拾話 崩御
(=ↀωↀ=)<本日二話目
(=ↀωↀ=)<まだの方は前話から
■???
彼女は、この戦争で自分の役目を果たすつもりだった。
勝利して、【邪神】を処刑するのか。
敗北して、王都ごと【邪神】を消し去るのか。
あるいはどちらも叶わず……最後の希望に縋るのか。
幾つもの目的があって、幾つもの律があって、それぞれに大切なものは違った。
それでも『自分』が本当に大切なものは、分かっている心算だった。
勝利か敗北か、あるいはその先。
どの結果になろうと……本当に大切なものだけは護れるように、彼女は命を懸けた。
◇◆◇
□■国境地帯・隔離施設
戦争の最終盤に起きた出来事は、国境地帯にいる者……クラウディアにとっても想定外の連続だった。
想定内であったのは、ギデオンでのレイ達とフランクリンの決戦のみ。
王都での騒動、王国領土の放棄、【皇玉座】の奪取と【四禁砲弾】の発射、着弾阻止。
そして、ベヘモットの敗北。
何もかも、何もかも、何もかも……事前想定から外れていく。
(あるいは、以前の私なら……この内の幾らかは予想できたのかしら?)
クラウディアは、そう考えて……自嘲気味に笑う。
彼女とて、分かっているのだ。
もう自分が全盛ではないと。
肉体は若いが、命は枯れかけている。
そうなるように、もう《ロードマップ》で使ってしまった。
そうして彼女が辿り着いた、三つの発明。
一つは国の為、一つは未来のため、最後の一つは……最も大切なもののため。
しかし奇しくも、最後の一つだけ完成には至っていない。
思いつくのが……思い至るのが遅かった。あるいは、殺せば済むと思っていたからか。
一番先にそれを作るべきであったと気づいたときには……もうそれのために支払い切れるだけの『命』がなかった。
それに二つ目も、実際に動かすまでは成功か分からない代物だ。
「…………」
クラウディアは、状況を報せるモニターに目を細め、耳を澄ます。
そうしなければもう見えないし、聞こえもしない。
(調整はしたのですけれどね……)
戦争が終わって、最後の手順を済ますまでは保つ計算だった。
しかしどうやら、一日二日……見積もりを誤ったらしい。
『そんな部分まで衰えましたのね』と、また自嘲気味に笑う。
こんな有り様も、この後の事も、知らせれば知らせるだけ聞く者の心労を増やすだけ。
そう思って誰にも言わずにいたが、しかしやはり間違えてしまったと思う。
終わる前に自分が死んで、二つ目の発明が失敗していれば、混乱どころの騒ぎではない。
『王国が私を暗殺したなんて風聞が立ったときが最悪ですわ』とクラウディアは額に手を当てる。
その様子は、思考は、自分以外の心配ばかりをしていた。
自分の命が失われることを自覚しながら、そこに思うことはない。
それも、無理からぬこと。
彼女の目的は、律は三つあって、それぞれに大切なものがあった。
けれど一つとして……彼女自身の命を重要視したものはない。
彼女は、最初から自分が死んでもいい前提で動いていた。
それこそ内戦の前……自分が皇王にならねばならないと決意した頃から。
(ええ……務めは果たしますわ。この命、尽きても……)
そう思考する間に、状況が動く。
王国の宝が壊れ、皇国の命……ベヘモットが死んだ。
状況としては、まだ皇国の優位。
「……おつかれさまですわ、ベヘモット……」
だが、ベヘモットが敗れた時点で、クラウディアは敗戦の未来を予見した。
そして、ここからは一分二分の遅れが致命的になるとも考えている。
王都でも騒動が起きた以上、いつ【邪神】が逃げ出すか分からない。
【邪神】だけは倒さねばと……彼女はあるものを取り出す。
それは……王都地下に設置した【超重砲弾】と繋がった起爆装置だ。
これを押し込めば【超重砲弾】が作動し、【邪神】ごと王都が滅ぶ。
「――ごめんなさい」
――そして、彼女はその使用を躊躇わなかった。
肩を並べる中で最も信頼する存在が敗れたとき、そうすべきと考えていた。
彼女は起爆スイッチを押し込んで……暫し待つ。
やがて、その結果が齎される。
何事も起きない、そんな結果が。
「……そうなる気は、していましたわ」
思えば、昔からそうだったとクラウディアは苦笑する。
彼女の望みや算段など、叶う方が珍しい。
そも内戦を制して皇王の座に就いたが、そもそもこの座に就きたくもなければ内戦をしたい訳でもなかった。
他に任せられないから自分がやるしかなかっただけで、それに反発する者が多いから内戦になった。
彼女の望み通りと言うのなら、もっと自分よりも皇王に向いた者がこの座に就き、彼女はハイエンドとして……あるいはアルティミアとベヘモットの友人としてのみ生きたかった。
けれど、そうはなっていない。
今も昔も、運命や未来は彼女の敵だ。
「……今回は何が原因でダメだったのでしょうね」
今回、【超重砲弾】が起爆しなかった理由はゼタだ。
クラウディアがスイッチを押し込む数十秒前にゼタが地下水脈の設置場所に辿り着き、起爆装置から外し、クラウディアが与えたままだった持ち運び用のアイテムに格納してしまっていた。
あるいは、もう一分早ければ結果も違ったかもしれない。
【超重砲弾】は起爆し、いまだ王都にいたテレジアも巻き込めていたかもしれない。
そう、もう一分早くベヘモットが死んでいれば、クラウディアの決断も一分早かった。
しかし、そうはなっていない。
当事者が選択した運命により、そうはならなかった。
それゆえに、クラウディアのプランB……敗戦時のリカバリーは失われた。
それで、この話も……彼女の最期の決断も終わりだ。
「…………」
この世界に運命というものがあるならば、それはきっとクラウディアには優しくない。
こうなりたかった訳ではないのに、多くの責務を抱え、そして果たせず消えていく。
実に空虚で、残酷な、運命。
それでも……。
「…………ふふ」
それでも、クラウディアは自分の運命を、生涯を、呪う気にはなれなかった。
叶った願いの少ない労苦ばかりの人生。
されど、されど。
『――クラウディア』
今の自分を生み出してくれた親友がいる。
『――クラウディア』
今の自分と歩んでくれた親友がいる。
二つの出会いと、彼女達と過ごした時間だけで……彼女は自分の人生を肯定できる。
その人生が、どれほどに労苦を伴うものであったとしても。
それはきっと別人格……ジュバと出会ったラインハルトも同じ意見だろう。
「ふふふ、皆さん……これからもきっと……大変ですわね」
そう苦笑して……クラウディアはそっと瞼を閉じる。
「……どうか、貴女達がこの先も生き残れますように……」
そうして、彼女にとって本当に大切なことを呟いて……それきり彼女の口は動かなくなった。
◇◆
数分後。
皇国の宝の破壊……<トライ・フラッグス>の終了後まもなく、アルティミアがインテグラを伴って彼女の執務室を訪れた。
傍らには、皇国元帥であるギフテッド・バルバロスの姿もある。
皇国が敗戦を迎えた今、今後どうするかを首脳陣で話す必要があると彼女のところへやって来たのだ。
けれど、彼女達が部屋に入ったとき……彼女はもう息をしていなかった。
ドライフ皇国皇王クラウディア・L・ドライフは、戦争の終結を見ることなく……その短い命を終えていた。
彼女の机の上には、親友達に宛てた手紙と……何らかのアイテムのレシピが置かれていた。
◇◆◇
戦争は終わった。
ここに、全ての思惑は消えた。
戦争の中で動き出した者達の暗躍も消えた。
数多の勢力の陰謀と暗闘は王都と皇都で使い尽くされた。
そして、この戦争を起こした指し手もまた消えた。
繰り返そう。戦争は終わった。
しかし――終わらないものもある。
To be continued
(=ↀωↀ=)<……
(=ↀωↀ=)<実は今日は三話目があるんだ
(=ↀωↀ=)<23時か0時更新




