第一八七話 《舞踏会》
(=ↀωↀ=)<本日三話目
(=ↀωↀ=)<まだの方はご確認を
□■<ジャンド草原>
【MGD】のコクピットを破壊した直後、レイ達は元の時間の流れに帰還していた。
周囲から聞こえるみんなの声が、動いている景色が、あの時間が終わったのだと彼に実感を齎す。
当然だが、周囲の声は困惑が強い。
ほんの一瞬の間に、レイも【MGD】もボロボロになっており、地面も《蹂躙砲》のせいで滅茶苦茶に破壊されている。
【皇国の<宝>の破壊を確認しました】
【皇国側のフラッグが全て破壊されました】
【王国陣営の勝利です】
【只今を持ちまして、<トライ・フラッグス>を終了いたします】
【<マスター>の皆さん、本当にお疲れさまでした】
そして、このアナウンスが極めつけだ。
運営もたった今この結果を把握し、戦争参加者にアナウンスを流したのだろう。
それによって困惑が強まるが……しかし徐々に歓声が起き始める。
生き残ったランカーが、聞こえてきたアナウンスを非ランカーやティアンの人達に伝えて回っている。
「レイさん、やりましたね!」
「ああ。ルークもありがとう、最後は本当に助かった……」
そんな周囲の様子をレイが眺めていると、ルークが彼を労った。
レイが加速する前に潰されていたルークだが、鋼魔人だったために物理ダメージでどうこうなることはないとレイにも分かっていた。
むしろ、その後に巻き込まれていないかを心配していたくらいだが、問題ないらしい。
「おつかれさまー!」
「……また死ぬかと思ったぜ……」
そうして、チェルシーとマックスもレイのところにやって来た。
マックスの方はイペタムの背中でぐったりしている。
「二人とも……無事でよかった」
「無事じゃねーよ!?」
「だいぶ死に掛けたけどねー……ジュリなんて背水全開で駆け抜けちゃったし」
「……あとでジュリエットにも礼を言わないとな」
ジュリエット達がいたから望む可能性を掴めたとレイは考える。
(あとブルースクリーン氏にもキチンと御礼をしておこう。正直、今回のMVPだと思う)
「いえ、流石にレイさんだと思いますよ。あのモンスターを倒してフラッグ壊したのはレイさんなんですから」
「うーん。ルークに心読まれるのも久しぶりな気がする」
レイがそう言うと周囲も笑っていた。
だが、その間も……レイの視線はある場所に向けられている。
極限加速が終わってからも、彼はずっとそこを警戒していた。
「……レイさん」
「分かってる」
彼と同様に気づいているだろうルークに、レイはそう答える。
レイが見ていたのは、破壊された【MGD】のコクピットだ。
光熱で炎上し、煙を上げて、中のものは焼かれて……それでもまだ残る残骸。
本来であれば、消える筈のものがまだ残っている。
その時点で、レイには……分かっていた。
そのとき、パチパチと手を叩く音が聞こえた。
パチパチ、パチパチと手を鳴らす。
賞賛を示す拍手という行為だが、賞賛の感情など微塵も乗っていないと窺わせる音。
その拍手は、炎上するコクピットから聞こえていた。
それが意味することは唯一つ。
「――戦争勝利おめでとう、レイ君」
「――ああ。生きてると思ったよ、フランクリン」
フランクリンは……生きていた。
【MGD】が消えない時点でレイには分かっていた。
【ブローチ】によるものか、あるいは以前の事件のように《ライフリンク》か。
いずれにしても、コクピット内を蹂躙した破壊の中でも、フランクリン自身は生き延びている。
それでもフラッグはレイが間違いなく破壊した。
戦争は終わった。
――しかし、それで全てを終わりにする相手でもないと彼が誰よりも知っている。
「ディラン」
『――――』
フランクリンの呼びかけによって、半壊した【MGD】の内部から何かが飛び出してくる。
それは金属で出来た赤い二足歩行恐竜だった。
人間より少し大きい程度のその恐竜は、油や血らしきもので汚れているが目立った損傷はない。
そんな恐竜を、フランクリンはディランと呼んだ。
つまりは、この恐竜こそが【MGD】のコアだ。
「…………」
ディランを従えて、フランクリンはレイ達を見下ろす。
戦争が終わった今、何を言うのか。
それが……レイには分かる気がした。
「ねえ、スターリング・サン。一つ聞いてもいいかしら?」
「……何だ?」
フランクリンは、彼を『レイ』と呼ばなかった。
奇妙な……しかしレイには聞き覚えのあるイントネーションで彼を呼ぶ。
この時点で、レイは一つの確信を持つ。
『フランクリンは、奴は、……彼女はやる気だ』、と。
「私と貴方の関係は――旗が折れたら決着がつくようなものかしら?」
ゆえに、その決定的な問いに対して彼は……。
「――思わないな」
「――良かった。同意見ね」
彼女と同じ答えに辿り着く。
「《喚起》、――【MGD】」
そして彼女は指を鳴らし、ソレをジュエルから呼んだ。
それは、青と白に彩られた金属の竜。
<マジンギア>より一回り大きい程度のそれを、フランクリンは何と呼んだか。
「なっ……!」
「戦争は終わったんだぞ!?」
そのフランクリンの動きに、王国の<マスター>達も異常を察して動こうとする。
だが、先んじてフランクリンは命じる。
「ディラン」
『――Connect――』
その呼びかけと共にディランは跳び、自ら金属竜の内部へと入り込む。
そして……。
『――《舞踏会》』
何らかのスキルが発動し、周囲が光に包まれる。
その光が消えたとき、フランクリンと金属竜の姿はなかった。
――そして、レイの姿も。
◇◇◇
□【聖騎士】レイ・スターリング
目に視える風景が、瞬間的に切り替わった。
まず、周りにいたみんなが消えている。
見上げれば空があるが、空気は薄く、冷たい。
前に【モノクローム】を追って空を駆け上がったときを思い出す
周囲を見回しても山一つ見えず、足元は白く輝く奇妙な床だ。
その半透明な床の遥か下に……ギデオンが見えた。
「空の上か」
「獲物を空中に攫うトンビの<UBM>がいたのよ。それ由来のパーツと他のパーツを組み合わせて、『空中に結界を作って獲物と自分を移動させる』スキルにしたの。三〇分は保つし、見つからないし、結構頑丈なのよ?」
俺の眼前には、新たなモンスターに乗ったフランクリン。
それ以外に、周囲には何もない。
フランクリンは、【契約書】らしきものに何かサラサラと書き込んでいる。
「…………」
俺はフランクリンが座した竜……新たな【MGD】を視る。
その姿は、端的に言えば金属製の竜。
だが、あの【MGD】のような歪さはない。
<マジンギア>より一回り大きい程度だが、過剰も不足もないスマートなデザインだ。
改造モンスターと<マジンギア>、双方の技術が融合した個体。
フランクリンだからこそ生み出せたモンスター、そんな印象を受ける。
「この子が気になるかしら?」
「ああ」
「この子も【MGD】よ。バージョンⅡといったところね」
……なるほど、そういうことか。
「本体はさっきの赤い恐竜で、他は服装に過ぎないんだな?」
「正解。まさか私が『ステータスを上乗せして主砲を撃つだけのモンスター』で最強を自負していると思ったのかしら?」
「それで済ますくらい素直な性格なら良かったのにな」
「言ってくれるわね」
俺の言葉に、フランクリンはケラケラと笑う。
その笑声は何処か吹っ切れたような声音だ。
……だからこそ怖い。
「そもそも……【MGD】は周囲のステータスを上乗せする改造モンスターの名ではないわ。――数多の改造モンスターを束ねる王の名よ」
つまりは状況に応じて、その時々の技術と素材によって、フランクリンがいくらでも拡張できる究極の発展性こそが強さ。
無限に強化できて、相手に合わせて変えられる。
それゆえに……最強を謳う。
言うなれば、モンスター版のフィガロさんだ。
無論、その力の形が一つであるはずもない。
「前の【MGD】は、『一昔前の自国の<超級>への対抗兵器』。つまりは一世代前の【MGD】。そして、この目の前の【MGD】こそが……貴方を倒すために用意した【MGD】よ」
「……その一つが、この結界か?」
「『仲間』も貴方の強さでしょう?」
欠片も否定できない。
実際、前の【MGD】も俺一人じゃどうしようもなかった。
仲間と俺を切り離すことは、道理だ。
「さて、書き終わったわ」
「……その【契約書】、俺に何を持ちかける気だ?」
「え? 貴方には何も求めないわよ?」
フランクリンは、素の反応でそう返す。
さっきから、それが怖い。
彼女はもう、役割を捨てている。
アバターに合わせた男であることも。
マッドサイエンティストとして振舞うことも。
あるいは、皇国の<超級>であることすらも、消え失せている。
「ただ、この後がなさそうだから悔いがないようにしようって決意表明よ」
「どういうことだ……?」
「ほら、私って前の国王を殺しているでしょう?」
「…………」
それは、第一次戦争の大きな傷の一つ。
アズライト達の父親を殺し、モンスターに食わせたのはフランクリンだ。
他にも、多くのティアンが犠牲になっている。
「今回、皇国が戦争に負けてしまったもの。私がどうなるかなんて分からないけれど、指名手配で“監獄”行きは堅いと思っているわ」
「…………」
自分の父親を殺した相手を、アズライトがどうするのか。
この国の人々が、どう思うのか。
それは……俺も否定できない。
「なら、これが私の最後の自由。それなら……好きにさせてもらおうと思ったの」
そう言って、フランクリンは俺に【契約書】を見せる。
そこにはこう書かれていた。
【《舞踏会》の崩壊タイムリミットまでに『Mr.フランクリン』が死亡しない場合】
【――パンデモニウムを決闘都市ギデオンに落下させます】
「……!?」
『な、何だこれはッ!?』
その文面に、俺だけでなくネメシスも驚愕する。
「ただの決意表明よ」
「決意表明、だと!?」
「御存知の通り、私のパンデモニウムは一立方kmの超巨大<エンブリオ>。ここから墜とせば……まぁギデオンは滅びるわね」
『なぜ、この期に及んでギデオンを破壊しようとする!? 戦争は終わったのだぞ!?』
「戦争が終わったからできるのよ? それに勘違いしないで、ギデオンなんてどうでもいいわ」
フランクリンは本当に何でもないことの様にそう言った。
その視線は、俺だけを視ている。
「ほら、これで私と戦わないといけなくなったでしょう?」
「――――」
分かってしまう。
フランクリンにとっては、これが本番だ。
戦争という様々な思惑や他の人間の絡む状況じゃない。
本当の意味で俺と一対一で決着をつけるために……俺を引きずり込むためにこの結界を作り、今の【契約書】を見せた。
「安心して。貴方が私を殺せれば、墜ちることはないわ。だから、ねぇ……」
フランクリンは、ゾッとするような眼と声で――告げる。
「――踊りましょう、椋鳥玲二」
◇◆◇
□■???
戦争は決着した。
勝利したのは王国だ。
その事実は揺るがない。
だが、それでは、終わらない。
人と人の関係は、宿敵同士の決着は、それで終わらない。
他人の決めたルールで終われるならば、彼も彼女も此処にはいない。
戦争は終わった。
国を背負う戦いは終わった。
ゆえにここからは、二人の戦い。
レイとフランクリンの、椋鳥玲二とフランチェスカ・ゴーティエの――ラストダンスだ。
To be continued
戦争は、終わった。
戦いは、終わらない。
インフィニット・デンドログラム第二部、最終戦。
ラストダンス、開幕。
(=ↀωↀ=)<予告通り、戦争『は』終わったよ
( ̄(エ) ̄)<うーん、嘘ではない案件クマ
(=ↀωↀ=)<……あ、ストック枯渇したのでお正月はちょっと休みますね
(=ↀωↀ=)<一月二日は漫画版更新なのでそちらをよろしく
(=ↀωↀ=)<それでは皆さん、よいお年をー




