表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

700/737

第一六〇話 駒

 □■皇都ヴァンデルヘイム


 皇都ヴァンデルヘイム。

 戦争当事国でありながら戦地から遠く、今は国を治める皇王も不在。

 戦争の行方を案じる人々が、結果を待つばかりだった都。

 しかし今、その皇都もまた……戦場だった。


『うわぁああああああ……!?』


 アスファルトの大路に爆音が轟き、擱坐した機体が地響きと共に倒れ込む。


『ラドリー小隊全滅……! 敵、第七ブロックに侵攻!』

『第四ブロック守備隊、……壊滅!』

「何が起きている……!」


 皇国軍皇都防衛大隊の通信網には、各地の部隊の惨状が次々に届けられる。

 起きていること自体は単純。『謎の敵勢力により、皇都が襲撃されている』。

 戦争の終盤に発生した突然の事態。

 王国が何らかの手段で誓約を回避して攻めてきたのか、あるいは前回の戦争のようにカルディナの介入か。

 様々な憶測が飛び交うも、相手の正体はあまりにも謎だった。

 なぜなら、相手の用いている戦力は……。


『敵機と会敵! 敵は、【アウトレイル(・・・・・・)】四……ぐあぁ!?』


 皇国の機動兵器(・・・・・・・)だからだ。


『――――』


 右腕に備わった巨大ランス、左腕の機銃、四脚車輪の下半身。

 それは紛れもなく、かつてこの国で生まれた兵器だ。


「バカな……!」


 防衛大隊所属の指揮官として中隊を率いるエアフルト大尉は通信を受けて驚愕する。

 敵が自国の兵器を用いること自体はありうる。

 そも、かつては内戦を繰り広げた国。現体制への反抗勢力がほぼ潰えたとはいえ、テロリストが同じ兵器を持ち出すことはありうる。


「だが、【アウトレイル】だと……!?」


 しかし、その機体選択があり得ない。

 かの機体は少数生産こそされたものの埒外の操縦難易度ゆえに、実質カーティス・エルドーナ少将の専用機だったのだ。

 今は防衛大隊に属するエアフルト大尉自身もかつてあの機体に試乗し、扱うことを断念している。それほどに、乗りこなすのが難しい機体だ。

 唯一【アウトレイル】を手足の如く操れた彼も、先日カルディナで戦死したと聞く。

 また、彼の愛機も今は生家であるエルドーナ侯爵家に保管されている。


「乗り手のいなかった他の機体は内戦中に行方が分からなくなっていたが……」


 それが今使われているのだとしても、使う意味が分からない。

 なぜなら、あの機体は操縦難易度以前に……時代遅れだからだ。


「……ッ! 中隊全機、迎撃用意!!」

『『『了解!』』』


 エアフルト中隊の<マジンギア>は全て【マーシャルⅡ改】で統一されている。

 用途によって装備に差異はあるが、いずれも総合性能と操縦の容易さで【アウトレイル】を遥かに上回っている。


「来るぞ! 接近される前に集中砲火で仕留める!」


 皇国の人型マジンギア小隊は三機一組。

 二小隊とパーティを組むことで連携を取りやすくし、四小隊の計十二機で一中隊とする。

 その火力を集中すれば、旧式機程度一瞬でハチの巣だ。


『旧式の欠陥機に負けるかよ!!』

『センサーに感! 路地から飛び出してくるぞ!』


 大型アサルトライフルを構えた中隊員達が、横の路地から飛び出した敵に銃口を向ける。


「撃ェ!!」


 そして号令と共にそのトリガーを引き……。


『――――』


 全機がその射線から【アウトレイル】を見失う。


『!?』


 『いったいどこに』……そんな疑問を抱いた内の一機は――何も理解できないまま、真上から串刺しにされた。


「バカな!?」


 何が起きたのか。

 【アウトレイル】が機体の肩部からワイヤーフックを打ち出し、周囲の建造物を利用した三次元機動によって【マーシャルⅡ改】の光学センサー範囲から消え、肉薄し、頭上から仕留めたのだ。

 だが、言葉以上にそれは不可能だと、一部始終を目撃したエアフルト大尉は驚愕する。

 【アウトレイル】の劣悪極まる操作性で……否、【アウトレイル】でなくともあのような機動を行うことは、尋常なパイロットには不可能だ。


「こんな、こんな動きができるものが……!」


 あのカーティス・エルドーナ以外に、これほどの腕のパイロットがいるのか、と。

 そして中隊員達は彼と同等かそれ以上の困惑の中にあり、必然の結果として中隊の機体は狩られ続ける。


 しかし、彼らの驚愕は誤りだ。

 彼に比肩するパイロットなど、【アウトレイル】の中にはいやしない。


 むしろ、誰もいない(・・・・・)


 ◆


外れ値(カーティス)が扱えてしまったから、勘違いされているが」


 戦火に燃える皇都。

 その中の一つ、鉄筋造りの建物の屋上から、一人の男が戦場を見下ろしていた。


「そもそも、【アウトレイル】は人が乗るための(・・・・・・・)機体ではない(・・・・・・)


 旧い兵器が新しい兵器を駆逐していく異常を見ながら、誰に聞かせるでもなく男は語っている。


「私はあれを機械式ゴーレム(・・・・・・・)の素体とするために設計したんだ。『私個人の兵装ではない』、『皇国軍の新兵器の開発なのだ』と予算を下ろすため<マジンギア>ということにしたし、アリバイ作りの少数生産分はコクピットと雑な操縦系を付けたがね。操縦が難しいのは当たり前。本来は機体そのものに身体として動かしてもらうはずだったのだから」


 長々と独り言を述べた後、男は「……あれで【竜王】を倒した奴がおかしい」と息を吐く。


「……さらに言えば、今動いている機体も昔出回った試乗品ではなく、生前に(・・・)陛下の秘匿工廠で造った完成版だ。素人の寄せ集めが作った【マーシャルⅡ】とは違う」


 男の見下ろす戦場では、四機の【アウトレイル】がエアフルト中隊を全滅させ、更なる獲物を求めて皇都を駆け抜けていく。

 自分の作品の戦果に頷きながら、男は独り言を続ける。


「さて、兵士諸君。この私、元特務兵にして【戦像軍師(ゴーレムハンドラー)】、“軍陣将棋”のDr(ドクトル).ドラギニャッツォともうしばらく指し合ってもらおうか」


 「尤も」と男……ドラギニャッツォは言葉を繋げ、


「私自身も、今は死人(・・)()だがね」


 自嘲するように、そう述べた。


 ◇◆


 皇都には発電施設がある。

 正確にはエネルギーを皇都で活用しやすい電気に変換する施設だ。

 その中心は、先々期文明の動力炉。

 皇国内の様々な<遺跡>内部から出土したものや遺棄された兵器からレストアされたものなどが皇国には幾つか存在する。

 それらの動力炉は【インペリアル・グローリー】に供されたものなど一部の例外を除き、国内のインフラに活用されている。

 この発電所も皇都のエネルギーを賄うため、大型の天竜型動力炉を運用していた。

 皇都の中でも、政庁にして最終兵器たる皇玉座に次ぐ重要施設と言えるだろう。

 それゆえ、ここには優先的に最新型の【マーシャルⅢ】が配備されている。

 しかし、この施設もまた……何者かの襲撃を受けていた。


『こ、コーティングが……、ァ……!?』


 対魔法コーティングが施され、上級奥義魔法にも耐える強度を誇る【マーシャルⅢ】。

 しかし今、その表面からコーティングが剥離し、余剰のダメージが内部機構を破壊し、パイロットを殺めていく。

 それを為すのは空間を支配する紫電の渦。

 一人の青年を中心に渦巻く雷が、警備の機体を蝕んで破壊していく。


『見覚えのない機体だなあ。魔法耐性高いし』


 青年は全身を黄色と黒の絶縁衣に包み、頭部にも一切露出のないヘルメットを装着している。

 渦巻く雷は彼自身には近づかないが、それでも余波を警戒しているかのような重装備だ。


『あれから四年? 五年? ドラギニャッツォの機体よりデザインは良いよな』


 独り言を繰り返すのは、彼の同僚(・・)と同じ。

 あるいは彼らは、話すこと自体に少し飢えているのか。


『まあ、【外竜王】みたいに完全魔法無効化じゃなければ何でもいいけどよ』


 警備の機体を破壊して進む彼は、かつて自分を殺した(・・・・・・)魔法殺しの外骨格を纏う【竜王】を思い出して溜息を吐く。


『しかし……装備がなあ。特典武具なくなってるのマジ痛い。噂の【冥王】なら【導道捲(どうどうめくり)】ごと復活させてくれただろうに……。お陰でこんな雑で見栄えの悪い装備に……上司の上司もケチなもんだよ……』


 何事かに文句をブツブツ言いながら青年は歩を進める。

 彼の目的は皇都のインフラを担う動力炉そのものだ。

 今後のために回収しておけと、上司から言い渡されている。


『相手のレンジ外から撃ちまくれ!!』

『『『了解!!』』』


 だが防衛部隊がそれを許す訳がない。

 動力炉を奪われれば、民衆にどれほどの被害が出るかも分からない。

 ゆえに、彼らは決死の覚悟で侵入者の青年を迎え撃ち……。


『――通らねえよ』


 だが、防衛部隊の放った銃撃は……<マジンギア>から放たれた戦車砲にも匹敵する攻撃の数々は、青年に届かず弾かれていく。


『なっ!?』

『海属性みたいな減衰式じゃない電磁障壁(バリア)だ。アンタらの出力がオレの出力を超えない限り、通らない』


 青年は『でも、あいつの外骨格はこれも普通にスルーしたから身体ブチ貫かれたんだよな……』と過去を思い出して遠い目をする。


『さて』


 青年は眼前の防衛部隊を見据えながら、左手を前に差し出す。

 その左手は奇妙な形を作っていた。

 防衛部隊に、その手の形の意味は分からない。

 だが、ここに<マスター>の……例えば中学二年生がいればこう言っただろう。


 ――フレミングの左手の法則、と。


砲弾(これ)返すぜ(・・・)? ――《エレクトロ・スリング》』

『ァ!?』


 そして、銃器で放たれた時以上の速度で撃ち返された砲弾が【マーシャルⅢ】の装甲を貫通し、防衛部隊が壊滅する。


『……オリジナル魔法(これ)が完成してれば【外竜王】相手ももうちょいやれたよなあ。まぁ復活後に反省して暫く修業した結果だけどさあ……』


 青年はまた溜息を吐きながら、発電施設の奥へと進む。


「ま、て……」


 そんな彼の前に、擱座した機体から這い出した軍人が銃を構えながら立ちはだかる。

 半死半生の身体で、それでも皇都とそこに住む人々を守るために。

 それを見て青年は『生前のボクらより仕事熱心だなあ』と思った。


「一体、何のために、こんな、ことを……!? お前は、何者だ……!」

『何の為かは知らねえよ。上に言われりゃ従事するのが軍人(オレ達)だろ』


 血を吐くような軍人の誰何に本心から青年は応える。

 任務に従事して、その任務が罠で、そのまま死んだ(・・・)のが彼だ。

 だが、死んでも在り方は変わらない。

 今も理由は知らずとも下された命のままに動いている。


『で、何者かって……まあ分からないよな。何年も経ってるし、何より見た目がこれだ』


 露出が一切ない自分の装備を見下ろしながら、青年は苦笑する。

 そして……。


『元特務兵、【雷王キング・オブ・サンダーボルト】エレクィング。とっくに死んでるただの()だよ。――忠勤、ご苦労』


 名乗ると共に本心から労いの言葉を口にして、エレクィングは立ちはだかる祖国の軍人()を雷で焼き払った。


 ◇◆◇


 かくして、皇都は戦場となった。

 戦う者達も、自分達がなぜ戦わねばならぬのかを知らない。

 皇国の兵士達は自分達が護る都市がなぜ襲われているのかを知らぬまま護り、襲撃者達は自らの主人に命じられるままに襲撃をしている。


 そして、戦いの先を推測できる者は……戦う者達の中には一人としていなかった。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<明日も更新


(=ↀωↀ=)<ちなみに今回の二人以外にも『駒』はあちこちで動いているんだけど


(=ↀωↀ=)<全部描写すると膨らみ過ぎるので二人だけだよ



〇Dr.ドラギニャッツォ


(=ↀωↀ=)<上級職でありながら特務兵に入った機械式ゴーレムのエキスパート


(=ↀωↀ=)<内戦時にはギフテッド・バルバロスと交戦


(=ↀωↀ=)<物量差で押し切られて敗北、死亡


(=ↀωↀ=)<絶命時、『秘匿工廠で造った機体も持ち出せていれば……』とか思ってた



〇エレクィング


(=ↀωↀ=)<雷属性魔法超級職【雷王】


(=ↀωↀ=)<内戦よりも前、第一皇子と第二皇子の暗闘の影響により


(=ↀωↀ=)<相性の悪い<UBM>……【外竜王】の討伐に向かわされて死亡


(=ↀωↀ=)<クロレコ3巻で【外竜王】が葬ったと言っていた八人の超級職の一人

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
【冥王】と【天竜王】の蘇生の違いは、特典武具と成長性、蘇生時間の有無、モンスター(UBM含む)討伐時のリソースの動きかな。【冥王】の蘇生は生前手に入れた特典武具を持ってこれる(エレクィングの発言を信じ…
他の感想に対する反応にはなってしまうが、仮にエレクィングの特典の元が雷無効してたとしても、その原理が絶縁体的なあれなら一応絶縁破壊で対応できはする。というか落雷がそれ
『旧式の欠陥機に負けるかよ!!』 はい、理想的なやられモブすぎて好き! そしてまた評価の上がるカーティス氏、今ではメインより有能なサブパイロットやってます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ