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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第三章 <超級激突>

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第二十七話 天敵という名の悪意

 □決闘都市西部<ジャンド草原> 【聖騎士】レイ・スターリング


「さてさて、役者は揃い、舞台も整った。フフッ」


 何がおかしいのか、フランクリンは堪え切れないように笑声を漏らす。

 今の奴は、空中に浮かぶ台座型のモンスターに搭乗している。

 フランクリンの足元にはエリザベート王女が倒れている。

 また、台座型のモンスターは視認できるバリアに包まれていた。


「さて、レイ君! あれにご注目!」


 フランクリンはそう言って、夜空の一点を指差した。

 そこには単眼の顔に蝙蝠の羽を生やしたモンスターが浮遊していた。


「あれは【ブロードキャストアイ】。簡潔に言えば生中継用のモンスターだ。あれが見た映像、聞いた音は受信機役のモンスターに送られ、受信機役は受信した映像を立体映像として空中に映し出す」


 生きたカメラってことか。


「今現在、あれが見た映像はギデオン中にホログラムで映し出されているのだねぇ。正常に機能しているなら、中央闘技場を始めとして、ギデオンの各所……それから王都にもここの光景が映し出されているはずだ」

「何でそんなことをする?」


 俺が尋ねると、フランクリンはニヤニヤと笑いながら右手の指を一本立てた。


「一つ目の理由。王国中の人間に事態の推移を把握してもらうため。こういう中継なしだと彼らは途中経過を知らずに負ける結果だけ残る。それは困るんだよねぇ」


 フランクリンはそこで言葉を切り、


「だって、私はこの国の心を圧し折りたいんだからねぇ」


 酷く愉快そうに、嗤う。


「自分達の頼る者達が成す術もなく私の術中に落ち、この決闘都市が駄目になる様を見せつけないと意味がないんだ。分かるだろう? 寝ている間に死んだんじゃ恐怖はない。だから、目を開かせて自分の首が絞まる様を見せつける必要があるんだよ」

「……道理だろうが、気分が悪くなる考えだ」


 その答えに、またフランクリンが笑う。


「クハッ。まぁ、この理由が必要なのは私じゃないんだけどねぇ。で、二つ目」


 フランクリンは左手の指を一本立てる。


「ここまで私に追いすがってきた連中を晒し者にするため」


 おい。


「ハハハ、いやいや全部が全部計画通りならここには誰もいないはずだったのだけどねぇ。結局ここには近衛騎士団がいて、そして君がいる。邪魔で邪魔でたまらない。プランAの予定が滞る。そこで、障害排除がてらに邪魔者の無残な負けっぷりを晒して王国中の笑い者にしようと思ってねぇ」

「お前、やっぱり性格悪いぞ。それに西門を抜ければ邪魔者が誰もいないなんて、随分と甘い目論見だったんだな」


 それに、計画通りでもフランクリンの計画を妨げる者は必ずいたはずだ。


「あの立て看板からすれば、ユーゴー(あいつ)は<マスター>以外通すんだろ? なら、俺はいなくてもリリアーナ達はここにいたはずだぜ?」

「…………違うね。君さえいなければ、彼女はここにはいなかったはずさ」


 なぜかそう告げたときのフランクリンからは笑みが消え、刺すような鋭い視線が俺に向けられていた。

 しかしそれはほんの少しの間だけで、またすぐにニヤついた笑みがその顔に張り付いた。


「さぁて、始めようか。【RSK】、テストは終わりだ」


 フランクリンのその言葉を皮切りに、リリアーナ達と戦っていたモンスターが俺の方を向く。

 それは見れば見るほど不気味なモンスターだった。

 サイズはガルドランダと同程度。

 ただし見た目は俺が今まで戦ってきた如何なるモンスターとも異なる。

 無数の亀裂が走る肉色の球体から、青黒く内出血した皮膚を連想する太い触腕が十本も伸びている。


「ホラー映画じみた奴とは昨日戦ったが……コイツはむしろ悪夢だな」


 曖昧でありながら恐怖を煽るような……気味の悪さがこの怪物にはある。


『だのぅ。もっとも、私はそちらの方がアンデッドよりもまだやりやすい。だがレイよ、分かっておるか?』


 分かっているさ。

 勇んで来たはいいが、状況は相当ヤバイ。


『西門での戦闘がなければ、《カウンターアブソープション》と《復讐するは我にあり》のコンボも狙えたのだがな。それができない以上、此奴が【ガルドランダ】や【ゴゥズメイズ】のような大火力持ちでないことを祈るしかあるまい』


 先手で当てた《煉獄火炎》も効いちゃいないな。

 周りに近衛騎士団の人達が倒れている以上、《地獄瘴気》も使用できない。

 【聖騎士】としての純粋な力量で俺を超えているであろうリリアーナ達が押されているのだから、俺が普通に攻撃しても勝ちの目は薄い……いやほぼ無いと言っていい。

 “あれ”はこの状況じゃ使えない。

 こうなると、いつも通り《復讐するは我にあり》で決着を狙うしかない。

 だが……。


「…………」


 “本当に《復讐するは我にあり》を使っていいのだろうか”?


『レイ?』


 これはただの勘。

 けれど、今までの数多の強敵との戦いでも感じたものと同様の感覚。

 【RSK】と銘打たれた眼前のモンスターからは、視覚的な気味の悪さと共に……尋常ならざる悪寒が伝わってくる。

 それは俺がこれまで戦った中でも最悪の相手である【ゴゥズメイズ】とも似て非なるもの。

 あの合体アンデッドが生者全てを憎んでいたとするのなら、眼前の怪物はまるで……。


「レディース・アンド・ジェントルメン!」


 俺の思索を断ち切るように、フランクリンが声を張り上げた。

 奴は【ブロードキャストアイ】……奴が生中継用と言っていたモンスターに顔を向けている。


「この映像をご覧の決闘都市の皆様、そして王国の皆様! 先ほどぶり、あるいはハジメマシテ! 【大教授】Mr.フランクリンでぇす。今宵これより、私のゲームのクライマックスをお見せいたしまぁす!」


 フランクリンはそう言って、懐から三十年ほど前の携帯端末……スマートフォンに似た機械を取り出した。


「ここにありますは、ある装置のスイッチ! その装置とは、決闘都市全域に仕掛けられたモンスター解放装置に他なりません!」

「……ッ!」

「このスイッチにはタイマー機能がついておりまして、あと652秒後に全てのモンスターを解放する電波を発信する仕組みになっておりまぁす! ……何匹かは闘技場を出ようと結界に攻撃した脳筋のせいでフライング解放されていますけどねぇ」


 あと、652秒?


「全モンスターの解放!? 待ってください、それでは……!」


 切迫した表情のリリアーナに対し、フランクリンが笑みを強めて答える。


「そう、およそ五百の装置から湧き出る、亜竜クラス以上のモンスター五百体。それが一斉に決闘都市を襲いますねぇ。一応は<マスター>以外の人間は襲わないように設定しているけど、<マスター>は襲うし建築物にも躊躇しませんねぇ。この街、どれくらい壊れるんでしょうねぇ?」


 この野郎……。

 奴の言葉もこの場の様子も、ギデオンに流されている。

 “自分達の傍に置かれた時限爆弾”のカウントを見せることで、フランクリンは恐怖を煽っている。


「さて、このスイッチですが……ぽーい」


 フランクリンはそう言って、奴のすぐ傍にいた【RSK】へとスイッチを放り投げる。

 直後、あたかもクリオネの捕食シーンのように【RSK】の肉色の球体が開き、スイッチをその内に取り込んでしまった。


「あと600秒程でスイッチは信号を発信しますが……発信を止めるにはこの【RSK】を倒すしかありません」


 フランクリンはそこで言葉を切り……オーバーモーションでリリアーナを指差した。


「戦いを挑むのは近衛騎士団副団長【聖騎士】グランドリア卿! 近衛騎士団第三位【聖騎士】リンドス卿!」


 二人を指した後、


「そして! この場に唯一辿り着けた<マスター>……【聖騎士】レイ・スターリング君でぇす!」


 俺にも(・・・)またその指を向ける。


「さぁ! 三人の【聖騎士】は決闘都市を守れるのか! 全てはこの三人の肩に掛かっております!」


 “晒し者にしてやる”という意図そのままに、かつ過剰な演出を加えて奴はそれを行った。


「ですので」


 そして奴は最後に一言、



「――街がなくなったときはこの三人を怨んでくださいねぇ?」



 心底愉しそうに、嗤いながら付け加えた。



『此奴の性格最悪だな!!』


 同感だが、今はそのことについて語る余裕はない。

 フランクリンの言葉と同時に、肉色の怪球が行動を起こしている。

 球体の表面に刻まれた無数の亀裂。

 それらが一斉に傷口を抉じ開けるように開放され、内部から目を突き刺す眩い光が放たれる。

 まるでカメラのフラッシュを絶え間なく浴びせられるようで、とてもではないが直視できない。


「目くらまし!?」

「レイさん! この光に乗じて攻撃が来ます!」


 リリアーナの忠告とどちらが早いか。そのときにはもう俺を乗せた【シルバー】が駆け出していた。


「クッ!」


 同時に、俺がいた場所の地面に何かが着弾し、爆裂する。

 それは眩い光に紛れるように放たれた光弾。

 威力としては俺がジェムで何度か使った《ホワイトランス》の三倍強。

 だが、その程度だ。

 避け損なって一発食らったが衝撃は差ほどではないし、HPも一割程度しか減っていない。


『これなら!』

「いける……か!」


 そう。いける、やれる。

 このまま攻撃を受けつつ、回復し、ダメージを蓄積した上で、《復讐するは我にあり》を当てれば勝てる。

 リリアーナ達との戦いを遠めに見ていたから分かる。

 相手は物理攻撃に対するバリアを常時展開し、聖属性の攻撃や炎熱に対しても非常に高い耐性を持っている。

 それでも蓄積ダメージの二倍の固定ダメージを与える《復讐するは我にあり》ならば、問題なくダメージを与えられる。

 その筈だ。その筈なのに……。


「何で……」


 こんなにも不安が拭えないのだろう。


『窮地において御主の勘は当たるからな、あのゲテモノには何かあるのかもしれん。だが』


 それでも打つ手が《復讐するは我にあり》しかないのなら、それで決着を狙うしかない。


「ああ、そうそう私の乗っているこの子のバリアって今は【RSK】に連動しているんだよねぇ。だから王女様を助けるにも【RSK】は倒さなきゃねぇ」


 ……だ、そうだ。


『もうやるしかないということか』

「ああ……往くぞ!」

『応!』


 俺は【シルバー】を駆けさせ、【RSK】に立ち向かう。

 常に移動し、相手の光弾を避け、あるいは受けながらこちらも攻撃を仕掛けていく。

 俺が放った大剣による攻撃はいずれも奴の表面に展開したバリアによって無効化される。

 《煉獄火炎》も同様だ。

 それでもこの未知の怪物の力の一端でも探れればと、牽制の攻撃を続ける。

 同時に、回復魔法スキルやアイテムでHPの回復も行う。

 現在は5000を超える俺のHPの高さや《聖騎士の加護》を含めた耐久力、そして相手の火力の無さ。

 それらの要素が重なり、順調にダメージの蓄積は稼げている。

 そう、順調だ。

 順調に進んでいるのに……やはり違和感がある。


『……?』

「ネメシス?」

『蓄積ダメージカウンターが……何だ? いや、間違いなくあれのものだが……』

「ネメシス」

『あ、ああ、すまぬ。少し、妙な感覚があってな』


 妙な感覚とは、蓄積ダメージのことだろう。

 【ゴゥズメイズ】のときもそうだったが、ネメシスはダメージを受けた相手を察知できる感覚を持っている。


「妙って、どんなだ?」

『間違いなくあの【RSK】なる怪物からのダメージは蓄積しているのだが……それが、“散らばっている”印象を受ける』


 散らばっている?


『御主の世界のもので例えるなら、“ガン細胞が体中に転移したレントゲン写真を見ている感覚”、といったところだ』

「……体中?」


 しかしそれでも結局は、あの【RSK】がダメージを蓄積していることに変わりはないんじゃ?


『そう、その通りだ……』


 伝わる念話は、未知の感覚にネメシスが不安を覚えていることを告げてくる。


「……一度使ってみよう」

『まだ致死ダメージには遠いと思うが』

「だからこそだ。俺の勘とお前の感覚、どちらもあれはおかしいと告げている。勝負を決めるタイミングで想定外が起きるよりも、今確かめておいたほうがいい」

『……承知した!』

「シルバー!」


 俺が腹を蹴ると同時に手綱を引くとシルバーはそれに応え、【RSK】目掛けて一気に駆け出す。

 無数の光弾の雨を掻い潜り、俺達と【RSK】の彼我の距離が零となる。

 触腕の一本を斬り飛ばすつもりで【黒大剣】を振るう。



 そして、俺とネメシスの切り札にして唯一の決め手を使用する。



「『――《復讐するは我にあり》!!』」



 《復讐するは我にあり》は、これまで多くの敵を倒してきた。


 最初の敵、【デミドラグワーム】。


 炎と毒の三面鬼、【大瘴鬼 ガルドランダ】。


 人の死と悪意の結晶、【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】。


 数々の強敵を倒し、俺たちが最も信頼するスキル。


 そのスキルは今、未知の怪物【RSK】にも放たれ――



『馬鹿な……』



 ――“僅かな傷も与えることはなかった”。



 【黒大剣】は【RSK】の体表を滑るだけで何の破壊ももたらさなかった。

 直後に【RSK】の亀裂から放たれた光弾が、無防備な体勢だった俺達に直撃する。

 数発が着弾し、俺のHPを三割以上削る。

 だが、そんなことは重要じゃない。


「どうして……」


 《復讐するは我にあり》は相手から受けたダメージを二倍化し、あらゆる防御を無視して叩き返すスキル。

 これまでダメージを蓄積させた相手に放って効かなかったことは一度もない。

 だが、この【RSK】に対しては全く通じなかった。


「――ああ、イイ顔だねぇ」


 そんな、陶酔するような声音が俺の耳に届く。


「フランクリン……!」


 俺達を見下ろすフランクリンのその表情。

 それはまたも笑みだったが……先刻までの貼りついたニヤニヤ笑いではなく、心底愉快で仕方ないという嗤い方だ。


「あはは、呆然としているねぇ。訳が分からないだろう? 「何で? どうして? 俺達の《復讐ヴェンジェンス》は効かぬ者なしの必殺技じゃなかったのかネメえもーん!」ってところかい? メガネを理由にの○太くん役になったレイくぅん?」

「……ッ!」


 お前、その話は……。


「ああ、また驚いている。いいねぇ。いいねぇ」


 今あいつが話したメガネのくだりは、フラミンゴを名乗っていたフランクリンと別れた後に俺とネメシスだけのときに話したことだ。

 それをあいつが把握しているということは……。


「……お前、あの薬に耳を生やす以外にも何か仕込みやがったな」

「正解だねぇ」


 フランクリンはそう言って懐から一本の薬瓶を取り出す。

 それは俺が昨日飲んだものと同じだ。


「君に飲ませたあの薬。あれは【劣化万能霊薬レッサーエリクシル】と【ケモミミ薬】のカクテルだったわけだけれど」


 あいつはそれの蓋を開け、自分の手のひらにビシャビシャと零していく。

 すると……。


「――実は薬以外にも盛っていたんだ」


 手のひらに、ビー玉ほどのサイズのゲル状の物体が残った。


「この子は【PSSピーピングスパイスライム】。液状で戦闘力はなく、人の胃の消化力でも二十四時間ほどで消えてしまう。ただし、存在している限りは服用した相手のステータスやスキル情報、それに発声した音声情報を私の元に送り続ける」


 思わず口元を押さえる。

 仕込むにしてももっとマシなものを仕込め……今になって【スライム】を飲んだという気持ち悪さが湧いてくる。


「君の手の内はもう全部把握している。

 <エンブリオ>ネメシスの三つのスキル。

 【瘴焔手甲 ガルドランダ】。

 【紫怨走甲 ゴゥズメイズ】。

 本物の煌玉馬。

 《聖別の銀光》を始めとした君自身のスキル。

 採りえる戦術についても【大死霊】メイズや【ゴゥズメイズ】との戦いで知っているよ」


 それは、俺の持ちえる全てだ。

 それが全て、筒抜けになっていた?


「そして、この【RSK】は君の持つあらゆる能力に対応している」

「対、応……?」


「《復讐するは我にあり》は効かない。

 状態異常なんて与えない。

 《煉獄火炎》は効かない。

 《地獄瘴気》は効かない。

 《聖別の銀光》も効かない。

 もし仮に《グランドクロス》が使えるようになっても効かない。

 君レベルがやるただの攻撃も効かない。

 君に対して【RSK】は無敵で最強だ。そう、なぜなら……」


 フランクリンはそこで言葉を切り、輝くような笑みで宣言する。


「【RSK】は――【レイ(・・)スターリング(・・・・・・)キラー(・・・)】は君を倒すため“だけ”に用意したモンスターだもの」

「…………俺を倒す、ため?」


 【レイ・スターリング・キラー】?

 俺を倒すためだけに用意したモンスター?

 フランクリンが?

 なぜだ?


「だから、どうしたって君は絶対に負けるんだよ。この【RSK】の製作には一億リル掛かったけどねぇ。でも仕方ないよねぇ。金銭は勝利のために使うものだから」

「何でだ……?」


 何でフランクリンが、<超級>が俺相手にそこまで本気を出す?

 お前とは昨日会っただけじゃないのか?

 あるいは、ユーゴーとの関連か?


「何で? うん、不思議だね。何で<超級>の私が遥か格下の君相手に、巨費を投じてこんな対策まで打っているのか不思議だろうね」


 フランクリンは、そこで笑みを止めた。

 そして、言う。


「それはね、私が君に一度負けている(・・・・・)からさ」


 その目は、恐ろしいほど真剣で、俺を貫かんばかりだった。


「お前が、俺に?」


 それは……いつのことだ?

 俺の疑問が最大になろうとしていたとき、フランクリンは眼下を……【RSK】に攻撃を仕掛けているリリアーナを指差した。


「そこにいるリリアーナ・グランドリアの暗殺計画。私の立てたあの計画を粉砕してくれた君だから、対策を立てたんだよねぇ」


 リリアーナの暗殺計画?

 俺が粉砕?

 それは……。


「君さえいなければあの熊男もあそこにはいなかっただろうし、五十匹の【デミドラグワーム】は確実にリリアーナを仕留めていた。その計画を崩し、私を敗北させたのは君だ、レイ・スターリング」


 熊男――兄。

 五十匹の【デミドラグワーム】――<旧レーム果樹園>。


 ――そしたらメガネのおにいさんが、「このおこうがあればおそとの<かじゅえん>にとりにいけるよ」って……


 思い出したのは、あのときのミリアーヌの言葉。

 …………あー、そうか。

 そういう、ことか。


「私は、私を負かす奴を許さない(・・・・)。私を曲げる奴を許さない(・・・・)。だから、二度目は徹底的に対策を練って完膚なきまでに無様に負かすわ。二度と私の前に立てないようにするの。君もそうなる。ここで負けて、王国中の晒し者になってねぇぇぇえ?」


 狂気さえ匂わせる表情と声音で、フランクリンは言い放つ。

 なるほど。

 なるほど、なるほど。

 お前が俺に対して怒りと恨みを持っているのも、その原因もよく分かった。

 ああ、分かったとも。


「お前が俺への対策を立てた理由はわかった」


 ――要するに、お前があれ(・・)をやったんだな?


「ハハハ、ご理解いただけたようだねぇぇ?」

「ああ。それに……お前を殴らなきゃならないってこともな」

「……何?」


 フランクリンが不思議そうな顔で俺を見る。

 いや? 何も、一つも不思議なことはないだろう。


「俺さ、子供が……ミリアーヌが巻き込まれたあの件で、一つ思っていたことがあるんだよ」


 そう、それはあのとき思っていたこと。

 

「“子供をこんな目に遭わせた奴は一発ブン殴ってやる”って」


 犯人は分からなかったし、ミリアーヌもリリアーナも無事だった。

 それで棚に上げていたが……俺はあれをやった奴を許したわけじゃない。


「だから、あれの下手人がアンタだと分かった以上……落とし前はつけさせてもらうぜ、フランクリン」

「…………」

「もう一度言ってやる」


 手甲を嵌めた手で指差しながら、俺はフランクリンに宣言する。


「――俺は、アンタを、ブン殴る。首を洗えよ、<超級スペリオル>」

「やってみろ……初心者ルーキー!」


 俺とフランクリンの間に立ち塞がるように【RSK】が動き出し――俺は天敵へと向かって駆け出した。


 To be continued


次回の更新は明日の21:00です。

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― 新着の感想 ―
いいねいいねぇ!折れないもの同士の戦い…どちらが先にねを上げるか、チキンレースの幕開けですなぁ…さて、どうやって攻略するのでしょうか、非常にワクワクする…
[一言] RSKの命名理由がさすがに天才すぎて教授のこと好きになったわ
[一言] ユーゴーも気持ち悪かったが、フランクリンも相当気持ち悪い。
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