるのだろう。


『しかしどうやら、この黒い半球に俺達では手が出ないらしいクマー』

「そうだね。どこかにこれを消すための道具や仕掛けがあるのかも」

『うーん、しかし俺がこの一週間探した限りは……』


 そうして僕達が思い悩んでいると、


「もし、御二方。よろしければ私達の話を聞いてはもらえないでしょうかモグ……」


 唐突に、そんな声が聞こえた。


『何奴クマー!』


 変な語尾がついていたのでシュウかとも思ったけれど、どうやら彼ではないらしい。


「しょ、少々お待ちを! すぐに出ますモグ!」


 声の主を探していると、視界の端で――地面から人(?)が生えてきていた。

 いや違う。地面の中に階段ができており、そこを少しずつ昇ってきている。

 その人(?)はすぐに地上へと出てくる。

 滑らかそうな皮で出来た衣服は土で少し汚れているが、特に気にした様子もなさそう。


「し、失礼いたしますモグ! 私はこの山の土竜人族の里の長を務めるドリルモー・ルーと申しますモグ!」


 そう言って地面から出てきた……恐らく男性は頭を下げる。

 恐らくとつくのは、僕から見て性別の判断ができないから。

 ……だってモグラなんだもの、この人。

 僕にはモグラの顔を見て性別を判断する技能はない。

 顔が動物の人はレジェンダリアにも沢山住んでいるから慣れたけれど。


「土竜人族とはどのような?」

「この近辺の地下に住まう者ですモグ。ここだけでなく、王国やレジェンダリアの各地に集落がありますモグ」


 ……地底人?


「その土竜人族のドリルモーさんが僕達に何の用でしょう?」

「え、ええ、それはですねモグ。実はあなた方にお願いがあって声をおかけして……」

『あ、ちょっと待った』


 ドリルモーさんが話を切り出そうとするのを、シュウが止める。


「な、何でしょうモグ?」

『土竜人族って、ここの地下に住んでるんだよな?』

「は、はい」

『もちろん一週間以上前からだよな?』

「そ、それはもちろんモグ……」


 ドリルモーさんがそう応えるとシュウはうんうんと頷き――クワッと着ぐるみの両目を見開かせた。


『何で今になって声かけてきたクマー!! 俺は一週間前からめちゃくちゃさまよってたクマー!!』

「ひぃ!?」


 言われてみて、たしかにと思った。

 あのタイミングで声をかけてきたということは、僕らの様子を見ていたはずだ。

 それは多分、僕が球体に攻撃している音を聞きつけたのだろう。

 けれどシュウだってこの一週間でそういうことはしていたはずだ。

 ならば、なぜシュウ一人だったときではなく、今になって声をかけてきたのか。


「あの……その……」


 ドリルモーさんは、少し言いづらそうにしながら……ちらちらとシュウの様子を窺う。

 そしてこう言った。


「そちらの方に声をかけるのが躊躇われたモグ……」


 その発言に、再びシュウの両目が見開かれる。


『何でだクマー!』


 理由を問いながら叫ぶシュウに対して、ドリルモーさんの答えは。


「ひぃ!? いきなり結界に向かって銃を撃ったり、口説いたり、歌ったり、舐めたり、キスしていたからですモグ!? こっちも怖かったんですモグゥ!」.

『ぐうの音も出ねえクマ!』


 シュウは大きく膝をついた。

 というか、キスまでしてたの? 結界に?

 ……うん、声をかけなかったドリルモーさんの判断は適切だよね。

 シュウの行動は、完全に奇人変人として捉えられる類のもの。

 内容は僕からしても奇行だし仕方な、


「そちらの方も下着姿で斧振り回しているから……声掛けるかすごく悩みましたモグ」


 あれ? 僕も奇人変人にカウントされてる?

 何で?


 ◇


 さて、何だか納得いかないやりとりから十分ほど経ったころ。

 僕とシュウは土竜人族の里に案内されていた。

 ドリルモーさんが述べたように、土竜人族の里は地下にあった。

 洞穴などではなく、広々とした地下空間に普通の民家がいくつも建っている。

 ドリルモーさんによると普段は真っ暗闇という話だけれど、今は来客用に明かりが灯っている。

 魔力を使った酸素を消費しない灯り。加えて、酸素を作るマジックアイテムも使っているらしい。

 おかげで地下だけれど僕達の視界にも健康にも問題はない。


「やっぱり地下だから燃料は使えないんですね」

「はいモグ。ですが、我々はそれの採掘で生計を立てていますモグ」

「と言うと?」


 ドリルモーさんの説明によれば、土竜人族は地属性魔法……それも土を動かす魔法に秀でているらしい。

 その魔法を使って地下にこのような生活空間を作り出し、加えて石油や鉱石を掘って近隣の街――ギデオンというらしい――に卸しているらしい。


「この灯りやマジックアイテムもそのお金で購入しましたモグ」

「そうなんですか」

「まぁ、灯りは普段使いませんが……」

「?」


 疑問に思い、周りを見回すと……土竜人の人達はみんなサングラスをかけている。

 ……生活環境合わせてもらっている感じだね。


「こちらへお越しくださいモグ」


 そう言って案内されたのは村の集会場らしき施設だった。

 扉が小さめだったので着ぐるみだったシュウが少し通りづらそうにしていたけれど、何とか建物の中に入る。

 扉を入ってすぐに広い空間があって、その天井はシュウや僕の身長よりもずっと高い。

 室内の真ん中には会議をするためなのか円卓が置いてある。

 僕とシュウはすすめられて円卓に沿って置かれた椅子に座る。


「こちら粗茶ですがモグ」


 差し出されたのは普通のグリーンティーで、美味しかった。

 水はどうしているのだろうと思ったけれど、どうやらこの集落には自然にろ過された綺麗な地下水が通っているらしい。

 

『で、そろそろ本題を聞かせてもらうクマー。あんたらから見て明らかに変人だった俺達に声をかけたってことは、何かしら変人の俺達に頼まなきゃならないことがあるんだろう?』


 ねえ、シュウ。

 僕を変人に入れないで欲しいのだけど。


「……お二方に声をおかけしたのは、その実力を見込んでのことですモグ」

「実力?」

「川原であの黒い狼を倒す様を拝見いたしましたモグ。お二方はかなりの力をお持ちですねモグ」


 かなりの力?

 僕ら、まだ下級職の一職目だけれど。


『俺もフィガ公もまだ50レベルにもなってないペーペークマー。<マスター>だけどさ』

「おお! <マスター>! あの……!」


 あの?


「風の噂に一月前から<マスター>の方々が増え始めたとはお聞きしていましたが、こうして我々の危急存亡に<マスター>の方がお二人もおられるとは……これも天の思し召しモグ」

『…………』


 シュウは、ドリルモーさんの言葉に何かを考えているようだった。

 それは僕も同じだ。

 僕は小声でシュウに話しかける。


「一月前って、<Infinite Dendrogram>の開始時期だよね? けど、増え始めた(・・・・・)ってどういうことだろう?」

『正式な開始前にβテスターでもいたのかね、あるいは……』

「あるいは?」

『……いや、わからんクマー』


 シュウはそう言って首を振った。

 どこか誤魔化している、あるいは確証がないから言わなかったって雰囲気だ。

 別にいいけれど。


『で、結局俺達に何を頼みたいんだクマ?』

「あなた方に……<UBMユニーク・ボス・モンスター>を討伐していただきたいのですモグ!」


 ゆにーく・ぼす・もんすたー?

 それって……何だろう?


『ボスモンスターならこの<サウダ山道>で何度か倒したけどな、クマみたいな奴とか』

「共食いですモグ?」

『……俺は人間だ』


 ごめんシュウ。僕も「共食いだなぁ」って思った。


『その<UBM>が、どうしたって?』

「……話せば長くなることですが」


 そうしてドリルモーさんは今この土竜人の里に何が起きているかを話し始めた。


 To be continued

次回の更新は21:00です。


( ̄(エ) ̄)<……本日クリスマスイヴ


( ̄(エ) ̄)<過去話とはいえ山の中で突然脱ぎだして斧振り回すフィガ公とセットだったクマ…………


(=ↀωↀ=)<ひどい話だ(どっちにとっても)

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