第三章エピローグC 彼らの場合
(=ↀωↀ=)<30000ポイント突破&三章完結ですー!
( ̄(エ) ̄)<ここまでありがとうクマー!
□決闘都市ギデオン一番街騎士団詰所 【聖騎士】リリアーナ・グランドリア
鐘が鳴っている。
あのギデオンが滅びかけた悪夢の夜から三度の朝を迎えたギデオンに、清らかで、けれど悲しい鐘が鳴る。
これはギデオンの全ての教会が鳴らす、鎮魂の鐘。
昨日から明日まで、三日間に渡り執り行われている合同葬儀のための音。
そう、ここ……一番街の騎士団詰所ではあの事件で亡くなった騎士団員や衛兵の合同葬儀が行われている。
死者は近衛騎士団から十八名、ギデオン騎士団から十五名、衛兵二十八名。
合わせて六十一名の死者が出た。
「…………六十一、ですか」
救いは、あの夜の死者はそれで全てだということ。
戦争で大敗したときと比べれば、よほど犠牲者は少ない。
そして何より……騎士と衛兵以外の死者、民間人の死者は……奇跡的に一人も出なかった。
それが、彼ら六十一人の犠牲の結果とは言えないけれど。
「…………」
棺の前で幼い少年が父を呼びながら泣いている。
しゃがみ込み、むせび泣く女性がいる。
献花台の前で老人が無言で立ち尽くしている。
彼らはいずれも、あの夜に死んだ騎士や衛兵の家族なのだろう。
私には分かる。
あの日の……父の名が連なった合同葬儀のときの私やミリアと同じだから。
「…………ふぅ」
国を守る務めにあるものとして、騎士と兵士は誰もが死は覚悟している。
けれど、誰もあの夜に死ぬとは思っていなかっただろう。
あまりにも突然に……人は死ぬ。
ギデオン騎士団や衛兵は街を襲っていたモンスターや……<マスター>の方々が“プレイヤーキラー”と呼ぶ無法の<マスター>によって殺されている。
そして、私の部下達はフランクリンとの戦いで死んだ。
準備運動とでも言うように、あの触手の怪物に殺された部下がいた。
圧倒的な力を持つ赤い竜気の暴竜に、成す術もなく食われた部下がいた。
あれらに対して、私達は誰もが無力だった。
けれど……仇はレイさんと、彼の兄である【破壊王】シュウ・スターリング、そして多くの<マスター>が討ってくれた。
仲間と共にフランクリンから第二王女を救ってくれもした。
ティアンの衛兵を殺した“プレイヤーキラー”の多くは、<マスター>の方々によって倒され、“監獄”へと送られている。
彼らのお陰で……きっと死んだ人達の多くが報われた。
あの夜に犠牲になった者達が、彼らのお陰で無駄死にではなくなったのだ、と。
「…………」
事件を起こしたフランクリンは<マスター>であり、事件を止めた彼らも<マスター>。
<マスター>だから……同じ<マスター>であるフランクリンを止められた。
「それでも、<マスター>は……<エンブリオ>に選ばれた人は、“特別ではない”」
彼らは私達と同じ人間だ。
ただ、死を免れる術と<エンブリオ>という強大な力を持っているだけの人間だ。
彼らは力を得やすいだけで、力そのものが彼らではない。
だから、【魔将軍】やフランクリンのように他者を踏みにじる者がいる。
レイさんや【破壊王】のようにそれを砕く者もいる。
それは私達もティアン同士でならそうしている。
ティアンと<マスター>は、力の多寡が違うだけで、同じ“人間”。
それでも力の多寡ゆえに、<マスター>の凶行を止めるには<マスター>の力が必要になる。
それが出来たのがあの夜。
出来なかったのが……半年前の戦争。
「皇国から王国を守るには……彼らの力を貸してもらわなければなりません、アルティミア様」
私は……私が仕える御方、第一王女にして国王代理であるアルティミア・A・アルター殿下を思う。
けれどあの御方は……アルティミア殿下は、<マスター>の方々の力を借りたいとは思っていないでしょう。
あの御方は……<マスター>の方々を同じ“人間”だとは考えていないから。
「……ですが」
献花台を見ていて、一つ気づいたことがあります。
献花台に花を手向ける人の、左手の手の甲は様々。
紋章のない人も、ある人も、等しく死者を悼み、花を手向けています。
一人で泣く子供の頭を撫で、肩を抱いて慰める人がいます。
失意のあまり倒れそうになった女性を支える人がいます。
献花台で立ち尽くしたまま動けなくなった老人の手を取り、共に花を供える人がいます。
「やっぱり、同じなんですよ……アルティミア様」
そういえば、彼はどうしているでしょう。
昨日、この合同葬儀の場が開かれてすぐに献花に訪れて……今日は、どこにいるのでしょうか。
左腕をなくしたばかりなのだから、無茶をしていないといいのだけれど。
ミリアの件といい、ゴゥズメイズ山賊団の件といい、あの人は他人のためにすぐ無茶をしてしまう人だから。
「でも、そんなところが彼という人の良さなのでしょうね……」
私がそんな風に物思いにふけっていると。
「グランドリア卿! 大変だ!」
「あら、どうなさいましたか?」
「実はエリザベート殿下が……」
「ああ、本日はたしか公務はなく、お休みの予定でしたね」
昨日は合同葬儀に一日中参列し、その前も<超級激突>の準備で忙しかった。フランクリンに攫われて間もない時期でもある。
それもあって、本日は丸一日公務をお休みし、静養していただいているはずでしたけれど。
「エリザベート殿下が何か? もしお出かけになりたいと仰られているなら、近衛騎士団から何人か護衛に……」
「また書置きを残して伯爵邸を抜け出したのだ!」
「…………はぅ」
リンドス卿の報告を受け――私は気が遠くなった。
◇◇◇
□決闘都市ギデオン六番街闘技場 【聖騎士】レイ・スターリング
ネメシスが変化した黒大剣や黒旗斧槍を使うとき、俺は重さを感じない。
普通であれば超重武器に類されるものを、俺は苦もなく振るうことができる。
そのことについてこれまでもありがたく思っていた。
だが、その気持ちは左腕がない今が最も強い。
俺は片腕で黒大剣を、それから変形した黒旗斧槍を振るう。
黒旗斧槍を“回す”ときには左手がないと落としかねないが、突く・切る・払うの三動作なら片手でも十分。
「左腕がなくてもいける、と」
『うむ。私とレイならば腕一本ない程度で問題は生じぬ』
腕一本ないのは問題だけどな。
けれど、ネメシスが言うようにネメシスで戦う分には問題はない。
問題があるとすれば……【ガルドランダ】だろう。
何せ左腕がないのだから左腕の手甲は装備できない。
俺のメインの一つだった《煉獄火炎》は使えないわけだ。
フランクリンをぶん殴ったあのとき、新しい【ガルドランダ】の使い方が見えかけていたんだが……それはしばらくお預けか。
左腕がない弊害として「紋章もなくなってネメシスを収納できなくなるのではないか」とも考えたが、そちらは問題なかった。
紋章が二の腕、左腕の残っている場所に移動していたからだ。
どうやら腕一本なくしたくらいでこの紋章はなくならないらしい。
「しかし片手でネメシスを持つとなると、シルバーに騎乗しての戦闘もちょっと厳しいよな」
まさか常に手綱を噛みながら走らせるわけにもいかない。
『ふむ。だが、少なくとも今はそれでよいと思うぞ』
「その心は?」
『あやつとの再戦なのだ。まずはあのときと同様に、私とレイの二人で挑みたいからな』
ネメシスがそう言うと、
「おやおや、やる気満々ですねー」
ネメシスが言うあやつ――マリーがおどけるように答えた。
その身にはあの森で遭遇したときと同じ黒い靄を纏い、右手には拳銃型の<エンブリオ>アルカンシェルを握っている。
そう、俺とマリーは今ここで、あの日の再戦をしようとしている。
あの夜、フランクリンの改造モンスター軍団との戦いの中で約束したとおりに。
今、不可視結界に仕切られたブロックの中で、俺達とマリーは向かい合っている。
結界の中には俺達以外にルークとバビ、兄、フィガロさん、それともう一人ある人物が観戦者として入っていた。
余談だが、マリーが<超級殺し>の正体だった、ということをルークは既に知っていたらしい。
それどころか兄も知っていた。
まぁ、兄――【破壊王】は<ノズ森林>を全焼させてまで<超級殺し>を倒そうとしていたのだから、どこかで正体には気づいていたのだろう。
ちなみにあの大惨事の理由は“俺の仇討ち”だったらしい。
…………やりすぎだし余計なお世話だしあの森どうすんだよ等々言いたいことは山ほどあったが、それはひとまず置いておいた。
今は兄より余程問題のある人物がここにいる。
「マリー、がんばるのじゃー」
なぜか、あの夜に総出で助け出されたはずの王女がここにいる。
「……そろそろ何でここにいるか聞いてもいいですかね、王女様」
「む? よいぞ?」
王女曰く、あのパンデモニウムでの戦いの直前あたりからお姫様は目を覚ましていたらしい。
で、俺が王女を攫ったフランクリンと相対していたことも、忍び込んだマリーが王女を助けたこともしっかり覚えていた。
だから、そのお礼を言うために今日は……今日も伯爵邸を抜け出して俺とマリーを探していたらしい。
そして本日、目立つ格好の兄(及び並んで歩いていたライオン着ぐるみのフィガロさん)を見つけ、「レイの兄である【破壊王】についていけば会えるのでは」と考えてこっそりついて来てしまったらしい……。
なお、本日の公務は何もなく丸一日オフだったらしいが、問題はそんなことではなく……。
「……リリアーナァ!! 言いたくないけど警備やっぱりザルだぞ!!」
思わず口に出して叫んでしまった。
「……私も「またー?」とは思いますけど。むしろエリちゃんが脱走するの上手すぎるんじゃないかと思えてきましたね。二回目ですし」
「才能はあると思いますよ。怪盗が向いてそうです」
ルークはそう言うが……いや、王女で怪盗って何だよ。
「まぁ、それはさておき。エリちゃんが見ているのでボクは勝ちますよー、大人気なく! 本気で!」
「いや、本気出してくれるのは願ったり叶ったりだけどさ……」
なんか思ってたリベンジと違う。
マリーによって初めてのデスペナルティを受けた時は、もっと決死の雰囲気での再戦を予期していたものだ。
けれど今、俺達の間にあるのは……仲間同士の穏やかな空気。
「……それでもいいんだけどな」
『だの』
俺とネメシスはかつてマリーに倒されたが、それでも今の俺達とマリーは仲間だ。
そのことが悪いはずもない。
「まぁ、それはそれとして再戦はするがな」
「ふふっ、いい気迫ですね。でも、勝てると思いますか?」
勝てると思うか、ね。
「……そうだな、まだレベルもステータスもマリーがずっと格上だ」
レベルは桁違い、ステータスもAGIならば数十倍の開きがあるだろう。
「技術だって比べ物にならない」
俺よりずっと長く<Infinite Dendrogram>の中で戦ってきている。
経験値がまるで違う。
「トドメに俺は左腕なくして戦力半減。勝ち目はほぼなし」
万全でも厳しいのに、これでは勝ち目などないも同然。
「――だが、勝てないまでも……なんて言わない」
どれほど状況が厳しくても最初から諦めて挑んだりはしない。
「己の望む可能性があるのなら、そいつを掴み取ることを諦めない」
それがかつて兄から教わったこと。
「それが可能性の掴み方って奴さ」
俺がその言葉を発すると、兄は笑いながら俺にサムズアップしていた。
「だから、今日だって勝ちに行くさ」
「それでこそですね、“不屈のレイ”」
「あん、ブレ?」
なんだそれ?
「おや、まだご存知じゃない。レイさんの通り名ですよー」
「通り名?」
「ええ。「あの【破壊王】の弟」、「<超級>でも圧し折れなかった男」ってね」
「そいつはまた……」
えらく気恥ずかしい名前を付けられたものだ。
「ちなみに他にも“暗黒の聖騎士”と“銀馬の王子様”と“黒紫紅蓮を纏いし光と闇合わさりし勇者”がありますけど、どれが良いで」
「“不屈”で」
選択の余地ねえじゃんその四択……。
『“王子様”も悪くはないのではないかのぅ』
「……嫌だよ」
……しかしまぁ、“不屈”か。
割合、気に入ったよ。
「OKです。それじゃまあ……行きますよ、“不屈”!」
「ああ、勝負だ! <超級殺し>!」
そうして言葉を交わし、俺達とマリーはお互いに戦闘体勢をとる。
そして、マリーはアルカンシェルの引き金を引く。
そこからは、あの日と同じ無数の弾幕。
あの日の攻撃の再現。
さあ、クエストを始めよう。
攻略対象は最強のPK、<超級殺し>。
行く先は、あの日と同じ弾幕の先。
目指すは……勝利!
「クエスト」
『スタート!』
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次回の更新は明日の21:00です。
(=ↀωↀ=)<第三章終了ですー
( ̄(エ) ̄)<そして第一部完クマー(※打ち切りではない)
(=ↀωↀ=)<これから年末まで外伝を一本やりまして、その後は書き溜め期間を頂いた後に四章を開始しますー
(=ↀωↀ=)<四章の開始時期は活動報告などでお知らせしますー
( ̄(エ) ̄)<それと心苦しいけど今後のコメント返しは何件か抽出して活動報告等で返す形に変えさせていただきますクマ
(=ↀωↀ=)<みなさまの熱いご声援にそろそろ作者のキャパが追いつけなくなってきたためです
( ̄(エ) ̄)<そんなわけでこれから色々変わりますが
(=ↀωↀ=)( ̄(エ) ̄)<今後とも、<Infinite Dendrogram>をよろしくお願いいたします。
(=ↀωↀ=)<あ。ちなみに明日からの外伝はあるキャラ達の過去話です




