第二十六話 近衛騎士団
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■???
アルター王国近衛騎士団。
それは王族の最も近くに侍り、守護する騎士達の名。
入団するには騎士系統上級職【聖騎士】を習得していることが最低条件。
そして、歴代騎士団長は誰もが騎士系統超級職【天騎士】の座に就いている。
【天騎士】である歴代騎士団長は、当代最強の騎士に貸与される国宝――煌玉馬に跨り、常に王国の騎士の旗頭を担っていた。
最強の騎士に率いられた、最も気高き騎士達。
アルター王国近衛騎士団こそが、“騎士の国”アルター王国を代表する騎士団だった。
◆
そう、だった、だ。
今の近衛騎士団は過去形で語られる存在だ。
なぜなら栄光あるアルター王国近衛騎士団は、デンドログラム時間で半年前に壊滅している。
巷では第一次騎鋼戦争とも呼ばれる、ドライフ皇国との戦争によって。
その戦いにおいて近衛騎士団はある軍団と戦い、総員の六割を失った。
しかもそれは厳密に言えば……たった一人の敵との戦いだった。
敵の名は【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト。
ドライフ皇国に三人……当時は二人しかいなかった<超級>の一人。
【魔将軍】は前衛戦闘と軍団指揮の両面に適性を持つ超級職。
そして、生贄を捧げて悪魔を召喚する悪魔使いでもある。
単体としての戦力はもう一人の<超級>である【獣王】に数歩譲るが、集団での戦力ならば比肩する実力者。
「“我、ここに所有せし数多の生命を捧げる”
“地獄の蓋を開き、這い出よ軍勢”
――《コール・デヴィル・レジメンツ》」
【魔将軍】は戦争において大量の生贄を使い、三千を超える悪魔を召喚した。
強靭であり、人を食らう悪魔軍団によって、王国側は万の兵が死亡。
迎撃に出た【聖騎士】揃いの近衛騎士団さえも百名を超す犠牲者を出した。
増大する被害に、近衛騎士団長【天騎士】ラングレイ・グランドリアは悪魔の群れの中を突き進み、悪魔達の長にして発生源である【魔将軍】に単騎で決戦を挑んだ。
いや少し違うか。単騎ではない。
正確に言えば……【魔将軍】まで生きて辿りつけたのが彼一人しかいなかった、と言うべきだ。
少数精鋭……レベルカンストしていた当時の副団長など、近衛騎士団の中でも選りすぐった猛者達で突破を試みた。
その結果、【天騎士】だけが生きて【魔将軍】へと辿りついたのだ。
【天騎士】と【魔将軍】の戦いは熾烈を極めた。
ティアンの中でも前衛の最強格と目されていた【天騎士】は、<エンブリオ>の補正によって有利なはずの【魔将軍】に対しても、一歩も譲らなかった。
【魔将軍】率いる悪魔も召喚者に助力しようと【天騎士】に向かうが、全て討たれた。
「王国の大地を、これ以上同胞の血で染めるわけにはいかん! ローガン・ゴッドハルト、貴様を討ち、悪魔を消してみせる!」
「ッ! クソッ……!」
白兵戦において、【天騎士】は【魔将軍】に勝っていた。
あるいは、そのままならば【天騎士】が勝利し、悪魔の軍勢を消すこともできたかもしれない。
だが……。
『あー、もしもしー。将軍閣下お元気ですかねぇ? 【獣王】はもう【大賢者】片付けましたよー? え? 閣下はまだ終わってない? むしろ負けそう? それはそれは……大変ですねぇ将軍閣下(笑)』
【魔将軍】を挑発するような音が状況を――【魔将軍】の意識を変えた。
「――俺を舐めるな、フランクリン!!」
直後、【魔将軍】は自らが身につけていた装備の一つを引きちぎった。
それは、【魔将軍】がかつて逸話級の<UBM>を討伐して得た特典武具。
「“我、ここに唯一の至宝を捧げる!”
“永劫の至宝を糧に、一度限りの力を我に!”
“神代より来たれ、果て無き悪魔!”
――《コール・デヴィル・ゼロ・オーバー》!!」
【魔将軍】はMVP特典を対価として――神話級の<UBM>にも匹敵する強大な悪魔を召喚した。
その神話級戦力の投入によって戦力の優位は一瞬で逆転し、【天騎士】は殺害された。
同時に、彼の愛騎にして国宝であった煌玉馬も破壊され……人と物の両面で王国の旗頭が失われた瞬間だった。
両者の決着後に追い討ちをかけるように、国王エルドル・ゼオ・アルターの座す本陣を、【大教授】Mr.フランクリンの改造モンスター軍団が襲撃。
国王を含めて本陣の全員が、文字通り餌食となった。
こうして近衛騎士団は【魔将軍】により仲間と長を失い、【大教授】によって主を失った。
◆
皇国との停戦後、近衛騎士団の再編に際して死亡した近衛騎士団長の娘であり、第五位の実力であったリリアーナ・グランドリアが副団長の任に就いた。
同時に、近衛騎士団を指揮する立場にもなった。
彼女が副団長になったのは生き残った中では彼女が最も実力者だったから。
そして、副団長止まりなのは【天騎士】を継げなかったからだ。
歴代団長はいずれも【天騎士】。
逆を言えば、【天騎士】でなければ近衛騎士団の団長である資格がないと国に判断された結果である。
リリアーナも能力は低くはないが、未だ超級職には及ばない。
騎士団全体のレベルも低下しており、奥義である《グランドクロス》や秘奥である《聖別の銀光》を使える【聖騎士】の数は片手で足りる。
かくして、騎士団長の地位と【天騎士】の座は空白となった。
また、君主である王を守れなかったためにその地位も落ちた。
内外の批判と、何よりも生き延びた近衛騎士自身が己の不明を恥じた。
ゆえに、騎士を辞す者、出奔する者、他の騎士団に移る者が多く出て、近衛騎士団は更に規模を縮小した。
最大時には三百を数えた近衛騎士団も、今では五十人程度しか残っていない。
しかし、残った者達には強い意思があった。
それは近衛騎士団の立場を貶めた【魔将軍】や主君の命を奪った【大教授】への復讐の念であるか?
違う。
その念も多少はあったが、彼らの根幹にある意思を思えば軽いものだ。
彼らが真に望んだのは「次こそは守り抜いてみせる」という、己に課した願いである。
君主の残した三人の王女を、このアルター王国の民草を、命に代えても今度こそ守ってみせる。
彼らが望んだのはそれだ。
苦境に晒されながら、それでも彼らは自らの意思で自らに騎士を任じていた。
◆
ゆえに今、彼らは駆ける。
全身全霊で、己の力の限りで、限界さえも超えて眼前の怪物――【RSK】に挑んでいる。
全ては眼前の敵を打倒し、エリザベート王女を救うために。
そう、彼らは今まさに騎士物語の一ページの如く、輝いている。
「そう、輝いている。風前の灯という意味でね」
私――【大教授】Mr.フランクリンの眼前には。五十人からさらに数を減らした近衛騎士団がゴロゴロ転がっている。
まだ動いているのは数人だ。
他は全て、私の【RSK】が倒した。
【RSK】――無数の亀裂が入った肉の球体とそれを支える十本の触腕で構成された私の特別製改造モンスター。
【邪神の落とし子】や【ローパー】の上位改造種だ。
触手はあるけど、そちらには特に面白い機能はつけていない。
やってもよかったけど本来のターゲットがターゲットなのでつけるだけ無駄でしょう。
スキル構成や生体組織の諸々が複雑な作りになっているため、通常の《モンスター・クリエイション》では製造不可能なモンスター。
まぁ、私には<超級エンブリオ>の必殺スキル《改胎神所》があるから創れたけれど。
ただ【RSK】は昨日一晩で作った急造品のモンスター。
ちゃんと問題なく生存・活動できるのかをテストする必要はあった。
結果は近衛騎士団の死屍累々だ。
「テストは良好。いやー、ちゃんと機能してるねぇ。攻撃機能がちょっと弱めだけど、そこは仕方ないねぇ」
威力にはキャパ割いてないし。
死屍累々なんて考えたけど、倒れている近衛騎士も案外生きていそう。
追い討ちでトドメを刺すけれど。
「リンドス卿! “累ね”でいきます!」
「承知!!」
まだ動いている近衛騎士――副団長のリリアーナと第三位のリン某が何かするらしい。
二人はそれぞれ【RSK】の零時と三時の方角――十字砲火のポジションに移動した。
「「《グランドクロス》!!」」
直後、天を衝くような光が【RSK】の足元から噴出する。
「ふむ」
彼らが放ったのは【聖騎士】の奥義。
聖属性の光の奔流を地上から十字状に噴出させてそのエネルギーで敵を焼き尽くす大技だ。
彼らはそれを全く同じタイミングで発動させることで威力を累乗させている。
この“累ねグランドクロス”は強い。
純竜でも属性によっては一発で終わる。
【RSK】も性能的には純竜クラスだから普通は危ない。
「けど、無意味なんだよねぇ」
――“累ねグランドクロス”を受けた【RSK】は、全く無傷のままそこに立っていた。
「ば、かな……」
リン某が呻く。
それはそうでしょう、【RSK】はその身に焦げ痕の一つもない。
蚊が刺したほどにも効いていないのだから。
【RSK】は鬱陶しげに触腕を振るい、球体の無数の亀裂――目蓋を開いて光弾を放って二人を迎撃する。
うん、テストは良好。
「リンドス卿、まだです! 諦めるには……早い!」
「……! 承知!!」
そうして彼らは騎馬で駆けながらまた攻撃行動を開始する。
どうやらまだ諦めていないらしい。
無駄なのに。
「君らが【聖騎士】じゃなければ……まだ勝負にはなっただろうに」
まぁ、そうだったら別の作品を出していたけど。
少なくとも聖属性剣技を主軸とする【聖騎士】には勝てる道理がない。
だってそういう風に作ったもの。
物理ダメージ軽減の《マテリアルバリア》に、《聖属性無効》。
ついでに《炎熱無効》と《毒無効》と《衰弱無効》と《酩酊無効》。
そして極めつけの“あれ”。
他の防御効果なんて“あれ”のおまけ。
そう、彼のために用意した“あれ”の。
「クッククククク」
楽しみだ。
どんな顔をするのだろう。
「早く来ないかなぁ」
そんな私の願いが天に通じたかは知らないけれど。
【RSK】を横合いから巨大な炎が襲った。
それは猛烈な勢いで放たれる火炎放射――【瘴焔手甲 ガルドランダ】の装備スキル《煉獄火炎》。
もちろん《炎熱無効》の【RSK】にダメージは通らない。
けど、今重要なのは《煉獄火炎》が放たれたということ。
即ち、彼が来たということ。
「来た……来た来た来た!」
予定より少しだけ遅いけれど、彼が来た!
「大丈夫か!」
そして彼――レイ・スターリングが【RSK】と近衛騎士団の戦場に到着する。
銀の煌玉馬に乗って駆けつける王子様じみた彼も、まるで物語の一ページのようだ。
――それが最高に笑える。
「レイさん!? どうしてここに……!」
どうしてここに?
愚問愚問。
観察した私は知っているけれど、彼はそれこそ正真のヒーローじみた動機で動く人間。
目の前で不幸になりそうな誰かがいれば、己の実力やリスクを度外視して助けようとする。
だから当然、今宵この状況になれば……ここに来ずにはいられない。
「子供が誘拐されるなんて、後味悪い話は嫌なんでね」
ほぅらね。
「……ついでに、あいつをぶっ飛ばしに来た」
「ああ、そこまで考えてたの。面白いなぁ。面白いねぇ」
彼が己の実力やリスクを考えないのは知っていたけれど、私に……<超級>相手に勝つ気できたのか。
彼は私を見ている。
その視線にあるのは敵意? 憎悪? 苛々?
違うなぁ、もっと純粋に……怒っている。
「ヒハッ」
思わず変な笑いが出た。
彼はとても真剣。
この<Infinite Dendrogram>の中で、彼くらいに真剣な人間はあの子と【冥王】……それと鏡の中の私くらいしか見たことがない。
さすがはメイデンの<マスター>。
いや彼のような人間だからこそ、メイデンの<マスター>なのか。
実にいい。
気に入った。
――最高に圧し折り甲斐がある
「フラミンゴ、昨日の分も含めて借りを返させてもらうぜ」
「あっはっは、じゃあ私は先週の借りを返すよ。イヌミミ君」
ようこそ、レイ・スターリング。
【RSK】がお待ちかねだ。
To be continued
次回は明日の21:00に更新です。




