第一六九話 選択
(=ↀωↀ=)<本日作者誕生日
(=ↀωↀ=)<身内から誕プレにポケモンZA貰ったのでデジモンTS終わったら遊びます
( ꒪|勅|꒪)<WEB原稿書いて24巻とSP4の準備もうちょっとやってからナ
(=○ω○=)<…………(白目)
(=○ω○=)<あ、SP4は童話分隊(大半書き下ろし)予定です
■『動力』について
<マジンギア>を中心とした生産クランである<叡智の三角>にとって、初期から課題となっていたことがある。
それは、<マジンギア>を動かすエネルギーに関するものだ。
<マジンギア>の性能を上げる手っ取り早い方法は出力を上げることだが、稼働を搭乗者のMPに依存する現代の機体では加速度的に戦闘継続時間が短くなる。
それは機体に回すエネルギーを増幅するエンジンを通しても解決しきれない問題だ。
戦車型の機体は搭乗者を増やすことで解決せんとし、あるいは搭乗者が超級職となることで無理やりクリアした場合もある。
それら以外では、偶発的にできた歌うエンジンが現行品よりも遥かに高効率であったが、それでも出力を上げれば戦闘継続時間は他の機体と大差ない。
この魔力機式兵器にとって逃れられぬ燃費問題の解決策は早い段階で明示されていた。
先々期文明の動力炉。どこかから魔力を捻出し続けるあの機械ならば、出力の問題も稼働時間の問題も解決できる。
しかし、動力炉は貴重品であり、オンリーワンの特別機体ならばともかく量産機に搭載することはできない。
それこそ、先々期文明でも大量生産前提の煌玉兵や【セカンドモデル】は動力炉がなく、搭乗者への依存が大きかった。
であるならば、先々期文明以外の方法で解決を模索するしかない。
そのプランの一つが、怨念動力構想だった。
怨念を消費して効果を発揮する攻撃スキルや、怨念によって効果を高める……あるいは極端化するアイテムなど、怨念というエネルギーの影響力は数多く確認されている。
加えて、怨念は容易く発生するし、過酷な戦場ほど満ちている。
この怨念を利用する仕組みを機体に組み込めば、エネルギー問題を解決できる。
そう考え、当時皇国に滞在していた【冥王】――世界の怨念の総量を減らすことが目的だった――の協力も得ながら開発を進めた。
しかし、結果として上手くはいかなかった。
周囲の怨念を吸収して機体を動かそうとすると、取り込んだ怨念によって機体が暴走するのだ。
その結果に、フランクリンを始めとする技術者達は納得した。
『妖刀やモンスター化する器物って怨念に浸されてできるものだったねぇ』、と。
モンスター……<UBM>化した機械式ゴーレムは<遺跡>で度々見つかっていた。
このプランを進めても出来上がるのはエネルギー問題を解決した兵器ではなく、機械でできたアンデッドモンスターに過ぎない。それが開発陣にも理解できた。
そのため、怨念動力構想は没となり、エネルギー問題の解決はエンジンの改良や東方の【符】に代表される魔力貯蔵技術に解決を求めることとなった。
ただ、このときフランクリンはあることを考えていた。
『機体には使えないけど……モンスターならいけるんじゃないかしら?』
素材を費やしてもパンデモニウムで創れるモンスターの性能には限界がある。
そこで彼女が構想していたのが接合改造モンスター【ディラン】を中心に複数の改造モンスターを組み合わせる【MGD】だ。
『能力を共有する』改造モンスターと『個別のステータス加算能力』など固有能力に特化した改造モンスター達との合体によって限界の突破を試みる。
そしてフランクリンは、【MGD】の一部に『怨念をエネルギーとする改造モンスター』を組み込めば、戦闘中のエネルギー問題を解決する補助にはなるのではないかと考えたのだ。
『怨念の濃い地域ほど強力なアンデッドが生まれやすい。そも、墓地や古戦場に集まる性質もある。あれは生きる上で――死んでいるけれど――怨念を活用しているのよね。人間が酸素を吸って動いているように』
それこそ、先に挙げた器物が良い例だ。
アンデッドや呪いの武具は、何らかの形で怨念を利用して存在している。
それこそ、呪いを浄化すると消滅や弱体化されるものも多い。
あれらは怨念があるからこそ、それを使っているからこそ、強い。
『都合よくそれに特化した<UBM>でもいれば……いえ、いなくても大量のアンデッドを素材にしてその共通特性だけ抽出すれば……』
フランクリンはそこまで考えて……しかしこれは『なし』だなと判断した。
『アンデッドだって死者の怨念が集中すれば暴走リスクが高まる。【ディラン】の方が汚染される危険は冒せないわ』
死者の怨念は無尽蔵に取り込んで利用するにはあまりにも混沌としているのだ。
【冥王】の説明によれば、世の中には無数の魂が溶けた怨念だまりもある。
そんなものを吸収すれば、最悪の場合はフランクリンの手を離れて暴走するだろう。
『結局、エネルギーとして利用するならクリーンな怨念じゃないとダメってことね。…………クリーンな怨念って何って話だけれど』
そうして、フランクリンは再び怨念動力構想を捨てた。
それで話は終わったはずだった。
彼女の妹が、とある山賊団のアジトから研究資料を持ち帰るまでは。
◇◆◇
□■<ジャンド草原>
『――君の真似だよ』
【MGD】の腹部……大量のカプセルとその中のティアン達を見せつけながら、フランクリンはレイにそう告げた。
「俺の、真似……!? この人達を閉じ込めることが、何の真似だって言うんだ!」
どういうことだと困惑するレイに、フランクリンは嗤いながら一つの名を告げる。
『<ゴゥズメイズ山賊団>』
「……!」
『知っているだろう? 君が倒して、今もブーツとしてこき使ってる連中なんだからさ』
レイの足元を見てそう言いながら、フランクリンはなお嗤う。
そして当然、レイも忘れる訳がない。
武具としての【紫怨走甲】ではない。
かつて、あの砦の地下で……数多くの子供を犠牲にした者達。
間違いなく、この世界でレイの心に最も大きな傷を刻みつけた者の名を、忘れる訳がない。
『あのときの私は【PSS】で君達の会話を聞いていたからねぇ。色々と話したのも分かってるし、その後にデータも手に入ったから……勉強になったよとも』
「勉強、だと?」
『怨念動力構想。これもあの子から聞いているだろう?』
怨念を利用して<マジンギア>のエネルギーにしようとしたプランだとユーゴーが話したことはレイも覚えている。
『あの子が言ったように私達は失敗した。あのときの私は発想力が足りなかったからねぇ。いや、この世界への理解度が足りていなかったのかな?』
「何を言っている……?」
『だから、君の真似さ。それとも君から学んだ、と言うべきかな?』
勿体ぶるように言葉を繋げているフランクリン。
しかし、やがてレイを真っすぐに――しかし澱んだ目で――見つめながら告げる。
『――生きてる人間だって怨念を吐くし、利用できるってさ』
「――まさか」
フランクリンの言葉が何を意味するのか、レイにはすぐに理解できた。
理解、できてしまう。
『怨念は、死者の専売特許じゃない。<ゴゥズメイズ山賊団>の首魁は生きている子供を苦しめて怨念を蓄積していたそうじゃあないか。何より、君自身が私との戦いで負の思念のエネルギー化を存分に見せてくれたからねぇ』
なぜなら、彼がその力で戦ってきたからだ。
多くの悲劇の前に立ち、だからこそ……悲劇に嘆く人の力を【紫怨走甲】は吸ってきた。
悲劇で生まれたものを、悲劇を覆す力として使ってきた。
それこそ、かつてフランクリンの陰謀を破った【RSK】の撃破に使われたのは、悲劇の中でギデオンの住人が生んだ膨大な怨念だ。
『なら、私だってそれを使うことを考えるとも』
しかし、万人がレイのように使うとは限らない。
それこそ……彼の宿敵のように。
『混濁した死者の怨念に比べて、生者の怨念……恐怖と絶望は使いやすい』
魂が混ざらず、培養液を介して改造モンスターが見せる悪夢で質を均した生者の怨念ならば、死者の怨念と比べて制御と変換の難易度は著しく落ちる。
『難点は<マスター>だと効率が悪いことかねぇ。やっぱりほら、本当に死ぬ立場じゃないと死ぬほど苦しくてもろくに出てこないんだよ』
『精神保護や感覚オフの弊害かねぇ』とどこか愉快そうにフランクリンは言う。
ゆえに、ティアンがこの戦場にいる。
苦悶の中で怨念を吐き出す燃料タンクとして。
「フランクリン……!」
それを実行するフランクリンの言動が、目の前で死ぬほど苦しめる所業が、レイの怒りを誘う。
『怒るなよレイくぅん。これ、抽選になるくらい大人気の仕事なんだからさぁ!』
しかし罪悪感などないような、煽るような振る舞いでフランクリンは嗤う。
「仕事、だと!?」
『そうそう。ほら、皇国って飢餓の最中だろう。私達みたいな<マスター>や力ある立場、軍人なんかはそうでもないけど、平民の下の方は食うや食わずでさ』
よく視れば、カプセルに入った者はいずれも身が細く、あばら骨が浮いた者も少なくない。
『そんな連中の中から希望者を募っただけさ。「ほぼ確実に死ぬけど、家族に金と食料をたっぷり遺せる仕事に興味はない?」ってさぁ。そしたらすごい倍率でねぇ。【MGD】の腹に収まる十倍以上は集まったよ。「子供だけは生き延びて欲しい」とか言ってさ』
『枠を争って殺し合いも起きかけたっけ』と、懐かしむように呟く。
その言葉の全てに、嘘がない。
《真偽判定》はカプセルの中の彼らの背景を、残酷なまでに証明していた。
『<マスター>とティアンで協力して戦争に臨むのはどっちの国も同じだねぇ』
「……、……!」
レイは、戦争の前にアズライトが言った言葉を覚えている。
――<マスター>に頼った死なない戦争。
――馬鹿を言わないでほしいわ。戦争は遊戯ではないし、他人事でもない。
――そこを履き違えて、委ねるだけならばこの国に意味はないのよ。
――<マスター>は……願えば解決してくれる神の遣いではない。
――私達と同じ、生きている人間。
――同じだからこそ……貴方達と同様に、貴方達と共に……私達も力を尽くす。
その言葉のままに、教会で、<遺跡>で、そしてこのギデオンで……ティアンの人々は<マスター>達を助け、自分達にできることを尽くしてくれた。
その行為をこれと同じことだと、生きている限り苦しめて戦場で死なせることと同じことだとフランクリンは言い切った。
レイはそれを咄嗟に、感情的に、否定しようとして、しかし……。
「…………っ」
『レイ……』
「違う」という言葉は、出なかった。
やせ細った身体で、苦悶の表情で、しかし『家族のために戦場にいる』人々の姿から、目を逸らすことができなかった。
彼らもまた、守りたい人のためにこの死地にいると分かってしまったから。
レイは、<ゴゥズメイズ山賊団>のように我欲のために無辜の命を苦しめ殺す相手ならばティアンであろうと憤怒と共に殺めるだろう。
だが、自分と関わった多くの王国のティアン達と同じように、守りたい者のためにその身を削るような者達であるならば。
それが眼前に立ちはだかる敵であったとしても、彼の目には……この国で懸命に抗っていたティアン達と重なってしまう。
『……そうでしょうね、君は』
ほんの一瞬、憐れむような色がフランクリンの視線に混ざる。
『――で、どうするんだぁい? レイくぅん?』
――しかしそれも、より多量の悪意の中に消えていく。
フランクリンがティアン利用の怨念動力をこの戦場に持ち込んだのは、エネルギーだけが理由ではない。
そも、怨念を吐き出すだけならそれ用の改造モンスターを用意する。
かつて【RSK】が焼かれながら怨念を吐き出していたように、モンスターも怨念を生む。
実際、露出していないブロックではそうしたモンスターが怨念を吐いている。
しかしあえて、数十人のティアンも怨念動力に組み込んでこの戦いに臨んだ。
『彼らは言うなれば志願兵。そもそも今は戦場でティアンを殺しても罪にはならない。彼らを殺せば【MGD】のスキル運用に支障が生まれる。それと逆に、生命維持装置でもある【MGD】が壊れたときにカプセルの中の彼らがどうなるかは保証できかねるけどねぇ』
「……お、前……!」
『でも構わないだろう? 君にとっては『敵』なんだから』
それは全て……。
『――戦争に勝つために……この『敵』を倒してみせなよ』
――レイの前にこの選択を提示するため。
『フランクリンがギデオンを人質にとってレイの退場を迫ることはないのか?』。
それがこの決戦に臨む前のネメシスの懸念だった。
その懸念に対してレイは、フランクリンが『人質をとって戦わずして勝とう』などはしないと考えた。
それはある意味では、正しい。
レイの護りたい人々を盾にして死を迫るような真似はしない。
選択に並べるのは『勝利』と『味方の死』ではない。
フランクリンが宿敵たるレイの心を折るために用いるのは、【MGD】の強さでも、ギデオンの危機でもない。
『戦争に勝つために、このティアン達を殺せるか』という問いそのもの。
戦うために、敵を殺す。
遊戯派ならば、苦悩の大小あれど戦うだろう。
世界派の多くも、己の大事なものと比べ、やむを得ないと決断するだろう。
では、この世界派は……優しく、他者よりも己が傷ついてでも悲劇を覆さんとする青年はどうだ。
「――――」
負けてもいい戦いではない。
勝たねばならない戦いだ。
しかし、勝つためには、一線を踏み越えなければならない。
心の奈落に通ずる崖の一線を、越えねばならない。
自分の目的のために、戻らぬ命を奪うという一線を。
敵ではあれど、あの地下の【大死霊】のような悪ではなく。
あの地下の子供達のように終わってもいない。
そんな命を、自分の手で終わらせるという決断がなければ、【MGD】とは戦えない。
……そう。
これが……『戦争』というものだ。
◇◆
この盤面において、フランクリンはレイに手を出させないつもりなどない。
むしろ、早く実行しろとさえ思っている。
それこそが、フランクリンがレイに対して放つ最大の攻撃なのだから。
敵国の、志願した民間人。
道理の上では倒して問題ない存在。
護りたい者達を護るため、倒さなければならぬ存在に付随した者。
矛を止める要素は、心以外に存在しない。
しかし、それを選択することが、彼の心をどれほど傷つけるか。
その傷が、心に折れんばかりの重圧を掛けることを、ネメシスと……そしてフランクリンは知っている。
そしてより深く理解している。
仮にここで彼自身が手を下さずに、他の<マスター>が手を汚したとしても。
彼は、それで『自分がやったのではない』と転嫁することなどできない。
そういう人間だと知っているから、やはりこの選択は彼の前に在る。
目的のために、命と見定めた者達を犠牲にする。
かつての戦争で、あの夜のギデオンで、フランクリンが既に通った道。
折れて曲がった【大教授】が、最早選ぶことに躊躇いのなくなった選択。
だから、彼女はこの選択を提示する。
良心の枷たる妹がこの場にいれば実行しなかったであろう悪辣なる選択を提示する。
彼女とは違う存在であるレイ。
折れていないもの、堕ちていないもの、眩しきもの。
彼女の在り方の全てを否定するもの。
そんな彼に、残酷なる選択を以て提示する。
折れよ、堕ちよ、闇に沈め。
自分と同じに成り果てろ、と。
お前もこちらに来いと、選択の向こうで最弱が嗤う。
To be continued




