第一六七話 <無限>
(=ↀωↀ=)<明日で投稿開始から十周年らしいです
(=ↀωↀ=)<随分長く続けてきた気がしますが
(=ↀωↀ=)<まだ道半ばなので今後も頑張ります
(=ↀωↀ=)<とりあえず週一以上のペースで投稿して
(=ↀωↀ=)<何とか年内に七章完結目指します
(=ↀωↀ=)<それとお待たせしている書籍の方ですが
(=ↀωↀ=)<23巻は12月発売予定
(=ↀωↀ=)<SP3はのっぴきならない事情で来年4月予定です
(=ↀωↀ=)<その辺の事情は追々
□■【皇玉座 エンペルスタンド】・玉座の間
皇国の中心の、更なる中心。
王が座す玉座の間に無数の音が連なる。
それは駆け回る足音であり、一繋ぎと言えるほどに連なった銃声。
一瞬一瞬で命が散り、生じて、また死んでいく。
「伝説の通りか。よく尽きぬものだ」
『それはこっちの台詞ー!』
数十数百と分身するトムを、尽きぬ弾丸の一射一殺で仕留めていくザナファルド。
奥義による超加速によって敵手の分身速度を超越した速度での連射を行い、数を減らしていく。
(……数の暴力は僕の十八番だけど、あっちもあっちでって感じだなー……)
ただの銃と銃使いであれば、第七形態までの出力を発揮したトムの圧勝だ。
だが、相手は銃使いとしては歴代でも最上位の【銃神】ザナファルドと、この【エンペルスタンド】の中ならば弾切れのない【ガンズ・オブ・ザ・スローンキーパー】。
数の暴力を弾数の暴力で押し留めている。
「とはいえ、流石は伝説。本来であれば儂の負けであろうな」
『……そうかい?』
「本来のそれよりも肉体強度も増殖速度も落ちた相手に地の利を得て、拮抗が限度ではな。やはり儂は【覇王】に届かん」
『あれと比較対象になる奴は人間じゃないんだよ』
「儂ももう人間か怪しいのだがなぁ」
トムはかつて今と同じく第七形態相当の出力だった自分の全てを消し飛ばした男を思い出して真顔になり、ザナファルドはトムの言葉を可笑しげに笑う。
(自嘲してるけど結構上澄みだけどね)
ハイエンドという背景もあるのだろうが、【銃神】としてはトム……チェシャ達が観測してきた二〇〇〇年の中でも最上位だ。
増殖するチェシャと戦う上で、弾切れのない武器と地の利の援けはあるだろう。
だが、逆に言えば増殖するチェシャが相手でなければ前衛超級職相当のステータスを持たせたアバターが既に一〇〇〇体近く葬られている。
百発百中一撃必殺。人間の急所を確実に撃ち抜いて殺害する。
それを一〇〇〇回繰り返そうと、言葉を交わしながらだろうと、集中が途切れない。
発動し続ける奥義がその証左だ。
恐らく『銃撃で死ぬ相手』との戦いに限定すれば……ティアンの歴史の中でも指折り。
増え続けるチェシャを銃弾で殺し切ることはできないだろうが、その実力は確かだ。
だからこそ、分からないこともある。
『君、わざわざ自分から【銃神】を外したらしいけど、どうしてそんなことを?』
先刻、ザナファルド自身が言っていたこと。
だが、ティアンにとって超級職とは他者を殺してでも奪いたいほどに大きな力だ。
尚且つ、ザナファルドにはその力への自負もある。磨き上げた技術の証明でもある。
そんな【銃神】を何故手放したのかと、チェシャは問う。
「儂では届かんと分かったからよ」
問いに対し、ザナファルドは隠すことなく答える。
「晩年の儂は儂自身が無限職に辿り着けんことは理解していた。ゆえに、後進に託した。この国に君臨するならば【機皇】一つで事足りる」
戦士としての自分では人生を賭してもこの世界の望む高みに辿り着けぬと理解したがゆえに、僅かなりとも辿り着く可能性のある若者に譲るためにリセットしたのだ。
子孫や同じ部族、あるいは同門の後継者に譲るためにリセットする者達はいる。
だが、どこの誰に渡るかも分からぬままにリセットする者は……決して多くない。
『……その結果、【銃神】は<マスター>の手に渡ったけれど』
「ハッ、構わんとも」
チェシャの呟きにも、ザナファルドは笑ってそう答える。
「【邪神】や<終焉>の打倒にこだわり過ぎている愚か者は超級職が<マスター>の手に渡ることを憂いているようだが、儂は一向に構わん」
クラウディアのことをまた揶揄しながら、ザナファルドはそう言い切った。
『なぜ?』
ティアンとしては明らかなマイナスであろうことを、なぜそこまで肯定できるのか。
チェシャの問いかけに対し、ザナファルドは……。
「――<マスター>とて、無限職にはなりうるからだ」
――また笑って、そう述べた。
「貴様らは自分達の新たな同胞を作りたいがために異世界から<マスター>をこの世界に送り込み、成長を促しているそうだな」
『…………』
ザナファルドは【天竜王】から<マスター>に関する背景も聞かされているらしい。
<マスター>に<SUBM>を始めとする試練を与えて<エンブリオ>の進化を促すことは、先だっての契約もあって【天竜王】も知るところだ。
だが、その目的が自分達の同胞作りであることや、<マスター>となる人間を異世界……地球から呼び込んでいることまでは教えていない。
管理AI間の会話を何らかの手段で拾っていたのか。
あるいは、【天竜王】にだけ視えている理があるのか。
「だからこそ、貴様らは<マスター>に手厚い。逆に、貴様らの幼体とそもそも共存できぬ儂らは舞台装置程度にしか考えておらんのだろう」
地球人類は同調者足りえるが、ティアンは同調者足りえない。
半物質半情報共生体である<エンブリオ>にとって、共生できるかできないかは生物か否かと言っていい程に意味合いが違う。
だからこそ、<マスター>に対しては過保護と言っていいアリスも、ティアンに対しては一顧だにしない。
「分かるぞ。儂とて、無限職に至れぬモンスター共など糧としか思わんからな」
<エンブリオ>……管理AIにとってのティアンは、ティアンにとってのモンスターと同じだとザナファルドは言う。
時に心を交わす相手もいるかもしれないが、大多数は討伐対象か家畜の同類だ、と。
「だが、儂にとって<マスター>はそうではないのだ」
迫るトムの眉間を撃ち抜き続けながら、ザナファルドは笑って答える。
「ジョブに適合せぬモンスターではない。<エンブリオ>に適合せぬティアンでもない。ジョブにも<エンブリオ>にも適合する<マスター>! ならば、どちらの<無限>にも到達しうる! そうだろう!」
適合こそがその証明と、ザナファルドは楽しげに声を張る。
『……それは楽観論が過ぎないかなー。無限職は無理かもよー?』
「フフハハハ!」
何がおかしいのか、ザナファルドは唐突に笑う。
「確証が一つ増えたぞ!」
『何だって?』
「隠し事の下手な奴だな、【猫神】!」
その顔を弾丸で破壊しながら、ザナファルドは言う。
「貴様ら、<マスター>達のいた地球で無限職に遭遇したな?」
『!?』
アバターの表情のどこから、そんな情報を……記憶を読み取ったのか。
それもまた、ハイエンドゆえとでも言うのか。
「異世界にも無限職の概念があり、そこに到達した者がいたのだろう! 貴様らが<マスター>をこちらに連れてくることに関して釘でも刺されたか!」
『…………ッ』
<交易商>、<斡旋者>、そして<暴君>。
<Infinite Dendrogram>の稼働前後で接触してきた、異なる理の<無限>達。
この世界を離れて今はあの地球に拠を置く者達と、あの地球で生まれた者。
ジョブシステムが至ろうとしている領域に、既にいた者達。
そんな者達が、確かにあの地球に存在したのだ。
そして彼らの存在こそが、逆説的にあの地球の人類の魂の適性……可能性を示している。
その事実に、ザナファルドは喜悦を浮かべている。
「貴様らは既に理解している。<マスター>達が自分達の用意したゲームだけでなく、この世界の<終幕>にも至る存在だとな! ならば、儂も<マスター>を歓迎するとも! あるいは死ねども死なず、器を持ったまま邁進できる存在なればこそ、<マスター>は我らよりも到達する可能性が高いかもしれぬ!」
彼はティアンか<マスター>かなど気にしない。
人類の誰かが無限職に到達できるならばそれでいい。
そのために無数の闘争を巻き起こし、数千数万数億の命が尽きようと構わない。
自分や配下が死のうが駒になろうが問題ない。
世界が滅んでしまおうと、世界が滅ぶ一秒前に辿り着けていれば……それで最良。
ザナファルドは本心でそう考えている。
「いいぞ! エンディングが見えてきた! この世界の人類の……生まれた意味に手が届く時がな!」
彼は<天獄の駒>となる前から自分をこの世界を進める駒として生きてきた。
ゆえに、目的達成の過程にある悲劇を躊躇わない。
被害の大小など考慮せず、全ては目的を果たすか否か……1か0しかない。
目的のみに全てを掛けた機械の如き人の皇。
【機皇】ザナファルド・ヴォルフガング・ドライフとはそういう存在だ。
『そうそう好き勝手させると思う?』
「さてな。しかし、まずは一つ……貴様の負けだ」
『……!』
轟音と共に、【皇玉座】全体が震える。
それは、発射の反動。
三種三発の【四禁砲弾】……その一発目が王都に向けて発射された証だった。
「あと二発だ。王国の<マスター>が一発でも阻めるかどうか。あるいは、阻めたとしても二発三発と阻めるものか? 盤面を好きにさせたくないのならばもっと気張った方がいいのではないか、管理者よ?」
『――言ってくレルnE』
ザナファルドの挑発に、チェシャの返答する声が濁る。
言葉と共に、トムの姿をしていた数百のアバターは人のカタチを捨てていた。
二足歩行する獣の怪物……かつてツヴァイアー皇国やカルチェラタンの<遺跡>を蹂躙した“獣の化身”に近い姿に変わる。
出力は未だ第七形態なれども、肉体強度はアリスの用意したアバターを上回る。
「フン……。出し惜しまずに最初からやればいいものを。どうにも貴様らは雁字搦めのようだな」
呆れたように息を吐きながら、ザナファルドは手にした二丁の銃の銃床をカチンと打ち鳴らす。
直後、彼の周囲に四つの人影が出現した。
「ルヴルカーン、バ・ルバリア、海奈津、スカルミリオン、分かっているな?」
『『『『承知しております』』』』
四つの人影……仮面をつけた四体の<天獄の駒>はザナファルドの声に応じる。
『我ら、特務兵が精鋭<機皇親衛隊>』
『生あるときも死せる後も、陛下の御命令とあらば』
『如何なる者も殺し、如何なる役目も果たしましょう』
『死してなお恐ろしい、我らの力を垣間見よ』
それらはザナファルドに死後も付き従う狂気的な配下達。
そのいずれもが、街の中で戦闘を繰り広げる特務兵よりも格上の実力者達。
これまで『主君が闘争を愉しんでおられるがゆえに手を出さなかった』彼らだが、呼ばれれば即座に応じて前に立つ。
ザナファルドの死没と同時に殉死したがゆえに先の内戦には参戦せず、早期から主君同様に駒と化して<霊廟>で鍛え上げていた猛者達。
死してなお揺るがぬ忠義に身を捧げる彼らは、伝説の存在たる【猫神】……“獣の化身”を前にしても忠誠と自負ゆえに震えの一つもない。
逆に鏖殺してみせんと、獣達の眼前に立つ。
「さて、二発目は二分後だ。――間に合うか?」
To be continued
(=○ω○=)<…………
( ̄(エ) ̄)<ネームドとの戦績めちゃくちゃ悪い奴がいるクマ
(=○ω○=)<ま、まだ負けてないから……
(=○ω○=)<あ、次の本編は月曜か木曜更新です
○ザナファルド
(=ↀωↀ=)<隙あらば重要情報を話し始めるお爺ちゃん
(=ↀωↀ=)<そのせいで話数と文字数が予定より膨らんで皇都編が二話くらい増えた……
(=ↀωↀ=)<……まぁ精霊関連でも三話分くらいAEにボリューム割いたけども
(=ↀωↀ=)<ともあれ皇都はあと一話くらいで終わるはず
○<天獄の駒>
(=ↀωↀ=)<<天獄の駒>になってる特務兵
(=ↀωↀ=)<そろそろお察しかと思いますが
(=ↀωↀ=)<名前はマレブランケのもじりだよ
( ̄(エ) ̄)<FFⅣかと思ったクマ
○<機皇親衛隊>
(=ↀωↀ=)<死んでからも忠義がブレない集団
(=ↀωↀ=)<ニライカナイの精霊化とか絶対しない連中
(=ↀωↀ=)<ちなみに【血闘刃】は闘牛士系統超級職
(=ↀωↀ=)<【雨降】は祈祷師系統雨乞派生超級職です
○<交易商>
資源担当。
商業型万物交換職能。
○<斡旋者>
ジョブシステム担当。
補助型実現誘引職能。
○<暴君>
最新の無限職(見習い)。
超戦闘型事象拡縮職能。