第一七〇話 最後の対戦カード
(=ↀωↀ=)<本日ちょっと短め
(=ↀωↀ=)<12月に23巻だけでなく漫画版も出るので
(=ↀωↀ=)<あとがきと店舗特典SSと漫画版SS執筆中
(=ↀωↀ=)<忙しいものの書籍動いてるとちょっと安心しますね
□■クレーミル跡地・南方フィールド
シュウ・スターリングによる<DIN>を介したアナウンスは王国全土に響き渡った。
この王国のどこかに潜むベヘモットに必ず届けるためであったが、それは同時に彼女以外の皇国側生存者にも<宝>とシュウの所在を知られることに繋がる。
そして自身の宿敵との決戦に集中するフランクリンは別として、他の多くの皇国の<マスター>はそちらに向かっていた。
「本当にやれるのか?」
「やれるぜ。【破壊王】本人をブッ倒すならともかく、フラッグを壊すだけなら<エンブリオ>でいくらでもやりようがあるさ」
「ヘヘッ……大金星って奴だな」
話しながらクレーミルへと向かっている数人の<マスター>も、そんな者達の一部だ。
高速移動手段……地を走る魔獣型の<エンブリオ>を持っていたため、大急ぎでクレーミルへと馳せ参じようとしている。
「でもよぅ、狙うなら<超級>が護ってる<宝>より<命>の方が楽じゃねえか?」
「バカ。あっちはあのフランクリンが態々呼びつけてんだぞ。茶々入れたらこっちが粘着PKされちまうわ」
「おお、こわっ……」
フランクリンはかつて本当に粘着PKを実行してかつてのランカーの一人……バルサミナを半ば引退に追い込んだと認識されている。
実際、それもあってフランクリンや<叡智の三角>に手を出す人間は減ったため、それ自体がフランクリンの狙い通りではあったのだろう。
そしてこの場でも、その風評は他の<マスター>の行動に影響を与えていた。
「対してこっちは【破壊王】がバカみたいなアナウンスで【獣王】を呼んでるだけだ。俺らがフラッグ壊しても文句は言われねえよ」
実際は介入してきた者にベヘモットは容赦しないだろうが、そんなことは分からない。
良くも悪くも……他の皇国の<マスター>との関わりが著しく薄いのがベヘモットだ。
ゆえに、強さ以外の正確な人物像やシュウとの関係など、余人が知る由もない。
「ククク、クレーミルに着けばあとは簡単だ! 俺のスプーン・ベンディングは念力の<エンブリオ>! フラッグなんざ視ただけで圧し折れるぜ!」
(スプーン曲げ……)
(……こいつの<エンブリオ>ってシンプル強いけど名前だっせえよなぁ……)
その名が示す超能力或いは手品の如く、視認した金属に力場を掛け、歪曲し、破壊する。
視認さえすればフラッグを一撃破壊可能な能力である。
逆に言えば、視認の必要があるため奥底に守られた<砦>には向かず、人体である<命>にも通じないが、<宝>ならばワンチャンあると考えている。
「でもよ、噂の陸上戦艦の中に仕舞われてたらどうすんだ?」
「そのときはそのときでやれることはあるぜ!」
そも【破壊王】の<エンブリオ>も金属製。
フラッグ破壊はできずとも最低限の邪魔はできるだろう。
金属に特化した念力であるため、砲身を捻じ曲げることも可能なのだ。
実際、<マジンギア>との模擬戦で彼はそのように勝利してきた。
「この戦争の最終盤で一旗揚げてやるぜ!」
『♪~』
「おうよ!」
「俺もタクシーしてるし報酬は山分けで頼むぞ」
「あたぼうよ!」
彼らは意気揚々とクレーミルへと近づいていく。
<超級>が花形のこの戦争で自分達の痕跡を刻み付け、そして莫大な報酬を手に入れてやると意気込んでいる。
『♪~♪~』
「いいぜ! ノッてきた! 歌の一つも歌いたくなるってもんよ!」
「レイチェル・レイミューズの新譜いいよな」
聞こえてきた音楽が更に彼らのテンションを上げる。
しかしふと、タクシー役の<マスター>が首を傾げた。
「いやこれ……どこから聞こえてんだ?」
そんな疑問を口にした彼らは、
『――♪~~~』
――次の瞬間に、音の中で即死した。
駆けていた魔獣型の足の骨が折れて空中に放り出され、地にぶつかった瞬間に自分達も弾け飛んだ。
まるで、衝撃や重さに耐えられないほど脆くなっていたように。
そして同じ現象は……クレーミルの四方で起きていた。
身体の内側から溶けた者もいれば、熱で焼けた者も、衝撃で崩れた者もいる。
突然に、身体の全てが脆弱化して死んでいく。
結果として、クレーミルに近づく者は尽く……死に果てた。
ただ一組を除いて。
◇◆◇
□■<城塞都市 クレーミル>跡地
既に滅んだ都市の中心に、一隻の巨大な戦艦が鎮座している。
その戦艦の名は、【戦神艦 バルドル】。
かつては謎に包まれていた【破壊王】の<超級エンブリオ>だが、<南海>・ギデオン・講和会議と衆目に晒される幾度かの戦場を経た今はその存在が周知された艦だ。
「…………」
そのブリッジの上に、熊の毛皮――神衣を纏った男が立っている。
化けの皮とも言うべき着ぐるみではなく、迷彩能力も今は使っていない。
これから待ち合わせている相手には、不要であるからだ。
そして待ち合わせの相手以外は、此処には来れない。
「……派手にやってるな、レイレイさん」
シュウは自身の知人であり、この戦争で姿が見えなかった最後の<超級>の名を挙げる。
“酒池肉林”のレイレイ……超耐性デバフという無差別殺傷能力を発揮する、王国最凶の<超級>である彼女はリアルの多忙――ツアーの真っ最中――ゆえに戦争参加は見送られると考えられていた。
しかし、今、このクレーミルには彼女がいる。
単純な話だ。どれほど忙しくとも、タイミング次第では数分程度のログイン時間は作れた。
戦争による加速中ならば、一時間か二時間程度。
ゆえに、シュウは予めレイレイに頼み、その時間をこの三日目の夕刻に合わせてもらった。
自分がベヘモットを呼び寄せる際に、余計な邪魔を入れないようにするために。
同時に、この王国に残存していた皇国の<マスター>を引き寄せ、削り、レイ達の戦いを楽にするために。
そのために、シュウはこのクレーミルで準備をしていた。
レイレイのエデンは彼女の発する音を媒介とする<超級エンブリオ>。
歌声や相手との接触音など、彼女の音に触れたものは耐性が下がる。
クレーミルの周囲には予め地下にマジックアイテムの伝声管を埋設させており、レイレイの任意の場所に歌声を届けることができる。
クレーミルを囲うように張られた音の結界は、そこを通る者を逃さない。
今この時間帯、クレーミルに接近する者はレイレイの歌によって死に至る。
戦争において、彼女はその無差別さゆえに本領を発揮しづらかった。
この戦術は王国の<マスター>やティアンを巻き込まず、彼女という極大戦力を有効活用できる一手ではあった。
しかし、それが効くのは邪魔者に限った話だ。
この歌の結界を超えられる者ならば、歌の結界を通っても問題はない。
即ち……。
『――Hiya』
「――よう。時間通りだな」
この場に招待されたモノ……耐性デバフの結界をステータス比例の耐性バフによって物ともせずシュウの前に辿り着いた一組の獣達のように。
◇◆
ギデオンにて王国の<マスター>達がモンスターとの戦闘を始めて間もない頃。
この戦争における最後の対戦カード……【破壊王】と【獣王】がクレーミルにて邂逅した。
To be continued




