第一八五話 <トライ・フラッグス>最終決戦 中編
(=ↀωↀ=)<本日二話分くらいのボリューム
(=ↀωↀ=)<それと今回は書籍22巻書き下ろしのネタバレが沢山あります
(=ↀωↀ=)<ご了承ください
□■決闘都市ギデオン・街壁上部
「…………」
彼は、ギデオンの街壁の上からその光景を見ていた。
この場に支援のために集まった非ランカーの一人。
彼は戦場を、巻き起こる戦いを見ていた。
戦場に立つ王国のランカー達を。
地を割って現れ、大量に居並ぶモンスターを。
その戦いを、外壁の上から援護する他の非ランカーを。
「…………」
他の非ランカーと違い、彼は見ているだけだった。
仕方がない、彼には戦場に届く弓矢も魔法もない。
彼の個性たる<エンブリオ>とて、この戦場では意味をなさない。
彼は自分がなぜ呼ばれたのかも分からないまま、見ているしかなかった。
他の誰よりも最前列に置かれてここに移されたのに、何もできずにいるだけなのか。
彼自身、思い入れや義務感のようなものはないと思っていた。
けれど今も、王国で忙しく働いていた日々も思い出される。
仕事場であった<遺跡>が戦場になり、同僚のティアンが巻き込まれかけたときには背筋が冷えた。
そして今、他の<マスター>懸命に戦う姿を視ていると……拳を握る力が強くなる。
つまり彼は……何もできないことを想定より悔しく思っていた。
やがて戦況は動く。
空に隠れていた巨大な怪物が地上に主砲を放ち、ランカー達が甚大な被害を受けた。
地に降り立ち、威容と異形を誇り、王国の者達を嘲笑う機械仕掛けの怪物。
「……そうか」
その恐ろしい姿を見たとき、そしてレイの指示を受けたギデオン忍軍が彼に呼びかけたとき、彼は知った。
――このときのために俺をここに呼んだのか。
◇◆◇
□■<ジャンド草原>
戦いの中で、レイやチェルシーといった一部の<マスター>は【MGD】の設計の歪さに気づいていた。
それはキメラがどうこうという話ではなく、設計思想そのもの。
【MGD】の想定される運用……『仮想敵が皇国の<超級>である』ということだ。
特に、この戦争よりも前から所属していたベヘモットとローガンがその対象だ。
莫大なステータスを持つベヘモットに対しては、《キメラテック・オーバード》の上乗せによってそのステータスを優越する。
悪魔の軍団を従えるローガンに対しても切札である【ゼロオーバー】以上の戦力となり、仮に数で圧そうとしてもいずれの悪魔よりも優越した速度で《蹂躙砲》を放ち、軍団の先にいるローガンを抹殺する。
しかし、これが王国の<超級>を相手にすればどうなるか。
まず、シュウに対しては機械であるバルドルのステータスをコピーできないために不利になる。
月夜は引き上げたステータスを《薄明》で除算され、<月世の会>との連携で追い詰められる。
レイレイの耐性弱化も同様に致命的だ。
そしてフィガロについては……あのフィガロに対して元々の【MGD】のステータス分だけ優越した程度で勝てるのか、という話になる。
そして先に挙げた有利を取れる対象である皇国の<超級>二人に対しても、必ずしも勝てる訳ではない。
ステータスで優越するベヘモットはその特典武具やジョブスキルで覆されるかもしれず、ローガンは生産職に目覚めたことで彼が得た性能と物量の両立を前にすれば厳しいかもしれない。
総じて言えば、【MGD】は『一昔前の自国の<超級>に勝つために設計された生物兵器』である。
リアルタイムで成長する者達と、データと素材を得た上で制作時間の末に戦場に出る兵器の差異とも言える。
あるいは、本来ならば成長・変化する自国の<超級>や交戦が想定される王国の<超級>に焦点を合わせてアップデートされるはずだったのかもしれない。
しかし、そうはならなかった。
それは本人の言っていた通り、途中で最優先目標……仮想敵が変化したからだろう。
それが誰かは言うまでもない。
今ここで、戦っているのだから。
(……だとすると、妙だね)
そこまで考えて、チェルシーはより【MGD】の更なる歪さに気づく。
レイに執着したのならば……なぜこの仕様になっているのか?
今見えている【MGD】の機能は【RSK】とはまるで違い、必ずしも宿敵たるレイにアジャストしていない。
それこそ、腹の中の燃料タンクで精神的に追い詰める程度だ。
機能面としては、先にレイが述べたように互いのステータス参照強化の無限ループという懸念がある。
その問題に、講和会議時点でフランクリンは気づいていたはずなのだ。
何より、戦闘前にフランクリンはこうも言っていた。
――私の【MGD】は最強だとも。たとえ<SUBM>が相手でも正面から倒してみせる。
上記に挙げた問題があると言うのに、あの偏執的なフランクリンが其処まで言い切った根拠は何か?
チェルシーは言いようのない不気味さを覚えている。
(今見えているもの以外に何かがある?)
見れば内蔵兵器らしきものは散見される。
それもレイを巻き込んでダメージカウンターを蓄積されないように警戒して使っていないようだが、そういうものはある。
だが、警戒して使えないならば、それらもレイにアジャストしている訳ではない。
フランクリンの執着と性格の歪み方を考えれば、矛盾している。
(……警戒はしておいた方がいいかもしれない。でも、まだ何も分かってない内から無暗に知らせても……)
「おい、こんなときに何考えてんだ?」
「んー、ちょっとねー」
動き出すタイミングを待っていて焦れたのか声を掛けてきたマックスに、チェルシーはそう答えて誤魔化すように笑顔で返した。
「お前さ、色々考えてるときはそういう顔で誤魔化すよな」
「あー、まぁ癖だね。あたしは二手三手先を考えちゃうタイプだから」
そのあたり、友人達とはスタンスの違うところだ。
収集したデータと戦術で戦うのがチェルシー本来の強みであり、それを突き詰めた結果が元グランバロア決闘二位という来歴である。
「そうかよ。しっかしまぁ……」
マックスはチェルシーがいま考えている懸念を言う気がない、あるいは『まだ言える段階ではない』ことを察して、話を切り替える。
視線の先には、レイから離れた場所の<マスター>を攻撃するために動き出した【MGD】。
「中の連中を助けるためにあんなバケモンの腹を捌くか……。酷い赤ずきんもあったモンだ」
「七匹の子ヤギかもよ?」
「童話兄弟の妄執……(グリム童話って狼のお腹切るの好きだよね……)」
そんな言葉を交わしながら、三人の決闘ランカーが言葉を交わす。
相手の強大さを理解しながら、そんな会話でいつもの空気を保つ。
彼女達は、既に決意している。
この戦場における、自分達の役割を。
勝たせてやりたいと願う友人のために。
彼の抱くあまりにも難易度の高い勝利目標を、それでもやってやろうじゃないかと力を尽くす。
「やるなら三角かな。一人一辺、刻んで抉じ開けるつもりで」
「俺とジュリエットはともかく、お前はやれんのかよ? そういうの苦手じゃねえか?」
面制圧や機雷戦術を得手とするチェルシーにそれができるのかと、マックスは問う。
だが、そんな彼女にチェルシーはやはり笑顔で返す。
「やり方次第かな。二人に手伝ってもらったアレもあるしね」
「……あの水筒で何しようってんだ?」
「それは見てのお楽しみかな♪」
『本当はジュリとの決闘で使うつもりだったのになー』と思いながらも、その札を切ることに躊躇いはない。
遊戯派なれど、遊戯派だからこその戦い。
負けられないのではなく、負けたくない勝負がこの世にはある。
「さぁて――そろそろみたいだね」
そして――勝負の時が近づいた。
◇◆
レイに指摘された後も、フランクリンは行動方針を変えなかった。
彼を避けながら、他の<マスター>を虱潰しにして後の不確定要素を減らす。
どうせチャージが溜まるまでの時間潰しでもある。
そうして幾人かのランカーを叩き潰したとき、【MGD】の姿は先刻よりもギデオンの近くにあった。
街壁の上の非ランカーが《クリムゾン・スフィア》や弓矢で攻撃しているが、そんなものは【MGD】には毛ほども通じない。
HPとENDで耐えるのは容易であり、仮に強力な一撃型の必殺スキルの類であれば察知してAGIで回避することができる。
そして街壁上の非ランカーも放置している訳ではない。
【MGD】のパワーで攻撃すれば街の中のティアンを巻き込みかねないのでできないが、まだ残存している改造モンスターはそちらを襲っている。
ギデオンを戦場に選んだ時点で、街壁上に立つだろう<マスター>を殺すようにプログラムした改造モンスターも用意していた。
ゆえに、フランクリンは街壁の非ランカーのことを、『鬱陶しいが自ら手を下さずともすぐに駆逐可能な戦力』と見做していた。
その見解は正しい。彼らはランカーと比較して実力に劣る者が多い。
そも、王都からの援軍が呼び込めなかった時点で、街壁の上の者達は偶々ギデオンに残っていた非ランカーがメインなのだ。
レベルをカンストしていない者も多く、戦力としては二流三流。
【MGD】投入前の時点でその程度であろうとフランクリンも見抜いていたからこそ、彼らに然程の警戒を抱かない。
警戒に値するような<エンブリオ>を使う者も、【MGD】投入前の戦闘では確認できなかった。
だから、気づかなかった。
街壁の上に並ぶ非ランカー達。
彼らの中に紛れるように、否、彼らの一人に過ぎない非ランカー。
その非ランカーは、自身の掌を【MGD】へと向け、<エンブリオ>を起動する。
彼はその力を、【MGD】が出てくるまでは使わなかった。
使えなかった。数多の改造モンスターに対して、何の意味もない力だからだ。
だが、『【MGD】に対しては違うぞ』と……彼はスキルを宣言する。
「――《電気羊の夢》」
その瞬間、【MGD】の巨体とスキルのエネルギー源であった動力炉と怨念動力ユニットが機能停止した。
巨大な機械の竜体が膝をつき、《キメラテック・オーバード》が強制停止する。
『――――は?』
フランクリンの主観ではあまりにも唐突に、機関を停止させられた。
何が起きたのか、理解に数秒を要した。
外部モニターすら、機能を停止していたからだ。
(機械の広範囲同時停止!? そんな皇国相手のメタ能力、どこに……!)
その男は、かつてスキルの暴発によって皇国で大混乱を起こし、指名手配された。
彼は王国へと渡り、仲間と共にクランを立ち上げ、しかし潰した。
「俺のグレムリンは……機械を壊すのが得意なんだ」
それでも再度立ち上がり……今も王国に属している。
「……やってやったぞ、<超級>……!」
男の名は、ブルースクリーン。
かつての<ソル・クライシス>……今は<ライジング・サン>に所属する王国の<マスター>だ。
彼もまた、街壁の上で……この戦闘に参加していた。
非ランカーの有象無象に過ぎぬはずの存在は、自身の能力とそれをこの場で使う意思によって、最強の改造モンスターの動きを停止させた。
だが、機械停止の<エンブリオ>といえども、あれほどの強大にして巨大な機械をどれほどの時間止められるかは分からない。
一分足らずで再起動するかもしれない。
ほんの、僅かな時間。
だが、彼の作ったその値千金の時間に――三人のランカーが動き出す。
◇◆
「《狂刃よ、血を啜れ》!!」
『ガウ!!』
マックスは自らの<エンブリオ>であるイペタムの背に乗って、大地を征く。
必殺スキルの百の刃を射出し、並走しながら機能停止した【MGD】へと駆ける。
『GIGAGAAAA!!』
だが、それを阻むように改造モンスター達が動き出す。
【MGD】の機能停止と外界情報の遮断を受け、フランクリンは未だ指揮下にある改造モンスター全個体に対して即座に命令を下した。
【MGD】に近づく者を全て殺せ、と。
同時に、街壁上では<マスター>を殺すようにプログラミングされていた改造モンスターも暴れている。『犯人』を殺すために。
<マスター>とモンスターの正面からの激突。
血で血を洗う恐ろしい光景。
だが、彼女達はこれを好機と見る。
最大戦力の停止している今が、友の望みを叶える好機だと。
「どきやがれっ!」
行く手を阻む改造モンスターの壁を切り開きながら、マックスは進む。
彼女だけではない。彼女の全身を援護するように他のランカー達も動いている。
ティアンのギデオン忍軍すらこの千載一遇の機会に助力せんと駆けている。
そして、戦いに加わるのは人間だけではない。
「――《瘴焔姫》……二〇秒!!」
――駆け抜ける友のために、レイもまた切札の一つを場に出す。
《極大》は使えない。召喚後のデメリットや消費を考えても、二〇がギリギリ。
それでも、決死行を切り開くべく、レイはガルドランダを召喚した。
『!』
ガルドランダはマックスや<マスター>に先行して突撃し、炎と拳で阻むモンスターを蹴散らしていく。
それでも、遮二無二襲ってくるモンスターの数は膨大で、抑えきれない。
駆けるマックスを背中から引き裂こうとするモンスターもいる。
「やらせないよ……!」
だが、それをジュリエットが防ぐ。
大量のモンスターに対して身を挺し、防いだ剣が折れても構わず、友の背を護る。
マックス達はモンスターの群れの中を進み、全身に傷を負い、血を流す。
それでも彼女達は進み続け……【MGD】に辿り着いた。
『――《零式・煉獄火炎》』
肉薄したガルドランダは、両の手を同時に【MGD】の右脚へと突き入れる。
超高温火炎と超高濃縮毒の貫手が【MGD】の足に深々と突き刺さり、内側から炎と毒気によって足首が弾け飛んだ。
反動で両腕の籠手が機能停止すると同時に、ガルドランダの召喚が解除される。
「上乗せスキルも止まって強度が戻ったらしいなッ!!」
そこに、マックスが続く。
右足首を失って傾いた巨大な改造モンスターの体表を、イペタムが駆け上がる。
彼女達は一息に腹部にまで到達し……。
「お陰で……斬りやすいぜ!!」
そう叫ぶ彼女が握るのは名刀百選が一振り、【積雲】。
その装備スキルの効果は、『武器攻撃力の集約』。
所有者が使用中の武器の攻撃力を、この刃の上に全て重ねる。
本来、【超闘士】や【阿修羅王】であっても加算できる武器の数はそう多くはない。
だが、マックスの<エンブリオ>はイペタム。
百本の多重遠隔操作式浮遊刃を持つ魔獣。
マックスはイペタムの百の刃全ての力を、この一斬に集約した。
「――百刃一刀ォォッ!!」
――放たれた斬撃は、【鉱竜王】の遺骸で作られた装甲をも突破する。
雄叫びと共に彼女は【MGD】の腹部を真横に駆け抜けて、一直線の大傷を刻んでみせた。
「へっ! どうだ……!」
直後、殺到した飛行モンスターによる襲撃を受け、突破の際にも深手を負っていたマックスはそのまま大地へと落下していく。
一人のランカーが大地に墜ちて、まずは一筋の傷が刻まれた。
「ナイス、マックスちゃん!」
彼女の命懸けの働きを見届けて、二人目が……チェルシーが動き出す。
「《天地逆転……大瀑布》!」
チェルシーのスキル宣言の直後、膨大な水の奔流がその傷口へと流れ込む
マックスの刻んだ亀裂から、チェルシーが水流を操作して内部に膨大な水を送り込んでいるのだ。
怨念動力ブロックが水没し、内部が水で満たされる。
だが、こんなもので怨念動力は壊れない。
内部の耐水性は高く、ティアン達を収めたカプセルにも影響はない。
仮に水の圧力でどうこうしようと言うならば、装甲より先に圧壊するのもカプセルだろう。
しかし、そこまでの圧力ではない。
これでは精々、【MGD】の腹の中を水で満たすだけで終わる。
何の攻撃にもなりはしない。
だが、それでいい。
チェルシーにとって、これは攻撃ではない。
単に、予め『クッション』を敷いているだけだ。
「出番だよ、【ウォータイト】!」
彼女がその言葉と共に取り出したのは、片手で握れる程度の大きさの筒。
傍目には、金属製の水筒にしか見えないモノ。
そのアイテムの銘は、【水密筒 ウォータイト】。
かつて、チェルシーが仲間達と共に討伐した<UBM>から得た逸話級特典武具。
【ウォータイト】の機能として近いものは、時間停止型のアイテムボックスだ。
水に限定して、時間を止めた状態でいくらでも保存できる。
チェルシーはこれを使い、ポセイドンが召喚した時間経過で消えるはずの水を溜め込み続けた。
戦闘となれば即座に溜め込んだ膨大な水を放出できる。
また、決闘におけるジェム使用時の取り決めと同様に、この水は彼女が作ったものであるため決闘のルールにも抵触しない。
既存の水用アイテムボックスとは比較にならない容量であるため、それこそ闘技場の結界内を一気に水没させることも可能。
しかし、逆を言えば……水を溜め込むだけならば容量に差はあるが市販のアイテムボックスにもできること。
それこそ、グランバロアでは必需品になっている類のアイテムだ。
ゆえに当然――その程度が特典武具の機能の全てではない。
【ウォータイト】は水を溜め込み、一瞬で放出するだけの特典武具。
しかし放出の際、『量』と『径』を選べる。
どれほどの『量』を、どれほどの『径』で外部に放出するかを選べる。
それが、意味することは?
「――放水開始!!」
――直後、チェルシーの手元から【MGD】へと一条の線が延びる。
その線に触れた瞬間、【MGD】の装甲が轟音と共に削られ、断たれていく。
それは、ウォータージェット。
膨大な水を圧縮放出することで放たれる水の刃。
水の保存と放出に過ぎぬ力は、量と使い方次第で武器となる。
工業において金属の切断に使われるのもまた、水の刃。
地球のそれと比較にならない出力の水の刃は【MGD】の装甲を削り、切り裂き、貫通する。
しかし、その刃は内部の人間を傷つけない。
腹の中に満たされた水が、ウォータージェットを受け止める。
水の噴流は水中では数センチから数十センチで拡散し、速度エネルギーが失われ、無力化される。
人を傷つけるには、至らない。
そのために、チェルシーは【MGD】の腹の中を予め水で満たしていた。
「これで……どう!!」
【ウォータイト】を振るっていたチェルシーだが、それを脅威と見たのか地中からのワームの奇襲に呑まれていった。
しかし、彼女もまた刻んだ。
チェルシーが【ウォータイト】を振り下ろして、刻んだ二本目の大傷。
マックスの刻んだ傷と重なるようにつけられたそれは、【MGD】の腹に『Г』の字を刻む。
あと、一辺。
それを刻む者は、決まっている。
「――後は任せて」
マックスと共にモンスターの壁を突破したジュリエット。
彼女の全身にも深い傷が刻まれている。
友の決死行を護るため、そして自分の役割を果たすため。
「《不屈の剣》」
折れていたはずの刃が、彼女の宣言と共に蘇る。
それは彼女が<トーナメント>で得た特典武具、【魂刃輝 グラッドソウル】のスキル。
【魂刃輝】が破壊された際に――使用者のHPを半分支払うことで即座に修復させる。
そして効果は、刃の修復の他にもう一つ。
「《カース・コンバージョン》」
剣に【暗黒騎士】の《告別の黒闇》で呪いを付与した場合、装備しているジュリエットへのバフに転換し、HPMPSPを除いたステ-タスを上昇させる。
通常時で五〇%アップ……《不屈の剣》使用時は二〇〇%アップの大幅強化。
「《閃光の如く》」
そしてジュリエットは、胸元のアクセサリーを握り込む。
それこそは、古代伝説級特典武具【残照燈火 クライマックス】。
自身のHPが最大値の一割未満の時のみ使用可能なアクセサリー。
スキルの名は、《閃光の如く》。
HPが一割未満で維持される限り、全ステータスの最終値を三倍化し、全スキルのMP・SP消費を0とする。
これが今のジュリエットの戦闘スタイル、背水ビルド。
かつて【嫉妬魔王】との戦いをも制した、彼女の力。
だが、彼女のこのコンボは、【MGD】がいる環境では悪手。
【DU】以上の強化値を与えることになりかねない。
しかし、【MGD】が動けない今ならば、《キメラテック・オーバード》が機能しない今ならば……。
彼女は――全力で戦える。
「いくよ……!」
傷だらけの身体で、呪い纏う刃で、【MGD】へと飛翔。
二人の友がつけた傷跡に繋ぐように、刃で刻む。
数万の強度を誇る【MGD】の装甲が、それを上回る力で断ち割られていく。
刻まれる傷跡の三角形、その最後の一辺が延びていく。
『――再起動』
だが、その傷を刻み終える前に、【MGD】が自由を取り戻す。
動力炉を再動させ、怨念動力を回し、《キメラテック・オーバード》を再稼働。
そして、この場で最大のステータスの持ち主と化したジュリエットをコピーする。
『――抹消』
それによって、【MGD】のステータスは跳ね上がった。
今のジュリエット以上の速度で、まるで羽虫を潰すように左手を彼女に叩きつける。
グシャリと、肉と骨の潰れる音がする。
回避もままならなかったのか、ジュリエットは直撃を受けた。
ランカー三人の決死行も、それで終わりだと……見る者が絶望する。
「…………」
だが、レイは目を逸らさない。
自らもガルドランダ召喚の反動で全身を燃やしながら、その目は絶望していない。
彼は彼女達を信じていたし、知っている。
彼女達もまた――此処では終わらないのだと。
直後、改造モンスターの一角が百の刃に切り裂かれる。
一斬後に撃墜されたはずの剣士が、ボロボロの身体でも立ち上がり……周囲のモンスターを撃破する。
地中から液状の黄金とワームの破片が噴き出す。
ワームに呑まれた先で、地中のモンスター達を圧し潰し返すように必殺スキルを発動した海賊が地上に飛び出てくる。
そして――【MGD】の左腕が砕ける。
強度を増したはずの左手に大穴を空けたのは、飛翔する流星。
【死兵】によって命繋いだ堕天の騎士が、【MGD】の左腕を貫いて夜空を翔ける。
「《死喰鳥――」
彼女は風と闇と黒羽を纏い、飛ぶ。
「――飛翔流星》ァァァ!!」
――自らの刻む、最期の一斬のために。
空中で軌跡を描いた流星を、【MGD】は回避しようとした。
だが、叶わない。
ガルドランダによって右足首から先を失った身では、大きな回避はできない。
何より、今のジュリエットは――額面上の数値よりも速い。
自らの研鑽によって編み出した必殺スキルの進化系。
それは、数値のみで上回った相手を凌駕する。
超加速した風巻く流星は巨大な怪物を逃がさず捉え、
――命懸けの一斬を刻み込む。
そして怪物の腹部に残るのは、巨大な三角形。
その傷跡によって装甲が外れ落ち……【MGD】の腹部には大穴が空く。
大穴の先には怨念動力ユニット……救出対象となるティアンの姿。
レイが望む可能性への道が……文字通りに抉じ開けられた。
「がんばってね……!」
そして、命の限りを尽くして道を拓いたジュリエットは光の塵になり、
「――ああ」
――彼女のバトンを受け取るように、心身を燃やしてレイが答えた。
To be continued
(=ↀωↀ=)<明日は連続更新予定
(=ↀωↀ=)<そして戦争が終わる
〇【水密筒 ウォータイト】
(=ↀωↀ=)<22巻とかで出し損ねたチェルシーの特典武具
(=ↀωↀ=)<類似品がファトゥムの【アズモール】
(=ↀωↀ=)<ウォーターカッター運用も闘技場結界内水没運用もどっちも強めだけど
(=ↀωↀ=)<作中にも出てる性質上、併用は難しい感じですね
(=ↀωↀ=)<ちなみに生前の<UBM>は一言で言うとロアルドロスみたいな奴だった
〇ブルースクリーン
(=ↀωↀ=)<このために前振りされてた人
(=ↀωↀ=)<先々期文明兵器にも有効というお墨付きな機械特効
(=ↀωↀ=)<ネーム貰ってる漫画版77話で漫画にもバッチリ登場するので今が旬な人
(=ↀωↀ=)<ちなみに一月二日更新予定の最新76話ではラングがビジュアル化しますね
(=ↀωↀ=)<お楽しみに




