幕間 逃走中
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(=ↀωↀ=)<あと今回は時系列の問題で幕間となります
□■<王都アルテア>・王城内部
その事態は突然起きた。
ゴゥルとの戦いが終結して安堵していた<マスター>達の首が……次々に飛びはじめたのだ。
悪夢のような光景にテオドールをはじめとしたティアンは戦慄する。
その原因と思われる人物……ヴォイニッチを知るライザー達も首刎ねの連鎖に言葉を失っている。
「術式開始」
だが、その地獄でも揺らがないのが夢路だった。
首が飛んだものに触れて《止血》スキルで肉体のダメージを抑えつつ、飛んだ首を体と繋いでいく。
「断面が綺麗なので繋ぎやすいですね。蘇生の成功率も問題ないでしょう」
そんなことを言いながら、大手術を繰り返す。あまりにもマイペース過ぎる男だ。
そんな彼に治療を任せながら、ライザーは何が起きているかを考える。
(首の切断。これはギデオンのパレードを襲ったケースと同じでヴォイニッチによるものだろうか?)
何らかの目的を果たし、<マスター>達を倒すことに方針転換した可能性を考えて……首を振る。
(いや、そうだとしてもおかしい。奴にとって我々は残機。無為に減らす必要がないものだ。あるとすればメリットとデメリットのバランスが崩れた場合だが……現状、我々の生存が奴にとってのリスクとは言い難い)
いまだにヴォイニッチを見つけられておらず、ましてやゴゥルとの戦闘で大きく消耗してしまっている。
残機としての使い道を捨ててまで急いで殺す必要がない。
であるならば、考えられるケースは一つ。
ヴォイニッチが彼らを残機として使い続けているからこそ、彼らの首が飛ぶという状況。
強敵と相対し、そのダメージが転嫁された結果としての今。
であるならばヴォイニッチの相手は……。
『そうか、来ているのか……カシミヤ』
遊撃戦力として独自に動き続けていた王国最速のランカー。
彼もここに来ているのだとライザーは確信する。
それは心強い。決闘で敵として相対せばあれほど恐ろしい相手はいないが、戦場で肩を並べるならば頼もしい。
「カシミヤがここに!?」
「首の飛び具合からして激戦だが……勝ったな」
「ていうか戦力多すぎね? 夢路さんもほぼ味方だし? 移動も出来なかったからギデオンの方の戦力足りてなくない?」
ライザーの呟きを聞き、<マスター>達が色めき立つ。
『落ち着くんだ。ヴォイニッチは<超級>で、見ての通りダメージ転嫁能力は健在。それにゴゥルの言っていた【死神】の存在もある。彼らがいるとしても、用心に越したことはない。我々が負けたとき、何が起きるか分からないのだから、我々も油断しない方がいい』
「は、はい!」
ライザーの言葉に、<マスター>達が気を引き締め直す。
彼らから見えていた敵は二人だけ。
教会に出現した後に城へと向かったというヴォイニッチと、城の正門から強襲を始めたゴゥルだ。
彼らは死神を確認していないし、死神とフォルテスラが交戦していたことも知らない。
加えて、もう一人の侵入者の存在すら把握していない。
ゆえに、正確な盤面は分かっていない。
いないが……それを踏まえて戦力過多に思えてしまう理由が<マスター>達にはあった。
「……マスクド・ライザー。彼らの言う戦力が多すぎるとはどういう意味だ?」
『ああ。少し前に連絡があった。事情や経緯はよく分かっていないが……』
訝しげな顔をしたテオドールの問いに、ライザーは答える。
『――我々の最強戦力もここに来るらしい』
――それはもう一人の侵入者にとっての死刑宣告だった。
◇◆◇
□■<王都アルテア>・王城通路
(先刻から響いていた戦闘音が止みましたね)
光学迷彩で姿を消しながら通路を進むのは、【盗賊王】ゼタ。
ライザー達王国勢の多くがその存在を関知していない侵入者である彼女は今、ミリアーヌを背負って脱出のプランを練っている。
その最中に、自分以外に侵入して破壊行為を行っていた者……ゴゥルの戦闘が終了したことを音で察知したのだ。
(必殺スキルが解除された状況から見て、【狂王】も落ちています。状況が沈静化してきたようですね。もう少し騒ぎが続いていた方が、動きやすくもありましたが……。ともあれ、後は戦争終了まで身を潜めて王都を出るだけです)
どこに身を潜めるべきか頭を悩ませる。
ミリアーヌも共にあることでその難易度は著しく上昇している。
彼女一人ならば適当な場所で水に溶けていればいいが、同伴者にその手は使えない。
とはいえ、一度水場を見つけたときに肉体を再構成したのでダメージの類は既に完治し、リフレッシュしている。
そしてハンニャには後れを取ったものの、既にそのハンニャも落ちている。
そのため、ゼタは少し安堵していた。
(あの裏切者が彼女を倒せたのは意外でした)
状況から、ゼタはハンニャを倒したのはモーターだと思っていた。
(……どういう意図かは分かりませんが、彼はミリアーヌを連れていた。であるならば、恐らく次は私を追ってくるでしょう。しかし、今はもう彼女がここにいる)
保護すべきミリアーヌはゼタの背中の上。
ハンニャ戦でネックであったどこまで被害が及ぶか分からないために使えなかった核をはじめとする戦術も、今の彼女は使うことができる。
(仮にあの裏切者が仕掛けてきても対応し、勝利できるでしょう。現状、厄介な相手はこの城にはもういない)
戦闘手段に制限がない自分ならば、謎の強化を経たモーター相手でも勝利できる。
いや、仮にハンニャが相手でも今ならば勝てるとさえ考えていた。
◇◆
しかし、ゼタは知らない。
この城で起きている多くを知らない。
暗躍する【鎌王】と彼を殺しにきた【抜刀神】を。
【狂王】を倒した【剣王】の存在を。
その【剣王】と相対した【死神】を。
<死神の親指>である【金剛力士】とそれを仮初の死に封じた【神刀医】を。
そして、それらのいずれよりも彼女にとって重大なことを、知らなかった。
◇◆
――最初は鎖だった。
尖った錐のついた紅い鎖が、姿を消したはずのゼタへと突き進んできた。
「ッ!?」
展開中の圧縮空気防壁を一枚突破されたところで、空気砲で鎖を攻撃して破壊する。
(これ、は……!?)
突然の奇襲に……否、その役目を果たした紅い鎖にゼタが目を見開く。
「――そこにいるね」
そもそもそれは奇襲だったのか。
隠れた彼女を探るための最も安易な手段を選ばれただけであり、防がれることさえ前提。
言うなれば、挨拶のようなものだったのだろう。
それを証明するように、砕けた鎖の伸びた先には……。
「久しぶりだね――【盗賊王】ゼタ」
いつものように細い目で笑いかける――【超闘士】フィガロが立っていた。
「――――」
眼前の光景に、ゼタは言葉を失う。
「皇国の決闘一位になったと聞いたよ。あの頃よりも更に強くなったらしい」
「…………」
彼女は、無意識に自らの頬をつねっていた。
夢ということにしたい出来事に遭遇したときに行う仕草と同僚から聞いていたが、痛覚オフなので痛くはない。
ただ、悪夢だと良いなぁ……と思わずにはいられない。
「疑、問。なぜ、ここに?」
「? 冬……ハンニャに聞いていないのかい? 彼女に教えてもらったんだよ。ここに皇国の決闘王者が来ているってね」
――折角だからヴィンセントも呼ぼうかしら?
――決闘王者との戦いならきっと彼も喜ぶわ!
どうやら、どこかのタイミングでゼタのことはしっかり伝えられていたらしい。
「……やめてって言ったのに!?」
ゼタの懇願よりも恋人へのプレゼント()の方が優先された結果である。
結果、ゼタは二度と会いたくなかった相手の前にお出しされていた。
「見れば分かるよ。以前戦ったときよりも戦闘経験を積んで強くなっているね。ハンニャを倒したのも納得だ」
「…………」
ゼタは『違うよ!?』と言いたかったが、気圧されて言葉が出なかった。
現状、どちらもハンニャを倒した相手を誤認している。
突然出てきた【剣王】が倒したと考える方が無理だった。
「それほどに強くなった君を相手に、こちらが万全ではないのが申し訳ないくらいだ」
「……提、案。万全でないなら、今日は、やめておいては……? またの機会も……」
必死に言葉を紡ぐ。
相手を気遣うような言葉だが、十割自分の身と任務の心配から出た言葉である。
なお、『またの機会』など絶対に作る気はない。
三度目の遭遇などあってはならないと思っている。
「いや……。こういうのは一期一会だからね。戦いのチャンスを逃す気はないよ。それに、君がどうして王城の中にいるのかも気になるからね」
ゼタは内心、『バトルマニアの一期一会嫌だな……』と思った。
そして何故いるかと言えば要人誘拐なので、王国側のフィガロが見逃す道理もなかった。
「さて、まずは背中の子を下ろしてくれないかな。君も……本気でやり合うならその方がいいだろう?」
「やり合う気ないよ!?」
絶叫と共に、ゼタは大気操作による欺瞞を全開にしながら全力で城内を駆け出した。
視れば最大HPは減少し、スキルも一部封印されているようだったが……その程度で相手したくなるようならゼタはこんなにも怯えていない。
それほどに、かつての敗戦の記憶は重く……彼我の戦力分析は正しい。
「逃走……! 絶対に逃げ切ってみせます……!」
かくしてゼタの……トラウマ相手との命と未来を掛けた鬼ごっこが始まった。
To be continued
〇フィガロ
(=ↀωↀ=)<少し他の仕事してたけど
(=ↀωↀ=)<ハンニャから連絡貰ってダッシュで駆けつけた脳筋
(=ↀωↀ=)<何だかんだ戦争期間中のバトル相手に恵まれている
(=ↀωↀ=)<なお、相手の都合や背景事情は考えないものとする




