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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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第一七一話 リング 前編

(=ↀωↀ=)<なろうチアーズを始めてみました


(=ↀωↀ=)<下に広告が出るようです


(=ↀωↀ=)<読まれるほど作者が助かるようなのでよろしくお願いいたします

 □■<城塞都市 クレーミル>跡地


 既に、日は沈んだ。

 跡形もなく滅んだ都市に文明の灯火はなく、月明かりのみが……彼らを夜の闇から照らし出している。

 獣の皮(神衣)を被った男と、獣の皮(アバター)を被った少女。

 シュウとベヘモットは、此処に再び対峙した。


『邪魔者はそっちで処理してくれたんだね』

「言い方が酷いな。皇国の仲間だろう?」

『別に』


 それが本心からの言葉であろうことは、声音から明白だった。

 彼女が仲間と思える者など、片手で数えられる。

 今回半ば協力関係であるフランクリンすらも入っているかは怪しい。

 〈マスター〉で仲間と思っている者がいるとすれば、自分とは違う形でクラウディア(ラインハルト)と近しいジュバくらいのものだろう。

 そのジュバも、既に退場している。


『“酒池肉林”はいい虫除けだけど、飛んでくる奴らは考慮しなかったの?』

「皇国の航空戦力は〈ウェルキン・アライアンス〉との戦いで粗方使い切ったからな」


 この世界では、元より数が限られている。

 そして皇国側の殆どは王国第四位クランとの激戦で失われていた。


「残った奴が来たとしても、それは撃ち落とせばいいからな」


 大抵の相手は、バルドルの対空砲火を越えられないだろう。

 それが可能であったガンドールも、既に退場している。

 戦争の最終日とは、そういうものだ。

 名の知れた者も、未知の猛者も、多くが既に盤面を去っている。

 残っている者も、レイレイの音を越えられない。

 だからこそ、この地に自分達だけで立てている。


(とはいえ、ベヘモットにも効く流れもあった)


 ステータス比例耐性バフの【ブルドリム】は強力だが、あくまで装備品だ。

 合体状態でなければ、ベヘモットにしか効果はない。

 いつものようにノコノコと二人セットで来ればレヴィアタンが耐性デバフを受けて死に瀕し、そしてレヴィアタンが死ねば《獣心憑依》のなくなったベヘモットも死ぬことになっただろう。

 無論、そんな罠に掛かる相手とは思っていない。

 そして結果は御覧の通り。やはり彼女は迂闊に引っかかるような手合いではなかった。


(音の範囲外且つ、《獣心憑依》の有効範囲にレヴィアタンを置いてきたのか?)


 スキルレベルEXの《獣心憑依》は一〇〇%上乗せするだけでなく、スキルの有効範囲の広さも特徴だ。

 それこそ、講和会議のときにはあれほど離れても機能していた。


(とはいえ、合体の必殺スキルを使うなら両者の距離を詰める必要があるはずだ)


 ならばレヴィアタンはどうやってここに近づいてくるのか。

 一時的にベヘモットが此処を離れて合体して戻ってくるつもりなのか。


(いや、この局面で単に話すためだけに近づいてくるほどコイツは温くない)


 ならばその狙いはとシュウが考えたとき……。


『撃ち落とす……ね』


 ベヘモットが先のシュウの言葉に対し、そう呟いて……。



『――やってみて(・・・・・)?』

 ――試すように、獣の顔で笑いかけた。



 直後、地響きと共に何かがこの地に迫って来る。


『GAAAAAAHHHH!!』


 地平線の彼方から爆走してくる巨大な獣の影。

 彼方から走って来るのに、その姿は明確に見えている。

 あまりにも大きいからだ。

 凄まじい勢いで大地を蹴立てながら、その足音は聞こえてこない。音よりも速いからだ。


 【怪獣女王 レヴィアタン】が助走をつけて駆けてくる。


跳んで(・・・)、レヴィ』

「チッ! 《無双之戦神(バルドル)》!!」


 ベヘモットとシュウの言葉は同時だった。

 ベヘモットの言葉でレヴィアタンが跳び、シュウの言葉でバルドルが変形する。


 この時点で、シュウはベヘモットの意図を理解していた。

 わざわざ一人だけシュウの所まで歩いてきたのは、『音の範囲』を確かめるためだ。

 エデンの仕様上、結界の中心部にいるシュウ……クレーミルの跡地にまで音は届かないようにしている。

 ならば周辺フィールドにどの程度の()で音が流れているのかを、ベヘモットはデバフが効かない自分自身で把握し……それをレヴィアタンに伝えた。

 そして、音の聞こえない範囲から内側まで、飛び越えさせた。

 数千メテルの大跳躍。

 だが、この大怪獣ならば何の問題もない。

 さらにシュウに届かないように音量を加減されている歌では、上方まで響くのにも限度がある。


 そうしてレヴィアタンは音の結界をハードルのように飛び越えて、その爪を振り下ろす。


『ッ……!』


 その爪をいなし、弾いたのは巨大な鋼の巨神。

 必殺スキルによって人型へと変じたバルドルの、戦神艦迫撃決戦形態フル・オフェンスモード

 レヴィアタンに対して対空火器ではどうにもならないと即座に判断し、一手先に必殺スキルを使ったから凌げた。


『――――』

『そうなるよな……!』


 飛び掛かるという単純な動きをしたレヴィアタンに対しカウンターの一撃を放つ隙はあったが、それは死角に動いていたベヘモットの攻撃に対処する動きに費やされる。

 サイズこそ違うが、ステータスで言えばベヘモットだけでも同格以上なのだ。

 クレーミルの跡地を舞台に、シュウは一対二の戦いを強いられる


 ――ことはない。


『レヴィ』

『……ええ』


 シュウが初撃を凌いだ直後に、ベヘモットとレヴィアタンは揃って距離を取り始める。

 なぜなら、それで勝てるからだ。

 シュウが先に必殺スキルを発動してしまった。

 この時点で、ベヘモットは勝利を半ば確信する。

 そう、それこそは戦争前にシュウがアルティミアと話していた懸念事項。


 ベヘモットは……“物理最強”は、シュウを相手に『逃げれば確実に勝てる』。


 時間制限付きの必殺を使わせて、その効果が切れるのを待ってから倒せばそれでいい。


(シュウの必殺スキルの時間は、推定で約三〇分。エネルギーセル一つでそれくらいって話だけど、多分在庫は多くない。三〇分……長くても一時間もすればそれで限界)


 変形が解ければ、確実に勝利できる。

 ベヘモット達は必殺スキルを使わなくとも今のバルドルよりもステータス……特にAGIでは優越している。

 《無双之戦神》と違い、ベヘモット側はこの通常の戦闘スタイルならば二十四時間でも続けられる。

 そして、AGIで大きく劣るバルドルではベヘモット達に追いつけない。

 バルドルの攻撃で恐ろしいのは近接戦闘のみであり、速度で勝るベヘモット達が逃げに回ればもう間合いに捉えることは不可能である。


(……思惑通り)


 フランクリンとすり合わせたとき、ベヘモットはフランクリンと違って個人の感情や執着だけでシュウの相手を選んだ訳ではない。

 ただ、自分がやれば確実に勝てることと、自分以外では誰であってもシュウに負ける公算があったゆえだ。

 先の講和会議でシュウ相手の遅延戦術の有効性に気づいてしまえば、この通り。


(シュウの撃破に長くて一時間。もしかしたらその間にフランクリンが負けているかもしれないけど、それでも問題ない)


 ベヘモットはフランクリンが負ける可能性はあると踏んでいる。

 フランクリンの相手であるレイが追い詰めるほど逆転の一手を繰り出す手合いであると、ベヘモットも知っている。

 あるいはフランクリンが死なずとも、<宝>が折られることはありうるだろう。

 しかし、それでも問題ない。

 シュウを確実に倒した後、ベヘモットがギデオンまで駆けてレイを倒す。

 それで戦争は終わりだとベヘモットは考える。


『…………』


 本心で言えば、シュウとはもっと別の形で決着をつけたくもあった。

 だが、この戦争にはクラウディアの願いが掛かっている。

 ゆえに、親友のためにベヘモットは自分の願望に蓋をしている。

 まずは確勝の戦術でシュウを破る。

 そう考えながら、ベヘモットはクレーミルの跡地から超々音速で離脱して……。



【皇国のフラッグ:<命>が戦場外に出ました】

【一時的に皇国のフラッグ:<命>を機能停止します】



『――――え?』


 それはありえないはずのアナウンスだ。

 <命>を担う<マスター>が王国の都市内に入ったときなどに聞こえるという警告アナウンスであり、残数判定から一時的に省かれるという報せ。

 無論、戦場に戻れば再度判定は戻るし、破壊されていないので機能停止時刻にもカウントされない。

 だが、問題はそうではない。


戦場外(・・・)? どうして?)


 そのアナウンスがなされること自体が、ベヘモットには何かの間違いとしか思えない。

 なぜならここはクレーミルの……王国の領土内。

 間違いなく、ルールによって明示された戦場の中なのだから。


『どういうこと……!?』

『ベヘモット……!』


 ベヘモットは困惑し、来たときのように跳んで離脱するはずだったレヴィアタンも足を止めている。


『――時間通りに来てくれて良かったよ』


 そうして思考が疑問に埋め尽くされつつある彼女達に、シュウの声が届く。


決行(・・)時刻はお前が敷地に入った直後だったからな。ドンピシャだ』

『シュウ……? 何の話……?』

『事前に第一王女(アルティミア)が準備した通りになって一安心だ。やっぱり権力使えると強いクマ』

『だから何の話を……!!』


 何が起きているのか理解できず、声を荒げて問うベヘモット。


『分からねえか? ま、そうだろうな』


 そんな彼女に、あえて挑発を滲ませながらシュウは答える。

 彼が口にするのは、この状況の答えでありかつてシュウがアルティミアに打診した策。

 それは……。



『――今日の夕方五時付で、クレーミル跡地(此処)以外……この地方の領土を放棄した(・・・・)



『ほう、き?』


 何が起きているのかをシュウの口から説明されても、ベヘモットには彼が何を言っているのか理解できない。


『戻ってきな。お前らの立ってる其処はもう――戦場(王国)じゃねえ』


 そんな彼女を誘うように、鋼の巨神がクレーミル(リング)の中から手招いていた。


 To be continued

( ̄(エ) ̄)<本日はこの後22時にまた更新クマー



○アナウンス


(=ↀωↀ=)<ダッチェスによるアナウンス


(=ↀωↀ=)<レイ君の時もあったはずなんだけど


(=ↀωↀ=)<彼は<墓標迷宮>で【気絶】してから運び込まれたりしてたので描写的に初


(=ↀωↀ=)<まぁ書籍だと多分どこかで足す


(=ↀωↀ=)<遺跡から転移したときとか

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― 新着の感想 ―
改めてダッチェスの仕事量がヤバイ。特に調整出来ないノルマが。キャタピラーは仕事量は多くても後処理だから調整できるけど、ダッチェスは全てリアルタイム対応だからマジ辛いヤツ過ぎると思った。チュートリアル担…
巨大怪獣って言葉で特撮の動きがイメージされるけどそういや超音速で空中含めビュンビュン跳び回るんだよなぁ。
クラウディアならこれくらいは予想の内でもおかしくないと思うんですけど何故伝えないor伝えられなかったのか? 今回の戦争の皇国の作戦って全体的に失敗することを規定路線としてるかのように感じる場面が多いん…
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